●SideShow開発キットが登場
9月13日、フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンは、開発者向けのイベント「Freescale Technology Forum」(FTFJ)を開催した。 同社は2004年の4月に、モトローラの半導体部門が分離、独立して設立された会社で、こうした開発者向けのイベントも2004年秋から数えて3回目を迎えた。今回のイベントで注目されたことの1つは、間もなく登場する予定のWindows Vistaでサポートされる「Windows SideShow」の開発キットが紹介されたことだ。 SideShowは、Windows Vistaがサポートする補助ディスプレイのこと。Windows Vista上で動作するガジェットの出力を表示するデバイスである。XMLベースのコンテンツを処理するのはWindows Vista上のガジェットであり、SideShowデバイスはそれを表示するものに過ぎない。 したがって、SideShowデバイスそのものが独立した製品というより、Windows Vistaが動作するPCに付加価値を加えるアドオン、あるいはWindows Vistaに対応した周辺機器に付加価値を加えるアドオンという位置付けになる。たとえば、ノートPCの蓋(液晶画面の反対側)に小さな液晶ディスプレイを加え、蓋を閉じたままの状態でバッテリ残量や、メールの着信状況を読み取れるようにする、というのがSideShowの用途だ。蓋につけた液晶表示部がSideShowであり、ノートPCそのものがSideShow製品ではない。同様に周辺機器の場合、キーボードに取り付けられた液晶ディスプレイにちょっとした情報を表示するといった、周辺機器上のディスプレイに送られてきたデータを表示する標準的な仕組みがSideShowということになる。 このSideShowは、大きく分けると2種類ある。1つはEnhanced Displayと呼ばれる一種のインテリジェントタイプ、もう1つがそれ以外のすべてを意味するBasic Displayだ。Enhanced Displayは、MicrosoftがSideShow側で動作するファームウェア、Windows Vista側で用いるドライバなど、主要なソフトウェアを供給する。このファームウェア(.NET Micro Frameworkベース)は、Windowsとの親和性の高いリッチなUIを備え、Windows Vistaから送られてくるデータの表示、簡単なコマンドの送信(PC側のガジェットやメディアプレーヤーの操作を行なう)、PCがスリープ状態に入っても(PCから情報が送ってこなくなっても)何らかの表示が可能なよう、キャッシュしておいたデータをリピートして表示する機能などが標準でサポートされる。 こうした標準機能に飽きたらない場合、あるいはすでに存在するディスプレイ付き周辺機器をSideShow対応にする場合、デバイスメーカーがSideShowの仕様に合わせてデバイスドライバを用意することで、SideShowデバイスを作成することもできる。この総称がBasic Display(あるいはBasic Device)であり、ノンインテリジェント、インテリジェントを問わない。たとえばWinHECでSideShowのデモに使われたロジクールのキーボード(GK15)は、デバイスドライバで生成したBitmapデータをただ表示するSideShowのBasicDisplay機能を備えたキーボード、ということになる。あくまでも主役はWindows PCやキーボードであり、SideShowはこれらに付加価値を与えるものだ。
フリースケールが提供するSideShowの開発キットは、写真で示したEnhanced Displayのリファレンスデザインである。ARM 9コアベースの組み込みプロセッサであるi.MXSアプリケーションプロセッサに、2.5型のカラー液晶(QVGA)、メモリ(32MB SDRAMと8MB NORフラッシュ)、USB 1.1インターフェイスを備えたもの。ワイヤレス対応に機能拡張することにも配慮されている。 展示されていたリファレンスデザイン上では、PCが受信したメールの表示、あるいはPCのメディアプレイヤーをリファレンスデザインからコントロールする、といったデモが行なわれていた。この場合、メールを受信したり音楽を再生するのはあくまでもPCであり、リファレンスデザインの役割は表示と簡単な操作である。 