●上と下に広がるIntelデスクトップCPUロードマップ IntelのデスクトップCPUロードマップは、上下に広がりつつある。昨年(2006年)、IntelはローエンドCPUの価格を引き下げる一方、クアッドコアCPUを投入してハイエンドCPUの製品構成をリッチにした。今年から来年(2008年)にかけては、ローエンドにボード込みの低価格ソリューションを導入する一方、ハイエンドにDP(Dual-Processor)ソリューションを投入する。ローエンドはより安く、ハイエンドはより高くと、CPU価格のレンジを広げてゆく。 ローエンドの拡充は、興隆しつつある199ドル/299ドルレンジのエマージングマーケット向けPCを意識した展開だ。ハイエンドの拡充は、影響力のあるエンスージアストの市場を掴むためだ。エンスージアストでのポイントは、デュアルプロセッサ(8コア)とクアッドビデオの「8x4」ソリューションで、この流れは、次期CPUマイクロアーキテクチャ「Nehalem(ネハーレン)」世代で、さらに加速されるだろう。
Intelのデスクトップロードマップの、もう1つのポイントはデュアルコア化だ。昨年、Intelは、デスクトップPCでは伝統的なパフォーマンスブランドとバリューブランドの2分を廃した。中間ブランド“Pentium”の導入とともに、実質的にバリュー価格帯のデュアルコア化を進めている。来年(2008年)は、さらにCeleronブランドでのデュアルコアを投入することで、最終的に全デスクトップCPUのうち95%近くをデュアル&クアッドコアへと移行させる。おそらく、2008年末にはスタンダードなPC向けの全CPUが、デュアル&クアッドコアへと移行するだろう。これは、デュアルコア化が全体の80%で止まるモバイルCPUとは対照的だ。「全てをマルチコアへ」が、Intelのデスクトップのテーマだ。 その一方で、クアッドコアの比率は一定水準に留まる。ロードマップ上では、クアッドコアがかなりの比率を占めるように見える。しかし、実際には、Intel CPUの出荷量は下位の低価格CPUの方がふくらんでおり、クアッドコアの出荷数はそれほどではない。クアッドコアは2008年末でも、デスクトップCPU全体の7~8%程度の予定だ。DIYユーザーにとっては、2007年がクアッドコアの年だが、ボリュームから見ると2007年から2008年はデュアルコアの年だ。 ペースが遅いクアッドコア化。意外なことに、65nmから45nmプロセスへの移行も、デスクトップではペースが遅い。45nmへは、デスクトップよりモバイルの方が急ピッチに移行する。しかし、デスクトップとモバイルのどちらも、90nmから65nmへの移行の方がペースが速かった。 新マイクロアーキテクチャへの移行も、スロースタートだ。NetBurstからCore Microarchitecture(Core MA)への移行は急激に進展した。それに対して、Core MAからNehalemへは、最初の段階ではかなり限られた範囲の移行となる。 ●異例に高価格のFSB 1600版Core 2 Extreme IntelのハイエンドデスクトップCPUのリストプライスは、999ドルに貼り付いていた。「Extreme」系サブブランドCPUの価格がそれだ。伝統的に999ドルは、IntelデスクトップCPUの最上位の価格だった。しかし、Intelはそれを崩す。来年(2008年)の頭には、さらに上位のCPUとして、FSB 1,600Mtpsをサポートする3.2GHzの「Core 2 Extreme QX9770/9775(Yorkfield XE 1600 FSB)」を投入するからだ。QX9770がLGA775のUP(Uni-Processor)版、QX9775がLGA771のDP(Dual-Processor)版となる。現在の予定ではQX9770が1,400ドル弱、QX9775が1,500ドル弱。サーバー&ワークステーション向けCPUの価格レンジだ。 すでに知られているように、このFSB 1600版Core 2 Extremeは、IntelのハイエンドDPプラットフォーム「Skulltrail(スカルトレイル)」とUPチップセット「X48」に対応したものだ。Skulltrailは、ワークステーション向けチップセット「Intel 5400(Seaburg)」を使ったマザーボードで、デュアルソケットとFSB 1,600MHz、クアッドPCI Express x16、4チャネルFB-DIMMをサポートする。