Intelは3.73GHz動作のデュアルコアCPU「Pentium Extreme Edition 965」を投入する。デュアルコアCPUとしては最高動作クロックとなり、ようやくシングルコアのPentium 4 Extreme Edition 3.73GHzに並ぶことになる。そのパフォーマンスを見てみたい。 ●エラッタを解消した新ステッピングを採用 まずは、Pentium Extreme Edition(以下、Pentium XE) 965のスペックだが、基本的には表1のとおり、Pentium XE 955から動作クロックを引き上げたのみとなり、Hyper-Threadingも有効にされている。TDPは130W枠で、同社のPlatform Compatibility Guideでは「05B」に該当する。
当然のことながらLGA775パッケージを使用しており、エンジニアサンプル(ES)版ということもあって、刻印も含めて外観に大きな変化はない(写真1、2)。
ただし、今回のサンプルには、Pentium XE 955とは異なるCPUクーラーが付属している(写真3、4)。違いは2つ。1つはファンで、Pentium XE 955に付属したCPUクーラーには日本電産(Nidec)製のファンが搭載されていたが、Pentium XE 965では山洋電気製のファンを搭載している。もう1つはヒートシンクの形状で、銅製の中央部分、アルミ製のフィン部分のいずれも形状が異なっている。 実際に使い比べてみると、低回転時こそ騒音の違いはさしてないが、回転数が上がるにつれて、Pentium XE 965に付属してきたCPUクーラーのほうが騒音がうるさくなる。ヒートシンクの形状の違いもあるので、それに合わせて最高回転数が高く設定されているためと思われる。リテール品を購入するさいにボックスを見る機会があるならば、付属するファンのメーカーもチェックすることをお勧めしたい。
スペック上はクロック以外に違いのないPentium XE両製品であるが、CPU-Z 1.32.1の結果を見ると、ステッピングが異なっていることに気が付く(画面1、2)。既報のとおり、PreslerコアのPentium Dは、動作電圧可変に関するエラッタを解消しEnhanced SpeedStepやEnhanced HALT(C1E)ステートを有効にした、C-1ステッピングの投入が決まっている。 Pentium XE 955については、この新ステッピングへの移行についてのアナウンスはいまのところ表明されていないが、とりあえず今回試用しているPentium XE 965のES品では、新しいC-1ステッピングが利用されている。
●クロックアップの効果をベンチマークで検証 それでは、Pentium XE 965の性能をベンチマークで見てみたい。用意した環境は表2のとおり。今回のポイントは、Pentium XE 955と比べてクロックアップの効果が素直に出るかどうかという点と、Pentium XE 955がややビハインドを背負っているAthlon 64 FX-60に対して、どこまで迫れるかの2点といえるだろう。
●CPU性能 まずはSandra 2005 SR3の「CPU Arithmetic Benchmark」と「CPU Multi-Media Benchmark」の結果である(グラフ1)。Pentium XE 965の動作クロックは、955からおよそ7.7%向上しているが、結果も約7.6~8.3%増といったところで、おおよそクロックどおりのスコアを出している。純粋な演算性能のとして、素直な結果である。
PCMark05のCPU Test(グラフ2、3)も、Pentium XE 955に対して順当にスコアを伸ばした。Athlon 64 FX-60との比較でいえば、Pentium XE 955が不得手としていた部分でも、Athlon 64 FX-60に迫っている。 Pentium XE 965がAthlon 64 FX-60に対して1割以上低いスコアを出したテストはシングルタスク(グラフ2に示した結果)状態で実施されるAudio Compressionのみとなっており、クロックアップの効果がはっきり実感できる結果といえるだろう。
●メモリ性能 続いてはメモリ性能である。テストはSandra 2005 SR3のCache&Memory Benchmarkである。いつも通り、グラフ4に全結果、グラフ5に一部結果を抜粋したものを掲載している。 L1/L2キャッシュに収まる1MB以下のサイズを転送する条件では、動作クロックに応じた結果を見せている。キャッシュサイズ限界のところでも極端な速度低下なども見られず、この点については、現状の環境でも安心して使えそうである。 ただ、実メモリを使う4MB以上の条件では、若干ながらPentium XE 955のほうが転送速度が速い結果となった。致命的といえるほどの差ではないが、4MB以上の条件では全域に渡って同じ傾向が続いており、今後のチューニングに期待したい点だ。
