Intelが7月に発表したCore 2シリーズ。すでにデスクトップ向けは単体発売も始まっているが、モバイル向けに関してはスペック公開のみに留まっていた。周知のとおり、Core 2シリーズはモバイル向けCPUである「Core Duo」の流れを色濃く受け継いでおり、NetBurstからCoreマイクロアーキテクチャへ移ったデスクトップ向けとは、また違った変遷をしている。そのモバイル向けCPUの新旧製品を比較してみたい。 ●L2キャッシュ容量アップに伴いダイサイズもアップ 「Merom」の開発コードで呼ばれたモバイル向けの「Core 2 Duo」シリーズは、すでにラインナップや仕様が公表されている(表1)。スペック上の主な特徴は、667MHz FSB、4MB/2MBのL2キャッシュ、EM64Tサポート、Virtualization Technologyサポート(T5500をのぞく)といったところ。
「Yonah」の開発コードを持つ従来の「Core Duo」のスペックとは、現状の最大クロックが2.33GHzである点や、FSBが667MHzである点など共通点も多い。だが、上位モデルのL2キャッシュが2MBから4MBへと増量されたほか、EM64Tを新たにサポート。懸念としては、TDPが31Wから34Wへ上昇したほか、また現時点では低電圧版がラインナップされていない。 その外観は、一目で分かる違いがある。ダイサイズだ(写真1)。Core 2 Duoのダイサイズは143平方mmとなっているが、Core Duoのダイサイズは91平方mmと大きな違いがある。両製品とも同じ65nmプロセスで製造されており、主にL2キャッシュの増量がダイサイズの変化に影響を及ぼしているのだろう。 裏面に話を移すと、ピンレイアウトは変更されていないことが分かる(写真2)。Core Duo同様に、FC-PGA478とFC-BGA479の2種類のパッケージが提供される点も同様だ。 CPU-Zの結果は画面1に示した通り。参考までにCore Duo T2700のCPU-Zの結果も画面2に示している。新しい拡張命令セットをSSE4として認識しているほか、EM64Tサポートも確認できる。また、CPUIDは「6F5」のB1ステッピングとなっており、これは、デスクトップ向けのCore 2 Duo X6800/E6700と同じ値だ。 さて、今回テストに利用するのは、普段の本連載とは異なり自作環境ではなくノートPCである(写真3)。Core 2 Duo T7600とCore Duo T2700が搭載される以外の環境は、ほぼ統一されている。両CPUはともに2.33GHzで動作する製品だ。ほぼ、といったのはメモリのベンダーが異なっている点で、Core 2 Duo機にはKingstone製、Core Duo機にはSamsung製が搭載されている(写真4、5)。両者とも同じDDR2-667の512MBモジュールを2枚搭載する構成だが、メモリパラメータが微妙に異なっている(画面3、4)。結果にもそれが多少は反映されてしまっているようだが、その詳細は後述することにする。 主なコンポーネントは、背面から確認することができる(写真6、7)。チップセットはIntel 945PM Expressで、GPUにはMobility Radeon X1600が搭載。このGPUは、CATALYST Contorol Panelでは512MBという認識をするが、背面から伺えるメモリチップはInfineonの256Mbit×4枚。つまり、HyperMemoryにより、必要に応じてメインメモリをビデオメモリに割り当てることになる。 このほか、無線LANコントローラにはIntelのPRO/Wireless 3945ABG、HDDにHGSTのHTS721060G9SA、光学ドライブにTSSTのTS-L632Cを搭載。液晶ディスプレイの解像度は1,280×800ドットとなっている。
●2台のノートPCをベンチマークで比較 それでは、この両ノートPCでベンチマークを計測した結果を紹介したい。テスト環境は一通り先述したが、表2にもまとめておいた。なお、テスト中の解像度は、ことわりがない限り、液晶ディスプレイの最大解像度である1,280×800ドットに設定して計測している。
●CPU性能 まずは「Sandra 2007a」の「Processor Arithmetic Benchmark」と「Processor Multi-Media Benchmark」の結果である(グラフ1)。Sandra 2007aの場合、各CPUの持つ最高性能を引き出す方向性で拡張命令が選択されるが、今回の場合、Multi-Media Benchmarkの整数演算を除いては、同じ命令セットが利用されている。こうした条件で単純な演算性能を測定するだけでも、同クロックの両製品の間には差がはっきりと出た。 また、これはデスクトップ向けのCore 2 Extreme/Duoも同様であったが、Multi-Media Benchmarkの整数演算はCore 2 Duo T7600のみ新しい命令セットであるSSE4が使われており、その差はさらに広がっている。
続いては、「PCMark05」のCPU Testである(グラフ2、3)。Sandraの演算性能テストで見えたのと同様に、Core 2 Duo T7600が安定して良いスコアを出しているのが分かる。 マルチタスク時の性能について、2タスク同時実行テストのFile Compression/File Encryptionの相対性能の平均値、4タスク同時実行テストのFile Decompression/File Decryption/Image Decompression/Audio Compressionの相対性能の平均値、シングルタスクテストの同組み合わせにおける相対性能平均値を比較してみたのだが、Core 2 Duo T7600が差を広げるという結果にはなっていない。演算性能が良いので高いスコアは出ているものの、マルチタスクを行なうことによる性能低下の度合いはCoreとあまり変わらないようである。
