AMDは12月5日、65nm SOIプロセスを採用した「Athlon 64 X2」シリーズを4モデル発表した。「Brisbane」のコードネームを与えられていたCPUで、消費電力の少なさが注目されている。今回は、この65nm版Athlon 64 X2 5000+を検証してみたい。 ●65nmプロセスを採用したRev.Gコア 12月5日に発表された65nm SOIプロセスのAthlon 64 X2は表1に示した通り。これまで、90nmプロセスのDDR2対応版、つまりSocket AM2のAthlon 64シリーズはRev.Fと呼ばれるコアを使用してきたが、今回の65nmプロセスはRev.Gが採用される。 基本的なアーキテクチャは変わらないものの、 1. プロセスシュリンクによるダイサイズの小型化 といった点が変更されている。
【表1】65nm SOIプロセスのAthlon 64 X2一覧
1つめの点であるが、表を見ても分かる通り、基本的にはRev.Fと同じなのでトランジスタ数は変わらないが、プロセスルールを縮小したことでダイサイズが小さくなっている。
2つめの点だが、今回登場した製品はいずれもTDPが65Wとなっている。また、Rev.Fより動作電圧がより下がっているほか、より高い周辺温度を許容できるようになっており、電力、発熱の面で65nmプロセスの効果が発揮されていることになる。 3つめの点は、2.5/2.3/2.1GHzという、これまでのAthlon 64シリーズにはなかったクロックが追加されている。つまり、これまでのAthlon 64シリーズは200MHzに定められているベースクロックに整数倍を掛けたクロックで動作していたが、これに0.5倍単位の設定が用意され、100MHz単位でのクロック設定が可能になっている。 ここで今後注意を要するのが、モデルナンバーとスペックが異なる製品が混在する点だ。例えば、Rev.FまでのAthlon 64 X2 4800+は2.4GHz/L2 1MB×2であったのに対し、Rev.Gの4800+は2.5GHz/L2 512KB×2となる。つまり、L2キャッシュを減らす代わりに、クロックを100MHz引き上げたことになる。 おそらく、L2キャッシュを512KBに統一する一方で、従来と同程度のラインナップを揃えるために100MHz単位のクロック設定を実現することが不可欠だったのだろう。これにより、65nm版だけを見れば“モデルナンバー=クロックの違い”というはっきりした構図になるので、従来より分かりやすさは増すだろう。 今回テストするのはRev.FとRev.GのAthlon 64 X2 5000+で、Rev.GのOPNは「ADA5000IAA5DD」となっており、末尾2桁“DD”がリビジョンを示している(写真1)。 CPU-Zの結果は画面1、2の通り。Rev.FとRev.Gの最大クロック時における両製品の動作電圧は、約0.03Vの差がついている。ただし、Cool'n'Quiet(CnQ)の最低ステータス時については、動作の挙動に違いは見られない(画面3、4)。
●パフォーマンスは僅差。消費電力はピーク時に効果を発揮 それでは、パフォーマンスと消費電力の検証を行ないたい。用意した環境は表2の通り。今回は主に65nmプロセスと90nmプロセスのAthlon 64 X2 5000+同士の違いに焦点を当てて比較するが、本連載で取り上げるAthlon 64 X2としては最上位のモデルにもなるので、Core 2 Duo E6700も比較対象に加えている。
【表2】テスト環境
それでは、まずはパフォーマンスのチェックを行なう。この点においては、同じスペックを持つ65nmプロセス、90nmプロセスのAthlon 64 X2 5000+が同程度の性能であるかをチェックするのが、今回の大きな目的となる。そのため、少しテストを絞って紹介することにしたい。 まずは、「Sandra XI」の「Proccessor Arithmetic Benchmark」と「Processor Multi-Media Benchmark」である(グラフ1)。この結果を見ると、演算性能は65/90nmプロセスに違いがなく、当然ともいえる結果が出ている。
しかし、「PCMark05」のCPUおよびメモリのOverallスコアでは、メモリ性能に明らかな差がついている(グラフ2)。そこでPCMark05 Memory Testの詳細結果を抜き出してみると、L1キャッシュの性能には差がなく、L2キャッシュと実メモリの性能で差が発生していることが分かる(表3)。どうやらメモリアクセスの性能に差があるようだ。
【表3】PCMark05 Memory Testの結果
