Intelは新チップセットとなる「Broadwater」(ブロードウォーター、開発コードネーム)ことIntel 965チップセットを、COMPUTEX TAIPEIにおいて発表した。 単体型チップセットのIntel P965、Intel Q965はすでに出荷開始されており、GPU内蔵型のIntel G965に関しては若干遅れて8月の出荷となる。さらに、それに対応したCPUとして、Conroe(コンロー)ことCore 2 Duoを7月に発表、出荷する予定だ。 すでにIntelは次のターゲットに向けて動きつつある。COMPUTEX TAIPEIの初日には、Core Duo Extremeの3.2GHzを年内に追加することを発表したし、2007年の第1四半期には「Kentsfield」(ケンツフィールド、開発コードネーム)と呼ばれるクアッドコアCPUを追加する。また、すでにOEMベンダには、Intel 965の次世代チップセットとして“Barelake”(ベアレイク)と呼ばれる製品を2007年の第2四半期に追加することを明らかにしている。 本記事では、今後のIntelの製品計画などを、COMPUTEX TAIPEIで取材した結果などからお伝えしていきたい。 ●内蔵グラフィックスがDirectX 10対応に強化され、メモリはDDR2-800に IntelのIntel 965チップセットの大きな強化ポイントは、新しいDirectX 10に対応した内蔵GPU、DDR2-800への対応、サウスブリッジがICH8へ変更などの点になる。 内蔵GPUは「GMA X3000」と呼ばれており、最大の特徴はフルプログラマブルな演算器を利用して画面描画を行なうことだ。GMA X3000の内蔵GPUには8つのプログラマブルな演算器が用意されており、目的に応じてこの演算器を利用してさまざまな処理を行なう。たとえば、3Dの描画を行なう際には、そのうちのいくつかをバーテックシェーダに、そのうちのいくつかをピクセルシェーダの処理に動的に割り当てて処理していく。あるいは、ビデオの処理を行なう際には、インターレース解除や、色補正などの処理を各演算器に動的に割り当てて処理を行なう。
シェーダモデルとしては3.0に対応しており、APIとしてはDirectX 9/10に対応している。さらにIntelのGPUとしては初めて32bitの浮動小数点テクスチャリングに対応しており、色表現力などが向上している。 また、すでに述べたように、動画再生に関してもプログラマブルな演算器を利用して行なえるため、ドライバやソフトウェアの作り方によっては表示品質を上げることが可能だ。Intelは「Intel ClearVideo Technology」と呼んでいるが、NVIDIAのPureVideoやATIのAVIVOなどと同等の技術だと言うことができるだろう。 ドライバに標準で備えられた機能としては、インターレース解除の機能が標準で用意されていることがあげられる。従来のIntelの統合型GPUでは、内蔵GPUの機能としてインターレース解除の機能がなかったため、インターレースの解除はソフトウェア側、つまりはCPUでの処理となってしまい、CPUの負荷が上がってしまっていたほか、ユーザーがインターレース解除の品質があまりよくない再生ソフトウェアやコーデックを利用している場合には、動画の表示品質があまり高くないということが発生していた。 ただし、ドライバではサポートされない拡張部分を利用するには、コーデックや再生ソフトウェア側のサポートが必要になる。IntelはInterVideo、CyberLinkなどがそれらのサポートをするとすでに明らかにしており、今後登場する両者の再生ソフトウェアなどを利用することで、拡張機能を利用できる。 ●DDR2-800に関しては独自の互換性検証で問題がないことを確認 Intel 965ではサポートされるメモリがDDR2-800に引き上げられている。メモリモジュールではPC2-6400となるDDR2-800は、64bit 1チャネルで6.4GB/secの帯域幅を実現しており、Intel 965のような2チャネルでは12.8GB/secの帯域幅を実現する。さらに、新たなメモリ高速化機能である“Intel Fast Memory Access”(関連記事参照)により、メモリレイテンシの削減も実現している。 ただし、現時点ではDDR2-800のメモリモジュールとなるPC2-6400は、メモリ標準化団体であるJEDECの最終仕様が決定されていない。これについてIntel 副社長兼チップセット事業部ジェネラルマネージャ リチャード・マリノウスキー氏は「現時点でDDR2-800の標準化は終わっていない。しかし、すでにドラフト仕様は存在しており、それを元にしたメモリモジュールとの互換性検証を行なっているので、問題はないと考えている」と述べ、JEDECの最終仕様が決まっていないことは問題ではないと述べた。 