この原稿を書いているのは、IDF Fall 2006のために滞在中のSan Franciscoのホテルだ。大昔、まだ日本のパーソナルコンピュータの主流がPC-9801シリーズだった頃は、米国へ来ると珍しいPCグッズの数々に目を奪われたものだったが、最近ではそうした心躍るような新製品を見かけることはめっきり減ってしまった。その最大の理由が、国内標準(PC-9801)と米国の標準(PC/AT互換機)が違っていたことであるのは間違いないところだが、米国標準側の水平分業エコシステムが発展途上で、同一の製品を世界あまねく送り届ける力が足りなかったという面もあったのだと思っている。 というわけで、最近は米国に来ても珍しいPC関連グッズを見つけることはほとんどない。日本だろうと米国だろうと、ヨーロッパだろうとほぼ同じものが売られている。価格の点でも日本と大差がないか、むしろ消費税率等の点で日本の方が割安であることが多い。特に原油価格の高騰以来、米国の物価はだいぶ上がってしまった。もちろん、新製品の入荷速度という点では、製造地との距離的な関係、アキバという特殊な市場(新しいものに価格プレミアを支払うことをいとわない顧客)の存在で、日本がダントツではないかと思う。 そんな中、唯一、日本で売っていないものを豊富に見つけることができるのが電波関連グッズだ。これは、各国で異なる法規制があるおかげで、同じものを売りたくても売れない、販売に際してどうしても時差が生じる、ということを反映した結果である。たとえば米国で売られている携帯電話は、日本で売られているものとだいぶ様子が異なっている。筆者も米国内で使うために、こちらのプリペイド携帯を1台所有している。 ●PCカードスロットに収納できる「Mogo Mouse」
今回、こちらで入手した電波関連グッズは、Bluetooth対応マウスである「MoGo Mouse Bluetooth」。2006年1月のCESで見かけて気になっていた製品である。 何がそんなに気になったかというと、その理由はスタイルにある。マウスでありながら、大きさがPCカードサイズしかない。利用しない時はPCカードスロットに収納し、利用する時はスロットから取り出し、底面のスタンドを立ててマウスとして利用する。 もう1つ感心するのが、本体に内蔵した駆動用バッテリの充電を、PCカードスロット収納時にPCカードスロットから供給される電源で行なってしまう点だ。これによりACアダプタも、電池交換も不要になった。本体との接続はBluetoothだから、Bluetooth内蔵ノートPCであれば余計なケーブルも、アダプタも何も要らない。 このようにPC本体にマウスを内蔵するというアイデアは、実はこのMoGo Mouseが最初ではない。大昔、HPの「OmniBook」にマウスを内蔵したノートPCがあった。が、それは内蔵マウスというより収納式マウスとでも呼ぶべきもの。使用時は本体の右側からマウスがポップアップして出てくるが、飛び出した状態でも本体とレバーでつながったままで、完全に分離できるものではなかった。当然、他機種で利用するといった汎用性はない。MoGo Mouseのアイデアに心奪われるのは、ノートPCに完全に内蔵できるマウスを、PCカードスロットという汎用規格をベースに実現した点にある。 前口上が長くなってしまった。早速MoGo Mouseを見ていこう。すでに述べた通り、本体はType2 PCカードサイズ。おなじみの赤いLEDを用いた500dpiの光学式マウスだ。手元にハカリがないので実測できないが、マニュアルによると重さは41gとなっている。 接続インターフェイスはBluetooth 1.1もしくはBluetooth 1.2で、これまたマニュアルによると到達距離は最大10m。対応するOSはBluetoothをサポートしたWindows 98以降のPC、あるいはMac OS X 10.2.8以降となっているが、特にドライバなどが付属するわけではない(付属品は紙のマニュアルのみ)。 バッテリは内蔵充電式で交換は不可。連続で何時間利用できる、といったデータはマニュアルにも書かれていない。マウスボタンは通常の2ボタンのみで、スクロールホイールや戻る/進むボタンはないが、大きさを考えれば納得せざるを得ないところだ。 利用に際しては、まずノートPCのPCカードスロットに突っ込んで充電する。Bluetooth製品なので、初回はペアリングが必要だが、この過程は利用するOSによってディテールは変わってくる。