●騒音のボーダーは20~25dB
皆さんは、自分の使っているPCが「うるさい」と思ったことはないだろうか。騒音の大きさは静かな住宅街で30~40dB、図書館などで50dB、人同士の会話で50~60dBが目安とされている。個人差や音の種類にもよるが、室内であればだいたい20~25dBを超えたあたりで耳障りと感じ始めるようだ。 PCケースの内部では、回転するもの、駆動するものが騒音を発し、これがある一定の音量を超えると「うるさい」と感じるようになる。PC内部で騒音を発するのは、主にファンだ。この場合、ファンの羽根の形状や、羽根部分の仕上げ処理にもよるが、基本的にはファンが回るときの風切り音や、ファン自体の振動が騒音の元となる。ファンは主にケース、CPUクーラー、ビデオカード、電源に取り付けられている。 ならば、音の発生源となるファンを取り外してしまえばよいと思うだろうが、PCには熱という敵がいる。パーツから発する熱を下げるためにはどうしても冷却機構は必要だ。そこで、冷却性能を維持しつつしつつ静音化を考える必要がある。 冷却しつつ静音、と言えば誰もが思いつくのは水冷キットの導入だろう。たしかに、水冷キットを導入することでポンプ以外の駆動音が聞こえないなど、無音に近い環境が得られるメリットがある。だが、付属のラジエータ自体が大きく場所を取る、一度設置するとパーツ交換/アップグレードが面倒、購入したまでは良かったが自分のケースには大きすぎて取り付けられなかった、導入するには高価など、意外とハードルが高い。そこで、現在の環境からなるべく手軽に静音化を図りたい。対象は(1)CPUクーラー、(2)ビデオカード、(3)ケースファンだ。 ●CPUクーラーは大型化がトレンド
CPUの冷却には、まずファンがつきものだ。高性能なCPUであれば、それだけ強力な冷却が必要となる。リテールCPUに付属するファンは、たとえばAMDで最大3,000rpm超と、高速で回転する。先日発売されたCore 2 Quad QX9650では12cmの発光ファンを搭載し、Quiet Modeに設定しても35dBと、それなりの音量となる。 そこでおすすめしたいのが、CPUファンメーカーの大型製品だ。現在の交換用CPUクーラーは、ヒートシンクフィンの枚数増加やヒートシンク自体の大型化で熱伝導効率を向上させるアプローチを採っている。また、12cmファンなど、大口径ファンを搭載し、ゆっくり回転させることで、高速で回転する小型ファンと同等の風量を確保し、静音化につなげている。 では具体的に製品を紹介しよう。いずれもIntel/AMDのCPU両対応の製品だ。なお、これらの製品を利用した場合、CPU/PCメーカーの保証が切れるので注意されたい。 サイズの「ANDY SAMURAI MASTER」は、2段重ねのヒートシンクを計6本のヒートパイプで接続し、上部に12cmファンを搭載したCPUクーラーだ。ファン回転数は1,200rpm、駆動音は25dB。ヒートシンクのサイズは125×137×104mm(幅×奥行き×高さ)、重量は690g。実売価格は3,980円前後だ。 クーラーマスターの「CM Sphere Black」は中央にファンを配し、その周囲を球形の銅製ヒートシンクが取り囲むデザインを採用した。このヒートシンクは“Sphere Black”と称されるようにブラックアルマイト加工が施され、まるで黒い球に見える。ファン回転数は2,200rpm、駆動音は22db。本体サイズは132×113mm(幅×奥行き/ヒートシンク部)、重量は684.54g。実売価格は5,800円前後。 Thermalright「HR-01 PLUS」は、別売の12cmファンを取り付け可能なファンレスのヒートシンクだ。長方形のフィンを縦方向に積み重ね、まさしく「タワー」と呼べる形状となっている。もともとファンレスなので騒音とは無縁だが、ファンを取り付けた際の回転による振動を抑えるために防振ラバーを添付し、音の発生を抑える配慮がされている。本体サイズは110×60×159.5mm(同)と、重量は600g、実売価格は6,980円前後。 CPUファンの交換で気をつけたいのは、取り付けの際にケース内で他のパーツやフレームに干渉しないかどうか、ということだ。大型ヒートシンクを備えたCPUクーラーや形状にくせのある製品を購入する場合、CPUの上方に取り付けのための余裕があるかどうかを事前に調べておくと良いだろう。また、リテールファンに比べ、重量があるため取り付けはしっかりと行ないたい。
小型のPCケースを使用されている方向けに、少し背の低いCPUクーラーをご紹介する。サイズ「鎌クロス」は銅製ヒートパイプをX字に交差させ、その先端にヒートシンクを配し、ヒートシンク同士の間にファンを設置した、ユニークな形状のCPUクーラーだ。本体サイズは140×120×132mm(同)、重量は530g。ファン回転数は1,500rpm±10%、駆動音は22dB。実売価格は3,280円前後だ。 サイズ「NINJA mini」はCPU上部にヒートシンクを重ね、ヒートシンク側面に8cmファンを備えることで、全体をコンパクトにまとめたCPUクーラーだ。本体サイズは110×110×115mm(同)、重量は580g。ファン回転数は2,300rpm、駆動音は24.4dB。実売価格は3,980円前後。
