2007年3月に開催されたCeBIT 2007において正式に製品名が公表されたIntel 3シリーズチップセット。このうち、メインストリーム向けとなるIntel P35を搭載したマザーボード2製品を借用できた。この製品を利用して、DDR3 SDRAMや1,333MHz FSBでパフォーマンスがどのように変化するか見てみたい。 ●次世代CPUとメモリに対応するIntel P35 今回借用できたマザーボードはIntel P35を搭載する製品であるが、同じタイミングでIntel G33もリリースされ、正式に仕様が公表された。その主な仕様は表1の通りだ。また、このIntel 3シリーズチップセットで組み合わせられるICH9シリーズの主な仕様も表2にまとめている。なお、Intel 3シリーズの全ラインナップに関する概要は、CeBIT 2007の説明会レポートに詳しい。
【表1】Intel P35/G33の主な仕様
【表2】ICH9シリーズの主な仕様
今回テストするIntel P35は、現在発売されているIntel P965の後継となるわけだが、主な変更点を挙げると次のポイントになる。 ・45nmプロセスCPU まず、45nmプロセスのCPUとは、2008年のリリースが予定されているPenrynアーキテクチャの製品のことだ。デスクトップ向けにはクアッドコアの「Yorkdale」とデュアルコアの「Wolfdale」が予定されている。 新しいCPUへの対応を目的としたもう1つのアップデートが1,333MHz FSBへの対応である。1,333MHz FSBは、現状のConroeをベースとしたCPUが今年(2007年)第3四半期にも投入される予定となっており、Penrynを迎える前に、まずはこちらへの対応したチップセットという点で重要な意味を持ってくる。 また、DDR3 SDRAMへの対応が現時点ではもっとも大きなポイントでといえる。先述のCPUとは違い、DDR3 SDRAMはすでに入手可能な状態だからだ。Intel P35では、DDR3-1066までのメモリに対応する初のDDR3対応チップセットになった。CPUのマルチコア化でメモリに対する要求が高まっており、DDR3 SDRAMへの移行はゆっくりながらも進むことになるだろう。 現在、規格上もっとも高速なメモリとなるのがDDR2-800で、これの帯域幅はデュアルチャネル利用時で12.8GB/secとなる。Intel P35が対応するDDR3-1066では約17GB/secまで広がるほか、8bitのプリフェッチをサポートしており、当然高速化に期待がかかる。また、動作電圧もDDR2 SDRAMの1.8Vに対して、1.5Vに下げられ、省電力の効果も期待できる。 最後にサウスブリッジであるICHが、ICH9シリーズへ移行する。こちらはモデルによっても機能は異なるが、コンシューマユーザーにとっては、USBポート増加やSATA周りの機能強化が大きなポイントといえる。また、ICH9RはTurbo Memoryもサポートしており、これに対応したマザーボードとモジュールが入手できる状況になれば話題になりそうである。 さて、ここからは今回テストに利用する機材を紹介していきたい。マザーボードは前述の通りIntel P35を搭載する2製品である。1つはIntel製の「Intel DP35DP」、もう1つはGIGABYTE製の「GA-P35T-DQ6」だ。 まず、前者のIntel DP35DPであるが、こちらはDDR2 SDRAMスロットを4本備える製品(写真1)。かなりシンプルな構成のマザーボードで、PS/2ポートも排除されてしまっている(写真2)。ただし、Super I/OチップであるWinbond WPCD376IにはPS/2ポートが用意されており、カスタマーに応じてPS/2ポートを付ける例が出るかも知れない。ただし、自作ユーザー向け製品がどうなるかは不明だ。
もう一方のGIGABYTEのGA-P35T-DQ6は、同社がラインナップするIntel P35シリーズの最上位にラインナップされるモデルで、DDR3 SDRAMスロットを4本備える製品である(写真3~6)。ちなみに、同社ではIntel P35搭載製品を計6モデル予定しているようだが、本製品以外はいずれもDDR2 SDRAM対応製品となっている。また、他メーカーの動向を見ても、CeBIT 2007では展示が少なかったDDR2/DDR3 SDRAMの両スロットを備える製品を予定しているメーカーも少なくないようだ。 DDR3 SDRAMは、ようやく最近になってIntelのバリデーションを通過するものが増え始め、現在では主要なメモリメーカーは一通り製品が用意できている状態といえる。