笠原一輝のユビキタス情報局

「VAIO type R」に見る
次世代DVDを楽しむための要件



ソニー「VAIO type R」

 ソニーからBD-REにデジタル放送のコンテンツをムーブ可能なデスクトップPC「VAIO type R」が発表された。また、すでに周辺機器ベンダから、BD-R/REドライブの単体製品がリリースされるなど、PCにおいて次世代DVDを楽しむことができるようになるのは時間の問題となっている。

 そこで、本記事では、VAIO type Rなどから見えてきた次世代DVD(Blu-ray、HD DVD)のPCにおける実装などについて、お伝えしていきたい。


●コンテンツ側が表示するポートを決定できるAACSの実装

 PCであるか、家電であるかにかかわらず、次世代DVDを実装する場合、必ずAACS(Advanced Access Content System)というデジタル著作権保護(Digital Right Management)のスキームを実装している必要がある。AACSは、IBM、Intel、Microsoft、松下電器産業、ソニー、東芝、Walt Disney、Warnerの8社により創設されたAACS LAが規定するDRMで、DVDで発生した失敗を教訓として、より強固なDRMを実現すべく作られた。

 AACSでは、コンテンツの保護だけでなく、コンテンツの出力にも注意が払われている。これまでのコラムで述べてきたように、デジタル出力に関してはHDCP(High-bandwidth Digital Content Protection)による保護が必須であり、アナログ出力に関してもいくつかの制限がかかることになる。アナログ出力に関しては、2010年12月31日までは暫定的に販売されることが認められるものの、2011年1月1日以降に関して製造されたプレーヤーではSビデオやコンポジットなどのSD解像度にのみ出力することが認められる。

 加えて、2013年12月31日までは製造/販売が認められるが、それ以降に製造されるプレーヤーに関してはアナログ出力を設けることは一切認められないことになる。

 なお、2011年以降のHD解像度のアナログ出力(アナログRGB、D端子、コンポーネント端子)、2014年以降のSD解像度のアナログ出力で、コンテンツが表示できるかどうかは、コンテンツの設定に依存するようになる。AACSではコンテンツを供給する側(コンテンツホルダー)により、コンテンツを出力するポートを選択することができるようになっている。それがICT(Image Constraint Token)と呼ばれる仕組みで、メディアなどに書き込まれたICTのビット設定により、アナログ出力とデジタル出力の両方を可能に、デジタル出力のみを可能に、と設定することができるようになっている。

 このICTのスキームは、日本では2010年12月31日まで導入が見送られる。これはAACSの規定で、2010年末までICTが利用可能かどうかは各国の放送の規定などに依存するとされているためで、日本ではARIB(アライブ、社団法人電波産業会)の運用規定で放送事業者がICTを利用することが許されていないため、2010年12月31日まで導入されないのだ。

AACSによる出力端子の対応スケジュール。2010年末まではアナログ端子も制限無く利用できる
ICTの仕組み。コンテンツ側で規定されているICTの設定によりアナログ端子での再生の可否が決められる
 

●デジタル出力する場合にはHDCPに対応したディスプレイが必要

 現在、PCに実装されている映像出力端子は次のようなものがある。

DVI-D
HDMI
DVI-I
D-SUB15ピン(アナログRGB)
D端子
コンポーネント端子
Sビデオ端子
コンポジット端子

 すでに述べたとおり、とりあえず、2010年末までという限定は付いているが、アナログ端子に関しては、すべて問題なく次世代DVDが利用できる。問題となるのは、デジタル出力のDVI-D端子だ。HDMIは標準でHDCPに対応しているが、DVI-DはHDCPに対応していないものがほとんどだからだ。

 忘れてならないことは、HDCPに対応している必要があるのは、何もPC側だけではないということだ。ディスプレイもHDCPに対応している必要があるため、HDCPに対応していないディスプレイを所有している場合、ディスプレイも買い換えるか、アナログRGBを利用しなければならない。PCの場合、ビデオカードをHDCP対応のものに取り替えるということが不可能ではない。しかし、ディスプレイの場合は端子だけを交換というわけにはいかないので、デジタル出力を使いたい場合には、ディスプレイそのものを買い換える必要があるのだ。

 仮に買い換えたいとしても、選択肢が少ない。実際、量販店などでディスプレイを購入しようと調べてみると、HDCPに対応したDVI-D端子を備えたPC用ディスプレイはほとんどない。ソニーはtype R液晶セットモデルの標準ディスプレイとして、「SDM-HS95P/RV」というHDCPに対応した19型液晶をバンドルしているほか、20型と17型の2つのモデルを用意しているが、やはりまだまだ少ないのが現状だ。

 逆に言えば、仮に今後ディスプレイを買い換えようと考えているのであれば、HDCPに対応したDVI-D端子を必須要件に入れておいた方がよい。

PCにおける次世代DVDの再生可否。出力端子やディスプレイがHDCP対応かなどにより再生できる場合とできない場合がある

●COPPに対応したディスプレイドライバに対応したビデオカードが必須

 アナログ出力は2010年末までは制限がないとはいえ、次世代DVDのドライブをPCに実装すれば、すべてのPCでHD解像度での再生が可能であるかと言えば、実際にはそうではない。出力先が、アナログであるのか、HDCPに対応したデジタルであるのかに関わらず、ビデオカードにはCOPP(Certified Output Protection Protocol、コップ)と呼ばれる仕組みをサポートしたディスプレイドライバに対応したGPUが必要になるからだ。

