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Fab 36のリスクとチャンス




●5年毎に新Fabを必要とするAMD

サンダース元CEO
(2000年来日時)

 「Real men have fabs(真の男ならFabを持つ)」

 これは、AMDの元CEOだったJerry Sanders(ジェリー・サンダース)氏が言ったと伝えられる有名なセリフ。AMDは、ウェハFabを持つ半導体メーカーとして存続して来ており、それが、AMDの競争力の根幹となっている。そして、AMDは、今、新しい「Fab 36」を立ち上げることで、製造能力を増強する。2008年には最大で年間1億個のCPU製造キャパシティを実現する。これは、PC市場の50%シェアを意味するキャパシティだ。

 AMDにとって製造キャパシティの増強は最重要課題だ。Intelに対して、競争上不利な立場に立たされている大きな原因の1つが、製造キャパシティの不足だからだ。キャパシティの制約から一定以上にシェアを増やすことができない。しかし、Fab 36でシェアを拡大できるだけの製造キャパシティを持つことで、Intelに対抗するのがAMDの現在の戦略だ。

 しかし、現在の最先端Fabは、建造にとてつもない投資が必要となる。AMDの新Fab 36のような300mmウェハで大型のFabは、建造コストだけで約20〜30億ドルと言われる。実際には、さらに製造ラインの設備コストやプロセス技術のR&Dコストが10〜30億ドルもかかる。そのため、立ち上げには合計で30億ドル以上のコストを見込む必要があると言われる。

 AMDは、膨大な投資を必要とするFabを、そうそうは建てることができない。そこで、AMDは約5年置きに新Fabを建造するサイクルで、つないでいる。これは、Intelとの大きな違いだ。Intelは現在新旧合わせて約15のFabを稼働させており、最新プロセスのFabも複数個持つ。

 AMDのFabナンバーは、AMDの設立年から数えて何年目に操業を開始したかを表している。現在のFab 30は、創設から30年目に当たる'99年に操業を開始したことを示す。新しいFab 36は2005年操業を示す。Fab 30の前のロジック系FabはFab 25で、ほぼ5年サイクルであることがわかる。

 Fabは建設時に通常3〜4世代程度のプロセス移行を見込んだスペックで建設する。当初の設定を超えたプロセスに対応し続けるのは技術的な限界があると言われる。そのため、先端ロジックを手がける半導体ベンダーは、1つのFabを数プロセス世代に渡って使い、それ以上は別なFabを建てる。既存のFabは、一線から外した後は1世代遅れたプロセスで対応できるメモリなどの製造に流用するという方式を取っている。AMDも同様で、5〜6年サイクル(プロセスでは3世代)で新Fabを建設し続けなければならない。

AMDのプロセス技術&Fab推定ロードマップ
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●これまでにないクイックスタートのFab 36

 AMDはもともと、65nm以降の主力Fabは、台湾ファウンダリUMCとの合弁会社(50%ずつ)で、シンガポールに建設する予定だった。合弁にすることで投資を抑え、プロセス技術の開発などでも協力することでトータルなコストを下げることが目的だった。しかし、AMDは結局、IBMとのプロセス技術アライアンスに参加、独ドレスデンのFab 30の隣に、単独でFab 36を建造することにした。

 AMDは、ドレスデンでのFabでは、地元政府からの経済的な優遇を期待できる。しかし、AMDは、Fab計画の変更のため、Fab 36は急いで立ち上げる必要に迫られた。約5〜6年というFabサイクルを維持するためには2005年には操業を開始する必要があった。

 AMDによると、Fab 36のこれまでの立ち上がりは非常に良好で、AMDの歴史上最も迅速に整いつつあると強調する。実際、AMDのFab 30の時の立ち上げと比較すると、Fab 36のスピード立ち上げは明瞭だ。下が、両Fabの立ち上げを比較したチャートだ。

AMD Fabs Chronology
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 Fab 36は2003年の11月に起工し、約1年後の2004年11月にクリーンルームが完成し、製造装置の設置を開始、翌2005年の3月にはもう90nmのテストプロダクトを走らせている。そして、2006年3月には、CPUで最初の売上げ出荷を果たした。起工から約2年半で、実際のアウトプットまで持って行ったことになる。今年中盤以降には、Fab 36製のK8が市場にも出てくる見込みだ。

 それに対して、Fab 30の起工は'96年10月、装置の設置は'98年5月。Fab 36よりも設備の導入までのペースが遅いうえに、この時に導入されたのは試験製造のための250nmプロセス向けの装置で、本格製造の180nmの装置ではなかった。

