大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

ソニー新本社ビル「Sony City」突撃レポート!
〜サイロを壊すコミュニケーション型オフィス




ソニーの新本社ビル「Sony City」

 東京・品川のソニー新本社ビルは、「Sony City」と呼ばれる。

 その言葉通り、オフィス全体を街として捉え、社員同士がコミュニケーションを図ることにコンセプトを置いた建物づくりをしているのが特徴だ。それは、ハワード・ストリンガーCEOが語る「サイロを壊す」という考え方を、具現化したものだといってもいいのかもしれない。そして、言い換えれば、“Sony United”の具現化にもつながるといえよう。

 このほど、ソニー新本社を見学する機会を得た。ソニー新本社「Sony City」の様子をレポートしよう。


●ソニーの企業イメージを具現化した新本社

 Sony Cityは、東京・品川駅の港南口を降りて、約5分の位置にある。

 もともとは、'69年9月に、ソニーの芝浦工場としてオーディオ機器の生産を行なっていた場所。ソニーが所有する土地のなかでも、比較的古い部類に入る。

Sony CityはJR品川駅港南口から約5分 駅を出ると左手にSony Cityが見える
右上のソニー本社と書かれた場所がSony City 品川駅側から訪れると、西側のこの入口から入ることになる。社員もここを利用 1階の見取り図。品川駅は右上の方向になる

 '89年8月には、芝浦テクノロジーセンターに名称変更。2004年8月からは、「新芝浦開発プロジェクト」の名称で、ソニー生命保険を建築主として、ソニー新本社ビルの建設を進めてきた。

 地下2階、地上20階建て、高さは99.4m。敷地面積は、18,165平方m、延床面積は163,745平方m。1フロア面積は約7,000平方m。そのうち、オフィススペースは約5,000平方m。六本木ヒルズのワンフロアが約4,500平方mであることに比べても広い。また、一棟で16万平方mという規模も、高層ビルを別にすると例が少ない。

 しかも、東西100m、南北70mという長方形型の空間は、オフィスが入居する1フロアのスペースとしては異例ともいえるほど広大だ。実はこの大きさは、横浜国際総合競技場(日産スタジアム)のサッカーグラウンドと、ちょうど同じサイズだという。そこに、東西15m間隔、南北25m間隔で建物を支える柱があり、オフィスの端から端まで見渡せる環境となっている。サッカーグランドの大きさのなかに、小学校のプールサイズごとに柱があるというイメージだ。

Sony Cityの夜の風景。ソニーにふさわしい外観だ

 旧本社は、ソニーの事業規模、世界での知名度から比べると、そのイメージはどうしてもコンパクトすぎた。政府や海外からのVIP、取引先のトップが訪れても、「世界のソニー」の本社とは思えない佇まいを感じたことだろう。

 だが、新本社ビルは、「世界のソニー」の名に恥じないものになったといえる。

 そして、旧本社や、それ以前に本社機能があった2号館が複雑な建物構造をしていたのに比べると、オフィス構造のわかりやすさは比にならない。

 Sony Cityは、ソニーという企業イメージを具現化したビルであることは間違いない。


ビルの周りには緑が植えられている 屋外のパブリックスペースでは休憩もできる パブリックスペースに植樹されたSony City竣工記念樹

●TV、PC、オーディオ事業部が入居

 現在、Sony Cityには、本社機能のほか、旧大崎西テクノロジーセンターに入居していたTV・ビデオ事業本部、品川テックと2号館に分散していたオーディオ事業部、旧本社2号館のVAIO事業本部、コアコンポーネント事業本部が入居。約6,000人の規模となっている。

 昨年(2006年)12月から、コアコンポーネント部門の移転を開始。次いで、TV・ビデオ事業本部が移転し、広報部門を含む本社部門が移転したのが、第3四半期の決算発表を終えた2月上旬。ハワード・ストリンガーCEOおよび中鉢良治社長も、このタイミングで旧本社からそれぞれの部屋を移転した。

