2月27日、ソニーがビデオレコーダーサーバー「Xビデオステーション」の新しいファームウェアとPC用ソフトウェアを公開した。 主なポイントとしては、ローカルのユーザーインターフェイスが拡張され、PCがなくてもそこそこ使えるようになったことだ。PCソフトウェアには、新たに「Webリンク機能」と呼ばれる新しい機能が追加されている。 このWebリンク機能、要するに、Webサイトの中にXビデオステーションにあるコンテンツの再生ポイントを貼り付ける機能で、ユーザーはそのリンクをクリックするだけで「XVプレーヤー」と呼ばれるXビデオステーション用再生ソフトウェアが起動して、コンテンツを再生できるようになる。 ●Xビデオステーションで録画した番組へのWebリンクを実現 今回のバージョンアップで筆者が最も注目しているのは、XビデオステーションのPCにおける再生アプリケーションであるXVプレーヤーに、「TVTL」と呼ばれるコンテンツへのリンク機能が追加されたことだ。 Xビデオステーションについてあまり詳しくない方のために説明しておくと、Xビデオステーションでは、PCにインストールされたXVブラウザで番組を探し、その番組をダブルクリックすることでXVプレーヤーが起動し、録画した番組を再生する仕組みになっている。 TVTLは、iEPGのデータと同じような形態で提供されており、その実態はXML形式のデータファイルだ。その中にはTV番組が放送された時刻、チャンネルなどのデータが格納されている。iEPGが将来のTV番組のデータであるのに対して、TVTLは“過去の”TV番組のデータであると考えると分かりやすいだろう。 このTVTLは、Webサイトにリンクなどの形で埋め込むことができる。実際、すでにSo-netが運営しているTV番組表Webサイト「テレビ王国」では、このTVTLを埋め込んだWebサイトが提供されており、ユーザーはTVTLが埋め込まれたリンクをクリックすると、自動的にXVプレーヤーが起動し、録画しておいた番組が再生される仕組みになっている。
●TVTLのリンクを貼り付けるテレビブログのサービス このTVTLが埋め込まれたリンクを公開するのは、テレビ王国だけではない。メタキャストが運営する「テレビブログ」というブログサイトも、3月中にはTVTLによるリンク機能を提供する予定になっている。 このテレビブログ、なかなかおもしろいサイトで、過去に放送されたTV番組の内容を、逐一ブログ形式で文字データにしている。例えば、ニュース番組なら何時何分にどのアナウンサーが出てきてこんなニュースを流した、とかお笑い番組ならどのタレントが出てきてこんなコントをやった、などがいちいち文字として起こされているのだ。 これまでのTV番組表Webサイトが、放送予定のTV番組のデータベースを公開する形であったのに対して、このテレビブログは放送済みの番組のデータベースを公開しているWebサイトと言えるだろう。実に興味深い取り組みだ。現在は関東地方のユーザーのみを対象としているが、今後は関西地方向けのサービスも始める予定であるという。 ソニーの関係者によれば、このテレビブログのデータベースにTVTLファイルが埋め込まれ、ユーザーはテレビブログの過去の番組データの中から特定のシーンを見たいと思えば、そこに埋め込まれているTVTLのリンクをクリックするだけでXVプレーヤーが起動して特定のシーンを再生することが可能になるという。このサービスは3月中には開始される予定だという。
●デジタルホームに新しい可能性をもたらすメタデータの検索 この機能、一見、iEPGの機能を過去に拡張したようにしか見えないかもしれないが、その将来性は非常に大きい。 その鍵は、“メタデータ検索”というキーワードにある。今後デジタルホームにおいて、メタデータの検索という機能は非常に重要な機能になってくる可能性があると筆者は考えている。 というのも、今後ホームネットワークが本格的に普及していくと、家庭内に保存されるデータの容量は飛躍的に増えていくことになると思われるからだ。実際、筆者宅でも、Xビデオステーションの中に1.2TBのHDD、居間にあるPCに500GBのコンテンツ用HDD、仕事部屋にあるバッファローの「TeraStation」に750GBのコンテンツ用HDD、仕事部屋にあるPCに500GBのコンテンツ用HDD……と足していくと、すでに3TB近いコンテンツ用のHDDがある。