ならばSideShowの機能を拡張して、メディアプレーヤーをコントロールするだけでなく、音楽の再生もできるようにすればなお良いのではないか、と思う人もいるかもしれないが、それは違う。それは、SideShowにより付加価値が加えられたUSBスピーカーであり、SideShowの機能を拡張して実現することではない。 このSideShow開発キットは、写真に示したハードウェアと開発に必要なソフトウェアがセットされ、499.1ドルで販売される。実際に量産する場合に、開発キット相当のSideShow機能を製品に付与する場合の追加コスト(部品代)をたずねたところ、おそらく20~30ドルではないか、という答えがかえってきた(開発キットと異なり、大量生産することが前提の原価である)。このコストの約半分が液晶ディスプレイで、この調達価格の変動が大きいため、正確に予想することは難しいとのことだったが、おそらく20ドルを切るのは難しいだろう、ということである。 SideShow付きの製品を考える場合は、この原価アップによる製品価格の上昇を納得させられる付加価値を考えなければならない。が、もともと液晶ディスプレイを備えた製品であれば、SideShow付きにするためのコストアップを抑えることができる、ということでもあり、この辺が工夫のしどころだろう。たとえば、WiFi機能を備えた液晶ディスプレイ付きのポータブル音楽プレーヤーがSideShowをサポートし、そのディスプレイにメールの着信やメールを表示できれば便利なことがあるかもしれない(そういえば、Microsoftの「Zune」は、無線LANをサポートするらしいが)。 ●低消費電力無線通信規格「Zigbee」利用製品も このSideShowリファレンスデザイン以外に筆者の目をひいたのは、低消費電力の無線通信規格、「ZigBee(ジグビー)」を利用した製品だ。2004年、最初の開発者向けイベントについてレポートした際、筆者はZigBeeに注目している、と述べた。それがいよいよ製品として姿を現し始めたことになる。 フリースケールの高橋恒雄社長のキーノートでは、ZigBeeのホームセキュリティへの応用例が紹介された。1つは旭硝子の「センサー付き防犯ガラス」で、強度の高いガラスに、衝撃センサーとZigBeeの無線トランシーバーを組み合わせた製品。ガラス強度を上げることで物理的な防犯性を向上させつつ、万が一破られた際にその衝撃をセンサーで検知、ZigBeeを使って通報する仕組みだ。ZigBeeのトランシーバーとして採用されたのがフリースケールの「MC13192」である。 もう1つの製品は、シャープの「リビングドアスコープ」。一般的な住宅用玄関ドアのドアスコープ(ドアアイとも呼ばれる)のレンズ部を取り外して取り付けるカメラ部(子機、1/7インチ11万画素CMOSセンサー採用)と、リビングルームに設置するモニター(親機、1.9型TFT液晶搭載)のセットで、呼び鈴がなった際、モニターのスイッチを押すことで、来訪者の映像をリビングルームに居ながらに確認することができる。カメラ部とモニター間の通信がワイヤレスで、ここにZigBeeが使われている。トランシーバーは防犯ガラスと同じMC13192だ。
このリビングドアスコープはドアカメラと卓上型のモニターをセットした「HN-D100」と、ドアカメラと壁掛け型のモニターをセットした「HN-D150」の2種類が9月1日から販売開始されている。価格はオープンプライスだが、いずれのセットも実売価格は26,000円程度で、低価格というZigBeeの利点が発揮されている。防犯用にTVドアホンが欲しいけれど、取り付け工事費まで考えるとなかなか手が出ない、と思っていた人も、この価格なら購入検討できるのではないだろうか。 また、拡張用オプションとして増設用モニター(卓上型および壁掛け型、標準キット分と合わせ最大2台設置可)、室内カメラ(キットのドアカメラと合わせ最大4台設置可)も用意される。たとえば、ドアカメラに加えて、赤ちゃんの様子を台所から確認したり、ペットの様子をモニターしたり、といった使い方ができる。 電源はモニター部はACアダプタが必要だが、カメラ部は単3アルカリ乾電池3本で6カ月利用できる(ニッケル水素電池は不可)。6カ月電池交換が要らないというのは、低消費電力を重視したZigBeeならではと言えるだろう。
□関連記事 (2006年9月19日) [Reported by 元麻布春男]
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