 そして、最後に、Windows Vista搭載PCの発売に追われていたVAIO事業本部が、今年(2007年)3月に入居して移転が完了した。

 最上階は役員フロアとなり、ストリンガーCEOおよび中鉢社長の部屋もこのフロアにある。また、19階〜18階までを本社部門が占め、17〜16階がVAIO事業本部、16〜14階にはコアコンポーネント事業グループが入居する。13階は、デザインなどを担当するクリエイティブセンター、12階はカフェテリア。11階から5階までをTV・ビデオ事業部が占め、5階にオーディオ事業部が入居する。

12階のカフェテリア。食事ができる7つの店舗と、コンビニが入居している。さまざまなスタイルがある
厨房と精算コーナー。ここでは食事を選んで、まずは食事。その後に精算する仕組み。トレイに埋め込まれたRFIDを読み、金額とともにカロリーを表示。しかし、カロリーがわかるのは食べたあと……

 また、4階には、5月の連休明けにも「The Square」と呼ばれるショールームが新たに開設される。The Squareは、基本的には予約による利用となるが、ソニーのすべての商品を一堂に用意し、ソニーが誇る最高のクオリティを実現する視聴ルームなどが設置されることになるという。

 2、3階は、大会議場および中会議場。大会議場は、2、3階を利用。可動式の椅子席を用意し、1,000人を収容。椅子をすべて収納し、平場にもできるほか、会場を2つに分割して利用することもできる。社内のクォータリーミーティングや製品説明会などにも使われる予定で、4月の入社式もこの大会議場で行なわれた。また、2階の一部には会議室も用意されている。

大会議場の入口部分。公共のイベントホールのようだ 2階の大会議室の見取り図。1階からエスカレータを利用する

 1階は総合受付のほか、応接室、応接ブースなどを設置。さらに、旧本社2号館に設置していたソニーサービスステーションや、レストラン、コーヒーショップなどがある。5月には、最新製品を展示するショールームを設置する予定。こちらは一般の人も自由に見ることができる。

エントランスアトリウム。広大なスペースに驚かされる こちらはエントランスアトリウムを2階からみたところ Sony Cityの受付
受付を通ると、Visitorカードとバイブレータ式の機器を渡される。応接室の準備が出来ると、これが振動する 1階の応接室。16部屋が用意されている 応接室の様子。40型の液晶テレビを全室に設置
机には、PCを接続するためのコネクタなどを用意 ブース型の応接コーナーは20カ所。ブースに入るとセンサーが反応して、入室していることを自動的に示す
1階にはEXCELSIOR CAFFEが入居するほか、レストランも入居。誰でも利用できる 旧本社2号館から移転したソニーサービスステーションも1階にある

 地下1階は330台が収容可能な駐車場(うち機械式が250台)。地下2階は機械室となっている。

車寄せおよび駐車場への入り口部分 車寄せの入り口。奥が地下駐車場入口となる

●ガラス張り、斜めの柱がSony Cityの特徴

 Sony Cityのインフラを見てみよう。

 外観を見てもわかるように、ビル全体がガラスで覆われた透明度の高いデザインとなっている。

 ガラスを通じて入り込んだ光が、ビルの奥にまで到達し、明るい社内の演出を可能としている。

オフィス内のエレベーター エレベータ内部はガラス張り。ボタンも斬新なデザインを採用
エレベータの外側はガラス。これによって、オフィス内を明るくしている 左のガラスの向こう側がオフィス。外部は一切立ち入りを禁止している オフィスのイメージ図。机や椅子は、ユニバーサルプランとして自由に組み合わせが可能

 そして、3フロアを1つのブロックとして、斜めの柱同士を組み合わせるデザインとした「ブレース構造」が、Sony Cityの特徴だ。柱で描かれるデザインは、まさにトランプのダイヤ型ともいえ、これがビル全体の強度を高めている。

ソニー 総務センター ファシリティ部シニアプロジェクトプランニングマネジャーの下谷高司氏

 「最近では、建物の上物を柔らかい構造とし、地震の揺れを吸収する作り方が多いが、Sony Cityは、ビルの上物自体をブレース構造による堅牢な作りとし、地下の免震ゴム(積層ゴム)や免震ダンパーによって揺れを吸収する構造とした。地震時における水平力を約80%低減することができる」(ソニー 総務センター ファシリティ部シニアプロジェクトプランニングマネジャーの下谷高司氏)としている。