共通しているのは、とにかくPC(OS)側でBluetoothデバイスの検索を開始し、検索が行なわれている間にMoGo Mouseの底面にあるConnectボタンをボールペンの先のような尖ったもので、MoGo Mouseの青色LEDが点滅するまで押しておく。 1点だけ補足しておくと、PCカードスロットに突っ込むと、Windowsはデバイスとして認識するが、MoGo Mouseは単にバスから電気をもらうだけなので(PCカードデバイスとしては何のファンクションもないため)、ドライバは添付されない。なので次回からは「ドライバのインストールをしない」を選ぶ。デバイスとして認識させるのは、そうでないとバスの電源を切られてしまうからだろう。 これでペアリングは終了、MoGo Mouseは利用可能になる(OS側でBluetoothデバイスとしての機能を検索しないといけない場合もある)。PINコードの入力は不要で、もちろん次回以降はこの作業は要らない。マウスをPCカードスロットから取り出し、左右どちらかのマウスボタンをクリックすると、自動的にマウスが認識される。MoGo Mouseは、バッテリを節約するため、一定時間利用していないとスリープモードに入るが、その場合もマウスボタンをクリックすることでスリープが解除される。
マウスとしてはシンプルな2ボタンマウスなので、使い勝手として特にどうこう述べることはあまりない。スタイルは若干特殊だが、使ってみると意外と気にならない。500dpiという解像度も、ノートPCなら十分だと思われる。 今回MoGo Mouseを利用したのは、ホテルの部屋にあるデスク上で、写真を見れば分かるように表面は木目調である。稼働中のMoGo Mouseを直接置いていると、LEDセンサーが激しく点滅している。この状態でも何の問題もなく利用できているが、マニュアルを読むと「暗い色のサーフェイスだとバッテリ駆動時間が短くなる場合がある」との注意書きがある。そこで、紙の上にマウスを乗せてみると、LEDの点滅が若干緩和されたような印象だ。サーフェイスによっては、マウスパッドを用意した方が良いかもしれない。 おそらくノートPC用のマウスとして、現在最も高性能/高機能なのはロジクールの「VX Revolution」だろう。残念ながらMoGo Mouseの機能はそれとは比べるべくもない。だが、VX RevolutionがPCカードスロットに収まらないのもまた事実なのである。機能と携帯性、どちらを重視するかによって、選択肢は変わってくる。MoGo Mouseはミニマリストにとって究極のマウスに違いない。 ●Bluetoothへの反応が悪い日本 残念なのは、今のところこのMoGo Mouseを日本国内で利用できないことだ。マウス本体、マニュアル、どこを探してもJATEの技適マークがない。米国出張専用オプションとなりそうである。 また、国内市場を見ていると、Bluetoothを取り巻く状況の悪さが目につく。マウス最大手のロジクールですら、米国で販売しているBluetoothマウス(V270)の国内販売を見合わせている状態だ。Bluetooth旗振り役の東芝も、秋冬モデルの携帯電話(au)ではBluetooth内蔵モデルの設定がない。 ノートPCにしても米国で販売されているモデルにはBluetoothが内蔵されているのに、国内モデルで抜かれてしまうことが珍しくない。なぜ国内向けのノートPCではBluetoothがサポートされなくなってしまうのか。筆者はいくつかのメーカー担当者に質問したことがあるのだが、ハッキリした答えが返ってきたことはない。回答に共通しているのは、Bluetoothモジュールのコストが理由ではない、ということである。筆者がノートPCを選ぶ際、BluetoothのサポートはIEEE 1394のサポートよりはるかに優先するのだが、IEEE 1394の4ピン端子を備えたノートPCに比べると、Bluetoothを内蔵したノートPCは極端に少ない。この状況が変わらない限り、MoGo Mouseも日本で利用できるようにはならないのだろう。
□MoGo Mouse Bluetoothの製品情報(英文) (2006年9月27日) [Reported by 元麻布春男]
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