 これは、再生プレーヤーとなるInterVideoの「WinDVD BD」や「WinDVD HD」といった再生プレーヤーソフトウェアが、COPPのスキームを利用して再生を行なうためだ。再生プレーヤーは、COPPに対応したディスプレイドライバがある場合のみ、コンテンツを再生することができるようになっているからだ。

 なぜこうした仕様になっているのかというと、ディスプレイドライバがCOPPに対応している場合のみ、HDCP未対応のDVI-Dに出力させないという制御が可能になるためだ。なお、COPPはWindows XPのSP2以降で利用可能で、ドライバもATI、NVIDIAのCOPP対応最新版が必要になる。NVIDIAを例にとると、ForceWare 80以降がCOPPに対応している。

 なお、VAIO type Rには、すでにHDCPに対応したGeForce 7600 GTが搭載されている。すでにNVIDIAも、ATIも、HDCPに対応したデザインガイドをビデオカードベンダに配布しており、アフターマーケット用のビデオカードも今後HDCPに対応したビデオカードが登場してくるだろう。

 まとめると、次世代DVDを再生する環境としては、下記のようなものが必要になる。

・COPPに対応したドライバを持つビデオカード
・デジタル出力を利用するならHDCP対応のビデオカードとディスプレイ
・BDないしはHD DVDドライブ
・再生ソフトウェア(ドライブに付属することが多い、今のところ単体販売はない)
・Windows XP SP2

以上の要件を満たすPCであれば、(性能面は別として)基本的には次世代DVDの再生が可能になる。

VAIO type Rのビデオカード部分。片側のDVI-D出力がHDCP対応となっている VAIO type Rに搭載されているBD-R/REドライブ

●ARIBの運用規定がAACS対応へ見直し

 新しいVAIO type Rでは、デジタル放送の録画データをHD解像度のまま、BD-REにムーブする機能が搭載されている。このムーブされたデジタル放送は、BD-AVと呼ばれる、DVDで言えばDVD-Videoのような形式で記録され、VAIO type RのWinDVD BDや今後発売される家電のBDプレーヤーなどで再生することが可能になっている。

 なお、BD-REにムーブされたデジタル放送のコンテンツは、他のBDコンテンツと同じようにAACSにより保護される。PCベンダの関係者によれば、すでにARIBでは運用規定の見直しが行なわれ、デジタル放送コンテンツの保護スキームとしてAACSを利用することが認められているという。

 これにより、これまではPCからデジタル放送をHD解像度のまま再生しようとすると、HDCPに対応したDVI-D端子かHDMIが必須だったのだが、BD-REにムーブした場合、以降はAACSのルールでの運用になるので、BD-ROMを再生する場合と同じように、アナログRGBに出力している場合でもHD解像度での再生が行なわれることになる。

●依然として課題が残るH.264/MPEG-4 AVCの再生性能

 ただし、依然として未解決の問題もある。それは、H.264/MPEG-4 AVCフォーマットで記録されたBD-AVを再生する場合の性能だ。NVIDIAのPatrick Beaulieu氏(Product Marketing Manager, PureVideo Technology)によれば、「現状では、Athlon 64 FX-60を利用しても、20Mbpsが限界に近い。それ以上のビットレートの場合は、コマ落ちが発生する」という。

 ATI、NVIDIA、両社ともにH.264/MPEG-4 AVCアクセラレーションの機能をすでにGPUに実装しており、最新ドライバを利用することでそうした機能を利用することが可能になっている。しかし、それを有効にした場合でも、20Mbpsが限界だというのだ。ただし、NVIDIAのBeaulieu氏は「当初はハリウッドが出すコンテンツも16Mbpsあたりが平均ビットレートになるので、さほど大きな問題にはならない」と、最初の世代ではさほど大きな問題にはならないだろうと考えているようだ。

 だが、Blu-rayの仕様上、H.264/MPEG-4 AVCのビットレートは最高で40Mbpsまで認められており、今後そうしたコンテンツが登場する可能性がある。また、平均で16Mbpsだったとしても、ピーク時には20Mbpsを超える場合があることも容易に想像できるだけに、今後問題となる可能性はある。

 この問題の解決策は、今のところない。根本的にはCPUの処理能力を今よりも高めていくしかないのだが、暫定的な解としては、DVDの初期にも登場したハードウェアデコーダチップを実装することだろう。

 例えば、PCIバスカードのような形でH.264/MPEG-4 AVCのデコーダチップを実装するということは不可能ではない。ただし、その場合には、GPU側から動画を制御することができないので、何らかの形でGPUの出力とデコーダの出力をマージする必要があり、容易ではないのも事実だ。

 ただ、デコーダチップ自体のコストはわずか数ドルと言われており、高性能なCPUよりも安価に実装できることは事実で、今後そうしたことにチャレンジするベンダが登場してくる可能性はあると言えるだろう。

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(2006年5月16日)

[Reported by 笠原一輝]


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