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メール2.0 〜 岐路に立つISPのメールサービス




 メール、特に、プライベートメールのやりとりは携帯電話で十分と思っているユーザーは多い。常に持ち歩ける携帯性とリアルタイムで着信し、受信できる便利さは、メールによるコミュニケーションを円滑なものにするための重要な要素だ。そうはいっても、PCで読み書きするメールには、それなりの便利さがある。企業はもちろん、個人でも完全に携帯電話メールに代替させられはしない。迷惑メール対策も着々と進む中で、これからISPが提供するメールサービスはどうなっていくのだろうか。

●無料メールサービスのテンポラリー性

 GmailやHotmail、Yahoo!メールなど、無料のメールサービスは数多くあるが、そのどれもがテンポラリーのイメージが強い。とはいえ、ISPが発行するメールアドレスは、あくまでも貸与されたものだ。ISPの変更などで無効になってしまうため、あえて、それは使わずに、無料のメールサービスを選ぶというユーザーもいるようだ。

 個人的には、これらの無料メールサービスを否定するわけではないが、そこを発信元とするメールを受け取った場合、個人的には、ちょっと懐疑的になる。SPAMやウィルスメールの心配をするわけではないのだが、躊躇するのは、そのメールへの返信だ。つまり、もらったメールに返信した場合、その返信内容を、通常のメールと同様の頻度で読んでもらえるのかどうかが心配になるのだ。

 もちろん、これらのメールサービスは、POP等、一般的なメール配信のプロトコルを使い、一般的なメールソフトで送受信できるので、まず、問題はないのかもしれないが、こちらとしては、相手がブラウザを使って読み書きしていて、その頻度があまり高くなかったとしたら、最悪の場合、返事がすぐに読まれない可能性があると判断してしまう。そういった心配をするユーザーが少なくないのだろう、これまた、これらのメールサービスでは、代理送信機能により、差出人メールアドレスを別のものに指定できたり、いわゆる“Reply-to”を指定し、返信が別のメールアドレスに配信されるように設定することができる。いろいろな意味で、使う側も使われる側もテンポラリーを意識しているわけだ。

●ドメインを無料で獲得できるOffice Live

 冒頭に挙げた3つのサービスは、あまりにも知名度が高く、誰もが無料のメールサービスであることを知っている。ちょっとした手間で、誰もがいくつでも取得できるため、オークションや掲示板、Blogへのコメント書き込みなどで使う、いわゆる捨てメールアドレスとして利用するケースも少なくないのではないだろうか。いずれにしても、これらのサービスの台頭は、世の中に、日常的に使われていないものを含め、かなり大量のメールアドレスを蔓延させたのは事実だ。

 ところが、Microsoftが先日βサービスを開始した「Office Live」は驚いたことに、メールアドレスではなく、ドメイン名を発行する。現在は、β期間中で、提供される3つのサービスはすべて無料だが、正規サービスになった時点でも、最下位のOffice Live Basicは無料での提供が継続され、ドメインの取得、1年ごとの契約更新に関して発生する費用はMicrosoftが負担するという。

 ドメインの種類は、現時点で、.com、.net、.orgの3種類だが、将来的には .jpドメインも対象となり、既存ドメインの移行などもサポートされるようになる。つまり、従来のメールサービスでメールアドレスを取得するのと同様の感覚で、個人であっても自分だけのドメインを取得し、自分の好きなメールアドレスを設定できるわけだ。基本的に、@の左側しか自由にならなかったメールサービスが、これからは右側も自由になる。この違いは大きい。

 ユーザーの負担はゼロだが、Microsoftはレジストラに対して料金を支払う。だから、れっきとした正規のドメインだ。whoisデータベースで検索すると、自分の名前が出てくるのは当然だし、登録時に記入した住所や電話番号まで表示される。ちなみに、JPRSが掌握するドメインはwhoisで調べても住所や電話番号は情報保護のために空欄となっている。

