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むき出しキャッシュとしての匿名性と電子マネー




 道ばたに現金が落ちているのを見つけたら、行為としての善悪は別問題として、その現金は、誰でも使うことができる。現金に名前が書いてあるわけでもないし、支払いを受ける側も、その現金が誰のものであるかは言及せずに、支払う側のものであるという暗黙の了解が前提だ。

 電子マネーも同様だ。電子だからといって、特に現金と異なる振る舞いをするわけではない。その所有者匿名性は、わかりやすいけれど、テクノロジーを駆使しているとはいいがたい。

●電子マネーを入れる器

 インテル、ビットワレット、マイクロソフトがスマートデジタルライフ推進プロジェクトの一環として、シニア向けプラットフォームPCの開発に向けた実証実験を行なうという。実験は、埼玉県川口市のマンションに居住している約30世帯が対象で、FeliCaポートを内蔵したタッチパネル仕様のWindows Vista PCを配布し、専用のポータル画面を用意する。そして、Edyが使える各種サイトや地域情報などにナビゲートすることで、40~60代のシニアユーザーが、プリペイド型電子マネーサービスを積極的に使えるプラットフォームを模索、確立し、今後の、PC市場の活性化をもくろむというものだ。

 Edyサービスを運営するビットワレット株式会社執行役員常務、宮沢和正氏は、Edyがむき出しのキャッシュ同様の匿名性を持つことを認めた上で、その器の重要性を説く。

 つまり、電子マネーはむき出しの現金と同じだから、それを入れる器、すなわち、財布が重要になり、財布そのものをセキュリティで守ることを勧めるわけだ。現金をむき出しの状態で落としても、まず戻ってくることはないだろうし、たとえ、自分の現金らしきものが目の前にあったとしても、それが自分のものであることを証明する方法がない。紙幣1枚1枚に名前が書いてあるわけでもなけれえば、紙幣番号を控えてあるわけでもないからだ。でも、もし、財布に入った状態で、その財布の外見や中身をスラスラ言えて、あるいは、財布の中に自分であることを証明するものが入っていれば、自分のものだと主張はできる。それと同じことだ。

 プリペイド型の電子マネーサービスであるEdyは、クレジットカードを持たない、あるいは、持てない、また、使いたくない層も、街角で現金を使ってチャージすることには抵抗をもたれにくいことから、年配の層にも受け入れられやすいという。また、たとえ、クレジットカードからチャージして利用する場合も、カード番号などの個人情報を知らせる先が、ビットワレット一社だけですむ点も安心してもらえる要因になっているらしい。5つのサイトで電子的にショッピングしたときに、5サイトすべてにクレジットカード番号を伝えるのには不安を感じるが、Edyを使えば、各サイトにカード番号を伝える必要がなくなるからだ。

●匿名性がもたらす善と悪

 現在、Edyには最高5万円をチャージすることができる。旅行サイトで夫婦2人分のツアーを購入するには、とても足りない額だ。でも、落としたときの被害は最高でも5万円までとなるわけだ。サイフに常時20万円を入れて携帯する人はそんなに多くはないだろうが、5万円程度ならいるだろう。落としても、泣く泣くあきらめられる額として想定された額なのだろう。

 ただし、チャージとは、Edyという器に現金の価値を持つデータを格納することではあるが、有価データはあくまでもむき出しの状態で、本人の確認を求められることなく、暗証番号などを入れることなく、誰でも、そのEdyを使うことができてしまう。だから、厳密にはEdyは器ではないのだ。ちなみに、現時点で、Edyは紛失や盗難に遭っても利用を停止することはできない。

 そこがクレジットカードとの大きな違いだ。クレジットカードの場合は、使用するときに、暗証番号の入力が求められたり、サインが必要になる。一部の少額決済では、サインレスの場合もあるが、基本的には、本人であることを証明しなければならない。それに、盗難、紛失の場合は、カード会社に届け出ることで機能を停止することもできる。

 Edyは各Edyごとに一意となる16桁のEdy番号でそれぞれのEdyを区別する。この番号と特定の会員番号、クレジットカード番号などを紐付けることで、特定の本人へのポインタとすることはできるが、逆にいうと、そのEdyを持っている人が、紐付けされた会員であると見なされるだけで、夫のEdyを妻が使ってしまうこともできる。もちろん、拾った人が本人のふりをしてをれを使うこともできる。対面でのサービスでも、特に、本人確認があるわけではないので、なりすましは簡単だ。

 現在認知されている多くのEdyは、おサイフケータイだったり、会員証やクレジットカードとの一体型なので、特定本人との紐付けされているイメージが強いが、たとえば、コンビニのam/pmでは315円、コーヒーショップのプロントなら500円でEdyが買える。JR東日本のSuicaやJR西日本のICOCAが500円で買えるのと同じだ。この金額は、モノとしての価値ではなく、使い捨てを防止するためのデポジット的意味合いのものだ。

 これらのEdyを匿名で購入し、現金でチャージすれば、自分の個人情報を誰かにいっさい伝えることなく電子マネーを利用することができる。リスクは現金をむき出しの状態で持ち歩いているということだけだ。そういう意味では、Edyはサイフのようでいて、サイフではない。札束を止めるクリップ程度のものだと思っていた方がいい。

 だが、そのEdyをおサイフケータイのようなデバイスと一体化させることで、ある程度のセキュリティを確保することができる。つまり、電子マネー専用のサイフである。たとえば、ドコモのおサイフケータイでは、設定した電話番号から5回不在着信させることで、ICカード機能がロックされて使えなくなるようにできる。紛失したことに気がついた時点で、この作業をすれば、その時点以降の被害は食い止めることができるわけだ。

●電子のサイフの安全性と利便性

 ビットワレットの宮沢氏が言うように、電子マネーをより安全に使うためには、それを入れる器、電子のサイフが重要になるということだ。電子マネーだから落としても安心というのはまちがいで、電子マネーは、強固なセキュリティに守られたサイフの中に入れることができるから安心だというのが正しい。本物の現金は、どんなに頑丈なサイフにいれたとしても限度がある。まさか金庫を持ち歩くわけにもいかないだろうし、持ち歩いたとしても、金庫ごと盗まれたり、置き忘れたりしたらアウトだ。

 Edyに限らず、電子マネーそのものを使い始めるのはとても簡単だ。特に、会員カードやクレジットカードタイプ以外のものは、店頭で入手でき、すぐにその場で使い始めることができる。

 現在の問題点は、それを格納するサイフの側にある。会員カード一体型のEdyを複数枚持ち、それぞれの残高を管理しつつ、それぞれのショップで使い分けるのはたいへんだ。ひとつのEdy番号に、複数のサービスの会員番号を紐付け、さらには、クレジットカードや銀行口座からのオートチャージにも対応させ、それらをしっかりとセキュリティに守られたサイフに入れて持ち歩く。そうなれば便利だし、安全だということはわかっているし、たぶん、技術的にはすぐにでもできそうだ。でも、きっと、設定は、気が遠くなるほど煩雑なものになるだろう。その点をうまくクリアできれば、シニアに限らず、電子マネーは飛躍的に身近なものになるにちがいない。インフラやプラットフォームも重要だが、こうした面も、配慮してほしいものだ。

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(2006年12月8日)

[Reported by 山田祥平]


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