見方を変えて、CPUのTDP(熱設計電力)にも注目したい。現在主流のCore 2 Duo、Athlon 64 X2のTDPはともに65W。上で紹介したCPUファンは、いずれもTDP 65W、もしくはそれ以上のCPUを冷却するために、ヒートパイプや大型のヒートシンクを備えている。TDPが高いということは、それだけ電力を消費し、発熱が高いことの裏返しでもある。逆にTDPが低ければ、そこまで冷却にシビアになることもないので、より低回転のCPUファンや小型のヒートシンクを利用でき、最終的に低静音化につなげることができる。 AMDではTDP 45Wの低消費電力を謳う「Athlon X2 BE」もリリースしている。AMDユーザーであればこちらを利用するのも1つの方法だろう。 □関連記事 ●ビデオカードでファンレスという選択 ビデオカードは性能が高ければ高いほど、3Dゲームなどで威力を発揮する。だがCPU同様、高性能GPUはそれに比例する熱を発するため、強力な冷却機構が必要となる。たとえばNVIDIAのフラッグシップGPU「GeForce 8800 GTX」では基板全体を覆うほどの大型ファン+ヒートシンクが取り付けられている。 ハイエンド系GPUの静音化は難しいとしても、ミドルレンジやメインストリームのGPUであれば、ファンレスのビデオカードがいくつか用意されている。トップクラスの3D性能までは必要ない、ということであればそういった製品を導入することで、静音化しつつ高性能を見込める。CPUクーラーの交換に比べてコストがかかるためお手軽とは言い難いが、チップセット内蔵のグラフィック機能の利用や、現在使用中のビデオカードからステップアップ、という観点で以下の製品をおすすめしたい。 AMDのRadeon HD 2600搭載ビデオカードは、玄人志向から「RH2600PRO-E512HW/HS」、「同E256HW/HS」がリリースされている。前者はGDDR2 512MBを搭載し実売価格は14,000円前後、後者はGDDR2 256MBを搭載し実売価格は12,980円前後だ。 NVIDIAのGPU搭載製品であれば、別記事でも“赤くて速い”と評されたFatal1tyブランドを冠するXFX製「8600GT Fatal1ty プロフェショナルシリーズ」がある。この製品は、コア/メモリクロックがリファレンスの540MHz/1.4GHzから620MHz/1.7GHzにオーバークロックされている。DDR 3 256MBを搭載し、実売価格は17,800円前後。 このほかにも、GeForce 8800 GTを搭載したSPARKLEの「GeForce 8800 GT Cool-pipe 3」が発表されたが、残念ながらこちらは日本では未発売だ。 常時稼働させるサーバーやTV録画用途など、そこまで3D機能は求めないという方には、Radeon HD 2400 PROを搭載したAOpenの「XIAi 24P-DMC256X」をおすすめする。LowProfileブラケットが付属するので薄型筐体を使用している方でも利用可能だ。また、HDMI出力を備えているので、変換アダプタなしで手軽にHDMI端子搭載TVにつなぎたい、という方にもおすすめしたい。DDR2 256MBを搭載し、実売価格は7,000円前後と、他のビデオカードより低めの価格設定となっている。
もう1つ、こちらもお手軽とは言い難いが、現在使用中のビデオカードからVGAクーラーを交換し静音化するという方法を紹介する。CPU同様、交換した時点でメーカー保証がなくなるが、ドライバ変更の手間がいらないメリットがある。VGAクーラーは製品によって対応ビデオカードが異なるので、購入前には必ず確認して欲しい。 Zalmanの「VNF100」は、アルミニウム製の青いヒートシンクが目を引く製品だ。本体サイズは166×95×38.5mm(同)、重量は180g。実売価格は5,980円前後。対応GPUはGeForce 4 MX/4 Ti 4/FX 5xxx/6300/6600/6800/7300/7600/7800/7900/7950/8500/8600、Radeon 9xxx/X1050/X1300/X1550/X1600/X1800 XL。GeForce 6600/7300/7600のAGP版およびGTO/GTXなどのハイエンド系には対応しない。 Thermalrightの「V2」は、SLI/CrossFire対応を謳う銅製のVGAヒートシンクだ。別売の8cmファンも搭載可能としている。ヒートシンクサイズは116.2×95.6×27.6mm(同)、重量は290g。実売価格は5,980円前後。対応GPUはGeForce 6600/6800/7600/7800/7900/7950/8500/8600のPCI Express版およびGeForce 6800のAGP版、Radeon X700/X800/X850/X1600/X1800/X1900のPCI Express版/AGP版。Radeon X1650はPCI Express版のみ対応する。
いずれもファンレスである以上、ヒートシンクやヒートパイプなど冷却機構の大型化は免れない。拡張スロットを2本利用するものもあるので、購入の際には確認して欲しい。また、後述するケースファンを取り付け、積極的な排熱を心がけることをおすすめする。 □関連記事 ●意外とうるさいケースファン