なお、Intel 965には、4つのSKUが用意されており、コンシューマ向けにはGPU内蔵のG965とGPUを内蔵しないP965、企業向けにはiAMTに対応したQ965とiAMT未対応のQ963が用意されることになる。GPUを内蔵しないP965はすでにOEMベンダ向けに出荷が開始されており、速ければ今月末にも搭載マザーボードなどが市場に並ぶことになりそうだ。それ以外のGPUを内蔵した製品に関しては8月の出荷が予定されている。 ●6ポートのシリアルATAとGigabit Ethernet MACが内蔵されたICH8 Intel 965シリーズでは、サウスブリッジもICH8へと進化する。ICH7から比べた進化点は、以下の通りだ。 ・6ポートのシリアルATAポート(945では4ポート) ユーザーの視点から見るともっとも大きな変更点はシリアルATAのポート数が4から6に増えたところだ。ただし、パラレルATAのポートは無くなったので、光学ドライブもシリアルATAに接続する必要がある。このため、実質的にHDDで利用できるのは5ポートになる。 OEMメーカーの視点で言えば、Gigabit EthernetのMACがサウスブリッジに内蔵されたことが大きい。これにより、OEMベンダは外付けのPHY(物理層)のチップをマザーボード上に実装するだけで安価にGigabit Ethernetを実装することができる。 なお、ICH8には4つのSKUが用意されており、それぞれICH8、ICH8R、ICH8 DH、ICH8 DOとなる。ICH8RはICH8にRAID機能を追加したもので、ICH8 DHはViiv対応という位置付けは、従来のICH7と同じ位置付けになり、ICH8 DOはvPro向けのサウスブリッジということになる。 ●ノースブリッジの製造プロセスルールは90nmへ移行
Intel 965はIntelにとって、Core 2 Duo用とは別の観点でも重要な意味を持つ。Intelのマリノウスキー副社長は、Intel 965が300mmウェハからとれる90nmのプロセスルールで製造されていることを明らかにした上で、「もう供給面での不安はない」ということを強調した。 これには若干の説明が必要になるだろう。Intelのチップセットは常に、CPUが利用しているプロセスルールよりも古いプロセスルールで作ることになっている。つまり、CPUが使わなくなったプロセスルールの工場を利用してチップセットを製造するというわけだ。 実際には、チップセットにはノースブリッジとサウスブリッジがあるが、ノースブリッジがCPUのプロセスルール+1世代、サウスブリッジはCPUのプロセスルール+2世代ということがほとんどとなる。このため、従来のIntel 945世代のプロセスルールはCPUが90nmだったので、90nm+1世代ということで、130nmで製造されてきた。 130nmのプロセスルールでは、ウェハのサイズが300mmと200mmが混在していており、チップセットの製造には200mmウェハが利用されてきたのだ。300mmウェハを利用することで、とれるダイの数が200mmウェハに比べると240%も増えるというメリットがあるのだが、問題は製造コストが200mmウェハよりも高くつくということだ。 チップセットは、CPUに比べて利益率も低いため(チップセットはハイエンドでも40ドル程度、ローエンドでは20ドル台で販売されている、CPUは軽く100ドルを超える)、できる限り低コストで製造できることが望ましく200mmウェハの工場で製造していたのだ。ところが、Intelの予想を上回るほどチップセットへの需要が伸びてしまい、チップセットの供給不足を招いてしまったのだ。 そこで、Intel 965では、ノースブリッジ300mmウェハを利用した90nmプロセスルールへの移行が図られている。これにより、供給面での不安は改善されるというのがIntelのストーリーなのだ。 なお、サウスブリッジに関しては、「サウスブリッジに関しては依然として200mmウェハ、130nmプロセスルールで製造される」(マリノウスキー副社長)とのことで、これまでのルール通りCPU+2世代ということで130nmプロセスルールの200mmウェハを利用して製造される。 ●クアッドコアのKentsfieldは第4四半期に前倒しされる ただし、Intelのチップセットにはマーケティング的な課題も残されている。もっとも大きなものはIntel 975Xという前世代のアーキテクチャに基づいたチップセットが、ハイエンド用として残されているという点だ。 Intel 975Xは、開発コードネーム「Glenwood」で呼ばれたIntel 955Xの改良版だが、その基本的な構成は「Lakeport」の開発コードネームで呼ばれたIntel 945に基づいている。