実態は、DPワークステーションであり、ブランディングがPC向けとなり、NVIDIAのブリッジチップによるクアッドSLIが提供される。目的は明確で、これまでIntelが比較的弱かった、エンスージアストPC DIY市場に食い込むためのものだ。エンスージアストはPCが1台買える価格のCPUでも購入する層だ。 Intelのこの路線からは、Nehalem世代のハイエンドデスクトップの姿が見えてくる。NehalemのDP版「Gainestown(ゲインズタウン)」と、最初のNehalem向けチップセット「Tylersburg(タイラスバーグ)」の組み合わせでは、下の図のような構成が可能となる。
図のGainestownプラスTylersburg-36Dの構成を、Skulltrailと比較すると、利点はCPUマイクロアーキテクチャの一新だけではない。2ダイのクアッドコアはネイティブクアッドコアとなり、ブリッジによるクアッドx16は、ネイティブのクアッドPCI Express Gen2 x16となる。メモリは高価なFB-DIMMから、来年末には価格がある程度まで下がると見られているDDR3 UDIMM/RDIMMとなる。メモリレイテンシも短縮される。 無理が見えるSkulltrailと比べると、GainestownとTylersburgのプラットフォームは、ずっとすっきりとしたハイエンドシステムだ。おそらく、Intelは、この構成をハイエンドデスクトップとして、QX9775プラスSkulltrailの後に据えるだろう。こうした視点で見ると、Intelがハイエンドデスクトップに力を注ぐ、そのマイルストーンとしてSculltrailが存在することがわかる。 ●移行ペースが違うCore MAとNehalem ハイエンドにフォーカスするのは、Nehalemの基本戦略だ。真ん中(メインストリームPC)から攻めたCore MAとは異なり、Nehalemでは上(パフォーマンスPC)から攻める。この戦略の違いは、随所に見て取ることができる。 現在の計画では、IntelはNehalem世代のUP向けCPU「Bloomfield(ブルームフィールド)」を、パフォーマンスPCとエクストリームPCの価格帯を中心に投入する。価格ゾーンとしては300ドル台から上のライン。現在の製品ラインナップで言えば、「Core 2 Quad Q6600」よりも上の価格帯のクアッドコア製品をNehalemアーキテクチャに置き換える形だ。当然、Core 2 Extreme QX9770/9775も置き換えられるだろう。 これを2006年のCore MAの登場時と比べると違いは明瞭だ。Core 2 Duoは登場時からメインストリームの全ての価格帯で提供された。最初からボリュームゾーンのお手頃価格帯で出てきたCore 2 Duoに対して、Nehalemは2ランク高い価格帯となる。上のデスクトップCPUロードマップ図の中の、中央の赤いラインがNetBurstからCore MAへの移行のライン、右上の赤いラインがCore MAからNehalemへの移行のラインだ。大きく異なることがわかる。 Core MAの時は出荷ボリュームも大きかった。Core 2 Duoが登場した最初の四半期(Q3 '08)では、全デスクトップCPUの10%程度がCore 2 Duoだった。次の四半期で20%を超え、1年ちょっと過ぎた現在では、バリューも含めたほとんど全てのデスクトップがCore MAへと移行している。
Nehalemの初期の出荷ボリュームがどの程度になるかは、まだわからない。しかし、IntelのクアッドコアCPU自体の出荷量は全体の7~8%程度なので、クアッドコアNehalemがたいした比率にならないことは確実だ。 ●パフォーマンスCPUのダイサイズでスタートするNehalem Nehalemの浸透が遅い理由は明白だ。BloomfieldのダイサイズとTylersburgチップセットの仕様がパフォーマンスPC向けだからだ。 CPUのダイサイズはCPUのコストにダイレクトに跳ね返る。そのため、CPUの価格帯とダイサイズには密接な関係がある。通常、ハイエンドPC向けCPUのダイは200~300平方mm。メインストリームPC向けCPUは140平方mm程度が典型的で、大きくても200平方mm程度。バリューCPUは100平方mm前後が目安となる。 クアッドコアNehalemのダイは約270平方mm。