第383回
富士通「LOOX U」開発者インタビュー




富士通「FMV-BIBLO LOOX U」

 すでに海外向けには発表されていた富士通のUltra Mobile PC(UMPC)の日本版として企業向けの「LIFEBOOK U」と一般市場向け「LOOX U」が発表された。詳しいスペックやモデルラインナップは製品発表時の記事に譲り、今回はLOOX Uの開発者へのインタビューを紹介したい。

 インタビューに応じていただいたのは、富士通のパーソナルビジネス本部 ソリューション開発統括部 PC/ユビキタス企画グループ プロジェクト部長 日野正康氏と、パーソナルビジネス本部PC事業部モバイルノート技術部プロジェクト課長の遠山賢治氏の2人である。


パーソナルビジネス本部 ソリューション開発統括部 PC/ユビキタス企画グループ プロジェクト部長 日野正康氏 パーソナルビジネス本部 PC事業部 モバイルノート技術部 プロジェクト課長 遠山賢治氏

 今回発表されたLIFEBOOK UとLOOX Uは区分けはされているものの、LOOX Uに置いてもOSがWindows XPに限定されるなど、個人向けとしては、ちょっと変わった位置づけとなっている。

--企業向けのLIFEBOOK Uが先行した形になりましたし、個人向けのLOOX Uは様子を見ながらという印象があります。

 「ペンコンピュータは、伝統的に富士通が強い分野でもありますし、まずは企業向けを最初に発表させていただきました。しかし、もちろん個人向けも同時に開発を進行させており、個人向けの製品開発をおろそかにしているわけではありません。我々は個人向けPCにおいて、AV機能とモバイル機能で優位な製品を開発することに明確にフォーカスしています。この2分野において、積極的に新しい技術を投入することで、我々だけではなく顧客や業界全体を牽引していきます。LOOX Uは、そうした我々の決意、意気込みが製品となって表れたものです」

--富士通は古くはオアシスポケット、比較的最近ではLOOX Sなど、小型/軽量コンピュータの開発に情熱を注ぎ込んできました。とはいえ、(VAIO Uという先例はあるもののUMPCとしては)日本ベンダーとして初めてこの市場に参入した背景を教えてください。

 「携帯性の高いPCを作ることを目標としていれば、UMPCが生まれるのは自然なことでしょう。Intelが新たに小型コンピュータを作るためのプラットフォームを出すというので、その新しいプロセッサ、新しいチップセットを用い、富士通独自の企画で開発を行ないました」

--IntelのUMPCプラットフォームは来年(2008年)、大きく消費電力を下げてさらに小型のデバイスにも対応していきます。スマートフォンなどは、そのタイミングでスタートするようですが、今回のタイミングから参入したのはなぜでしょう?

 「以前から、少しでも小型化できる可能性があるならと模索しており、今年のプラットフォームでも十分に魅力的な商品を提供できると考えたためです。小型PCを求めるお客様は、今年も、そして来年もいらっしゃいます。その時点でもっとも小型/高性能を実現できる組み合わせで製品を開発しようということです」

--企画の基本コンセプトをお聞かせ願えますか?

システム手帳サイズを目指した設計

 「システム手帳のサイズを目指しました。LOOX Uの開発を行なった当初は、W-ZERO3が市場に登場した直後で、PDAが携帯電話と融合しながら機能や性能を向上させた時期と重なります。我々はW-ZERO3とは異なる方向、つまりPCのアーキテクチャを小型化することで、PCをPDA的にも使いこなせる、持ち歩ける製品とすることを目標にしたのです」

--最終的に今回のサイズとなったわけですが、UMPCと一言で言っても、さまざまな選択肢があったと思います。液晶パネルのサイズ、キーボードサイズとレイアウト、もちろん熱設計や内蔵可能なコンポーネントの取捨選択などもあるでしょう。

 「どのような商品が、モバイルコンピューティングを行なうユーザーに求められているのか。まずは全体のサイズや形状を検討しました。ペン専用という選択肢もありましたが、我々は小型タブレットPCでコンバーチブル型の経験があったため、ペンコンピュータとしても、小型ノートPCとしても使える現在のデザインに決まりました」