Intel 945にメモリレイテンシの削減機能を追加し、さらにPCI Express x16を2×8に分割可能にした製品がIntel 975Xということになる。Intelでは、このIntel 975XをPentium Extreme Edition用、さらには今後リリースされるCore 2 Duo Extreme用と位置付けている。 ただ、微妙なのはIntel 975Xと新しいIntel P965を比較した場合、デュアルGPUをサポートするという点を除けば、Intel P965の方がハイスペックになってしまうという問題点がある。Intel P965はメモリはDDR2-800に対応、Fast Memory Accessによりメモリレイテンシも削減され、サウスブリッジもICH8だ。問題は、デュアルGPUがメリットとなっているかという点だ。実際、Intel 975XではATIのCrossFireでしか利用できず、NVIDIAのSLIは利用できない。 NVIDIAが1枚のビデオカードに2基のGPUを搭載した「GeForce 7950 GX2」を発売した今となっては、そのメリットがあるかどうかさえ疑わしくなってきている。だとすると、Intel 975Xよりは、Intel P965を利用したいというユーザーやOEMベンダがでてきてもおかしくない。 問題になりそうなのが、今の段階でIntelが計画しているクアッドコアCPUであるKentsfiledがIntel P965で正式サポートされるかどうか揺れていることだ。もともと、KentsfiledはIntel 975Xを前提に開発が進められてきた。しかし、マザーボードベンダやOEMベンダからはIntel P965でサポートしてほしいとリクエストしているものの、Intel側が難色を示しているという。 これには、Kentsfiledのリリース時期が実は前倒しされることが決定されたということが背景にある。OEMベンダの関係者によると、IntelはOEMベンダなどに対して、Kentsfiledのリリース時期を、もともとのプランであった2007年の第1四半期から、今年の第4四半期、それも早い時期に前倒しすると伝えてきたという。であれば、これからP965との互換性検証にかけている時間はあまりなく、それもあって難色を示している可能性が高そうだ。 ●2007年の第2四半期には次世代チップセット“Barelake”を投入 日本市場向けには別の問題も指摘される。具体的には、GMA X3000に、H.264のアクセラレーション機能が含まれていないことだ。すでに、NVIDIA、ATIはH.264のアクセラレーション機能をGPUに実装しているのだが、それでも現在のCPUを利用した場合、ビットレートが20Mbpsを超えるとかなり厳しくなってくるという。それだけにH.264のアクセラレーション機能は、日本市場では今後必要とされる機能の1つだと言える。 現在のところ、BDやHD DVDを搭載した製品はハイエンドのみとなっているのだが、今後はそれがメインストリーム向けにも降りていくことが予想される。そうなると、内蔵GPUを利用してと考えているOEMベンダは少なくないのだが、GMA X3000にはそうした機能が用意されていない。 ただ、GMA X3000はすでに述べたようにフルプログラマブルなGPUになっているため、H.264のアクセラレーション機能は、ドライバの改良などで追加することは可能だ。おそらく、Intel 965の世代では厳しいかもしれないが、次の世代ではそうした機能を追加することも不可能ではない。 OEMベンダ筋の情報によれば、Intelは、Intel 965の次の世代として、2007年の第2四半期にBarelake(ベアレイク、開発コードネーム)と呼ばれる製品を投入すると説明しているという。Barelakeでは、システムバスのクロックが1,333MHzに引き上げられ、メモリはDDR3に対応し、サウスブリッジはICH9に進化するという。 これ以外の詳細に関しては今のところわかってはいないが、少なくとも言えることは、Barelakeのシステムバスが従来通りのパラレルバスに留め置かれることで、それが2007年の第2四半期から1年近く続く可能性が高いということだ。 今後、IntelがCPUのコアを増やしたマルチコアを出す度に、このことがボトルネックになる可能性があり(現にサーバーではそうした問題が発生している)、AMDが2007年にリリースを予定しているRev.Hこと“Hound”で再びIntelを逆転するということもあり得るのではないだろうか。
□COMPUTEX TAIPEI 2006のホームページ(英文) (2006年6月9日) [Reported by 笠原一輝]
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