第335回
自作ハイビジョンビデオをDVDで



 東芝から1層15GB、2層で30GBとなるHD DVD-Video規格の再生をサポートするプレーヤー「HD-XA1」が発売された。HD DVDの再生が可能なPCも、既に東芝から発表されており、レコーダに関しても初夏の発売が期待されている。

HD-XA1

 今後は対立するBlu-ray Disc(BD)を支持するメーカーからも対応製品が発売されることだろう。松下電器からCD/DVD/BDのマルチライティングが可能なドライブの発売がアナウンスされ、近くそれを搭載するPCも発表されると見られる。録画専用機への搭載は年末商戦向け製品からと見られるが、こちらも材料が揃ってきた。

 さて、ここで個人的に気になるのが「物理的な記録はDVD、中身はHD DVDやBDのビデオ規格と同等」といった、かつてのSuper Video CD(SVCD)と同じようなディスクを作れるかどうかだ。

 結論から言えばHD DVDに関しては、SVCDと同じような考え方のディスクを作ることができる環境が既にあり、HD-XA1での再生も可能だ。BDに関してはまだだが、いずれはそうした記録が可能なオーサリングツールが登場してくるだろう。

 しかし、規格化と再生互換の保証という意味では、まだいくつかのハードルがある。両規格にはDVD-ROMを用いて市販のHDビデオディスクを作るための規格が存在するが、記録型DVDにそのまま記録するにはDVDの規格そのものに手を加える必要があるからだ。

●次世代光ディスク形式でDVDに記録する際の問題とは

 まずHD DVDやBDで使われているファイルシステムやアプリケーションフォーマットについて整理しておこう。両規格におけるフォーマットを表でまとめてみた。

  HD DVD Blu-ray Disc
  HD DVD-ROM HD DVD-RW HD DVD-R BD-ROM BD-RE BD-R
ビデオ規格 HD DVD-Video ROMと互換性のある方式で検討中 ROMと互換性のある方式で検討中 BDMV ROMと互換性のある方式で検討中 ROMと互換性のある方式で検討中
録画規格   HD DVD-VR HD DVD-VR   BDAV BDAV
ファイルシステム
UDF 2.5

 DVDではVideo規格互換のアプリケーションフォーマットでDVD-RやDVD-RWを作成すれば、ほとんどのプレーヤーでそのまま再生することができた。同じ事はHD DVDやBDでも可能になる。ただし、現在は記録型ディスクにおける規格としてサポートはしていない。

 そこでDVD ForumでHD DVDの、BDアソシエーションではBDの記録型ディスクに対して、ビデオ規格互換での書き込みをサポートするためのワーキングループが走っている。これらの作業は数カ月内にすべて完了する予定だが、それまでは正式なサポートにはならない。

 特にBDの場合、BDマーク(ROMディスクにしか記録されないアナログの識別信号)がないビデオ規格のディスクは再生しないという規定があるため、規格化前にBD-R/REにBDMVで記録を行なっても、そのままでは再生させないようプレーヤーが開発されている可能性がある。

 もっとも、この程度であれば時間が解決する。ROM以外のメディアタイプでも、ビデオ規格と同じナビゲーション機能を利用可能にするか否かの問題だけだからだ。現在、議論されているのは、物理的にはDVDと同じ1層4.7GB、2層8.5GBで記録する場合の話である。

 HD DVDやBDには、物理的にはDVD-ROMと同じ記録方法ながら、ファイルシステムやアプリケーションフォーマットのみ次世代光ディスクと同じ、つまりHD DVD-VideoやBDMVとすることで、容量が小さくても良い短編アニメなどを安価にパッケージ化するための規格がある。HD DVD9、BD9といった規格がそれに相当する。

 HD DVD9についてはDVD-ROMにHD DVD-Video規格に沿ったデータが書かれたものであり、とてもシンプル。記録型DVDにHD DVD-Videoでオーサリングしたイメージを書き込めば、そのまま自作も“できそう”だ。が、しかしこちらも規格化にまでは至っていない。

 BD9の場合は少々事情が異なる。BD9には前述のBDマークも含まれており、アナログ記録の識別信号(記録型DVDドライブでは書き込めない)がないと再生できないなど、通常のBD-ROMと同じ著作権保護の仕組みが組み込まれている。このため、BDマークがなくとも著作権保護されていない映像の場合は、BDマークのない記録型DVDからでも再生できるよう、規格定義が必要になるとの事だ。

 なんだ、それでは物理層が違うだけで、事情は同じ。グレーゾーンで使う上では記録型DVDを活用できるんじゃないか、と思う人もいるだろう。DVDの1層でも、19MbpsのMPEG-2ならば30分は記録できる。H.264やVC-1といった高効率コーデックを用いれば1時間ぐらいを収めることも不可能ではない。テレビ番組や映画などはともかく、プライベートで撮影したビデオを収めるならば十分に使い道がある。

 しかし、実はファイルシステムにおいて互換性の問題がある。次世代光ディスクはいずれもビデオ規格の記録にUDF2.5を用いるが、記録型DVDにおけるファイルシステムはUDF2.01までしかサポートしていない。記録型DVDに対するUDF 2.5での書き込みを正式サポートするには、DVD側の規格を変更せねばならず、そうすると互換性検証などで既存のDVD製品に対する影響が非常に大きい。

 記録型DVDとひとくくりに話をしているが、実際には数多くの種類が存在し、それぞれについて、どこからどこまでサポートするのかなど、きちんと“規格化”するには複雑な要素が絡み合い過ぎている。

