ATIは8月23日に、ハイエンドビデオカードの新製品となる「Radeon X1950 XTX」を発表した。1月24日に発表した「Radeon X1900シリーズ」の後継モデルとなる本製品では、業界で初めてGDDR4を採用したのが最大の特徴だ。 一方、ライバルのNVIDIAは8月9日にGeForce 7950 GX2で利用可能なQuad SLI対応ドライバを一般公開。ハイエンドビデオカードの主導権争いが激しくなっている。ここでは、そのパフォーマンスを比較してみたい。 ●パフォーマンス向上と消費電力削減を図るGDDR4 Radeon X1950 XTXのコアクロックは650MHz、ピクセルシェーダユニットが48個、バーテックスシェーダユニットが8個と、GPUコアのアーキテクチャは前モデルであるRadeon X1900 XTXと同等だ。 Radeon X1950 XTXの強化点はメモリにある。コンシューマ向けビデオカードとしては初めてGDDR4を採用。そのクロックは1GHzで、データレートベースでは2GHzにも達する。GDDR3を採用したRadeon X1900 XTXはデータレートベースで1.55GHzなので、最近では珍しい大幅なクロックアップということがいえるだろう。 このGDDR4について、ATIの資料から要点をピックアップして紹介しておきたい。まず、動作電圧はGDDR3の1.8Vから1.5Vへと引き下げられ、最大で30%の消費電力抑制につながるとしている。また、オーバークロック向けに1.9Vで動作させることもできるようだ。消費電力抑制に関しては、使用しているピン数をGDDR3の半分に抑えており、利用していないピンは将来的に電源やGNDに割り振られることになる。 また、DBI(Data Bus Inversion)と呼ばれる仕組みも盛り込まれている。これは、データが“0”の場合に電力を消費するという点に着目した技術だ。例えば「11100000」と「00011111」というワードを転送する場合は、前者のほうが消費電力が大きいことになる。 DBIでは、DBIフラグと呼ばれる“0”と“1”の値を付加するのがポイントだ。このフラグは1ワード中に含まれる0の数が4個より多い場合に1、それより少ない場合は0となる。そして、DBIフラグが1の場合にはデータを反転させて送信する。 先の例でいえば、前者は0が5個あるのでDBIフラグは1となり、転送されるデータは「00011111」となる。後者は0が3個なのでDBIフラグは0となり、「00011111」のまま転送される。元のデータをそのまま転送すると前者のほうが電力を多く消費してしまうところを、DBIを利用して同じ消費電力で済ませているのである。 このほか、バースト転送時、GDDR3の4bitからGDDR4では8bitのプリフェッチが可能になった。よって、GDDR4はGDDR3より低消費電力で、かつバースト転送を行なうとより高速なメモリアクセスが可能、というのが売りといえる。 ちなみに利用しているのはSamsung製とのこと。同社のWebサイトを見ると、現在確認できるのは、「K4U52324QE」のみだが、最大2.2GHz(1.1GHz DDR)で動作可能な「K4U52324QE-BC09」あたりが採用されていると想像できる。 このK4U52324QEには最大2.8GHz(1.4GHz DDR)品もラインナップされており、メモリクロックに関しては余力を残したスペックという印象も受ける。コストやメモリクロックのみを上げたときの性能向上分などを検討して、トータルバランスで現在の2GHzというスペックに落ち着いたのではないだろうか。
さて、今回テストに利用するのは、ATIリファレンスのRadeon X1950 XTXとRadeon X1950 CrossFire Edition(CFE)である(写真1)。Radeon X1900では、Radeon X1900 XTXとCrossFire Editionでクロックが異なっていたが、Radeon X1950 XTXとCrossFire Editionは同じクロックで動作するのも、今回の製品の特徴といえる。 一見して目に留まるのは、やはりクーラーだろう。Radeon X1800とX1900では似た形状のクーラーが利用されてきたが、今回は大幅に手が加えられている。ブロアファンとダクト、1枚分のブラケットスペースを利用した手法は同一だが、その外観とヒートシンクに変更が加えられている。 Radeon X1900のヒートシンクはGPUコアと接触する面に厚い銅板を置き、そこに薄い銅製フィンを貼り付ける手法のものだった(写真2)。これがRadeon X1950では銅製である点は同一ながら、押し出しと思われるものに変更されたうえ、サイズも大きくなりヒートパイプを併用している(写真3)。