アップルが、日本において、徐々にシェアを引き上げている。 BCNの調べによると、6月の月間シェアは4.8%。2月時点のシェアが3.5%であったことに比べると、わずかな増加といえるが、世の中の関心がWindows Vistaに集中するなか、逆風が吹くはずであったアップルが、着実にシェアを引き上げてきたことは特筆できる出来事だといえよう。 ●アップルがシェアを引き上げた要因とは アップルがシェアを引き上げてきた要因はいくつかある。 1つは、Vista発売の影に隠れてはいたが、その間、かなり積極的なプロモーション施策やキャンペーンを行なってきたことだ。
一般ユーザーの間には、ラーメンズによる「Macとパソコン」のTV CMや、iPodのインパクトのあるTV CMが印象深いだろうが、そうした派手なプロモーションとは別に、同社Webサイトなどを通じて、Vistaで実現しているいくつかの機能が、すでにMac OS Xで採用されていることなどを告知。さらに、オンラインのアップルストアでは、Windowsユーザーが使用している周辺機器が、そのままMacでも使えるかどうかの検証や、Windowsマシンからのデータ移行や互換性についての情報提供などを行なうといった活動もしてきた。 また、アップルストアでは、期間限定ながらも、Windowsマシンの下取り価格を、標準査定価格のさらに10%上乗せしたり、学生向けには、5月までの期間限定ながら、MacとiPodを同時購入した場合には、iPodの価格に相当する17,800円を割り引くキャンペーンを実施するといった特別キャンペーンも展開してきた。 学生向けキャンペーンの場合、対象を学生およびその保護者、教育関係者としていることから、結果的には、かなり広範な対象だったといえる。 これらのキャンペーンが、着実に功を奏しているというわけだ。 ●急激に広がるAppleのショップ 2つ目には、2007年3月からスタートした新店舗施策「Appleのショップ」が、全国規模に広がっていることだ。 これは、ショップインショップの形で、量販店とアップルが協業して展開しているもので、量販店の一部コーナーを「Appleのショップ」と位置付け、アップルストアと同じ什器を使用するとともに、Macに精通した専門のスタッフを配置。さらに、ハンズオン型のセミナーを実施することで、よりMacを身近に感じてもらい、販売へと結びつける施策である。 3月にビックカメラ有楽町店に第1号店をオープンして以降、わずか4カ月の間に、ビックカメラ札幌店、コジマNEW柏店、ケーズデンキ東京ベイサイド新浦安店、コジマNEW梶ヶ谷店、コジマNEW静岡店、コンプマート名古屋店、ヤマダ電機 LABI1なんば店、コンプマート広島店、ベスト電器福岡本店、ベスト電器熊本本店に開設。11店舗体制となっている。 ビックカメラ有楽町店の石川勝芳店長は、「対前年同月比で良くて2桁増と見込んでいたMacの売り上げが、35%増で推移している。Appleのショップを出店して以降のMacの売れ行きは予想以上のもの。アップルのシェアは確実に上昇している」と語る。他の売り場に比べて、落ち着いた雰囲気の売り場としていることで、「じっくりと製品説明を聞いていく来店客が多く、Macの良さを訴えやすい。来店客の滞留時間は、他の売り場に比べても長い」と続ける。
同様の動きは、ビックカメラ札幌店でも見られており、「札幌店ではAppleのショップを設置したばかりだが、Macの売上高は、目を見張るほどの伸び」としている。 アップルの直営店であるアップルストアと隣接する地域に出店していることで、直接的な競合も想定されるが、ビックカメラでは、「アップルストアにない付加価値を打ち出すことができ、十分差別化できる」(石川店長)と語る。 ビックカメラ有楽町店のAppleのショップでは、ビックカメラのポイント制度を活用できるほか、他の周辺機器との連動販売や、プロバイダーとの新規契約などによる割引販売を実施。アップルストアにはない販売サービスと提供している。例えば、Mac購入者を対象に、イー・モバイルのUSBモデムタイプの「D01HW」を1円で販売。さらに、マイクロソフトOffice製品を同時購入した場合には、10,000円を値引きするといった特典を用意している。 「Mac購入者の約7割が、周辺機器やプロバイダーとの契約などの当店ならではの販売形態を活用している」(同店マッキントッシュコーナー担当 小林友氏)という点でも、アップルストアとの棲み分けができているといえる。 また、子会社であるソフマップとの連携によって、Macの下取りも実施しており、これも買い換えを促進する要素の1つとなっている。 「Macの場合、中古市場でも値下がりが少なく、買い取り価格もWindows PCよりも高いという傾向がある。買い換えを促進しやすい製品ともいえる」(石川店長)という。 ビックカメラ有楽町店では、Appleのショップと同一フロア内に、ソフマップ買取センターを設置。そこに、「Macスイッチキャンペーンの告知板を置いて、買い換え促進を訴求する仕組みを作っている。