 「次にWSVGA(1,024×600ドット)という解像度で、どこまでのサイズならば実用的に使えるだろう? という視点で、可能な限り小さくしたのが5.6型というサイズです。我々は欧州を中心に北米にも、特にモバイルに強いベンダーとして認知されており、特定業種向け端末だけでなく、一般企業向けや個人ユーザー向けにも使っていただいています。それらすべてのユーザーに対して価値ある商品を提供するには、コンバーチブル型がもっとも適していると考えました」

--先ほどオアシスポケットの話をしましたが、結果的には、当時、あれだけ小さいと思っていたオアシスポケットよりも小さいPCになりました。キーボードのサイズやレイアウトはどのように決めましたか?

 「富士通社内でも、オアシスポケットというのは1つのベンチマークだったのですが、実際にオアシスポケットを持ってきて比べてみると、LOOX Uの方が小さいんですよ。オアシスポケットのキーボードは、タッチタイプができるギリギリのサイズでした。LOOX Uはタッチタイプは難しいかもしれませんが、キーボードを見ながらならば、両手を使って普通のスタイルで打つことができます。指を並べてギリギリ打てる限界というのが、このサイズになった理由の1つ。もう1つは、立ったまま液晶パネルを開き、親指でキーをタイプするとき、真ん中のキーにも指が届くには、本体の横方向のサイズにも制限が出てきます。親指がきちんと届くギリギリのサイズに、普通にタイプできるギリギリのキーピッチ。これらを満たすことを前提にすると、キーの数は減らさなければならない。そこで練り込んでいって生まれたのが、今回のデザインというわけです」

--まずは企業向けモデルからの出荷ですが、企業からのUMPCに対する実際のニーズというのは存在するのでしょうか?

 「電子カルテなど医療関係の用途や、生命保険の販売員向けなど、特定用途向けユーザーには、とても強いニーズがあります。まずは、そうした強く小型PCを求めているお客様に届けなければなりません」

 「もう1つは、普段の机の上で使っているPCとは別に、会議や外出時に便利なセカンドPCを使うと便利ですよという提案をしていきたいですね。メールでのコミュニケーションや、社内のイントラネットアプリケーションへのアクセスはもちろん、PowerPointを移動時間にチェックしたり、書類をレビューするなどの使い方です」

--現在のPCは、OS、アプリケーション、それにネットワークを含めたシステム全体が、1台のPCを前提に開発されている場合がほとんどですよね。2台のPCを使い分けようとすると、運用上の工夫をかなりしなければなりません。これではユーザー層が広がらないのでは?

 「モバイルといってもいろいろなスタイルがあり、たとえば自社ネットワーク内を移動しながら、どこでも情報を参照したい、コミュニケーションを取りたいといったニーズがあります。そうした環境であれば、いつでも社内のデータやメールにはアクセスできますよね。またWiMAXやHSDPAなどを、将来的には内蔵できるよう配慮して設計をしていますから、今後、環境が整ってくればWANに接続し、そこから直接企業内のネットワークに接続させるということも可能です」

--ということは、やはり基本的には常にネットワークに接続していることを前提に、用途提案を行なっているということですね。ただ、現実には今現在、オールウェイズコネクトは理想論で、現実的には何らかの複製データを持ち歩かないと仕事にならない事が多いのではありませんか?

 「データへのアクセスの手法に関しては、当然、中間解もありますよね。もっとも手軽なところでは、USBメモリに対して暗号化したデータを吐き出して持ち歩くとか。さまざまなソリューションベンダーが、もちろん富士通も含めてですが、解決策を模索しているところです。顧客ごとに解決策は異なりますが、いくつか手はあるのではないかと考えています」

--コンシューマ、ビジネスを問わず、実際に小型のノートPCとして持ち歩く場合、ほとんどのユーザーが携帯電話と一緒に持ち歩いているハズですよね。富士通製ノートPCのほとんどは、欧州版にBluetoothを搭載しており、LIFEBOOK Uにも内蔵モデルが存在しますが、LOOX Uにはその設定はありません。

 「携帯電話と共に使うことも、ある程度は意識しています。SDカードスロットは(アダプタは必要だが)携帯電話とのデータ受け渡しに使えます。おっしゃるように欧州版のUにはBluetoothが搭載されていますが、国内はまだBluetooth搭載の携帯電話が十分に普及していないため、採用を見送っています。ただし、これは企業向けモデルの話で、コンシューマモデルがどうなるのか、まだ仕様は決まっていません」

SDカードスロット(左)、CFスロット(右)を備える

--ということは、コンシューマモデルには搭載される可能性もあると言うことですね?