 AMDは、Fab 30の立ち上げには、極めて慎重に臨んだ。まず、250nmと220nmプロセスでFabを回して慣らし、本番製造の180nmを導入したのは1年後の'99年夏。量産を開始したのは2000年に入ってからで、2000年中盤になってようやく製品をカスタマ出荷している。起工から出荷まで3年半かかっている。つまり、Fab 36は、Fab 30と比べると1年早く本格稼働し始めたわけだ。

AMDの説明会で示された生産歩留まりのチャート

 Fab 36の立ち上げが早い理由はいくつかある。1つ明瞭なのは歩留まりで、AMDが示した歩留まりチャートを見ると、Fab 36の90nmプロセスは、立ち上げ時から成熟した歩留まりでスタートしていることがわかる。これは、AMDの歩留まりやFab管理の技術が向上したことと関連している。また、Fab 36の立ち上げでは、すでにFab 30で稼働しているのと同じ90nmプロセスでスタートしたことも影響していると思われる。


●300mmウェハを使うFab 36の製造能力

 AMDはFab 36により製造能力の増強と製造コストの低減を図る。Intelに対抗してCPUの出荷数を増やし、低コスト&高マージンにするために、Fab 36は重要だ。

 Fab 36が製造キャパシティとコストに貢献するのは、Fab 36の概要を見ればよくわかる。

 シリコンFabで製造能力の比較の基本になるのは、クリーンルーム面積。AMDの新旧のFabのクリーンルーム面積はFab 30が15万平方フィート、Fab 36が14万平方フィートとほぼ同じ。つまり、基本的な規模としては、Fab 30とFab 36で同程度となる。

 しかし、製造能力は、かなり異なる。AMDによると、Fab 30が200mmウェハで3万ウェハ/月(wafer starts per month)、Fab 36が300mmウェハで2万ウェハ/月。同規模の工場なのに、ウェハスタート枚数がFab 36の方が少ない主な理由は、ウェハサイズだ。同じフットプリント(設置面積)なら、300mm対応装置の方が200mm用装置よりウェハの生産性が落ちると言う。しかし、ウェハサイズが大きいため、製造能力はFab 36の方が大きい。

 口径が200mmの従来のウェハと比べると、300mmウェハでは1枚のウェハから製造できるチップ個数が一気に増える。同じく300mmウェハを使うIntelの試算では、300mmウェハは200mmウェハと比べて、有効表面積は225%に増えるという。製造できるチップの数はウェハ1枚当り、最大で240%増大するとIntelは試算する。そのため、Fab 36の生産能力を200mmウェハ換算にすると、計算上は45,000〜48,000ウェハ分の製造能力となる。

 つまり、同じダイサイズ(半導体本体の面積)のCPUを製造するなら、Fab 36の方がFab 30の1.5倍の数を生産できることになる。逆を言えば、同サイズのダイの製造コストは、単純計算で30%減る。Intelのコスト試算でも、300mmウェハ化で30%のコスト低減となっている。ただし、300mm Fabの方が200mm Fabよりも投資額が大きい。そのため、最初は、コスト低減は、ある程度削られてしまう。

●リスクとチャンスがある300mmウェハFab

 300mmウェハ化によるコスト低減は、AMDだけに働くのではなく、ライバルIntelのFabについても同じことが言える。Intelは、130nmプロセスから300mmを導入しており、AMDはむしろ出遅れていた。そして、AMDはそのために、Intelに対して潜在的に競争上の不利を抱えてしまっていた。

 Intelは300mmウェハへの移行によって、200mmウェハ時代と比べると少ない数のFabでx86市場に供給が可能になった。製造コストも下がっているはずで、Fabの減価償却でも有利になっている。Intelが、ダイサイズが2倍になるデュアルコアへの移行を加速できるのも、大きな製造キャパシティとダイ面積当たりのコストの低減が背景にあるからだ。

 こうした事情から、AMDも新Fabは300mmウェハにせざるをえなかった。しかし、300mmウェハFabへの移行は、AMDにとってチャンスでもあり、リスクでもある。

 リスクとしては、300mmウェハ化で1 Fab当たりの製造量が増えるため、それに見合う市場シェアを必ず取らなければならない。5年ほど前に、AMDのあるスタッフは「300mm Fabは製造量が増えてしまうため、Intelくらいの規模でないと難しい」と、その点を指摘していた。同じ製品ミックスなら、Fab 30で4,500万個のCPUを製造していたのが、300mm Fabでは6,700万個も製造できてしまう。市場シェアを1.5倍に伸ばさなければならない。

