既報の通り、AMDはデスクトップ向けCPUのブランドを変更する。これまで「Athlon 64 X2」のブランドが冠せられていたラインは、メインストリーム向けが「Phenom X2」、低消費電力用途向けが「Athlon X2」のブランドとなる。この新ラインナップの中から、今回はTDP 45Wの「Athlon X2 BE-2350」を検証してみたい。 ●モデルナンバーも新たな解釈へ変更
本日情報が公開されたのは、AMDが予定している新ブランド製品のうち「Athlon X2 BE-2xxx」シリーズの2モデルだ。ラインナップは次の通り。 ・Athlon X2 BE-2350(2.1GHz、512KB L2):91ドル いずれも65nm SOIプロセスで製造され、TDPが45Wに抑えられているのが特徴となる。これまでのAthlon 64 X2は“低消費電力版”として65Wならびに35Wのモデルがラインナップされていたが、Athlon X2はそうした特殊性をアピールするような言葉は付随しない。その意味では、このAthlon X2というブランド名はAthlon 64 X2からのブランド名変更というよりも、低消費電力ソリューションの新ブランドを立ち上げたという印象の方が強い。 価格面では、スペックが近いAthlon 64 X2 4000+や3600+(TDP 65W)と比べて大きく差はない。同等程度か、ひょっとすると、やや安価に提供されるかも知れないほどで、より低消費電力な製品がプレミアム価格なしに入手できるのは魅力だ。 スペックの違いをもう少し詳細に紹介したい。表1は、同じ2.1GHz駆動のAthlon X2 BE-2350と、Athlon 64 X2 4000+を比較したものだ。動作電圧そのものが下げられているほか、TDPに加えてT.Caseが引き上げられたことで、冷却パーツに対する要求は大幅に下がったと判断できる。
【表1】Athlon X2 BE-2350とAthlon 64 X2 4000+の仕様比較
CPU-Zで取得できる数値から判断する限り、コアのリビジョンは同一である(画面1、2)。また、表中にも示したが、コアのリビジョンを示すOPNの末尾2桁もそろって「DD」となっており、コアのリビジョンは変更されていないと判断していいだろう。その中から、より低電圧で動作するものをAthlon X2として販売するわけだが、価格面から見ると、コアの歩留まりが上昇して、潤沢に生産できるようになっているのではないかと思われる。
OPNでもう1点補足。頭から3文字目のアルファベットは熱設計電力を示しており、従来の65Wモデルでは「O」となっていた。今回の製品は「H」というアルファベットが利用されている。シングルコアのAthlon 64にラインナップされているTDP 45W版では、「H」の文字がすでに使われており、これが利用されていることになる。 このほか、モデルナンバーが変更された点についても触れておきたい。一目見て分かる通り、モデルナンバーが従来の「数字+」という表記から変更されている。この意味は次の通り。 BE-:45W製品であることを示す すでに従来型のモデルナンバーは、対抗製品との比較という意味では、あまり意味を持たないものとなっており、性能の上下関係を示すのに役立つ程度になっていた。このほかにどのようなバリエーションが登場するかは不明だが、今後は、同社製品のポジショニングを示すものとして利用されていくことになりそうだ。ただし、従来製品に新たなモデルナンバーが振られることはなく、現状のモデルナンバーのまま販売される。 ●消費電力が大幅に低下したAthlon X2 それでは、ベンチマークテストの結果をお届けしたい。テスト環境は表2の通りで、同一の動作クロックとL2キャッシュのスペックを持つAthlon 64 X2 4000+と、IntelのCore 2 Duoシリーズの最廉価モデルであるCore 2 Duo E4300を比較対象としている。
【表2】テスト環境
まずは、CPUの演算性能を見る「Sandra XI SP1」の「Processor Arithmetic Benchmark」と「Processor Multi-Media Benchmark」の結果である(グラフ1)。アーキテクチャも変更なく、動作クロックなどにも違いがないAthlon両製品は、ほぼ横並びのスコアである。当然そのほかの傾向、例えば、マルチメディア系の演算性能でCore 2 Duoが良好な結果を示すあたりや、浮動小数点演算ではAthlonに強さが垣間見えるといった点も順当な結果である。
続いては、「PCMark05」の「CPU Test」の結果(グラフ2、3)であるが、こちらもAthlon両製品はほぼ横並び。Core 2 Duo E4300ではやや分の悪さも感じるが、それほど大きな差とはいえない結果である。