●アプリケーション性能 次に、実際のアプリケーションを利用したベンチマーク結果を紹介したい。テストは、「SYSmark2004」(グラフ6)、「Winstone2004」(グラフ7)、「CineBench 2003」(グラフ8)、「各種エンコードテスト」(グラフ9)、「Intel Multitasking Scenario Builder」(表3)である。 ちなみに、以前にPentium Extreme Edition 955の記事において、SYSmark2004の3D Creationの結果が著しく低いスコアであることに触れたが、これは、ForceWare 81.95との組み合わせに原因があるという報告を、後にIntelからもらった。今回、ForceWare 84.20を使ってみたところ、順当な結果を見せており、ようやくまともに評価ができる状態になったといっていい。 だが、この状態でもPentium XE 965は苦戦している印象だ。SYSmark2004以外のテストにおいても、Pentium XE 965がAthlon 64 FX-60を上回ったテストはあまり多くない。 ただ、Pentium XE 955との比較でいえば、アーキテクチャや諸仕様に変更なくクロックだけが上げられているので、その効果はかなり安定している。Pentium XE 955でAthlon 64 FX-60に劣るスコアだったものがPentium XE 965になって逆転する、という劇的な箇所はCineBench2003のマルチCPUレンダリングとIntel Multitasking Scenario Builderに限られるものの、もともと秀でていた部分では差を広げており、Athlon 64 FX-60に対し、より拮抗した性能を出せるCPUとはいえる。 ちなみに、グラフ9に示したエンコードテストの結果のうち、DivX6.1.1の結果がPentium XE 955の方が速いという不思議な結果が出ている。条件を変えて比較し直したりもしたのだが傾向に変化はなく、しかもHD解像度のエンコードでは問題がない。 この点について、あくまで推測ではあるのだが、DivX側がCPUを細かく判断して利用できるフィーチャーを活用し、最適化を行っているのではないかと考えられる。つまり、新しいC-1ステッピングを正しく解釈できなかったために最大限の速度が発揮されなかった一方で、HD解像度のエンコードでは負荷が重すぎて動作クロックの差が結果として出たというわけである。この推測が正しいかどうかは後々のDivXのアップデートによるのだが、ともかくCPUとは別の部分に原因があるのは間違いないだろう。
【表3】Intel Multitasking Scenario Builder 1.0.1 Trialの結果(全処理が終了した時間が赤字)
●3D性能 最後に3D性能である。テストは「Unreal Tournament 2003」(グラフ10)、「3DMark06 CPU Test」(グラフ11)、「3DMark06」(グラフ12)、「3DMark05」(グラフ13)、「3DMark03」(グラフ14)、「DOOM3」(グラフ15)、「AquaMark3」(グラフ16)である。 3D性能については、あいかわらずAthlon 64 FX-60の良さが際立っている。3DMark06の、積極的に並列処理を組み込んでいるCPUテストではPentium XE両製品における論理4CPUが威力を発揮した格好になってはいるが、ゲームデモを含めたトータルの結果では、Athlon 64 FX-60に大きく水を開けられている。 DOOM3の結果も近い傾向を見せている。低解像度では3D描画処理の負荷が小さく、キャラクターの動作全般に関する演算処理の比重が大きくなるので3DMark06のCPUテスト同様、Pentium XE 965が優位となるが、高解像度では3D描画処理の負荷が大きく3DMark06ゲームデモ同様、Athlon FX-60が勝ってくる。 パフォーマンスの安定感はもちろん、数パーセントのパフォーマンスアップを求めてこのクラスのCPUを購入する層ならば、描画クオリティにこだわると思われ、3Dゲーム用途でのAthlon 64 FX-60の優勢性を揺るがない。 また、Unreal Tounament 2003では、3D描画負荷が低いBotmatchでもAthlon 64 FX-60が優秀な結果であり、3D負荷が低くともPentium XEが有利とは限らない。
●論理4CPUを持つデスクトップCPUとしての価値 以上の通り、パフォーマンスを見てくると、Pentium XE 955から安定したパフォーマンスアップが見られることは間違いなく、従来よりIntel 955X/975Xを使っている人へのアップグレードパスとしては魅力的な製品といえる。それでも、Athlon 64 FX-60を脅かしてはいるものの、追い越したとは言い切れない結果で、もう一頑張りが欲しかったのも事実だ。 また、現時点でNetBurstマイクロアーキテクチャの製品を選ぶ意味というのも考慮する必要がある。周知のとおり、Intelは今年、Conroeと名付けられたCoreマイクロアーキテクチャへの切り替えをスタートする。 そのConroeのパフォーマンスは未知数ではあるものの、3.73GHzという高クロック動作や、Hyper-Threadingと組み合わせた論理4CPUは、Conroeにはない特徴となる。特に後者の点は、多くのアプリケーションを同時実行する人に効果が大きいはずだ。こうしたPentium XE 965独特の特徴に魅力を感じる人には、Conroeを控えたこのタイミングであっても価値のある製品といえるだろう。 □関連記事 (2006年3月23日) [Text by 多和田新也]
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