後藤弘茂のWeekly海外ニュース

なぜ米国のPS3発売は日本以上に過熱しているのか




●1週間遅れでスタートした米国でのPS3発売

PLAYSTATION 3

 激しい争奪戦となったPLAYSTATION 3(PS3)の日本でのローンチ(立ち上げ)。極度の供給不足の結果、メディアの報道もPS3購入の行列の話題で埋め尽くされた感がある。ソニー・コンピューターエンタテインメント(SCE)にとっては、せっかくの商機を品不足で逃すマイナスは大きいものの、話題づくりでは多少のプラスもあったと言えそうだ。

 しかし、SCEにとって、本当の戦いは日本でのローンチが終わったこれからとなる。18日(米国時間11月17日深夜0時)からPS3の発売が始まった米国市場こそが主戦場だからだ。そして、SCEにとっては米国市場の方が、日本市場より難しい戦場だろう。

 実際、SCEは、米国市場の初日出荷には、日本(8万台強)よりはるかに多い40万台(9月に発表した数字)を割いている。台数は、日米の流通事情の違いも反映しているが、PS3にとって、今回のローンチの主戦場が、日本ではなく米国であることも表している。PS3のローンチタイトル(同時発売)の種類も、日本はわずか5本なのに、米国はその3倍もの数がある。それもスポーツやFPS(First Person Shooting:一人称視点のシューティング)と、米国での売れ筋が並ぶ。もっとも、これは海外のデベロッパが開発力をつけたためでもあるが。

 今のところ、米国での期待、盛り上がりは順調に見える。米国でも各店舗に長蛇の列ができ、日本同様の大騒ぎとなっている。有力店の前には、発売待ちの人がテントを張って泊まり込む様子が、何日も前からニュースで流れていた。40万台でも、米国の市場の規模と盛り上がりと比較すると、かなり品薄感があるようだ。発売が始まった今日から明日にかけては、日本を上回る過熱報道となることは間違いない。

●PSPとDSの関係に似ているPS3とWiiの方向性

 ある意味で、日本はPS3にとってやりやすい市場だ。最も競合するXbox 360が1年前の立ち上げで、もたついてしまったため、今のところはライバル不在の市場となっているからだ。Xbox 360(とWindows)は、家庭のエンターテイメントセンターを狙うという点で、PS3と競合するが、日本ではしばらくはXbox 360の脅威は弱い。

 その反面、日本では冷え込んだゲームコンソール市場を再活性化させ、ユーザーを広げなければならないという課題がある。PS3にとっては、日本市場では、こちらの方が難題だろう。課題が大きいだけに、日本の方が難しいとも言えるかもしれない。

Wii

 その意味では日本での“競争”の相手は任天堂のWiiだ。しかし、PS3とWiiは、よく言われるような真正面から食い合う関係にあるわけではない。PS3とWiiが市場で占めるポジションとベクトルがずれているためだ。最初は、コアゲーマーが新ゲーム機として飛びつくためある程度競合するが、今後PS3とWiiがそれぞれの戦略を成功させて行くと、両マシンが惹きつける新ユーザーは明確に分化して行くはずだ。

 PS3とWiiの関係はちょうど、PSPとニンテンドーDSの関係に似ている。どちらも、従来の携帯ゲーム機ユーザーの枠を超えた新ユーザーの掘り起こしを狙ったからだ。DSは新ユーザーとして、これまでゲームをやらなかった高年齢層や女性層のノンゲーマーの掘り起こしに成功した。それに対して、PSPは21世紀のウォークマンとして、ガジェット好きのマルチメディアユーザー層から掘り起こそうとして来た。つまり、DSとPSPの競争は、1つの市場を食い合うというのではなく、どちらの戦略が新たなユーザーを掘り起こすことができるかという競争だった。

 日本だけを見るとDSの戦略だけが成功し、PSPはDSほどうまく行かなかったように見える。しかし、ワールドワイドでは必ずしもそうではなく、PSPも、欧米ではそれまで携帯ゲーム機を持たなかった大人の非ハードコアゲーマー層に浸透することに成功しつつある。PSPとDSは、それぞれが違った層を開拓しつつある。

 そして、PS3とWiiの関係も、おそらくそれと同じとなる。それぞれのアプローチで、より広いユーザー層を掘り起こせた方が勝ちとなる。そして、両マシンの狙うエリアは重複していないため、PS3とWiiの両プラットフォームがともに、それぞれ成功する可能性もある。もちろん、その逆の可能性もある。

 いずれにせよ、日本市場で必要なことは、既存ゲーマーを活性化させ、新しい人口をユーザーとして引き込んで市場を拡大することにある。PS3がそれに成功するかどうかは、しばらく経ってみないとわからない。

●重要性が増した海外のゲーム市場

 一方、海外市場の状況は、日本とはかなり異なっている。下降線を辿っていた日本と異なり、海外の市場はひたすら上り坂にあったからだ。そのため、海外ゲーム市場は、6年前とは重要性やポジショニングも異なる。

