大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」


ソニーの経営陣が、この1年の改革を振り返る
〜コネクトの失敗を明確に言及




 「TV事業の復活は、自らのイメージに対して何合目まで来ているのか」――会見終了後、会見場の外まで中鉢良治社長を追いかけて質問したが、その場では明確な回答は得られなかった。

 得られた時間はわずか数秒間。質問の内容からすれば、そんなわずかな時間に、明確な答えが出るはずがないのは当たり前だった。

 「ウーン、難しいなぁ」――回答はこれだけだった。

 いや、もう1つ、こうも答えた。「ウォークマン? そりゃあ、まだ回復感がないことは、よくわかっているでしょう」――。

●異例ともいえる電機大手のトップ会見

ハワード・ストリンガー会長兼CEO(右)、中鉢良治社長兼エレクトロニクスCEO(左)
 ソニーは、26日、ハワード・ストリンガー会長兼CEO、中鉢良治社長兼エレクトロニクスCEOが2人が出席して記者会見を行なった。新経営陣の就任から1年を経過したとはいえ、新たな経営方針の発表や、特別なニュースがないにも関わらず、こうした形で電機大手の経営トップが会見を行なうのは珍しい。

 それだけに、記者席からは質問が相次いだ。1時間以上も質問に時間を費やしたが、1つ1つの質問に、2人の経営者が丁寧に回答したこと、そして、通訳を挟んだことで、多くの記者が質問できずに終わったのも事実だった。

 だが、この会見のなかで、ソニーの現状と、今後の方向性がいくつか明らかになった。

●「心のV字回復」を果たす

 1つは、ソニー社内のモチベーションが確実に上昇しつつあることだ。

中鉢良治社長兼エレクトロニクスCEO

 最近、中鉢社長は、好んで「心のV字回復」という言葉を使う。先頃の株主総会後の株主懇談会でも、この言葉を引用したばかりだ。

 「就任から100日を経過した2005年9月に、中期経営計画を発表したが、市場からの反応は極めて悪かった。ノーサプライズである、構造改革が甘い、将来が見えないという批判をいただいた。だが、その一方で、ソニーに対して、次の100日間でどう変わるのか、まずは年末商戦を見てみよう、という動きも出ていた。私は、とにかく成長戦略を半年間封印してでも、回復の道筋をつけることが最優先であり、そのためには、社員から閉塞感を取り払うこと、改善する基調に持っていくことが必要だと感じた。心のV字回復は、ソニーの社員が自信を持ち始めたこと。販売店からも最近、ソニーの社員は目が輝いてきたという言葉を聞くようになった」と語る。

 ソニーは、年末商戦でBRAVIAという新ブランドの薄型TVを投入した。

 「あらゆる活動を、最優先でTV事業に振り向け、TVの収益性改善に取り組んだ」と中鉢社長は語る。

 それは少しずつ成果となって表れている。

 TV事業を担当する井原勝美副社長は、株主懇談会の席上で、2005年度のTV事業を振り返り、次のように話していた。

新ブランドの薄型TVBRAVIA

 「BRAVIAは、短期間に導入したが、全世界の販売に従事するソニーグループの社員、全世界12の工場、TV事業部の技術/設計チームといった製/販/技の3つが一体になって投入した製品。これまでウォークマンやハンディカムといった成功例は、いずれも製/販/技が一体化したものであり、これがソニーの勝ちパターンである。BRAVIAも同様に成功し、TV事業にスピードがよみがえってきた」。

 中鉢社長も、「CFOであった井原さんに、TV事業を率いてもらうことで、製/販/技が一体化し、あらゆる問題を短期間に解決した。まさに、ソニーの総力戦による活動だった」と語る。

 中鉢社長は、「TV事業の回復なくして、エレクトロニクス事業の回復はない」と言い続けてきた。そして、「エレクトロニクス事業の回復なしには、ソニーの復活はない」と言い切る。

 それだけに、TV事業の回復に、どの程度の手応えを感じているのか、中鉢社長の見解を聞くことが、ソニー復活の手応えを掴むには最適だといえる。

 「TVは回復基調に乗った」。ここまでは中鉢社長も認めている。だが、完全復活というまでには、まだもう少し時間が必要だといえる。それは、これから激化するであろう薄型TV市場のなかで、一度奪取した世界市場におけるトップシェアを維持できるのか、国内市場における回復はどうなるのか、そして、下期からの黒字転換という収益性の部分では、どんな結果を出すのか――。まだ、乗り越えなくてはならないハードルがある。