●しかし、もちろん不可能ではない

 もっとも、上記の話は“技術的に無理”という話ではない。現行の記録型DVDに対してUDF2.5をファイルシステムとするボリュームを作成することは可能だ。

 規格上、記録型DVDでHD DVD-VideoやBDMVを扱うためのスペックは定義されていなくとも、実際に書き込んでしまえば、プレーヤー側で“記録型DVD+UDF2.5”の組み合わせを“使えない”と判断してイジェクトしなければ、ほとんどの場合は再生できる。まさにSVCDライクな使い方だが、そうしたボリュームを作成するためのオーサリングソフトも市販されている。

 Windows用ならばDVD Movie Writer、Mac OS用ならばDVD Studio Pro(FinalCut Studioにバンドル)を用いることで、HD DVDのオーサリングを行ない、DVDに対してHD DVD-Videoのボリュームを書き込むことができる。もちろん、ファイルシステムはUDF2.5だ。

 筆者も、手持ちのDVD Studio Proを用いて、HDVカメラからのキャプチャをソースに、お手製のHD DVD5を作ってみた(最新版のパッチが必要。古いバージョンではHD DVD-Videoの規格が古く正常にメニューが機能しない。また、スタンダードコンテンツのみのオーサリングで、iHDを用いたインタラクティブメニューの設計は行なえない)。

 DVD Studio Proとセットで使うCompressorという圧縮ツールは、HD DVD向けのプリセットとしてMPEG-2とH.264をサポートしている。そこで少しでもビットレートを低く抑えようとH.264を選んでみたが、残念ながらQuickTimeのH.264コーデックはインターレース映像の圧縮をサポートしておらず、また1080pの圧縮も行なえないようだ。

 ということで、HDV(横1,440ピクセルの1080i)の映像をVBR 19Mbps(最大27Mbps)で圧縮し、メニュー付きの“HD DVD5もどき”とした。19MbpsにしたのはCompressorのプリセットとしてHD DVD用に用意されていたからだが、試しにビットレートを上げてみるとコマ落ちが発生する事があった。

 作成した“HD DVD5もどき”は、Mac OS XのDVDプレーヤー(HD DVD-Videoのスタンダードコンテンツ再生に対応済み。iHDを用いるアドバンストコンテンツは再生できない)で再生可能なのはもちろん、東芝のHD DVDプレーヤー「HD-XA1」でも問題なく再生できた。

●記録型DVDへのHD映像記録、正式サポートを

 さて、現時点でHD映像ソースを、自宅のコンピュータでオーサリングしようとするとさまざまな問題がある。現時点で数少ないオーサリングツール(HD DVD-Video対応ソフトはあるが、BDMVに対応した消費者向けのツールはまだない)は、さほど遠くない未来に揃ってくるだろうが、まずはプロセッサパワーがかなり不足している。

 たとえば今回、テストで作成したビデオクリップは、僅か2分21秒と短いものだったが、MPEG-2での圧縮時でおよそ20分ほどかかっている(PowerMac G5/2.5GHz Dual、メモリ2.5GB)。さらに720pにダウンコンバートしながらH.264のVBR 8Mbpsへの圧縮も試してみたが、こちらは6時間余りの時間が必要だった。

 MPEG-2ならば、30分のディスクを作るために一晩寝かしておけば出来上がる感覚だが、H.264ではそうもいかない。おそらく演算が簡素化されているVC-1ならば、H.264よりもかなり高速に圧縮できるだろうが、それにしてもお手軽に使えるというものではない。

 とはいえ、処理速度の不足は

・ひたすら我慢し、バックグラウンドタスクで動かして待ち続ける
・そのうちプロセッサが速くなる
・エンコーダのパフォーマンスも良くなる
・買い換えるのがイヤでも、とりあえず待てば圧縮はそのうち終わる

とまぁ、他に選択肢がない以上、忍耐でなんとかならなくはない。

 しかし、BCNによる集計を見ると、HDVカメラがデジタルビデオ市場全体の2割近くを占めている事を考えると、今後はHD映像をビデオディスクに編集して配布したいというニーズも増えてくる事は間違いない。今年の年末を過ぎ、来年の卒業・入学シーズンになれば、さらにHDVカメラユーザーが増えてくるハズ。

 30分ほどの短時間記録だけでも、DVDというこなれた媒体を使ってビデオディスクを作れれば、ユーザーとしてはありがたい。HD DVD、BDを問わず、記録型DVDへのHD映像ディスク作成を可能にするための規格策定をきちんと行なって欲しいものだ。

 もちろん、ディスクを作ってもそれを再生するプレーヤーがなければならないが、おそらく著名なソフトDVDプレーヤーのほとんどは、そう遠くない日に両規格の再生機能をサポートするだろう。再生ソフトさえあれば、PCの画面上だけでも作成したディスクを楽しめる。

 何もレーザー光線が青くなることだけが次世代ではなかろう。重要なのは中身がHDになること。そう考えれば、物理的な記録レイヤーがDVDのままという、やや中途半端な規格の策定にも力を注ぐ事に抵抗はないはずだ。

 SVCDのような“グレーゾーン”のままで放置するのではなく、機器を開発する側主導で互換性を確保できるような動きを願いたい。

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【4月21日】松下、2層50GB書き込み対応の内蔵型Blu-ray Discドライブ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0421/pana.htm
【4月6日】HD DVDプレーヤー初号機「HD-XA1」を試す(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20060406/hddvd.htm
【3月31日】東芝、HD DVDプレーヤーを3月31日発売(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20060331/toshiba1.htm

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(2006年4月26日)

[Text by 本田雅一]


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