ケースファンはCPUやビデオカードなど、熱源となるパーツから発する熱により上昇する庫内温度を下げるために利用する。ケースファンは主にケースの前面、背面、側面に取り付けられているが、ケースに最初から付属しているファンは、静音性を考慮しない製品が多い。また、静音を謳うファンでも、長期間使用によるファン軸のへたり、またほこりの付着などで騒音源となるものもある。 ケースファンは手軽に交換でき、また劇的に静音効果を得やすいパーツでもあるので押さえておきたい部分だ。ただし、何でもかんでもファンを付ければ良いというものではなく、ファンレスのビデオカードを取り付けたならその分の排熱をどこでまかなうか、といった部分も検討しておきたい。自作デスクトップPCであれば、ケースの前後にファンを取り付け、ケース内の空気を一定方向に流すことで冷却効率を上げると考えておくと良いだろう。 交換用ファンの購入に当たっては、事前に手持ちのPCケースに付属するファンのノイズレベルやサイズを確認しよう。新しいパーツを購入したのに元のファンより音が大きかった、ではせっかくの買い物が無駄になるので注意したい。 筆者が所有するPCケースに付属していたのはJamicon製の8cmファンで、回転数は2,500rpm、ノイズレベルは27.8dBだった。これをサイズ「鎌フロゥ 超静音」(1,500rpm/14dB)に交換したところ、耳で聞いてわかるほど騒音が低減した。実売価格は980円前後だ。 やや変わり種として、ThermalFlyの「T-9238C」を紹介する。これは8cmのファンブラケットに取り付け可能な9cmファンだ。ファンコントロールに対応し、回転数は800~3,000rpm、駆動音は18~38dBと可変する。実売価格は2,280円前後だ。 12cmファンであれば、サーマルティクの「Cycro」は回転数は1,500rpm、ノイズレベルは17dB、実売価格は2,480円前後だ。ケース背面、または側面で交換/導入可能なら、購入を検討してもいいだろう。
このほかにもケースファンの場合、ファンコントローラを利用して回転数を下げるという方法がある。現在のように気温/室温が低い場合、そこまで冷却にこだわらなくてもよくなるので、ファンコントローラを介してファン自体の回転数を下げれば、それだけ騒音自体は低くなる。もっとも、気温が低いからと言って、必要以上に回転数を下げれば冷却にも影響が出る。この部分を見極めながら設定を行なうと良いだろう。 サイズの「コンパネ1.2号」は5インチベイに格納する、最大2基のファンコントロールに対応するコントローラだが、メモリカードリーダやIEEE 1394、eSATAポートなどのインターフェイスも搭載されている。実売価格は4,480円前後だ。ファンコントローラ以外の機能も必要な、搭載スペースが限られたPCケースを使用中のユーザーにお勧めしたい。 □関連記事 ●小さなポイント
音の発生源をある程度抑えたところで、風切り音以外の騒音の要因についても参考に記しておく。 1つはケース内の配線だ。使用しないケーブル類をぐるぐる巻きに束ねておくのはよくあることだと思うが、このケーブルの固まりがケース内のエアフローを阻害し、結果ファンコントロール機能が働いて風切り音が大きくなる、ということがある。また、ケーブル自体がファンの縁に引っかかる、ヒートシンクに触れるなどで共鳴し、耳障りな音の元となる場合がある。できれば結束バンドなどを用いてケーブルを極力コンパクトに束ね、空きベイなどに収めておきたい。 もう1つはケース自体の共鳴だ。HDD、CPUファンなど回転するものは振動も同時に発生する。この時、サイドパネルが薄いケースなどはフレームを通じて振動が伝わり、ケース自体が音の発生元となる。PCを起動して「ビリビリ」という音が聞こえるようであれば、ケースが共鳴している可能性がある。こういったケースでは、側面や天面の裏側などに「吸音シート」や「静音シート」といった名称で販売されている、振動吸収材を貼ると良いだろう。材質にもよるが、1枚2,000円~3,000円前後で販売されている。 また、ワイヤーラックなどにPCを設置している場合は、手軽なところで厚みのある木の板を下に敷くと言う手段がある。もう少し見た目にこだわりたい場合は、PCケースの足にインシュレーターを取り付け、振動を抑えるという方法がある。
最後に、音を発生するパーツとしてHDDを挙げる。HDDの場合、ディスクの回転する「キーン」といった特有の音や、ディスク回転によるケースの振動音で悩まされる方もいることだろう。この場合は、グロウアップ・ジャパンの「SMART DRIVE」をお勧めする。これは5インチベイに取り付けるHDDケースで、ケース内部に吸音材を装着し、ケース内部に収めたHDDの音を吸収する。現在のモデルでは付属ケーブルでシリアル/パラレルATA両対応となったので、HDDの音が気になる方は試してみるのもありだろう。実売価格は6,980円前後だ。 ここに記したパーツや方法などはあくまでも静音化の一例に過ぎず、より静音効果が高いパーツも存在するだろう。何が騒音の元で、どこを押さえればより静音に近づけるかはケースバイケースだが、手軽な静音化の一助になれば幸いだ。 □関連記事 (2007年12月6日) [Reported by ishid-to@impress.co.jp]
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