また、ブロアファンも変更されており、最大回転時の騒音がいくぶん静かになったように感じられた。このあたりも1つの進化と捉えていいだろう。 ブラケット部の構成は、通常版がDVI×2とビデオ出力、CrossFire EditionがDMSコネクタとDVIという構成で、このあたりは前モデルと変わりがない(写真4、5)。 ちなみに、今回のリファレンスボードに付属してきたドライバは、CATALYST 6.7である(画面1)。設定ツールであるCATALYST Control Centerにも大きな変更点はなく、クロックは3D時に648MHz、999MHzとなっており、ほぼ定格どおりに動いている(画面2)。
GeForce 7950 GX2を利用したQuad SLIについても簡単に触れておきたい。GeForce 7950 GX2については、すでに単体動作でのレビュー記事を紹介しており、今回は、これをボードを2枚利用したQuad SLIが利用できるようになったのが新しい。 このQuad SLI用ドライバは、8月9日にリリースされた「ForceWare 91.45」である。このドライバの登場したことで、これまでコンプリートPCとしてしか入手できなかったQuad SLI環境を自作でも構築できるようになったわけだ。 その手順は基本的にSLIと変わりがない。ブリッジコネクタを接続し、ドライバの設定ツールであるNVIDIA Control PanelからEnabledにするだけである(写真6、画面3)。GeForce 7900 GX2を用いた最初のQuad SLIではブリッジコネクタを2つ必要としていたが、GeForce 7950 GX2では1つで済むようになっている。
●ハイエンド三強をベンチマークで比較 それでは、Radeon X1950シリーズとGeForce 7950 GX2に、GeForce 7900 GTXを加えて、顔ぶれが新しくなったハイエンドビデオカードの性能を比較してみたい。テスト環境は表に示した通りだが、ちょっと複雑なので簡単に補足しておきたい。まず、ビデオカード単体の性能チェックは、nForce 590 SLIを搭載した「ASUSTeK M2N32-SLI Deluxe」の環境で統一して行なっている。 なお、M2N32-SLI Deluxeの最新BIOSでは、「NVIDIA GPU Ex」という項目が用意されている(画面4)。おそらくLink Boostのことを指すと思われるが、ビデオカード単体のチェック時にはこれをDisabledにして実施した。一方、Quad SLIおよびSLIの環境に関していえば、ビデオカードの評価だけではなく、そのアーキテクチャが利用できるプラットフォームの評価という視点もあるので、ここをAutoに設定して実施している。一方、Radeon X1950を利用したCrossFire環境は、CrossFire Xpress 3200を搭載するSocket AM2マザーであるMSIの「K9A Platinum」を使用している(写真7)。
では、順にテスト結果を紹介していきたい。まずは、消費電力の測定である(グラフ1)。ここでは、電源プラグにワットチェッカーを接続して、システム全体の消費電力を計測しているため、CrossFireのみ環境が異なってしまう。そこで、K9A PlatinumにRadeon X1900 XTXを単体で接続した場合の消費電力も計測しているが、これを見るとマザーボードの違いによる消費電力差は30W前後と見ることができる。 つまり、Radeon X1950 CFE+XTXの結果は30Wほど上乗せして検討する必要があるわけだが、そうすると、この環境はGeForce 7950 GX2のQuad SLI環境以上のピーク消費電力ということになる。単体でも、Radeon X1950 XTXとGeForce 7950 GX2のピーク消費電力は近く、Radeon X1950はかなり消費電力の高いGPUということがいえそうだ。 ただ、アイドル時の数値は大幅に減っている。クロックを下げることで必要のないときに電力消費を抑える仕組みはGeForce 7900 GTXと同様だが、その効果はRadeon X1950 XTXの方が大きく現れている結果といえる。
