多和田新也のニューアイテム診断室

AMDが投入するクアッドコア環境「Quad FX」




 6月にAMDが開催したアナリストミーティングにおいて紹介された、同社の新プラットフォーム「4x4」。この製品が、「Quad FX」の名称でついに登場する。2個のデュアルコアCPUを搭載することで、クアッドコア相当の環境が実現できるプラットフォームだ。この評価キットを利用したベンチマーク結果をお届けする。

●チップセットはnForce 680a SLIを採用

 まずは、簡単に「Quad FX」の仕組みやラインナップについて紹介しておきたい。Quad FXを一言で表してしまえば、2個のデュアルコアCPUを使ったクアッドコアシステムといえる。

 その開発コードである「4x4(フォー・バイ・フォー)」は、デュアルコアCPUのデュアルプロセッサ構成による4個のCPUコアと、デュアルGPUビデオカード2枚による4個のGPUを利用することにちなんだものだった。だが、最終的には4 GPUを搭載しておらずとも、規定のCPUとチップセットを利用していれば、Quad FXを名乗れることになったようだ。

 そのCPUは表1の通り。いずれも2個セットで販売されるので、まず1個を買って、後々アップグレードといった使い方はできない。とはいっても、最上位モデルのAthlon 64 FX-74×2でも999ドルと、Core 2 Extreme QX6700を強く意識した価格になっており、お買い得感はある。

【表1】Athlon 64 FX-70シリーズのラインナップ
モデルナンバー FX-74 FX-72 FX-70
動作クロック 3GHz 2.8GHz 2.6GHz
L1データキャッシュ 64KB×2
L2キャッシュ 1MB×2
動作電圧 1.35~1.40V
T.case(Max) 56度 55~63度
TDP 125W
価格(2個セット) 999ドル 799ドル 599ドル

 このQuad FX向けのAthlon 64 FXシリーズは、従来のAthlon 64 FXで採用されていたSocket AM2ではなく、Opteronで採用されている1207ピンのLGAタイプのソケットであるSocket Fのパッケージとなる(写真1)。ちなみに、CPU-Zで見ると、Opteron 8130 EEというプロセッサ名で認識される(画面1)。

【写真1】Quad FX用CPUの最上位モデルとなるAthlon 64 FX-74。OPNは「ADAFX74GAA6DI」となっている 【画面1】CPU-Z 1.37では本CPUを正しく認識しなかった。3GHzのOpteronということで、1世代前のEgyptコアを認識してしまったのだろう

 こうした結果は出ているものの、Quad FX用のAthlon 64 FXの中身はOpteronそのものではない。というのも、対応するメモリが異なるからだ。Opteronに内蔵されたメモリコントローラはRegistered DIMMに対応したものであるのに対し、Quad FX用のAthlon 64 FXは従来通りUnbuffered DIMMに対応する。コンシューマ向けCPUとしてのニーズを満たすため、変更が加えられているわけだ。サポートするメモリは従来同様、DDR2-800/667/533/400となる。

 なぜOpteronと同じソケットへの変更が必要になったかといえば、それはHyperTransport Linkのためだ。図1にnForce 680a SLIのブロックダイヤグラムを示した。ちょうど今回の評価キットの構成図ともなるのだが、これを見ても分かる通り、Quad FX用のCPUはHyperTransport Linkが3本必要になるのだ。これまでのSocket AM2向けのAthlon 64 FXはHyperTransport Linkを1本しか持っていない。OpteronをベースにUnbuffered DIMMに対応させることで、コンシューマ向けの“クアッドコア”CPUができあがったことになる。

【図1】nForce 680a SLIのブロックダイヤグラム。2個のMCPが1つのCPUへHT Linkで接続され、CPU間もHT Linkでダイレクトに接続される

 そのチップセットであるnForce 680a SLIであるが、これはnForce 570 SLIと同等スペックのMCP×2個をCPUに接続すると思えば分かりやすい。よって、各MCPがPCI Express x16/x8、シリアルATA II×6、Gigabit Ethernet×2、USB 2.0×10を持っており、マザーボードとしては、その倍の数のインターフェイスを利用できる。