ただ、それでもDDR2 SDRAMの価格低下が激しい中、DDR3 SDRAMがコスト面で競争力が弱いのは事実で、マザーボードメーカーもコンシューマユースへの浸透は時間がかかると見ているようだ。 チップセット側がDDR2/DDR3 SDRAMの同時利用を認めておらず、両対応製品にはメモリ容量の面でデメリットも生ずる。それでも、当面はDDR3 SDRAMスロットのみを搭載するマザーボードは、ハイエンド製品や特定用途に特化した製品が中心になりそうだ。 今回テストに利用するDDR3 SDRAMはバッファローが先月発表した「D3/1066シリーズ」である(写真7~10)。DDR3-1066に準拠した製品で、1GBモジュールと512MBモジュールがラインナップされ、さらにそれぞれの2枚組パッケージが用意される。今回は、このうち512MB×2枚を利用してテストを行なう。このメモリのパラメータは画面1に示した通り「7-7-7-20」。DDR3-1066の7Tということは約13.1nsで、DDR2-800で一般的な5Tの12.5nsに比べて、若干レイテンシは増している。 レイテンシに絡んで、もう1点、EVERESTで取得した稼働中のメモリパラメータに不可解な点がある。画面1からも分かる通り、今回のモジュールのWrite RecoveryはDDR3-1066として動作する場合、8Tとなっている。 ELPIDAのWebサイトにはデータシートがなかったので、SamsungのDDR3 SDRAMモジュールのデータシートを参考にすると、Minimum Write Recovery Timeが15nsとなっており、8Tならほぼ合致する。しかし、EVERESTでは18T(つまり約33.8ns)で動作していると表示されてしまっているのだ(画面2)。 これは、DDR2 SDRAMを利用するIntel DP35DPにおいても似たような現象が起きている。今回利用したDDR2 SDRAMモジュールのSPDの内容は画面3の通りで、Write RecoveryはDDR2-800動作時に6T(つまり15ns)。しかし、これが14T(約35ns)と表示されているのである(画面4、5)。 この現象については、Write Recovery時間を詰められない何らかの事情をIntel P35が抱えている可能性もあるが、後述のベンチマーク結果からは、ここまで極端にレイテンシが増しているという印象も受けないので、単にEVERESTが(現時点で未発売の)Intel P35マザーボードから正しく情報を取得できていないだけという可能性も高い。 さて、次は今年第3四半期の登場が予定されている、1,333MHz FSBのCPU「Core 2 Duo E6750」である(写真11、12)。2.66GHz、4MB L2キャッシュを搭載といった点は現行の「Core 2 Duo E6700」と同じである。ただし、Core 2 Duo E6700は266MHz×10で2.66GHzとなるが、Core 2 Duo E6750は333MHz×8で2.66GHzとなる。また、FSBの向上に伴い、最低動作周波数も変更されている。最低倍率は従来製品と同じ6倍に設定されているため、C1Eステートに入ったときも333MHz×6で2GHz動作となる(画面6~8)。 なお、コア自体は従来のConroeコアが利用されるが、ステッピングは「G0」が採用されている。このG0ステッピングについては、先月末にCore 2 Quad Q6600への投入が表明され、TDPの引き下げに成功している。今回のテスト機材の比較でも、同じ2.66GHz動作時に、G0ステッピングを利用したCore 2 Duo E6750が1.184Vで動作しているのに対し、B1ステッピングのCore 2 Duo E6700は1.280Vと、わりと大きな差がついている。個体差もあるので確実とはいえないが、G0ステッピング採用製品の消費電力低下には期待できるだろう。
●DDR3 SDRAM、1,333MHz FSBのパフォーマンスを検証 それでは、ベンチマークテストの結果を紹介したい。環境は表3の通りである。各マザーボードが対応するメモリをそれぞれ装着し、Intel P35は対応する2つのCPUでそれぞれテストしているので、計5パターンでの比較となる。
【表3】テスト環境