 「可能性はあります。現時点ですでにモバイルコンピューティングをノートPCで実施している方々は、Bluetoothを強く望んでいるのでしょう。しかし、一方でより幅広いユーザーに“セカンドPC”としてLOOX Uを使っていただくには、価格も下げなければなりません。そうしたことを勘案した上で、コンシューマモデルの商品仕様を決めます」

--LOOX Qの海外版であるLIFEBOOK Qには、HSDPA内蔵モデルがあります。LIFEBOOK Uにも同様のモデルが用意されていると思いますが、国内モデルへのHSDPA内蔵に関して何か進展はありませんか?

 「海外でのHSDPA内蔵モデルは、まだ発売は決まっていません。しかし、内蔵できるように“仕込み”はしているので、いつでも搭載モデルは追加可能です。国内に関しても、時期が来ればスグに出したいですね。H"-inを搭載したLOOXを発売した経験もありますし、通信機能をモバイル機に搭載するという意欲は強く持っています」

--大手の携帯電話会社がHSDPA内蔵PCを販売するというのは、今のところあまりリアリティがないように思います。富士通自身が企業向けに展開しているMVNO(自社ネットワークを持たずにサービスを提供する携帯電話会社のビジネス形態)の通信サービスを使って提供という可能性は?

 「現在、富士通はPHSだけでなく3G携帯電話も含めたMVNOのサービスを提供しています。可能性がないか? と言われればあるでしょう。現時点で直接連動しているわけではありませんが、モバイルコンピューティング普及やビジネスに関する方向性は、通信サービスを提供している部門とも話をしています。携帯電話端末も含め、富士通全体がモバイルに関しては同じ方向を向いているとお考えください」

--個人向けモデルを幅広いユーザー層に……となると、ソフトウェアやLOOX Uと連携するネットワークサービスなども含めて、UMPCならではの使い方提案も必要でしょう。何かアイディアは持っていますか?

 「昔のポケットボードやシグマリオンのように、道具として持ち歩いてもらいたいですね。1つ考えているのは、mixiなどのSNSやブログ、Webメールなどに、シンプルにアクセスして活用できるようなことを考えたい。またTVの画像ファイルを閲覧するツールとして使ったり、ワンセグを見たり、逆にポートリプリケータにつないで大きな画面で普通のPCとしても使えるようにしたり」

 「ある程度、新しい使い方はお見せしたいと思いますが、あまり色を付けすぎると敷居が高くなりすぎますから、汎用的に使っていただける範囲で考えています」

--最後にSSD搭載モデルの可能性についてお聞かせ願えますか?

 「私自身(遠山氏)、とてもSSDというテクノロジに注目しており、LOOX QにSSDを入れて使うなど、実践しながらその可能性を模索はしています。ただ現状、コストがあまりにも高い。しかし、価格面でユーザーにも受け入れていただけるようなモデルが作れるならば、検討はしたいと思います。LOOX Uは1.8インチHDDの中でも薄型のタイプを使っているため、現時点でその空間に搭載可能なSSDは容量の小さい物しかありません。薄型で容量の大きい物が登場し、価格的にもこなれることが前提になります」

□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
□LOOX Uの製品情報
http://www.fmworld.net/product/hard/pcpm0704/biblo_loox/lu/
□関連記事
【6月12日】富士通、5.6型ワイド液晶搭載超小型PC「LOOX U」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0612/fujitsu.htm
【5月16日】富士通、重量約580gの超小型PC「LIFEBOOK U」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0516/fujitsu.htm

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(2007年6月20日)

[Text by 本田雅一]


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