 かつて、ゲームコンソール市場は、まず日本ありきだった。日本は市場規模が大きく、熱烈なゲーマーが多かったため、ゲームコンソールビジネスでは、日本を押さえる必要があった。しかし、今では、過去数年ですっかり巨大市場になった米国と、急成長中のホットスポットであるヨーロッパという、2つのコンソールゲーム市場の比重が極めて大きくなっている。天秤が、海外市場にかなり傾きつつあり、この2市場を制することが必須となっている。

Xbox 360

 そして、SCEにとって現在の最大の問題は、その2市場でMicrosoftのXbox 360が、成功を収めつつあることだ。もし、海外でXbox 360の躍進をこのまま許してしまい、市場でクリティカルなパーセンテージを取られてしまうと、PS3の基本的な戦略が揺らいでしまう。ところが、SCEは、PS3の供給問題から、このうちヨーロッパ市場を、年末商戦で落とすという、かなり痛い選択をする羽目になった。だから、米国には余計力を入れているとも考えられる。

 米国/ヨーロッパが重要なのは、市場そのものだけでなく、ゲームデベロッパを取り込むという側面もあるからだ。欧米のゲームデベロッパが相対的に力をつけており、彼らを引き込むことが重要になりつつある。以前は、コンソールゲームは日本のデベロッパの独壇場で、MicrosoftもXboxでは日本のゲームデベロッパを取り込むことに注力した。だが、今では欧米のデベロッパの開発力が増して、力関係が変わりつつある。

 かつて、“洋ゲー”と言えば、大味でバリエーションが少なく、難度ばかり高くて、ゲーム性が低く、PCゲームがほとんどで、日本のユーザーに馴染めないというイメージだった。しかし、過去5〜6年で、海外デベロッパのゲームは質的に転換を遂げた。コンソールゲームにも海外デベロッパが大挙してなだれ込んでおり、GPUを活かしたグラフィックスだけでなく、ゲームの内容や完成度でも国内ベンダーに迫っている。

 海外デベロッパが力をつけてきた背景には、Xbox以降、PCゲームの世界とコンソールゲームの世界が融合したことがある。また、シェーダGPUやマルチスレッドなどPCの世界の技術への対応で、PCハードに慣れた海外デベロッパに一日の長があることも影響している。PC系の新しいグラフィックス技術が導入される今世代のPS3/Xbox 360では、さらにその傾向が顕著だ。

 こうした流れを象徴するのが、PS3のローンチタイトルだ。日本でSCEがファーストパーティタイトルとして出した2本のうち「RESISTANCE(レジスタンス) 人類没落の日」は、海外デベロッパの開発したFPSだ。米国でのローンチタイトルも、日本で同時発売されているもの以外は、全て海外デベロッパのもの。

 SCEは、重みを増した欧米市場で、先行するXbox 360を抜き去ろうと急ぐ。PS2同様に市場を掴み、海外デベロッパが主力タイトルをリリースするプラットフォームとしての地位を維持する必要がある。第1歩は、秒読みに入った米国でのローンチを成功させることだ。

●PS3にとっては価格との戦い

 PS3の今回の戦いは、“価格”との戦いでもある。PS3をより広汎なエンターテイメントプラットフォームとして育てるためには、“ゲーム機”につけられた価格の概念を破る必要があるからだ。そのために、当初は、敢えてゲーム機の常識を覆す価格をつけたという経緯があった。

 家電に限らず商品には“マジックプライス(Magic Price)”、つまり、普及し始める価格ポイントがある。例えば、日本だと7万円を切ればHDDレコーダだって爆発的に売れ始める。問題は、このマジックプライスが地域や商品によって大きく異なることだ。

 米国はもともとTVに接続する家電機器のマジックプライスが非常に低い。以前は299ドルがマジックプライスと言われていた。だから、PS3の499ドル(20GB版)〜599ドル(60GB版)は高いと言うのが、米国メディアの一般的な論調だ。日本の価格引き下げが伝えられた時、米国でもこの価格ではうまく行かないという報道がされていた。

 もっとも、このマジックプライスも非常に概念的で、じつは機器によって全く異なる。例えば、米国ではTVセット自体には相対的にカネをかける。TVを家電店に買いに行けば、少し前ならリアプロ、今は大画面液晶/プラズマで、2,000ドル台から4,000ドル超えまで。日本と比べてリビングルームが広いから、画面サイズが大きなTVを求め、その結果、日本と同じように高いTVが売れるという事情がある。

 ところが、TVに接続する家電となると途端に渋くなる。依然としてマジックプライスは299ドルで、HDDレコーダは廉価なTivo以外はほとんど売れていない。その結局、2,999ドルのTVに、149ドルのDVDプレーヤーを接続するようなな、日本から見ればアンバランスな状態が発生する。

 結局、国によってデバイスの価格の固定観念が違う。そして、TVに接続するゲームコンソールも、やはり他のTV接続機器と同列の価格観念に捕らわれている。その結果、米国ではPCだったら699ドルなら値頃感があるのに、ゲームコンソールは399ドルや499ドルだと非常に高く感じるという現象が起きている。