これは、メインストリームPC向けCPUのサイズではない。シングルダイのCPUとしては、200平方mm前後だった初代Pentium 4(Willamette:ウイラメット)や初代Pentium D(Smithfield:スミスフィールド)よりさらに30%ほど大きい。 それに対して、Core 2 Duo(Conroe:コンロー)は143平方mmで登場した。初めから、メインストリームをターゲットにしたダイで登場したから、メインストリーム価格帯に一気に浸透したわけだ。また、Core MAのローコスト版であるデュアルコア2MB L2のダイは113平方mm、シングルコア版は80平方mm。シングルコアのダイサイズで比較すると、前世代のNetBurstのPentium 4(Cedar Mill:シーダミル)の81平方mmと同レベル。つまり、NetBurstからCore MAへは、同程度のダイサイズ、同程度のコストだから簡単に全ラインが移行できたわけだ。 じつは、Core MAのパターンは、それまでのIntelの新CPUの登場パターンとは異なる。以前は、同じコア数でも、旧世代CPUより新世代CPUの方が、ダイが大きかった。そのため、新世代に移行するためには、プロセスの微細化が必要だった。しかし、Core MAの場合は、コンパクトなCPUコアのために移行は同じプロセス世代でも非常にスムーズだった。これが、Core MAの大きな特徴だ。
●ダイサイズが垂直展開するCore MA以降のCPU 45nmプロセスでは、メインストリームに持ってこれるのはクアッドコアではなくデュアルコア。Intelは、それがわかっていながら、Nehalemではクアッドコアを先行させた。もっとも、これはCore MA以前のCPU開発なら当たり前のパターンだった。新CPUは、ハイパフォーマンスの大型ダイで登場し、プロセス技術が微細化するに従ってメインストリームダイ、バリューダイへと推移して行く。ウォータフォールと呼ばれる戦略だ。Nehalemは、素直にその伝統に従っているに過ぎない。Core MAの方が例外的だったと言える。 しかし、Nehalem世代では、伝統的なウォータフォールはもはや継続されない。それは、CPUアーキテクチャの流れが、CPUコアを大きくしてシングルスレッド性能を追求する方向から、CPUコアを多数載せてマルチスレッド性能を重視する方向へと変わったからだ。その結果、同じCPUマイクロアーキテクチャで、ダイサイズのスケーラビリティは飛躍的に広がった。 上のダイサイズの図のマイクロアーキテクチャの矢印を見ると、以前は左上から右下へ向かって3~4プロセス世代かけて斜めに下降していた。NetBurstのブルーの矢印は、WillametteからNorthwood、Prescottを経て、Cedar Millへと4段階の縮小を示している。 ところが、Core MAでは同じプロセス技術の中で垂直に展開している。例えば、65nmのMerom世代では、シングルコアの80平方mmからデュアルコア4MB L2の143平方mm、2ダイクアッドコアの286平方mmまで、3.5倍のダイのスケーラビリティがある。 Nehalemでも、これは同様になるだろう。つまり、スケーラブルに下のクラスのダイまで異なるダイサイズが展開する。そのため、Nehalemもいったんメインストリームに浸透し始めたら展開は早いだろう。45nmのデュアルコア版Nehalemのダイは、おそらく、65nmでのデュアルコアCore MAと同程度のメインストリームPCクラスのダイと同程度のサイズとなる。つまり、65nm版Core 2 Duoが占めていたクラスまでは、Nehalemはすんなり浸透するだろう。 しかし、45nmのデュアルコアCore MAのダイは、バリューPC向けクラスのダイサイズだ。これは、Nehalemの方がCore MAより、CPUコア自体のサイズが1.4から1.5倍も大きいためだ。そのため、バリューCPUの領域はCore MAのまま残るだろう。ダイから考えると、2009年後半には、CPU価格で90ドルラインあたりを境界に、その上をNehalem系、その下をCore MA系で住み分けることになると推測される。
□関連記事 (2007年10月26日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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