米Transmetaの取締役会副会長兼最高技術責任者(CTO)のDavid R.Ditzel(デビット・R・ディッツェル)氏が来日し、Transmetaの「AMD Efficeon」の取り組みなどについて言及した。 これは、Microsoftが新興市場向けに提供する「FlexGo」プロジェクトPC用に開発したもの。「このプロジェクトによって、Transmetaは、再びCPUメーカーとして大きな進化を遂げることになる」とするDitzel氏に話を聞いた。 -- AMDとの提携によって投入するAMD Efficeonは、Tranmetaにどんなインパクトを与えますか。 Ditzel: FlexGoプロジェクトは、約2年ほど前から、Microsoft、AMDとともに極秘裏に進めてきたプロジェクトです。現在のx86にエクステンションを加えるという作業を進めてきました。本来ならば、こうしたプロジェクトは、IntelやAMDに先に話が行くものですが(笑)、Microsoftが、この2社以外のCPUメーカーと最初に手を組んだというのは初めてのことかもしれませんね。 TransmetaとMicrosoftは共同で、Hardened Reference Motherboardというボードを開発しました。一方で、Microsoftは、新たなCPUインストラクションを使用したOSを作り、Transmetaは、FlexGoに適したCPUを開発したのです。Microsoftが開発したこのCPUインストラクションを持ったチップは、Efficeonだけということになります。
このEfficeonチップに関するマーケティングとセールスは、AMDが担当します。OSとCPU、マザーボードはそれぞれPCメーカーに提供され、このあとは、普通のPCと同じ開発、製造工程によって製品化が進められることになります。Transmeta Efficeonとは異なるAMD Efficeonが新たに登場したことで、Transmetaのビジネスは大きく飛躍することになります。 ご存じのように、全世界の人口のうち、PCを利用している人はまだ15%程度に過ぎません。IT分野で高い技術力を持つと言われるインドでも、全土を見ると電源すら届いていない村も数多くあります。FlexGoプロジェクト向けのPCでは、こうした地域でも使えるように自動車のバッテリを使って、動かすことができるような工夫も凝らされています。もともと省電力のチップなので、その点でも、Efficeonの特徴が生かせる。MicrosoftがTransmetaに話を持ってきたのも、こうしたEfficeonならではの優位性が認められたことが大きいと言えます。 そして、このプロジェクトで見逃せないのは、各国の金融機関や企業などが、積極的に投資をしたり、補助金を提供していることです。単独の企業や、一部の企業が取り組んでいるものではなくて、多くの企業が参加していることは、言い換えれば、多くの主要企業や、国、政府からも支持を得ているプロジェクトだといえます。 もう一点、このプロジェクトのユニークなところがあります。それは、FlexGoプロジェクトによって提供されるPCが、極めてセキュアな設計になっているという点です。 -- 具体的にはどんな点ですか? Ditzel: 例えば、1番セキュアといわれる方法は、インストラクションそのものをCPUの上に載せてしまうことです。AMD Efficeonではそれを実現しています。また、マザーボードを見てもらえばわかりますが、大変特徴のあるものになっています。AMD Efficeonのチップがボードにハンダ付けされており、抜くことができない。もし、ここからチップを取り外そうとすると、ボードそのものが壊れるようになっています。チップだけを外して転売することは不可能です。また、DRAMに関しても、ワイヤがなく、シグナルが見えないようになっている。このマザーボードは、6層となっていますが、ボトムのレイヤーには信号ラインが表れないようになっています。 それとファンレス構造になっていますから、ファンの回転によって、ホコリなどを筐体内に巻き散らかさなくて済む。砂埃が多いといった環境が悪いような場所でも、動作できるようにしている。これもセキュアな設計点の1つです。 -- なぜ、AMDと組まなくてはならなかったのですか。単独でもできたビジネスだと思うのですが。 Ditzel: 確かに当社だけでもできたビジネスかもしれません。しかし、営業やマーケティングという分野では、AMDのパワーを使うことが最適だと判断したことが大きいでしょう。AMDは、これまで競争相手でしたが、これからは強力なパートナーです。AMDは、私たちに協力を求めてきたわけですから、いまや私たちは、AMDとは余計な競争をしなくてもいい。ここでも大きなメリットがあるのではないでしょうか。 -- 生産体制はどうなっていますか。大きな需要が想定される市場ですから、安定した数を供給できるのかが心配ですが。 Ditzel: AMD Efficeonの生産は、すべて富士通が行ないます。現在、あきる野の生産拠点で製造を開始していますが、今後、三重の生産拠点でも製造を開始します。同時に、200mmウェハの生産から、300mmウェハでの生産へと移行しますから、さらに生産能力は拡大することになります。富士通からは、年間2億個のCPUを生産できると言われ、「いや、いくらなんでも、そんなにはいらないよ」といって笑っていたところです。