 また、価格には、前述の各地域のゲーム市場の状況も絡む。旧来のマジックプライスの常識から言えば、米国は499ドルで日本が59,800円でも、十分釣り合っていた。それが日本だけ仕切り直ししなければならなくなったのは、市場の勢いの違いがあるからだ。

 米国市場は、少なくとも昨年(2005年)までの勢いなら、伝統的なマジックプライスを超えても売れそうだ。実際、MicrosoftはXbox 360のHDD搭載版の価格を399.99ドルに設定した。Microsoftが価格改定をしなかったことは、この価格で十分に売れ続けていることを示している。SCEがさらに100ドルを載せても売れると踏んだ理由もよくわかる。それだけ、市場が熱くなり、ユーザーがハードにカネを払うようになっていると推測される。

 これは、ちょうどPS2が出る直前の頃の日本と似ている。ところが、今の、日本はゲームコンソールに対しては割と冷めている。そのため、値頃感のレベルが従来より明らかに下がっている。5万円以下に持ってきてちょうど米国とつりあう感じだ。

 いずれにせよ、SCEは、PS3の価格で、ゲーム機の価格から抜け出ようとしている。これも、1つのチャレンジだ。そして、そのチャレンジが成功するかどうかは、売り切れ必至のローンチではわからない。この価格で、はたして年度末までに製造する600万台が順調に売れるか、それが1つの試金石となりそうだ。つまり、この価格で普及できるのか、それとも普及にはもうワンランク価格を下げなくてはならないのか、そこがまだ見えていない。

●ゲーム機を圧迫するコスト

 本体価格は、ビジネスモデルとも密接に絡む。以前、このコーナーでPS3では、本体の利幅を薄くした分、ゲーム価格でバランスを取る可能性を指摘した。しかし、実際には、SCEはPS3タイトルも、従来のコンソールゲーム価格の水準に持ってきた。このことは、SCEが別なカタチでのビジネスモデルを組み立てようとしている可能性を示唆している。最も考えられる可能性は、将来的にオンライン販売を育てて行き、そこからの収益を載せてゆくことだ。

 ちなみに、各社とも今世代機には、それぞれの立場での高めの価格をつけた。その背景には、各社がそれぞれコスト増に苦しんでいることがあると推測される。

 ゲーム機の価格/コストを語る時、通常は“ハードウェア”の“製造”コストだけを問題にするが、実際には今世代のゲーム機のコストを圧迫しているのはハードのコストだけでも、製造コストだけでもない。ハードだけでなくソフトウェア、製造だけでなく開発のためのコストも膨大だ。

 理由は簡単で、今世代では、ハードとしてカタチに見えない部分の開発に手間がかかっているからだ。ゲーム機自体のソフトウェア層や開発環境やツール、バックエンドのサーバーシステム構築など、ソフトウェア開発が膨れあがっている。OS/ライブラリはよりリッチになり、ネットワークが標準となってサーバー側サービスも重要となった。さらに、ゲーム機をコンピュータとして、より広い使い方をできるようにしようとすると、重ねてソフト開発コストがかかる。

 もちろん、PS3のようにカスタムチップの開発があれだけ膨大だと、膨れたハード開発費の方がソフト開発費よりずっと大きいのは確かだ。しかし、相対的にソフト開発のコストが激増していることは間違いがない。

 そもそも開発コストというもの自体が、1台当たりに換算するのが難しい。ゲーム機の場合、開発コストは、最終的な出荷台数で割れるからだ。1億台売れるマシンと1千万台しか売れないマシンでは、1台あたりの開発コストは10倍も違う。

 さらに、ソフトウェアについては、ロングタームでは互換性などの検証にも、より労力がかかると推定される。今までのゲーム機は、ライブラリやドライバのほとんどがゲームディスク側にあった。DOS時代のPCソフトと同じ方式だ。そのため、ゲームプログラムとOS/ライブラリとの間の互換性は、ディスク上だけで確保すればよかった。ハード側は完全に同じという前提なので、検証は非常に容易だった。

 ところが、PSP/PS3では、これまでと異なりOS/ライブラリのかなりの部分が本体側にある。そのため、ゲームプログラムは、本体側のシステムソフトウェアとの間で互換性を検証する必要がある。今後、システムソフトウェアのアップデートやハードのバリエーションが増えてゆくと、この作業はますますやっかいになって行く。

 また、SCEが非ゲームソフトウェアをPS3上で育てようと意図するなら、そこにもまた開発コストがかかる。もっとも、この点については、SCEから公式の路線発表がないため、まだどうして行く予定なのかわからない。非ゲームアプリは、Linux上での自然発生に任せるのか、それとも、SCEのCell OS上で育てるのか。Cell OS以外のOSのサポートはどうなるのか、ゲーム向けでない開発キットを出すのか、これらの要素は、全て、公式にはアナウンスされていない。

 SCEは、ここまではゲーム機としてのPS3の立ち上げに集中しており、他の余裕がないように見えた。こうしたゲーム機以外の要素については、今後、明らかにして行くものと推定される。

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(2006年11月17日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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