笠原一輝のユビキタス情報局

“我々は帰ってきた”、Intelが復活宣言



そこかしこに表示されるIntelの広告。数えてはいないが、間違いなくCOMPUTEXでもっとも露出度が高いロゴはIntelロゴだろう

 今回、COMPUTEX TAIPEIの会場に行って一番最初に思ったことは、とにかくそこかしこにIntelのロゴがあることだ。どこを見てもIntelロゴやCore 2 Duo、Viiv、vProのロゴがあるという状況に、「お金使ってるなー、なんかIntel元気だな」と感じる。

 Intelが元気だな、と思ったのはそれだけではない。記者会見では、やたらとハイテンションで、「We, chipset back!」(我々、そしてチップセットは帰ってきた)、「Fastest machine on the earth, no question!」(疑いなく地球上でもっとも速いマシンだ!)と宣言してみたりと、とにかく強気なIntelが復活した。

 これに対するAMD、今回は発表会でもAMD LIVE!やSocket AM2などをアピールしたが、新しい内容はなかった。しかし、こちらも「AMDはテクノロジーリーダシップを今後も維持する」と強気な発言。

 本記事では、そうしたIntelとAMDのCOMPUTEXでのそれぞれについてお伝えしていきたい。

●「我々は帰ってきた」と“あの”Intelがこれまでの敗北を認めた上で勝利宣言

 Intelは台湾でもっとも高いビルである101の84階において報道関係者やOEMベンダの関係者を招待し、Intelが新しくリリースしたチップセット「Intel 965」シリーズについての説明会を行なった。

 Intel 副社長兼チップセット事業部ジェネラルマネージャ リチャード・マリノウスキー氏は、同社が第3四半期にリリースを予定しているCore 2 Duoと、COMPUTEXで発表したIntel 965シリーズの組み合わせを「速くて、柔軟性があり、そして熱くない製品だ」と何度も繰り返し、新しいIntelのプラットフォームをアピールした。そして、おそらくIntelのクライアントPCの歴史上としては初めてとなるであろう、AMDプロセッサとの性能比較を行なって見せた。

 Intelが用意したのは、Athlon 64 FX-60(2.6GHz)を2.8GHzにオーバークロックした“なんちゃってAthlon 64 FX-62”で、Office 2007のβ2に含まれるExcelを利用した証券分析のマクロを実行し、それにかかる時間を計測した。

 その結果はAthlon 64 FX-60オーバークロックが34.254秒かかったのに対して、IntelのCore Duo 2.39GHzは11.225秒と3倍近い早さで終えるというものになった。こうした結果を背景にして、マリノウスキー氏は「Fastest machine on the earth, no question!」(疑いなく地球上でもっとも速いマシンだ!)と述べ、Core 2 Duo+Intel 965の組み合わせの速さをアピールした。

Intel副社長兼チップセット事業部ジェネラルマネージャ リチャード・マリノウスキー氏 Intelの記者会見で示されたCore 2 Duo 2.66GHzとAthlon 64 FX-60(2.8GHzへオーバークロック)の性能比較

 正直に言って、筆者はIntelのこうした強気一辺倒のプレゼンテーションにびっくりした。いやもっと正確に言うのであれば、AMDへの対抗心をむき出しにしたプレゼンテーションにびっくりしたと言ってもよいかもしれない。というのも、筆者もこうした仕事をしていることもあり、いろいろな機会でIntelの講演や記者会見に参加しているが、これまでデスクトップPCでのAMDのプロセッサと直接的な比較をしているところを見た記憶がない(サーバー向けのOpteronとの比較であれば、この春ぐらいから何度か見ているのだが……)。

AMDのなんちゃってAthlon 64 FX-62(Athlon 64 FX-60のオーバークロック)の結果は34.254秒かかっている。しかし、Intelの記者会見でAMDロゴがでてくるとは…… こちらはCore 2 Duoによる結果。11.225秒と約1/3の時間で済んでいる Intelの関係者とマザーボードベンダの幹部を入れた記念撮影。なぜか台湾ではこうしたセレモニーが大人気だ

 さらに筆者がびっくりしたのは、終わり際のマリノウスキー氏の台詞だ。マリノウスキー氏は、このプレゼンテーションの最後を「We, chipset back!」(我々、そしてチップセットは帰ってきた)と締めた。なんてこった、表向きにはクールさを装うことで知られるあのIntelがここ数年間の敗北を自ら認めたのだ。

 それを認めた上で、勝利宣言をするあたり、ここ最近の状況がよほど腹に据えかねていたのだろう。

●実績を誇り、継続をアピールするAMD

 対するAMDも負けていない。AMDは、Intelの基調講演の1時間前に記者会見を開催し、ここ最近のAMDの取り組み、特に5月にリリースされたSocket AM2、AMD LIVE!などの新製品に関して説明を行なった。それらの内容に関しては、すでに発表された内容ということもあり特に目新しいことはなかったが、こちらもIntelへの対抗心がむき出しな記者会見だった。

 同社 上級副社長兼最高販売責任者のヘンリー・リチャード氏は「今年は部屋がいっぱいだ。これは我々が過去12カ月に実現してきた進化を証明するものと言ってよい」と述べるなど、2005年のCOMPUTEXからAMDが実現してきたことを誇ってみせた。

