大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

佐久間専務が語る新生BIGLOBE
~7月3日付けでNECから独立




NECビッグローブ株式会社 代表取締役専務 佐久間洋氏

 NECから、BIGLOBE事業が分社化し、7月3日付けで、NECビッグローブ株式会社が設立された。

 代表取締役執行役員社長には、NECで取締役執行役員専務を務める鈴木俊一氏が兼務で就任。そして、実際に事業遂行する役割を担うのが、NECでBIGLOBE事業本部長を務め、このほど、代表取締役執行役員専務に就任した佐久間洋氏である。

 「ちょうど10年を迎えたBIGLOBEが、次の10年に向けたスタートを切るのが今日」と語る佐久間代表取締役執行役員専務に、新生ビッグローブについて語ってもらった。



-- 最初に聞きにくいことから聞きますが(笑)、ビッグローブの社長人事が、会社設立前に、急遽、変更になりましたね。社内的な混乱もあったのではないですか。

佐久間: 会社設立会見では、パーソナルソリューションビジネスユニット(BU)を統括していた片山(=徹氏)が社長に就任すると発表していましたが、その後、片山のNECフィールディングの社長への就任が決定し、急遽、鈴木(=俊一氏)へと変更になりました。しかし、もともと、NECビッグローブ株式会社の設立に当たっては、パーソナルソリューションBU側からは片山が、そして、NEC本社の子会社の事業を統括する立場として鈴木が携わってきましたから、経営面ではこの2人が準備を進めてきたともいえます。そして、この新会社の立ち上げ時には、BU長が社長を兼務した方がいいという考え方が最初からありましたので、パーソナルソリューションBUを統括することになった鈴木が、NECビッグローブの社長も兼務するのが自然の流れです。実は、鈴木が、新会社の設立前から携わっていたことは、社員はみんな知っていましたから、社内的には、それほど大きな混乱はなありませんでしたよ。

-- 鈴木社長と佐久間専務との役割分担は。

佐久間: 鈴木は経営面から、私は事業を遂行する立場ということになります。

-- 分社化した最大のメリットはなんだと考えていますか。

佐久間: なんといってもスピードに尽きるでしょうね。意志決定のスピードが格段に速まると考えています。同時に、ビッグローブそのものの機動力も高まるはずです。ビッグローブを取り巻く環境を見ると、これから多くの変化が起こることが容易に想像できる。NGN(次世代ネットワーク)であり、Web2.0であり、IPv6というように、さまざまな動きがビッグローブを取り巻いている。当然、ISP事業そのものも、単にIPアドレスを付与して、それをマネジメントするというだけのやり方では済まなくなってくる。新たなISP事業の形というものが求められることになるのは明らかです。そうした激しい市場変化の中において、いかに早く意志決定を行なうか、これが重要な鍵になる。NECという大きな傘のなかでは、スピード感には限界が生じていた。分社化の最大のメリットはここにあります。

 もともとBIGLOBE事業本部には、NECの社内公募制度を利用して参加している人が多かった。ですから、NECの傘の中にいても、ベンチャー企業的な意識を持っている人が多く、NECの他の事業部門とはちょっと違った雰囲気があった、と私は思っています。私自身も、以前は、この公募制度そのものを作る立場にいたのですが、自らがその公募に応募してビッグローブに参加した(笑)。ビッグローブのこの雰囲気は、分社化してから、ますます強くなっていくのではないでしょうか。それに、社長の鈴木は、さまざまな企業とのアライアンスを見てきていますから、ベンチャー企業の雰囲気も知っている。もし、NECビッグローブにベンチャーが持つような良さが薄れてきたとしたら、鈴木の方から、「おい、ちょっとおかしいぞ」と指摘をしてもらえる。社長と専務の役割分担としては、そんなことも期待しているんですよ(笑)。

-- ただ、株主には、NECのほかに、住友商事や大和証券グループ、三井住友銀行、電通、博報堂といった名前が並びましたね。この点で、経営面でのスピード感が削がれる要素はありませんか。

佐久間: それはないと考えています。むしろ、これらの株主企業は、私たちと一緒に、新たな事業をやっていこうということで、一歩踏み込んだ「資本」という関係を持たせていただいています。これらの株主企業とは、ぜひ新たな事業を創出したい。今、その話し合いをしているところです。

-- 新たなサービスを創出する上で、株主企業以外にも、多くの企業とのパートナーシップが重要になると思いますが、その際に、「NEC」の冠は邪魔にならないのですか。

佐久間: 確かに、多くの企業とパートナーシップを組んで展開していく上では、「NECという冠が気になる」という企業があるかもしれません。ただ、ビッグローブにとって、NECは、親会社という関係だけでなく、これまで以上に連携していく必要があるとも考えています。

 NECビッグローブ株式会社では、従来から主力となっている「ISP事業」のほかに、企業向けの「プラットフォームサービス事業」、コンシューマを中心とした「ブロードバンドメディア事業」の3つの事業に取り組んでいく計画を掲げていますが、プラットフォームサービス事業では、NECのソリューションとの組み合わせた提案が不可欠になってきます。ビッグローブが提供するプラットフォームサービスには、ビッグローブが持つ強固な会員情報管理インフラ、急激に変動するトラフィックにも十分に対応できる柔軟性、そして、ビッグローブのシステム基盤を活用した迅速な構築などがある。これにNECのソリューションパワーを加えることで、NGN時代に適したユニークな企業向けソリューションを提供できると考えています。認証管理機能、レコメンド基盤、配信基盤といった点でビッグローブが持つノウハウは、企業が考えるユビキタス環境、マルチアプライアンス環境において、最大の威力を発揮するのは間違いありません。そこにNECグループとしての強みが発揮できる。