生産体制に関しては、安心していただいて大丈夫です。 -- AMD Efficeonによって、Transmetaは甦ったという声をあちこちで聞きますが(笑) Ditzel: 私もよく聞きますよ(笑)。確かに、Intelと真っ向から争っていた時代には、Transmetaは残念ながらうまくいかなかったという認識を、私も強く持っています。多くの人もそう思っているでしょう。その後のビジネスモデルの変更を見て、「もうEfficeonは死んだ」とさえいっていた人もいましたからね。私も、この2年の間、多くの人から、「Transmetaは、CPUビジネスからは撤退したんですね」と何度も聞かれましたよ。すでにFlexGoのプロジェクトが走っていましたから、「いや、違いますよ」としゃべりたいのにしゃべれない。これは苦しかったですよ(笑)。日本風にいうと、この2年間、温泉に浸かって体力を回復させていた、といった感じでしょうか(笑)。 私たちは自分たちの技術には自信を持っていました。いつかはそれが生きると思い、そのためのイノベーションを続けてきました。当社は、イノベーションし続ける会社であり、その結果、新しい体制で、新しいビジネスをはじめることができました。今は、このインストラクションを持ったCPUは、Efficeon以外にないわけですから、競争相手がいないところでビジネスができる。こんなに優位な状況はないともいえます。 -- 一方で、LongRunのライセンスビジネスは好調のようですね。すでに東芝、ソニー、富士通、NECといった日本の主要メーカーに対してのライセンス実績もあります。 Ditzel: このビジネスは順調に進行しています。そして、今日は、LongRun2に関しても新たな情報を提供できますよ。それは、LongRun2によって、省電力化がさらに進化するというものです。具体的には、EfficeonにおけるLongRun2の採用によってどうなるかという例を示したいと思います。こうしたものが、今後、出てくるだろうということを前提に聞いてください。 CPUの生産においては、どうしても製品の品質にバラツキが出てきます。中には、消費電力が多く、歩留まり損失になったり、周波数仕様を越えてしまうことで、それらが歩留まり損失につながるという例もあります。歩留まり損失を少なくすることは、あらゆる製造業者が共通に取り組んでいる課題です。とくに、微細化が進むCPUにはおいては、この歩留まり率をあげるという夢は、技術の進化とともに遠いものになってしまう恐れがあります。LongRunは、こうした問題を解決するソリューションであります。 まず、1.5GHzで動作する際に必要な消費電力の分布を見ますと、最低3Wから最大では9.5Wまで広がることになる。すると、メーカーとしては、スペック上の消費電力仕様を、最大である9.5Wと表示しなくてはならない。ここに、LongRun2の技術を使うとどうなるか。調査によると、同じ1.5GHzで動作させても、消費電力が最大で6.5Wとなり、同時に分布が縮小することになる。さらに、しきい値電圧制御と固定電源電圧で行なうとどうか。最大でも約4Wへと引き下げられ、さらに最低線では2Wまで引き下げられる。加えて固定電源電圧とで電圧IDによって、最大消費電力が3.6Wにまで引き下げられる。最大で2.6倍もの消費を減らすことができるのです。 同じように、700MHzにしても同じような結果がでます。調査では、最大で2.5倍の差がでました。 一方、周波数を早くする効果があることも知っていただきたい。仮に4Wという消費電力が決められたときにはどうなるか。固定電源電圧の場合には、最低では966MHzであったものが、LongRun2の技術を使うことで、1.554GHzまで引きあげることができた。1.6倍にまでこれが引き上げられるというわけです。
ここにビデオゲームを利用したデモンストレーション映像があるのですが、Efficeonの1.6GHzでは、だいたい4Wで動いているものが、LongRun2の技術を使用したプロトタイプの場合には、2.5W程度で動作しているのがわかると思います。 また、700MHzでは1.1Wから0.6Wになったのがわかると思います。さらに待機中の消費電力も、0.008W程度に抑えることができています。 LongRun2の採用によって、消費電力仕様の向上、周波数仕様の向上、歩留まり率の向上およびコスト削減が図れます。また、LongRun2を採用したEfficeonによって、大幅な改善が図られることを実感していただけるのではないでしょうか。 -- 今後、Transmetaは、どんなポジションの企業になると考えていますか。 Ditzel: CPUメーカーとして確固たる地位を得ることができ、CPU市場で再び進化を遂げることになります。 -- ところで、まだ発表することがありますよね。例えば、Xboxポータブルへの採用とか……。 Ditzel: 具体的なお話をしますと、私は刑務所に連れていかれてしまいますから(笑)、何も言えませんが、まだまだこれからもさまざまなサプライズを提供できると思っていますよ。
□Transmetaのホームページ(英語) (2006年6月9日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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