ここからはアプリケーションを利用したベンチマークの結果である。テストは「SYSmark 2004 Second Edition」(グラフ3)、「Winstone 2004」(グラフ4)、「CineBench 9.5」(グラフ5)、「動画エンコード」(グラフ6)である。 結果は、65nmプロセスが若干ながら常に低いスコアになっている。先のSandra XIとPCMark05の結果からも分かる通り、CPUの演算性能には差がないが、やはりメモリ性能が結果に反映されているわけだ。だが、その差は小さく、実際の使用状況においては、大きな差を感じるほどではないだろう。
続いては3Dベンチマークである。テストは「3DMark06 CPU Test」(グラフ7)、「3DMark06」(グラフ8)、「3DMark05」(グラフ9)、「DOOM3」(グラフ10)、「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ11)である。 結果を見ると、メモリ性能分90nmプロセスが良好な結果である。ただ、Splinter Cell Chaos Theoryのみ、65nmプロセス版の方が良い結果を見せるという不思議な結果を出している。誤差と呼ぶには大きすぎる差であり、原因は見えてこないのだが、こうした性能差が出ることもあるようだ。 Core 2 Duo E6700との性能差については、一般アプリケーション、3D問わず、Core 2 Duo E6700が良好な結果を見せる。 なお、Athlon 64 X2シリーズは、最上位としてAthlon 64 X2 5600+が登場予定だ。こちらは、12月12日に価格表に追加されたもので、90nm SOIプロセスを用いたRev.Fの製品である。米国で示された価格は505ドルとなっており、おそらく国内における価格帯もCore 2 Duo E6700を意識した価格設定となるだろう。メインストリームおけるパフォーマンスの競争は、こちらで行なわれることになる。
最後に消費電力の検証である(グラフ12)。ここでは、Athlon 64 X2両製品のCnQ、Core 2 Duo E6700のEnhanced SpeedStep Technology(EIST)を有効にした場合でもテストを行なった。 65nmプロセスと90nmプロセスの違いを見ると、65nmは常に消費電力の抑制効果が出ており、高負荷時の方が効果が高い。ただし、先に示したCPU-Zの結果にある通り、CnQの最小ステータス状態では両製品の動作電圧に差はなく、CnQ有効時のアイドル時は差が出ない。 ただ、Core 2 Duo E6700の結果と比較すると、65nmプロセスで抑えられた消費電力も霞んでしまう。EISTの効果はほとんど見られないが(C1Eステートは無効に設定)、その有効/無効に関わらず、負荷がかかった状態では消費電力に大きな差がついている。
その差はおよそ20~30W。マザーボードの差があるのでこの値がCPU単体の消費電力差とはいえないものの、CPU単体でもCore 2 Duo E6700の方が低い消費電力で動作していることは間違いないだろう。つまり、パフォーマンス差だけでなく、ワット当たりのパフォーマンスの面でも、現状ではCore 2 Duo E6700に分があることになる。 ●65nm製品のラインナップ増強に期待 65nmプロセス版のAthlon 64 X2 5000+は、モデルナンバーどおり、パフォーマンスの面では、90nmプロセス版のAthlon 64 X2 5000+と大差ない。一方で、消費電力は10~20W程度は低下しており、素直にプロセスシュリンクの恩恵を受けられると考えてよさそうである。 パフォーマンスや消費電力の面で、Core 2 Duo E6700との差は大きい印象を受けるものの、この新プロセス、新リビジョンの登場によって、Athlon 64 X2が新しいスタートを切ったことには間違いない。 ただ、このRev.G採用製品が現在4モデルしかないのが残念な点だ。例えば、先にも触れたAthlon 64 X2 5600+やAthlon 64 FXシリーズなどは、パフォーマンスが高いぶん消費電力も大きくなりがちなので、これらの製品への採用を望む人も多いだろう。またTDP 35W版へ採用して、さらに消費電力を下げて欲しいと思う人もいるかも知れない。 製品出荷が始まったばかりのプロセスではあるものの、この65nmプロセスの恩恵を多くのユーザーが享受できるよう、ラインナップの早急な拡充を期待したい。 □関連記事 (2006年12月27日) [Text by 多和田新也]
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