 確かに、前回のCOMPUTEXから今回までの間に、AMDの置かれている環境は大きく改善されてきた。Opteronでは、これまで入ることすら無理だとされてきたDellに食い込むことに成功したり、デュアルコアのAthlon 64 FX/Athlon 64 X2では明らかにIntelのデュアルコアCPUを性能で上回って見せた。リチャード氏がAMDの成し遂げたことを誇ってみせるというのも無理もない。

AMDのヘンリ・リチャード上級副社長は、今後もAMDのリーダーシップは続くとアピール hpのAMD LIVE!対応デスクトップPCなどが展示された

 さらにリチャード氏は「我々が実現してきたイノベーションは、今後も継続していく。その積み重ねで、今後もリーダーの座を維持していくだろう」と述べ、今後もテクノロジーリーダーの座をIntelに明け渡すつもりはないとアピールした。

 AMDが2006年の記者会見の目玉にしたのは、OEMベンダやパートナー企業を呼んで行なったセレモニーだ。チップセットベンダ(ATI、Broadcom、NVIDIA、SiS、VIA)、OEMベンダ(hp、ASUSTeK、Lenovo)、MicrosoftなどのAMDのパートナーを呼んでそれぞれに手形を押してもらい、それを飾るというセレモニーだ。

 Intelの記者会見に呼ばれていたのは、OEMベンダだけという状況だったので、Intelに比べてパートナーを大事にしているというAMDの姿勢をアピールしているのだ。

各パートナーの手形が集められた。ある報道関係者は「血判状だよ……」と言っていたが、果たして?

●水面下ではIntelが“Core 2 Duo”ブランド確立に向けて攻勢を強める

 さて、我々報道陣がオフィシャルに目にする記者会見でもそれぞれがアピールしたわけだが、水面下でもIntelとAMDの熱き戦いは繰り広げられている。

Core 2 Duoの旗 会場の両側面にIntelの広告

 特に、今回IntelのCOMPUTEXにかける意気込みはただごとではない。COMPUTEXの会場はIntelにジャックされたのではないかと思うほど、あちこちでIntelのロゴを見かける。あちこちというのは決して誇張ではなく、それこそ会場の外に建てられたポールの旗やアドバルーン、果ては会場のエスカレータの側面にまでIntelの宣伝が行なわれている。

 特に多く見かけるのが、Core 2 Duoのロゴマークだ。あるOEMベンダの関係者は「Intelから下期のIntelの目標はCore 2 Duoブランドの確立だと聞いている。IntelはPentiumからIntel Coreへのブランドの切り替えを行なったが、未だにPentiumほどの認知度は得られていない。そこで、Core 2 Duoに対するマーケティング資金を多数投入し、その確立を狙っているのだ」と証言する。確かに、会場で見るIntelの宣伝はその数だけお金がかかっているわけで、その証言と現実は一致する。

 さらに別の関係者は「IntelはIntel Inside Program(IIP)にも手を入れると聞いている。これまでのブランドを表示というやり方だけなく、共同でマーケティングを行なう場合にもIIPが適用されるオプションを用意するそうだ」と言う。

 Intelに近い関係者によれば、IntelはOEMベンダがIntel搭載PCの広告にIntelロゴを表示することで、広告費の何割かをキックバックする従来型のIIPに加えて、OEMベンダとIntelが共同でCore 2 Duoマシンの性能をアピールする共同マーケティング型の新しい形の広告にもIIPを拡張すると説明しているようだ。今後、こうした共同マーケティング型の広告費に関しても増やしていくOEMベンダには説明しているという。

 このように、Intelは、COMPUTEXのようなイベントや新しい形のIIPなどさまざまな形でのマーケティングキャンペーンを通じて、Core 2 Duoのブランドイメージの確立を目指していきたいという意向があることは間違いない。今回のCOMPUTEXはまだまだその前哨戦に過ぎない。米国時間の7月23日と言われているCore 2 Duoのリリースに向けて、さらにこの戦略を推し進めていくだろう。

●AMDの次の一手

 AMDも指をくわえて見ているわけではない。2007年に向けて次々と手は打ってきている。

 COMPUTEXの直前にテクノロジーアナリストデーを開催し、次世代のクアッドコアCPU、低電圧、超低電圧版も可能なモバイルCPU、新しい技術的なイニチアシブ(コプロセッサのTorrenza、企業クライアント向け技術のRaiden、次世代仮想化技術のTrinityなどの構想を発表している。これらも次があるんだぞ、と見せることで、AMDへの興味を引きつけておく意図だろう。

 結局のところ、巨大な2社が争っているx86マーケットは、一方が沈めば他方が浮かび上がるという構造だ。これまでIntelがAMDにやられていた状況が、Core 2 Duoの登場で立場が入れ替わることになる。ここしばらくは、Intelは不利な立場に立ち、さまざまな施策(2つのCPUダイを切り離さないでデュアルコアCPUとして出荷する裏技まで投入された)でこれを乗り切ってきた、しかし、ここで攻守が入れ替わることになるだろう。業界としてはAMDの次の一手を見守っている状態だ。

□COMPUTEX TAIPEI 2006のホームページ(英文)
http://www.computextaipei.com.tw/
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【6月6日】【COMPUTEX】Intel 965チップセットを公式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0606/comp02.htm
【6月2日】【元麻布】AMDが2008年以降のロードマップを公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0602/hot431.htm
【5月20日】米Dell、AMDのOpteronを採用
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0519/dell.htm

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(2006年6月8日)

[Reported by 笠原一輝]


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