 これらの課題を乗り越えて、初めてTV事業復活が宣言でき、それがソニー全体の復活につながるのだろう。

●4つの領域の回復を目指す

 とはいえ、最近になって中鉢社長は、「TV事業の回復だけでは、ソニーが復活したという認識を、多くの人と共有することは難しいと考えている」と、少し言葉を変え始めている。TV事業のほかに、ビデオ、オーディオ、デジタルイメージを加えた4部門のそれぞれが回復感を出すことが必要だというのである。

 実は、社長就任直後には、何度か同様の発言はしていた。だが、ここしばらくは、口を開けばTVのことばかりであった。先にも触れたように、TVに対してすべての活動を最優先するという方針からすれば当然のことだったかもしれない。

 だが、裏を返せば、改めてこの言葉を使い始めたのは、TV事業の回復には、道半ばであるとの認識がありながらも、その回復には、1つの目処が立ったと判断していることの裏返しだともいえまいか。

●課題はウォークマンの復活

 この4つの領域のうち、回復基調にのった「TV」や、ハイビジョンハンディカムが好調な「ビデオ」、そして、コンパクトデジカメのサイバーショットの好調ぶりや、αによるデジタル一眼レフカメラ市場にも参入した「デジタルイメージング」には、明るい話題が多い。

 問題は、ウォークマンを抱えるオーディオ分野だ。

ハワード・ストリンガー会長兼CEO

 実は、今回の会見で、ハワード・ストリンガーCEOが、コネクトの失敗を正式に認めた。

 「コネクトが失敗したのは、アップルが5年間かけてやってきたことを、ソニーは1年でやろうとしたところに問題があった。また、サイロの中ですべてを完結させようという無理や、それを達成させるための無用な圧力もあった。ソフトウェア革命を推進するに当たって、マネジメント体制が十分ではなかったことも原因」などとした。

 ソニーは、コネクトの失敗を明確に認めた上で、次の改革に挑み始めようとしている。

 今回の会見では、明確な回答は出さなかったが、ストリンガーCEO、中鉢社長が繰り返し強調したのが、ソフトウェアの開発強化である。

 中鉢社長は、2006年度のエレクトロニクス事業の取り組みとして、「構造改革の断行」、「下期のTV事業の黒字化」、「成長戦略への本格着手」の3点を挙げた。このうち、成長戦略への本格着手の中で、「品質の向上」とともに、「ソフトウェアへの投資の拡大」を掲げている。

 一方、ストリンガーCEOも、「将来の成長のためにはソフトウェア開発をさらに加速させていく必要がある。ソフトとハードのエンジニアが連携する環境を作ることも必要。すでに、PSPでビデオを活用するためのソフトウェアや、プレイステーション3をホームサーバーとして活用するためのソフト、携帯電話におけるソニー・エリクソンで提供しているプラットフォームもソフトウェアの成功例だ。もちろん、オーディオプレーヤーに関しても、いま開発を進めているところだ」と語る。

 ストリンガーCEOは、「13歳の私の息子は、もうiPodはいらないと言ってくれた」と語るが、残念ながら、まだ多くの人が、同じことを言う状況にはない。

 その鍵を握るのがソフトであるのは多くの人が認めるところだ。これがどんな形で、我々の目の前に出てくることになるのか、注目したいところだ。

●1年目の取り組みには一応の成果

 中鉢社長は、「2007年度の中期目標の達成に向けて、2005年度はやるべきことはやった。TV、カムコーダー、デジタルカメラは想定を超える結果を出したとも思っている」と、この1年を振り返る。

 また、ストリンガーCEOは、「構造改革として設定した目標は、20億ドル分のコスト削減をはじめ、人員整理、不採算部門の再編、生産拠点の統廃合などの成果を出せたと認識している。また、オープンな社員、パートナーとのコミュニケーションも始まっている。マイルストーンは、予定通りにいっている」と語る。

 だが、その一方で、ストリンガーCEOは、創業者である井深大氏の言葉を持ち出し、あえてこんな言葉も口にした。

 「これまで培ったソニーらしさというものに囚われてしまってはならない。会社が、将来、成功するための鍵は、これまでの強みを生かしながら、古くなったものを捨てていくことにある」

 中鉢社長は、2005年の就任直後のインタビューで、「ソニースピリットをはき違えている社員がいる」と言い切った。

 ストリンガー社長が、この言葉を切り出したのは、まだ、そうした社員がいることの証なのかもしれない。

 「2006年、改めて、ソニースピリットをさらに強化していきたい」とストリンガーCEOが語るように、ソニーの新たなスピリット醸成がこれからの課題だと、経営陣は感じているのかもしれない。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
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【2005年3月7日】ソニーCEOに内定したストリンガー氏が会見
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0307/sony2.htm
【2005年3月7日】ソニー、新会長にストリンガー氏
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0307/sony.htm

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(2006年6月27日)

[Text by 大河原克行]


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