次に、Sandra XI SP1の「Cache & MemoryBenchmark」(グラフ4)と「EVEREST Ultimate Edition 2006 Version3.5」のCache & Memory Benchmark(レイテンシの項のみ、グラフ5)を利用したメモリ性能のチェックである。当然こちらも、Athlon製品間に差はない。 Core 2 Duo E4300との比較では、L1キャッシュの高速性やL2キャッシュ容量の差といったアーキテクチャの違いにより、キャッシュ領域ではアクセス速度で劣ってしまったものの、メインメモリのアクセス速度はほぼ同等となっている。ちなみに、Athlon両製品のメモリクロックは、動作クロック÷6=350MHzで動作しており、400MHzで動作するIntel P965に比べて不利もあるのだが、レイテンシの短さでこれをカバーした格好だ。
さて、続いては実際のアプリケーションを利用したベンチマークテストである。実施したテストは、「SYSmark 2004 Second Edition」(グラフ6)、「Winstone 2004」(グラフ7)、「CineBench 9.5」(グラフ8)、「動画エンコードテスト」(グラフ9)である。 Athlon両製品はおおむね同じようなスコアで並んでいる。複数アプリの実行があるSYSmark2004やWinstone 2004あたりは、ややばらつきもあるものの、単一アプリケーションであるCineBenchや動画エンコードはスコアも落ち着いている。若干ながら、Athlon X2の方が良いスコアを出す傾向にあるが、技術的な理由は思い浮かばず、誤差ではないかと考えている。 Core 2 Duo E4300との比較では、Athlon両製品が劣るシーンが目立つが、WMVエンコードやWinstoneのように、最新CPUへの対応を積極的に行なっていないアプリケーションを中心に拮抗する場面もあり、性能面で極端に劣っているわけではない。このあたりは、アプリケーションに左右されるということになる。
次に3D関連のベンチマークである。、「3DMark06」の「CPU Test」(グラフ10)、「3DMark06」(グラフ11)、「3DMark05」(グラフ12)、「3DMark03」(グラフ13)、「F.E.A.R.(SoftShadowsは無効に設定)」(グラフ14)、「Splinter Cell Chaos Theory(HDRは有効に設定)」(グラフ15)の結果を掲示している。 こちらは、一般アプリケーションのベンチマークとは異なり、全般にCore 2 Duo E4300が良好な結果を示すものとなっている。
最後に消費電力のテストである(グラフ16)。これは劇的な結果が出た。Core 2 Duo E4300以上に電力を消費していた従来のAthlon 64 X2 4000+に対し、Athlon X2では大幅に消費電力を下げ、Core 2 Duo E4300を下回る結果となったのである。 Athlon 64 X2 4000+からAthlon X2に変更することで、大ざっぱに10~20%の消費電力抑制が見られており、同じリビジョンのコアを使いながら、ここまで下がっているのは見事な結果といえる。より低い動作電圧で同じクロックを実現しているメリットの大きさを感じさせる結果だ。
●TDP 45Wのアピール通りの実力を見せたAthlon X2 BE-2350 Core 2 Duo E4300との比較ではパフォーマンス面で同等かアプリケーション次第では下回る感じであるが、消費電力は抑制されている。もっとも、この消費電力に関してはマザーボードが異なるので確実にCore 2 Duo E4300を利用した環境を下回るとは断言できず、あくまで今回の環境によれば、という注釈は付く。 ただ、従来のAthlon 64 X2との比較では、Athlon 64 X2 4000+とパフォーマンスがほぼ同一でありながら、消費電力は10~20%抑制できている。冷却パーツへの要求が下がり、小型PCにおいても使い勝手の良いCPUとして重宝されるのではないだろうか。 Athlon 64 X2は、ハイエンド並みの性能を持つ6000+からTDP 35Wの製品まで、非常に多様なニーズを満たすブランドとして地位を築いてきたが、このブランドは消えていく。しかし、今回のブランド名刷新で、Athlon X2という低消費電力を前面に打ち出した新ブランドにより、ユーザーにとっては製品選びがしやすくなりそうである。また、Athlon X2ブランドの最初の製品として、今回のAthlon X2 BE-2350が出した結果は、その方向性も明確に出たものといえる。 □関連記事 (2007年6月5日) [Text by 多和田新也]
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