 積層ゴムは、直径1.8m程度、厚さ約70cmの円柱型で、ゴムと鉄とが何層にも積み重なったものだ。これが地下に200個埋め込まれている。

 また、免震ダンパーは、直径約80cmの太さを持った柱状のダンパーで、これが40個埋め込まれている。この2つの組み合わせによって、免震構造を実現しているのである。

 一方、ブレース構造の柱は、3フロア分の実物大のモックアップを作って検証。ブレースのピッチや幅、奥行き、色などは、強度とともに、デザインの面からも考慮されたものとなっている。

 元クリエイティブセンター室長が、新芝浦開発プロジェクトの室長を務めていたことも、こうしたデザイン面へのこだわりに表れている。

斜めに柱を組むブレース構造。免震構造としている ブレース構造の柱を建物内部から見る
ブレース構造の1階の柱部分。デザイン性も考慮している 東西15m間隔、南北25m間隔で建物を支える柱。これは東西15mの間隔 ガラス部分は二重構造。手前のガラスにブラインドがあり、輻射熱などを遮る

●環境に配慮した省エネビル

 電源の供給体制については、特高変圧器として12,500KVAを2台設置。さらに、非常用発電機2台のほか、ソニーグループとしては初めて採用したNAS電池も用意している。

 NAS電池は、夜間に電力を貯め、昼間のピーク時に使用することで、ピーク時の電力を抑えることができる。結果、契約電力量を抑えることが可能になり、電力の効率利用とともに、コストダウンにもつながる。

 インフラのバックアップ体制としては、8,000人規模の社員が72時間残留しても可能な電源、給排水備蓄品を確保。また、室内照明の自動制御やエスカレータの自動感知運転、CO2センサー採用による空調システムなどによって、電気の効率的な利用が可能となっている。

目の前に広がる芝浦水再生センター。ここの再生水をビルの熱処理に利用している

 東京都との協力によって、芝浦水再生センターの再生水の温度が一定化していることを利用して、ビルの冷房施設から出る熱をこれで冷却。一般的にビルの屋上に設置されるクーリングタワーなどを、バックアップ施設に限定できるなどの効率化を実現した。

 さらに、ビルの建設時点では、大量のコンクリートを使用することから、敷地内に大規模な生コンプラントを設置。コンクリート品質を高めるとともに、トラックの搬送を無くすことで、排ガスを削減するといった効果も実現した。そのほか、搬入物梱包の簡素化、端材の有効利用、建設廃材の収集分別の徹底なども行なっており、「建設時を含む35年間のCO2排出量は、一般的なビルに比べて約40%を削減、省エネ型ビルと呼ばれる建物に比べても約7%の削減が可能になる」としている。

 また、セキュリティに関しては、ITVカメラやセキュリティゲート、車両管制システムなどの最新の設備を導入している。社員は、FeliCaを採用した社員カードによって、セキュリティゲートおよびオフィスエリアへの入退出管理が行なわれている。

 社内のオフィスフロアでは、SWingと呼ばれる無線LANシステムが導入されており、社員はどこにいても、無線LANでPC接続が可能。ただし、社外からの来客が立ち入る1〜3階、地下部分ではSWingは利用できない。

オフィスエリアに入るためにはゲートを通過する。ゲートのデザインもソニーオリジナル。Visitorカードでも入ることができる

●都市を前提に考えた新本社

 「久しぶりだねぇ」――。

 Sony Cityでは、こんな挨拶が頻繁に交わされているという。

 それはなぜか。実は、ここにSony Cityならではの工夫があったのだ。

 ソニー 総務センター ファシリティ部シニアプロジェクトプランニングマネジャーの下谷高司氏は、「新本社の設計にあたっては、最初から都市というメタファを考えていた。広い範囲でコミュニケーションを図ることができ、仕事という観点からの生活を営んでいくことができる街を構成することが基本的な考え方だった」と語る。