●メモリ性能 次にメモリ性能を見てみたい。メモリの実効速度を計測するSandra 2007aの「Cache & Memory Benchmark」(グラフ4)と、EVEREST Ultimate Edition 2006 Version3.01に含まれる「Cache & Memory Benchmark」のメモリレイテンシの結果(グラフ5)を示している。 まずSandra 2007aの結果だが、デスクトップ向けのCore 2 Extreme/Duoでも見られた通り、L1キャッシュの速度はモバイル向けでも極めて高速なものとなっている。また、クロックが同じではあるが、L2キャッシュの速度も向上しているようだ。 EVERESTのレイテンシテストの結果を見ると、Core 2ではL2キャッシュのレイテンシが下がっていることが分かる。動作クロックはどちらも同じ2.33GHzなので、1クロックあたり0.43ns弱ということになるが、約5クロックもレイテンシが減っている計算になる。加えて、容量が増えているわけで、L2キャッシュに関しては大幅な機能強化と見ていいだろう。 メインメモリについては、Sandra 2007aの結果ではCore 2 Duo T7600環境のほうが遅く、EVERESTのレイテンシもより遅い結果が出ている。これは先述のとおりで、メモリが異なるためである。そのほかのパーツは統一されているので、若干ながらCore 2 Duo T7600のほうが不利な環境に置かれている、ということになる。
【お詫びと訂正】初出時に、グラフ5の数値が逆転しておりました。お詫びして訂正させていただきます。 ●アプリケーション性能 それでは、実際のアプリケーションを利用したベンチマークの結果を紹介したい。テストは、「SYSmark 2004 Second Edition」(グラフ6)、「MobileMark 2005」の「Productivity Performance」(グラフ7)、「Winstone2004」(グラフ8)、「CineBench 9.5」(グラフ9)、「動画エンコードテスト」(グラフ10)である。 ここでは、Core 2 Duo T7600が安定して好成績を収めている。メモリ性能の不利はあるものの、CPUの良さが活きているわけだ。小さなところでは3%程度、大きいところでは2倍以上の数値が出ているテストもあるが、おおよそは1割前後の性能向上となっている。 秀逸なのは動画エンコードで、とくにWMV9/DivX/H.264エンコードは、Core 2登場前のデスクトップ向けCPUにも比肩する速度である。常時稼動が求められるTVチューナ用PCでの利用を検討している人には嬉しい結果ではないだろうか。
●3D性能 次は3Dベンチマークの結果である。テストは「3DMark06 CPUTest」(グラフ11)、「3DMark06」(グラフ12)、「3DMark05」(グラフ13)、「3DMark03」(グラフ14)、「DOOM3」(グラフ15)、「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ16)である。 デスクトップ向けCPUのテストで、3DベンチマークにおけるCore 2の成績の良さは見えていたが、ここでも3DMarkシリーズのテストではCore 2 Duo T7600が良い性能を見せた。ただ、GPUの性能がボトルネックになったためか、ゲームを利用したベンチでは差がゼロに近い。 3DMarkシリーズの結果を見る限り、よりデスクトップに近い環境であればゲームでも良い結果を出す可能性は高いと思うが、今回の環境ではそれを結果として示すことはできなかったことになる。
●バッテリ駆動時間
さて、モバイル向けCPUということで、搭載ノートPCの購入を検討している人にとってはバッテリ駆動時間も気になるところかと思う。テストに利用したノートPCはモバイル向けとは言いがたい製品ではあるが、バッテリも搭載されている(写真8)。 当然、両PCとも同一のバッテリなので、MobileMark 2005を利用したバッテリ駆動時間のテスト結果(グラフ17)も紹介したい。MobileMark 2005では、以下の4つのバッテリ駆動時間計測テストが用意されている。 Productivity:Adobe PhotoshopやMacromedia Flashなどのクリエイター向けアプリケーションやMicrosoft Office、WinZipなどのオフィスアプリケーションを組み合わせて特定の動作をさせ続ける それぞれのテストは、主として利用するコンポーネントが違うが、今回のテスト環境に関してはCPUとメモリ以外は同じパーツで構成されている。メモリも規定電圧(1.8V)で動作していることを考えると、CPUの消費電力の違いだけが結果に反映されると思っていい。 その結果であるが、Core 2 Duo T7600のほうがバッテリ駆動時間が短く、およそ9割弱といった結果になっている。TDPが上昇しているということは、CPUの消費電力が上昇していることにもつながっているわけで、こうした結果が出るのは仕方ないだろう。
●ノート以外での利用も期待されるT7600 以上の通りベンチマークの結果を見てくると、CoreからCore 2への性能面での進化ははっきりと見て取ることができる。ただし、バッテリ駆動は若干短くなっており、性能向上のトレードオフとして考慮しておくべきだろう。 ただ、今回テストしたCore 2 Duo T7600は最上位モデルということもあり、いわゆるモバイルノートへ搭載される向きのCPUではない。むしろ、最近よく耳にするMobile on Desktop(MoDT)と呼ばれる、モバイル向けコンポーネントを利用したデスクトップソリューションに利用されることのほうが多いのではないだろうか。 そうした視点で見ると、ノートPCでも利用されるような消費電力の低いCPUで、一世代前のデスクトップのハイエンド向けCPUと同等の性能を出すシチュエーションすらあるという点は大きな魅力となる。 これは、自作ユーザーにとっても食指が動くのではないだろうか。自作向けマザーボードでも、すでにASUSTeKの「N4L-VM DH」がT7400/T7200/T5600対応BIOSを。MSIの「945GT Speedster」はCore 2 Tシリーズ対応のBIOSをリリース済みだ。すでに導入が可能な土台はできているわけで、あとはCPU単体の販売が早急になされることを期待したい。 □関連記事 (2006年8月29日) [Text by 多和田新也]
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