さらに、土日などを対象に開催しているハンズオンセミナーも好評だ。アップルストアでのセミナーがアップルを知っているユーザーが対象となっているのに対して、Appleのショップでのセミナーは、フラっと訪れたユーザーがその場で受講できるという仕組みが特徴。iPhotoなどのわかりやすいアプリケーションソフトの説明を中心としていることから、エアコンを購入しに来たユーザーも、時間潰しにAppleのショップハンズオンセミナーを受講するといった例があるなど、Macの良さを、新たなユーザー層に訴求する役割も担っている。 しかも、少人数制のため、説明員が受講者1人1人に丁寧に説明しながら操作を指導するというのもアップルストアのセミナーとは異なる。
「アップルストアのワントゥワンのセミナーは、事前予約が必要。また、予約なしで受講できるセミナーもスクール形式が基本となる。予約なしで、ワントゥワンに近い形で受講できるのはAppleのショップで行なっているハンズオンセミナーの特徴だといえる」(アップルジャパン)。 また、「ハンズオンセミナーは30分を基本としているが、受講者の習熟度にあわせて、少し時間をオーバーすることもある。その点では、わかりやすさや理解度を重視し、柔軟に行なう仕組みとしている」(ビックカメラ)という。 こうした「Appleのショップ」の増加が、Macのシェア向上にも影響しているのは間違いない。 「Appleのショップは、今後も同様のペースで、出店を続けていく方向で検討している」(アップルジャパン)としており、年内には20店舗体制になる可能性も強い。 なお、日本でスタートした「Appleのショップ」は、その成果が世界的にも認められ、米国および欧州でも展開が始まったという。米国では、ベストバイが同様のショップインショップを主要都市で展開し、成果をあげつつある。 ●Windowsからの乗り換え促進も そして、Macがシェアを拡大している理由の1つに、WindowsからMacへの乗り換えが促進されていることがあげられそうだ。 Vistaが注目を集めるなかで、異例ともいえる動きだが、ビックカメラ有楽町店の石川店長も、「iPodを利用しているユーザーのなかには、いまはWindowsを利用しているが、次はMacを購入したいという声がある。どの程度のユーザーがWindowsからMacに乗り換えているかは推測しにくいが、接客をしていると、Windowsユーザーが、Macに乗り換えるというケースが増加しているのは明らか」と断言する。 ビックカメラ有楽町店の場合、Appleのショップに隣接する形で、Windows PCが展示されており、「Core 2 DuoのPCであれば、Vista搭載PCとMacのどちらが安いのか、といった比較をした結果、Macを購入する例も出ている」という。 WindowsからMacへの購入が見られ始めているのも、Macのシェア上昇に影響しているといえそうだ。 ●Leopard発売前の買い控えがないMac Vista発売は、Macにとっては、本来、逆風となるはずの動きであったが、それとは裏腹に、Macは着実にシェアを引き上げてきている。 そのなかで、例年のパターンを踏襲すれば、米国の進入学商戦期を迎える8月から9月にかけては、Macの新製品が投入される時期を迎えることになる。そして、10月には、次期OSである「Leopard」の発売を控えるなど、Macを取り巻く環境は加速することになりそうだ。 また、過去のMac OS同様に、「Leopard発売の前の買い控え傾向は一切見られていない」(ビックカメラ)というように、Vista発売前のような買い控えというマイナス要素は、あまり考えられないというのも、アップルならではの特徴といえる。 Macの国内シェアが上り坂のなかで、新製品投入シーズンを迎えるアップル。米国に比べて低い国内シェアを、どれだけ引き上げることができるか、年末にかけてのアップルの施策が注目されるところだ。
□アップルジャパンのホームページ (2007年7月19日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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