 また、ISP事業やブロードバンドメディア事業においても、NECというハードウェアベンダーとの連携は大変重要です。技術的な面からの機器連携におけるパートナーシップはもとより、PCや携帯電話といったビッグローブの利用者との接点となるアプライアンスを開発する側の要件を、しっかりと把握することがますます重視されるようになりますから、NECとの関係はプラス要素だといえます。プロバイダの立場だけで事業を進めると、自然と送り手側だけの理論で物事を考えたり、ISP側の都合だけでサービスを作ろうとする傾向に陥りやすい。アプライアンス側では、こんなことを考えている、あるいは、今こういう状況に置かれている、ということを理解した上で、サービスを創出していかないと、誤ったサービスを提供することになりかねない。

 例えば、ViivテクノロジーとWindows Vistaという新たなテクノロジーの上で、NECという国内最大のPCベンダーは、これをどう捉えて、事業を推進しようとしているのか。この動きを十分知った上でビッグローブの事業を推進するのと、知らない上で事業を推進するのとでは、大きな違いがあります。リビングでは大型TVで閲覧し、個々の部屋ではPCでコンテンツを見るというのが、これからの主流になるでしょう。その世界において、どんなコンテンツマネジメントが求められているか、どんなネットワークや機器が求められているのか。これを知るにはやはり機器ベンダーであるNECとの連携は重要であると考えています。

-- 先頃、Googleとの提携によって、動画広告配信サービス「Click-to-Play動画広告」の導入を発表しました。こうした技術提携やサービス面での提携と、資本提携との差はどんなところで線引きしているのですか。

佐久間: 技術やサービス分野においては、基本的にはそれぞれに技術提携や開発提携という形になります。一方、資本提携という点では、一緒にビジネスを創出していこう、という考え方が前提になります。今の段階で、具体的な新たな出資案件があるわけではありませんが、一緒にビジネスを創出するという観点で資本提携が必要だということになれば、必要に応じて出資先が増える可能性はあるかもしれませんね。また、NECが包括的に提携をし、その一環としてビッグローブも協業に参加するという例もあります。MicrosoftやIntelなどとの提携は、そうした例ともいえます。

-- 設立会見では、「これからの10年」という表現を使いましたね。

佐久間: 過去10年は、ブロードバンド環境が日本に定着する上でISPとしてどうするのか、というのがBIGLOBE事業の最大の焦点でした。ブロードバンドを活かしたコンテンツを提供したり、ポータルサイトとしての役割を果たしたり、といったようにです。しかし、これからの10年は大きく異なる。私の個人的な意見ですが、2008年頃になるとNGNが本格化してくる。そうなるとビジネスそのものが変化してくる。これからの10年を築いていくための第1日目が、この7月3日という、NECビッグローブ株式会社設立の日だといえます。

-- どんな10年を描いていますか。

佐久間: 今の段階で、具体的に、こういうものだということはお話できませんが、例えば、オリジナルのショッピングモールを立ち上げ、ここに、住友商事が実績を持つEC事業ノウハウを組み合わせれば、よりリアルな世界と連動したキラーサイトの提案が可能になる。同様に大和証券グループや、三井住友銀行との連携によって、証券/金融関連商品のオンラインサービスや新たなネット金融商品の創出といったことにもつながる。電通、博報堂に関しても、これまでのブロードバンド広告という範疇だけに留まらず、まったく違った広告展開を創出できる可能性がある。こうした部分は、頭の使いどころですね(笑)。

 いずれにしろ、これまでの延長線上で何かをやるというのではなく、まったく新しいサービスを創出していかなくてはならない。その時のキーワードは、「リアル」との連携ということになるのではないでしょうか。ネットの世界だけで完結するサービスではなく、我々のリアルの生活の中に密着したサービスを、もっともっと提供したいと考えています。また、こうした具体的な案件とは、別の角度からも検討を行なっています。

-- 別の角度とは。

佐久間: 中期経営計画としては3年間で物事を見たり、あるいは日常の業務のなかでは、1年というスパンで物事を捉えますが、もっと枠を広げて、「10年間勝ち続けるためには、今、どんなことをすべきか」という議論をしているのです。ISPとして、10年後の立ち位置はどうなっているのか、そのためにはどんな技術が必要なのか、どんなビジネスチャンスがあるのか、といったことを真剣に議論している。最初は、私のまわりの10人程度で始めたのですが、いまでは、この議論の輪が広がり、若い社員までを含めて話し合いを行なっている。NGNが本格化し、地上デジタル放送が主流となる2011年には、放送と通信がどう連携するのか。こうしたことも、この場を通じて議論をしています。

-- ところで、NECビッグローブとして、新たなサービスといえるものは、いつ頃から形になりますか。

佐久間: 7月から、順次、発表していけると思います。具体的な内容については、もう少し待っていただきたいと思いますが、ここでも「リアル」という言葉が、コンセプトや方向性を示すヒントになります。これから、次の10年に向けたサービスの片鱗が少しずつお見せできると思いますよ。

□BIGLOBEのホームページ
http://www.biglobe.ne.jp/
□関連記事
【5月26日】NECビッグローブ、設立時の社長は片山徹氏から鈴木俊一氏に(BB)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/14011.html
【3月28日】NEC、ISP事業「BIGLOBE」を分社化。「NECビッグローブ株式会社」に(BB)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/13349.html

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(2006年7月3日)

[Text by 大河原克行]


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