 これによって、メールをもらったときに、その差出人のメールアドレスをみても、それが無料のサービスによるものなのかどうかはわからなくなってしまう。厳密にいえば、whoisで調べればOffice Liveのものであることがわかるし、受け取ったメールのヘッダを見れば、現時点ではhotmailのドメインを経由しているので察しがつくが、そこまでして確認するのはまれだろう。

 MNPは事業者を変えても電話番号が変わらないモビリティを実現したが、メールアドレスは変わってしまう。ISPの提供するメールアドレスも同様のリスクを背負っている。でも、ドメインならそうはならない。そうするかどうかは本人の意志に依存するが、一生変わらないメールアドレスを取得できるということだ。近い将来は、そのアドレスをPCはもちろん、携帯でも使うというのが一般的になるだろう。

●メール2.0に向けて

 Office Liveのメール機能は、基本的にはブラウザを使って読み書きするもので、予定表や連絡先情報などと一緒にデータを管理することができる。これらをひっくるめて、2GBまでのメールを保存しておけるので、よほどのことがない限り、不便を感じることはなさそうだ。他社のサービスのように、このメールを、自分の好きなメールソフトを使ってPOPなどで受信することはできないが、無償で提供されるOutlook Connectorをアドオンとしてインストールすることで、Office Outlookを使って読み書きできる。Outlookには、オフラインフォルダ機能が装備されているので、複数台のPCにインストールした場合も、メールや予定をそれらのPCで完全に同期し、インターネットから切断された状態でも参照することができる。自宅用と携帯用で複数台のPCを使っているユーザーにはうれしい機能だ。

 ところが、ここが重要なのだが、Outlook Connectorは、無料のOffice Live Basicでは利用できず、使いたい場合は、有償のOffice Live EssentialsやOffice Live Premiumに移行する必要がある。すでに有償化されている米国のOffice Liveでは、Essentialsの価格が月額19.95ドルなので、そうなると、ちょっと割高感が出てきてしまう。

 Outlookの予定表は便利だし、PDAなどとの同期も容易なので、一部のユーザーには愛用されているが、肝心の別のPCとデータを同期させることは、スタンドアロンの環境では難しかった。そのためだけにExchange Serverを導入するというのも現実的ではない。でも、今回のOutlook Connectorを使ったOutlookとの連携機能は、個人、小規模法人用のExchange Serverホスティングだと思えば納得もできる。月額19.95ドルは、取得したドメインに対して50人分のアカウントを設定できる。日本でも同等の価格が設定されるして、家族や仲間、職場などで頭割りすれば、10人の場合でも一人あたり200円程度となるだろう。4人家族が世帯としてドメインを取得し、それぞれが自分のメールアドレスを取得することを考えれば納得もできるかもしれない。

 となると、現在の、ISPが提供しているメールサービスとは、いったい何なのかという疑問に辿りつく。ISPの基本的なサービスはインターネットにつなぐことだ。プロバイダーがゲートウェイとなり、料金を支払ったユーザーはトランスペアレントにインターネットに接続できることを保証する(現在は、あまりトランスペアレントでもなさそうだが……)。

 その接続アカウントに対する付加価値として、最初はメールアドレスが提供され、近年は、Webサイトやブログスペースなどのストレージが提供されていた。当初は接続する個人が契約して、その本人用のメールアドレスがオマケについてくる的な色合いが強かったが、ブロードバンドの普及とともに、ISPのアカウントは少なくとも個人ではなく世帯をインターネットにつなぐものとなりつつある。接続はブロードバンドルーターに任せることになり、世帯内のPCは、特にインターネット接続を意識する必要もない。

 もちろん、ISPも、そのことを承知の上で、家族用のメールアドレスの追加発行サービスなどを充実させてはきた。でも、今後は、それ以上の何かが付加価値として求められるようになるのではないだろうか。Office Liveのように、無償でドメインを提供するようなサービスが現れた以上、インターネットのメールサービスは、今、1つの岐路に立っている。いわば、電子メール2.0は、どのような体験をさせてくれるのだろう。

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【12月11日】マイクロソフト、「Office Live」のβサービスを開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1211/ms.htm

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(2006年12月15日)

[Reported by 山田祥平]


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