 評価キットで利用されているのは、ASUSTeKの「L1N64-SLI WS」である(写真2)。NVIDIAの説明会では、同じくASUSTeKの「L1N64-SLI Deluxe」という製品が紹介されたのだが、PCBの色以外、レイアウトはほぼ同じのようである(写真3)。図2にL1N64-SLI Deluxeのレイアウトを示したが、PCI Express x16スロットを4本備え、うち青色のスロット×2本がx16レーンを持つスロットとなる。

【写真2】評価キットの内部。2つのCPUソケットに挟まれるようにメモリスロットを備える。各CPUから2チャネルのメモリインターフェイスが伸びる。使用されているASUSTeK「L1N64-SLI WS」では、1スロット最大1GBまでのモジュールを装着できるので最高4GBとなる 【写真3】こちらはNVIDIAの説明会で展示された「L1N64-SLI Deluxe」。NVIDIAの説明では、最上部の青色スロット(x16)と、1スロット空いたその下の黒色スロット(x8)を利用してSLIを構築することが推奨されているが、今回の評価キットでは、2枚のGeForce 7900 GTXが双方とも青色のスロットに装着された状態だった

 ちなみに、図2からも分かる通り、NVIDIAの説明会では1つのチップから伸びるPCI Express x16/x8の各スロットにビデオカードを装着してSLIを構築することを推奨していた。しかし、今回の評価キットでは、GeForce 7900 GTX×2が各チップから伸びるPCI Express x16レーンのスロットに装着されていた。

【図2】L1N64-SLI Deluxeのレイアウト

 この場合、MCP同士を接続するインターフェイスがないのでCPUを経由することになってしまい、パフォーマンスが落ちるとNVIDIAでは説明しており、ちょっと気になる部分ではある。もちろん、これでもSLIは有効にでき、それなりのパフォーマンスは出ているように見受けられるが、今回の評価キットは構成の変更を行なうことを許されていないため、NVIDIAが推奨する接続方式との性能差は未確認である。

 ソケットが変更されたことで気になるのがCPUクーラーであるが、これは従来のSocket AM2用クーラーが使える(写真4)。とはいっても、最上位のAthlon 64 FX-74はTDPが125Wと高いうえ、T.Caseが55度と低く設定されている。2個のCPUを冷やさなければならないことを考えても、冷却に対する要求は高い。例えば、今回の評価キットで利用されていたThermaltake製ケースでは、2個のCPUクーラーに直結できるようなパッシブダクトを備えていたが、こうした工夫も必要になるのだろう(写真5)。

【写真4】使用されていたクーラーは、Athlon 64 FX-62の評価キットでも使われているAVC製のもの 【写真5】評価キットにはThermaltake製ケースが使われており、デュアルプロセッサで利用可能なパッシブダクトを備えている

●AMD、Intelのクアッドコア環境を比較

 それでは、ベンチマークテストを行なってみたい。用意した環境は表2の通りで、今回はAMD、Intel両社が投入したコンシューマ向けのクアッドコア環境の比較という図式となる。なお、メモリパラメータが若干速めの設定になっているが、これは変更が認められていないQuad FXの評価キットがこのように設定されており、Core 2 Extreme環境もこの設定に揃えたためだ。

【表2】テスト環境
CPU Quad FX(Athlon 64 FX-74×2) Core 2 Extreme QX6700
チップセット NVIDIA nForce 680a SLI NVIDIA nForce 680i SLI
マザーボード ASUSTeK L1N64-SLI WS eVGA 122-CK-NF68
メモリ PC6400 DDR2 SDRAM 1GB×4(4-4-4-12) PC6400 DDR2 SDRAM 1GB×2(4-4-4-12)
HDD WesternDigital Raptor(WD1500ADFD)×2(RAID 0)
OS Windows XP Professional(ServicePack 2/DirectX 9.0c)

 また、メモリ容量が異なっているが、これは同容量のメモリを用意できなかったため。使用しているメモリはCorsairの「CM2X1024-8500C5D」で、Quad FX環境はこれを4枚、Core 2 Extreme環境は2枚を使用している(写真6)。