まずは、CPUの演算性能を見る「Sandra XI SP1」の「Processor Arithmetic Benchmark」と「Processor Multi-Media Benchmark」の結果である(グラフ1)。同じアーキテクチャの製品であり、動作クロックが同じならば、ほぼ同じ結果で並ぶのが妥当なのだが、Intel DP35DPを利用した場合のみ明らかにスコアが低いのが非常に特異な結果となった。
同じくCPUのベンチマークテストである「PCMark05」のCPU Test(グラフ2、3)においても、ほかの環境では目立った差がないにも関わらず、Intel DP35DPだけが一段低いスコアになってしまっている。 もちろん、CPU-Zなどのアプリケーション上からは動作クロックは定格通りであることは確認しており、マザーボードがCPUの性能を十分に引き出せていないと思われる。ただ、同一マザーボードのテストパターンにおいて、Core 2 Duo E6750と同E6700のスコアさは目立っておらず、CPU単体の演算性能を中心としたパフォーマンスでは同等程度であることは判断できるだろう。
続いては、今回の要点でもあるメモリのテストである。Sandra XI SP1の「Cache & MemoryBenchmark」(グラフ4)と「EVEREST Ultimate Edition 2006 Version3.5」のCache & Memory Benchmark(レイテンシの項のみ、グラフ5)を実施している。 まずメモリのアクセス速度であるが、ここでもIntel DP35DPの性能の低さが目立つ。L1/L2キャッシュ、メインメモリいずれの場面でも低いスコアが出ている。ただ、メインメモリへのアクセスが必須となるブロックサイズ16MBの条件ではIntel P965に近い性能が出るあたり、物理的に何か問題があるという可能性も低いように思われるほか、同じDDR2 SDRAMを利用するIntel P965環境と比較してもレイテンシが増している。安定性を重視しているのか、かなり緩いパフォーマンスで動作するようチューニングされているように思われる。 それでも、今回のIntel DP35DPは非常に不安定で、テスト中何度かフリーズする現象にも見舞われた。現状のBIOSバージョンは「DPP3510L.86A.0202.2007.0417.2120」であるが、過去、Intelから借用したテスト機材で、ここまで安定性を欠いていた記憶はないほどで、逆に同社の過去の姿勢からいえば、製品発売までの残り数週間できっちりチューンアップされるであろうことは想像に難くない。 肝心のDDR3 SDRAMであるが、Intel P965環境のDDR2 SDRAM使用時と比較しても、700MB/sec前後のアクセス速度向上が見られたほか、メモリアクセス時のレイテンシ時間も短くなった。 また、Core 2 Duo E6750と組み合わせた場合に100MB/sec以上のアクセス速度向上があり、FSBの帯域幅向上の効果も見られる。Intel DP35DPでも1,333MHz FSBによる効果は見られるが、DDR3-1066を組み合わせた場合の伸びには及んでおらず、このFSB-メモリの帯域幅がトータルに向上する1,333MHz FSBとDDR3-1066の組み合わせはパフォーマンスに期待を抱ける結果といえる。
こうしたメモリアクセスパフォーマンスの良さが実際のアプリケーションにどう影響するのかを、実際のアプリケーションを用いたベンチマークで見てみたい。実施したテストは、「SYSmark 2004 Second Edition」(グラフ6)、「CineBench 9.5」(グラフ7)、「動画エンコードテスト」(グラフ8)。今回はテスト時間の都合によりWinstone 2004を割愛している。 結果を見ると、Intel P35+DDR3 SDRAMの環境でも意外にスコアが伸び悩んでいる。Core 2 Duo E6750環境では、多少良い結果が出ているものの、それほど突出している印象は受けない。それでも、SYSmark 2004 Second EditionのOffice Productivityのようなデータ処理系の作業や、MPEG-2エンコードのようにCPU負荷が軽くメモリパフォーマンスがボトルネックになりつつある作業で有効な結果を見せており、メモリアクセスの負荷が大きい用途におけるパフォーマンスには効果があることが分かる。