 16万平方mという広大なビルを、社員同士がいかにコミュニケーションを図りやすいようにするかという点に力を注いだことは、そのままSony Cityの語源にもつながっている。

 フロアの中央部分を南北に走る導線を「ブロードウェイ」と呼び、東西に「ストリート」と呼ぶ導線を用意することで人が動きやすい環境を作ったほか、机スペースに関しては、事務系社員で10平方m、技術系社員で12〜15平方mという差はあるものの、基本的には黒いカーペットと白い机という同じものを採用。それを用途にあわせて、4つのモジュールから選択する。低いパーティションで仕切るなど、周りとのコミュニケーションを取りやすくしたのも特徴だ。

 旧本社などではフロア構造が複雑だったため、席が近くの人に対してもメールでやりとりすることが多かったというが、新本社ビルでは直接、フェイス・トゥ・フェイスでコミュニケーションをとるケースが増えたという。

 さらに、オフィスフロアごとに、「Functional area」、「Touch down」といった簡単な打ち合わせや会議を行なえる場所を用意。また、コピー、文具、メールボックスなどを1カ所に集め、効率的なビジネス環境の実現とともに、そこでも社員のコミュニケーションを図れるようにした。

 そして、Sony Cityで特筆できるのが、エスカレータの採用だ。商業施設ならばまだしも、オフィス内にエスカレータというのは珍しい。Sony Cityでは、オフィスフロアの北側部分に19階までつながるエスカレータを設置。上下3フロア程度の移動には、このエスカレータを活用してもらうようにした。

 「複数のフロアにまたがる事業部門が多く、上下の移動を迅速に行なえるようにした。これによって、社員のコミュニケーションがより円滑になったはず」。

 今回の取材では、午後3時過ぎの時間帯に、エスカレータの近辺を通りかかった。使用していないと停止する形になるのだが、上下方向ともにエスカレータは稼働していた。言い換えれば、それだけ利用されていることの証ともいえよう。

 また、エスカレータの近くには、「Local Core」と呼ばれるコミュニケーションスペースを用意したのも、Sony Cityの新たな試みだ。

 「気分転換や、テイクアウトの食事をするスペースとして、また、ワンミニッツコミュニケーションの場、組織を越えた交流促進の場としても利用できるスペースとして用意した」という。

 Local Coreは、3種類のコンセプトが用意されている。出会うこと、刺激しあうこと、議論することなどを目的とした「Collaboration」、食べる、飲む、元気になるといったことをテーマとした「Refection」、くつろぐ、まどろむ、息を抜くといったことを狙った「Relaxation」である。

 3つのタイプを3フロアごとに用意。自らのフロアと、エスカレータを使って、上下に1フロア移動すれば、いずれかのコンセプトのLocal Coreを利用することができる。

 Local Coreは、Sony City独自の仕掛けとして、社員の交流の場、ミーティングの場、そして、気分転換の場として積極的に活用されているようだ。

19階までつながっているエスカレータ。フロア間の移動を楽にしている Local Coreは、3種類。これが「Collaboration」 これは「Relaxation」
そしてこれが「Refection」 3つのタイプを3フロアごとに用意している

 こうした施設があることで、Sony Cityの中を、社員が歩いている姿をあちこちでみかけることができる。それがコミュニケーションをより円滑なものにしている。下谷氏も、「新本社に移転してきて、15年ぶりにあった社員もいる」と笑う。また、取材中も、通りかかった社員が気軽に下谷氏に話しかけ、その場で情報交換をする姿も見られた。

 「久しぶり」という言葉が、Sony Cityの中で頻繁に聞かれるのも、こうしたSony Cityのファシリティがあるからこそだ。あと数カ月もすれば、社員同士が「久しぶり」という言葉を交わすこともなくなるだろう。それはコミュニケーションが日常化していくからだ。

 こうやって、ソニーのサイロは崩れていくのかもしれない。

 Sony Cityは、新たなソニーの姿を実現する最前線基地ともいえる。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□関連記事
【2006年7月28日】【やじうま】ソニー新本社、まもなく完成か?
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0728/yajiuma.htm

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(2007年4月24日)

[Text by 大河原克行]


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