 ただ、Quad FXの評価キットは、BIOS上でメモリクロックを800MHzに設定しても、実際には低いクロックで動作してしまうという症状が出た(画面2)。原因は不明であるが、CPUの動作クロックからメモリクロックを正しく割り出せていないように見受けられる。ひょっとするとBIOSがまだしっかり3GHzの製品をサポートできていないのかも知れない。

【写真6】メモリは両環境ともCorsairの「CM2X1024-8500C5D」を使用 【画面2】Quad FX環境ではBIOSで800MHz(400MHz DDR)動作が指定されているにも関わらず、377MHz DDRでの動作となってしまっている

 では、まずはCPU性能のチェックをしたい。テストは「Sandra 2007 SP1」の「Processor Arithmetic Benchmark」と「Processor Multi-Media Benchmark」(グラフ1)、「PCMark05」の「CPU Test」である(グラフ2、3)。

 Sandraの結果を見ると、DhrystoneやWhetstoneのように、ごく単純な演算に関しては両者にそれほど大きな差は見られない。整数演算でCore 2 Extreme QX6700、浮動小数演算でQuad FXが若干良いスコアは出ているものの差は小さい。一方、Multi-Mediaテストの方ではCore 2 Extreme QX6700が圧倒。浮動少数演算では差が詰まっているが、はっきりした差がついている。

 PCMark05もそれほど大きな差はつかなかったが、Quad FXはあと一歩のところでCore 2 Extreme QX6700を捕らえ切れていない。この2つのベンチマークテストを見る限り、CPUのポテンシャルとしてはCore 2 Extreme QX6700に分があるように感じられる。

【グラフ1】Sandra 2007 SP1(Processor Arithmetic/Multi-Media Benchmark)
【グラフ2】PCMark05 Build 1.1.0(CPU Test - シングルタスク)
【グラフ3】PCMark05 Build 1.1.0(CPU Test - マルチタスク)

 続いてメモリ性能だ。テストは、Sandra 2007 SP1の「Cache & MemoryBenchmark」(グラフ4)と、「EVEREST Ultimate Edition 2006 Version3.5」に含まれるCache & Memory Benchmarkのレイテンシテストである(グラフ5)。

 L1キャッシュの速度は相変わらずCore 2のアーキテクチャの良さがよく出ている。L2キャッシュについては、1コア分のL2キャッシュが少ないQuad FXは、どうしても少ない容量の転送で速度の低下が始まってしまうわけだが、256KBのテストで見ると、両者にそれほど差はないことが分かる。つまり、ピーク性能は似通っていると考えて良さそうに思う。ただ、CPUのクロックに同期した速度で動作していることを考えると、Quad FXのL2キャッシュはもう少し性能を伸ばしても良い気はする。

 メインメモリについては、ちょっと不思議な点があり、Core 2 Extreme QX6700のスコアが以前の記事と比べて大幅にスコアを下げているのだ。チップセットもメモリモジュールも異なる環境ではあるのだが、ちょっと差が大きすぎるようにも思え不可解な結果になっている。

 とはいっても、それをふまえてもQuad FXのメモリ転送速度の良さは褒めるに値するスコアだ。先述の通り、メモリクロックが遅い状況でもこの性能差を出せているあたり、K8シリーズのメモリコントローラのアーキテクチャについては、デュアルプロセッサとなった今回の環境でも良さが発揮されているといえるだろう。

【グラフ4】Sandra 2007 SP1(Cache & Memory Benchmark)
【グラフ5】EVEREST(Cache & Memory Benchmark)

 次はアプリケーション性能である。テストは「SYSmark 2004 Second Edition」(グラフ6)、「Winstone 2004」(グラフ7)、「CineBench 9.5」(グラフ8)、「動画エンコードテスト」(グラフ9)だ。ここは程度に差はあるが、Core 2 Extreme QX6700が安定した強さを見せている。

 ただ、SYSmark 2004 Second Editionについては、Quad FXのスコアは参考程度に捉えている。というのも、以前にテストしたAthlon 64 FX-62より低いスコアが目立つからである。ここまでのCore 2 Extreme QX6700との相対的なスコアや、RAID 0を組んだHDDの性能を加味すると、ここまで低いスコアに留まるとは思えないからだ。3回回しての結果なので、今回の環境ではこのスコアになるのは間違いないのだが、まだまだQuad FX環境の性能は十分に引き出させる状況にないように感じている。