 半導体Fabの場合、フルに稼働して減価償却をして行かないと、投資分が無駄になってしまう。そのため、キャパシティを使い切るだけの市場を開拓する必要がある。AMDが、最初はUMCとの合弁を考えていたのは、自社だけでは300mm Fabの製造キャパシティを使い切ることができないと考えていたからだろう。

 しかし、1社だけでFabを建てたことで、AMDは、市場を獲得できなかった場合に、キャパシティが余り、Fabの減価償却が進まず、首が回らなくなるというリスクを背負い込んでしまった。

 チャンスはその逆で、AMDは物理的に市場シェアを1.5倍に増やすことが可能になる。あるいは製品ミックスを変えて、よりダイサイズが大きいデュアルコアや大容量キャッシュCPUの比率を増やすことができる。また、相対的に製造コストが下がるため、価格競争に強くなる。積極策に出るのなら、300mm化によって大きなチャンスを得たことになる。

 つまり、AMDは300mmウェハの採用によって、大きなリスクと大きなチャンスという、大ばくちを打つことになったわけだ。

●伸張するAMDのx86 CPUシェア

 そして、現在のAMDにとっては、300mm Fabのキャパシティは、むしろチャンスの要素の方が大きいように見える。AMDが伸び悩む日本市場からは見えにくいが、全世界的に見ると、AMD CPUがシェアを再び伸ばしているからだ。AMDの2005 Annual Reportでは、Mercury Researchの引用で2005年の市場シェアはデスクトップで24.3%に達したとしている。

 Intelの動向も、AMDの急伸長を裏付ける。IntelがAMDに対して警戒心を強めており、顧客に対して対抗策を次々に打ち出しているからだ。Intelは先週、顧客に対して大幅なCPU価格の引き下げを通知した。その結果、Celeronのローエンドは50ドルぎりぎりのラインにまで落ちる。IntelのCPU価格のボトムが50ドル前後に下がるのは、Intelが以前、AMDのDuronに対抗して引き下げた時以来だ。量の出るところは価格を徹底的に下げて市場シェアを維持しようという動きに見える。Intelの低価格戦略は、イコールAMDの伸張が著しいことを示しており、この段階でのAMDの増産計画は脅威に違いない。

 だが、AMDの野心は、1.5倍の生産量というおとなしいビジョンにとどまらない。

 現在の予定では、最終的に下の図のように2008年には最大1億個のCPU生産を目指している。これは、Fab 30でしばらくはCPUを継続生産する分と、ファウンドリChartered Semiconductorに製造委託する分を含めた数字と見られる。つまり、Fab 36でまかなう以上の生産能力を手に入れることができるようにしようとしている。

 このチャートは、2005年11月のAnalyst Dayの時のものだが、同じチャートを日本AMDが4月18日に開いたプロセス技術と製造能力の説明会でも使っていたので、計画に変更はないと見られる。

Executing for Maximum Advantage
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 1億個という数字には大きな意味がある。それは、2005年のPC市場(x86系サーバーも含む)のサイズが2億台程度だったからだ。例えば、「IDC Worldwide Quarterly PC Tracker, March 2006」を見ると、PC&x86サーバーの2005年の出荷台数は2億760万台となっている。他のリサーチファームの数字もほぼ同じレベルなので、年間2億個のx86 CPUの市場があることは確実だ。予想では2006年以降も微増を続け、2007年には2億5千万を超える見込みだ。

 つまり、AMDが2008年に1億個のCPUを生産できれば、AMDは最大で市場シェアの40%程度を握ることができるようになる。x86市場がもし伸び悩んで2億台程度に留まれば、シェアは50%。ちなみに、AMDのこれまでのx86 CPU市場シェアは、AMDの統計によると以下の通り(AMDが2005年6月27日に、米デラウェア連邦地方裁判所に出した訴状から)。

2000 16.7%
2001 20.2%
2002 14.9%
2003 15.5%
2004 15.8%

 2005年は再び20%に達したと推定される。とすれば、Fab 30の製造キャパシティはフルに使い切っていると推定される。20%台が、これまでのAMDの限界だった。

 AMDはFab 36を軸としたCPU 1億個計画で、こうした制約を打ち破るつもりでいる。うまく行けば、AMDはIntelに対抗できるだけの市場を手に入れることができる。しかし、うまく行かなければ、Fabの減価償却で苦しむことになる。

□関連記事
【4月25日】【海外】AMDがプロセス技術で水を開けられていた理由
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0425/kaigai264.htm
【4月24日】【海外】CPUコアの設計が一新される65nm版K8
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0424/kaigai263.htm
【4月18日】2008年に年間1億プロセッサの製造を目論むAMDの製造手法
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0418/amd.htm

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(2006年4月27日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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