さて、ここからはベンチマークの結果をお伝えする。まずは3DMarkシリーズの「3DMark06」(グラフ2~4)、「3DMark05」(グラフ5)、「3DMark03」(グラフ6)である。 まず結果で目立つのが、Quad SLIが苦戦している点だ。その効果が発揮されたのは3DMark03だけといっても良く、ほかのテストでは負荷が高い高解像度や、フィルタを適用した場合に差を詰めるにしても、決定的にスコアが劣っている印象だ。以前にQuad SLIをテストしたときも、GeForce 7900 GTXのSLI構成に苦戦しており、2,560×1,600ドットの解像度でようやく威力を発揮するシチュエーションが多かった。今回は機材の関係で1,920×1,200ドットまでのテストとなってしまったことあって、Quad SLIの効果が発揮しきれていない。 Radeon X1950 XTXとCrossFire環境については、後発製品らしくキッチリ結果を出してきた印象を受ける。とくにCrossFire環境はGeForce 7900 GTXのSLI環境に対して、3DMark03を除き、ほぼ完勝といった雰囲気だ。その性能差は小さいところで5%弱、大きいところで15%強といったところ。負荷が大きい条件で差が大きくなる傾向を見せており、シェーダユニットの数とメモリクロックの高さが活きている。 Radeon X1950 XTX単体の結果は、特に低負荷の条件でGeForce 7900 GTXに劣るシーンがよく見られる。とはいっても描画負荷が高い条件ではやはりGeForce 7900 GTXを圧倒しているあたりに本製品のポテンシャルの高さを感じることができる。いちおうビデオカード単体という枠に入るGeForce 7950 GX2には完敗しているが、これは特殊な製品が相手ということで致し方ないところだろう。
続いては実際のゲームを利用したベンチマークだ。テストは「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ7)、「Call of Duty 2」(グラフ8)、「F.E.A.R.」(グラフ9)、「DOOM3」(グラフ10)である。 ここでは、F.E.A.R.とDOOM3の高負荷条件においてQuad SLIが健闘を見せているのが印象的だ。 Radeon X1950のCrossFire環境やRadeon X1950 XTX単体の結果は、3DMarkシリーズの結果で見えてきたとおり、高負荷ほどGeForce 7900 GTXや同SLI環境に対し良い成績を発揮する傾向にある。一方でF.E.A.R.のように成績が逆転しているものがあったりするので、確実に高負荷でアドバンテージを持っているとはいいづらい部分もあるが、大局的にはそう判断しても良いかと思う。 ちなみに、Call of Duty 2のみ、ちょっと不思議なスコアが出ている。GeForce 7900 GTXのSLI環境だけが飛び抜けて成績が良いが、これまで記事で扱ったときの結果よりも総じてスコアが低い傾向を見せている。今回からVersion1.3のパッチを適用したのが原因かも知れない。 そうした点を差し引いても、Radeon X1950 XTX単体よりもCrossFireの方がスコアが下がる点は、今後ドライバの最適化などで改善されることを期待したいところだ。
●従来の枠組みでは最強と呼べるRadeon X1950シリーズ 以上のとおり、新しくなったハイエンドビデオカードを比較検証してきたが、まず印象に残るのはQuad SLIの難しさである。4GPUの威力が発揮されたテストはごく僅かで、クロックの低さもあって低負荷では全く意味をなさないという印象が強い。 2,560×1,600ドットなどの超高負荷の条件なら、また違った結果も見せる可能性は高いが、ハイエンドビデオカードを投入するユーザーでも、そこまでの環境が一般的とはいいがたく、広いユーザーにお勧めできる製品ではない。現状では、GeForce 7950 GX2は高い性能を単体で得られるマルチGPUビデオカード、というポジションで見たほうが良さそうだ。 今回の主題であるRadeon X1950 XTXと、そのCrossFire環境だが、ビデオカード単体ではGeForce 7950 GX2に劣るシーンが多いのが残念ではあるが、従来の枠組みであるシングルGPUの製品としては最高の性能を見せるといって差し支えないのではないだろうか。CrossFireも概ね安定して成績を伸ばしており、Quad SLIとは違って低負荷でもその恩恵に与れる場合が多い。 Radeon X1950 XTXとCrossFire Editionの価格は449ドル。上昇傾向にあったハイエンドビデオカードの価格にストップがかかったといえる。日本におけるリテール品の価格帯は不明だが、449ドルから想像すると、まずは6万円前後程度からのスタートが想像される。価格と性能のバランスでみると、このクラスの製品を求める人にとってはお買い得な製品となり得るのではないだろうか。 □関連記事 (2006年8月30日) [Text by 多和田新也]
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