 このSYSmarkを除けば、性能は拮抗しているといっていいのではないだろうか。少なくとも、Core 2の登場によって引き離された性能は一気に詰まってきたし、性能の引き出しの面でブラッシュアップが進めば、ひょっとすると逆転する可能性も秘めている。今回はCore 2 Extreme QX6700よりも低いスコアが目立ってしまうが、期待の持てる結果なのではないだろうか。

【グラフ6】SYSmark 2004 Second Edition
【グラフ7】Winstone 2004
【グラフ8】CineBench 9.5
【グラフ9】エンコードテスト

 次は3D性能のチェックである。テストは「3DMark06 CPU Test」(グラフ10)、「3DMark06」(グラフ11)、「3DMark05」(グラフ12)、「3DMark03」(グラフ13)、「DOOM3」(グラフ14)、「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ15)である。

 テストや条件によって一長一短を見せたスコアになっており、ちょっと判断の難しい結果になっているが、Core 2に一気に引き離されたAthlon 64 FXの3D性能が、完全に拮抗できるところまで戻ったといっていい。

 3DMark06のCPU TestはQuad FXの4つのコアが活きた結果であろうが、そのほかは動作クロックが3GHzへ引き上げられたという面も大きいわけで、この動作クロックのシングルプロセッサ向け製品も期待したいところだ。

【グラフ10】3DMark06 Buid 1.0.2(CPU Test)
【グラフ11】3DMark06 Buid 1.0.2
【グラフ12】3DMark05 Build 1.2.0
【グラフ13】3DMark03 Build 3.6.0
【グラフ14】DOOM3
【グラフ15】Splinter Cell Chaos Theory

 最後に消費電力である(グラフ16)。これは、Quad FXがコンプリートPCとしての形態で届いたこともあって、Core 2 Extreme QX6700と電源ユニットの統一が図れていないという根本的な部分で環境の相違がある。また、メモリモジュールの枚数や、使用している光学ドライブやケースファンの数が異なるなど、不一致の多い条件なので、参考程度の数値となる。

 とはいっても、そうして諸条件の違い云々以上に、消費電力に大きな差がついている。これはシングルプロセッサ、デュアルプロセッサという違いが大きいのではないだろうか。いち早くクアッドコアのシングルCPUを投入できたIntelがアドバンテージを握った格好といえる。

【グラフ16】消費電力

●現時点では不満も多いが将来性には大きな期待

 以上の通り結果を見てくると、パフォーマンス、消費電力の両面でCore 2 Extreme QX6700に劣っており、残念な印象が残る結果となってしまった。また、デュアルプロセッサの冷却周りなど導入の敷居は高く、かなりニッチなユーザー向けの製品となりそうではある。

 ただ、文中でも触れた通り、今回の評価キットがQuad FXの性能を完全に引き出しているとは思えないのも事実だ。まだまだBIOSやチップセットドライバなどにチューニングの余地はあるだろう。そうしたとき、今回のCore 2 Extreme QX6700との拮抗した差が覆る可能性は多いにあると思っている。

 また、“8コア”がもっとも近いところにあるのも期待できる点だ。AMDも2007年には「Barcelona」のコードネームで呼ばれるクアッドコアの投入を予定しているが、このBarcelonaはQuad FXシステムにも搭載が可能となる予定で、そのときは計8コアの環境となるのだ。

 もちろん、今すぐに8コアの恩恵を感じられるコンシューマユーザーは限られると思うが、マルチコアの普及によって、より多コアの環境が活かされるアプリケーションが増えてくるだろう。そうしたとき、コンシューマ向けにも8コアを実現できるシステムが用意されていることはAMDの大きなアドバンテージとなる。

 正直なところ、今回のテスト結果だけ見れば導入を躊躇したくなるような要素のほうが多いと思う。だが、このQuad FXはコンシューマPCとしては久しく見ることができなかったデュアルプロセッサ環境として、未知の魅力を持っているように感じている。これから、AMDによって魅力がどんどん引き出されていくことを期待したい。

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【6月8日】AMD、テクノロジ戦略記者発表会を開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0608/amd.htm

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(2006年11月29日)

[Text by 多和田新也]


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