続いては、「3DMark06」の「CPU Test」(グラフ9)、「3DMark06」(グラフ10)、「3DMark05」(グラフ11)、「3DMark03」(グラフ12)、「F.E.A.R.(SoftShadowsは無効に設定)」(グラフ13)、「Splinter Cell Chaos Theory(HDRは有効に設定)」(グラフ14)である。 結果をみると、Intel P35とDDR3 SDRAMの組み合わせが組み合わせが安定したパフォーマンスを出している傾向にはある。Core 2 Duo E6750を利用するこでさらにスコアを伸ばす傾向にはあるが、F.E.A.R.のように逆転してしまうケースもあり(これはまったく原因不明)、絶対の信頼感は抱けない。劇的な改善とはいかないものの、多少の速度アップにはつながるといったところだろうか。
最後に消費電力のチェックである(グラフ15)。まず、CPUの違いについては、同一マザーボード上での比較が可能であるので、こちらから触れてみたい。CPU-Zの結果でも見られた通り、今回テストしたCPUでは、G0ステッピングを採用したCore 2 Duo E6750の駆動電圧が低く、実際の消費電力計測においても、それが影響した結果を見せている。 一方、メモリの種類による比較はマザーボードが変わってしまうため、確実なものとは言えないが、DDR3 SDRAM環境がもっとも低い消費電力となった。今回のDDR3 SDRAM利用環境は、GIGABYTEの最上位モデルということで、オンボード搭載されているデバイスも多いマザーボードである。そうした点も鑑みると、DDR3 SDRAMによる消費電力抑制の効果には期待できそうだ。
●Intel P35のDDR2 SDRAMモデルに期待したいが…… 以上の通り結果を見てきたが、まず、DDR3 SDRAMには低消費電力とパフォーマンスアップに多少の期待は持てる結果になっている。また、1,333MHz FSBと組み合わせた場合に、さらにパフォーマンスが向上するのはうれしいポイントだ。今回はデュアルコアでのテストであったが、クアッドコア製品を利用して、さらに多くのアプリケーションを同時実行するようなケースでは、より高い効果が期待できる。 もちろんメモリアクセスに負荷がかかる状態という条件はつくので、用途によってはまったく効果が得られない場合もあるだろうが、低消費電力という点は用途に関係ないポイントで、得られる効果は魅力的だ。 ただし、DDR3 SDRAMはやはり価格がネックだ。メモリ消費量が多く、メインストリームでも1GB、できれば2GB以上の搭載が求められるWindows Vistaを利用する上で、512MB×2枚で5万円超、1GB×2枚では10万円超となる価格は、得られるパフォーマンスの対価として高価過ぎる。最低でもDDR2 SDRAMの倍程度にまで価格が下がってからが本格的な普及期といえるのではないだろうか。 Intel P35を始めとするIntel 3シリーズのメインストリーム製品が、DDR2 SDRAMサポートを残したのは、市場動向からして当然といえる。今回の環境ではIntel P965とDDR2 SDRAMを組み合わせた場合とパフォーマンスを比較した結果、Intel P35とDDR2 SDRAMの組み合わせが芳しくない結果に終わっているのは気がかりだが、チップセットとメモリの組み合わせによってCPUの演算性能までもが安定して下がるというのはちょっと不自然で、これは使用したマザーボードに依存した結果と考えている。よって、Intel P35とDDR2 SDRAMを組み合わせた場合のパフォーマンスは不明瞭、という結論のまま記事を終えてしまうことになるわけだが、この点はご了承いただきたい。 ということで、DDR3 SDRAMは高価、1,333MHz FSBのCPUは第3四半期まで待ち、という状態では、Intel P35/G33を導入する積極的な理由を見出せないわけだが、逆にIntel P965/G965を選択する理由もない。 現状でIntel P965/G965、またはDDR2-800対応のIntel 975X搭載マザーなどを利用している人が買い替えを検討するならば、少なくとも1,333MHz FSBのCPUやIntel 3シリーズチップセットの全ラインナップが出揃う第3四半期を待つべきだろう。だが、Intel 3シリーズチップセットには、1,333MHz FSBのConroeに続き、45nmプロセスのCPUに対応するという将来性の高さがある。これからIntel製CPUを搭載したデスクトップPCを自作もしくは購入する場合は、この将来性の高さからIntel 3シリーズ選択していくべきだ。 □関連記事 (2007年5月21日) [Text by 多和田新也]
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