これらすべてが埋まっているわけではないが、実使用量はすでに2.5TBを超えており、近い将来またHDDの増設が必要になるかも、という状況だ。 問題は、こうした膨大なコンテンツの中からどうやって見たいコンテンツを探すか、だ。基本的にはコンテンツの種類-タイトルなどのようにフォルダ階層を作って管理しているが、作った本人はかろうじて作った記憶を頼りに探すことが可能だが、家族にはそうでもない。従って、いちいち家族に説明しておかないと、あとで「あのコンテンツはどこへやった」とクレームの嵐だ。 じゃあ、検索すればいいじゃないか、という意見が出てきそうだが、実は、それは現状では非常に難しい。というのも、コンテンツの説明ファイル、つまりメタデータのフォーマットというのは統一されておらず、各社それぞれの仕様になってしまっているからだ。例えば、MicrosoftのTV録画のメタデータは「dvr-ms」という独自の録画ファイル形式の中に含まれているし、日本のTVチューナカード各社も独自の拡張ファイルの形でHDD上に存在していることが多い。 このため、仮にメタデータを検索しようと思えば、検索エンジンの側が、すべてのメタデータの形式を認識しておく必要があり、検索エンジンを作るのは困難を極めるだろう。だが逆に言えば、それを乗り越えることができれば、それを可能にした企業なり個人は、デジタルホームにおけるGoogleになれるのではないだろうか。 例えば、GoogleデスクトップやWindowsデスクトップサーチのコンテンツ版のようなものを作り、ローカルのホームネットワーク、インターネットすべてを検索して、見たいコンテンツをユーザーのために検索してきてくれる、そんな検索エンジンがあれば、筆者宅で起こっているような「見たいコンテンツが見つからない」という問題を解決し、かつデジタルホームに新しい可能性を提供することが可能になるだろう。 TVTLはそうしたメタデータ検索の1つの手段になる可能性がある。ソニーの関係者によれば、ソニーはTVTLの仕様を外部に公開する計画もあるという。実際、iEPGの仕様はSo-netからカノープスなど外部の会社にライセンスされた例もあることを考えると、このTVTLの公開というのはメタデータの標準化の1つの手段になるかもしれない。検索エンジンはTVTLが埋め込まれたテレビブログのようなサイトを検索し、その結果を表示すればよくなるからだ。あとはユーザーがTVTLのリンクをダブルクリックすれば、Xビデオステーションなり将来発売されるかもしれないTVTLに対応したHDDレコーダで目的の番組がすぐに再生されるようになるだろう。 ●フロントエンドのPCとバックエンドの家電で柔軟性と信頼性を両立 筆者がXビデオステーションを入手してからほぼ半年になるが、これが無いと生きられない、と言うと大げさかもしれないが、すでに生活の一部になってしまっている。具体的には、朝起きるとまずPCの電源を入れ、XVブラウザを起動し、録画されているニュース番組の中からいくつかを早送りしながら眺めて、自分が興味がありそうなニュースをやってそうな番組は時間をかけて見ている。 あと、生活で大きく変わったことと言えば、番組予定表Webサイトなどをほとんど見なくなったということだ。これまでであれば、例えば日曜日の夜などに、それこそテレビ王国のようなiEPGサイトを見ておもしろそうな番組を探すということをやっていたが、それでも録画していなかった番組が、あとで話題になったりすると悔しいものだ。そうしたことはXビデオステーションを手に入れてからは無くなった(過去1週間分までだが……)。 筆者が最近感じていることは、Xビデオステーションのすごさの本質は、8チューナで地上波を一挙に1週間録画できる、だけではないということだ。Xビデオステーションの本当のすごさは、ユーザーインターフェイスのフロントエンドとしてPC、そしてバックエンドとして録画だけを行なう固定機能の機器に機能を分離しているという点にあると筆者は考えている。 Xビデオステーションのように、PCと家電という2つに分離することで、PCの柔軟性と家電の信頼性という両方を手に入れていることを指摘しておきたい。具体的に言えば、Xビデオステーションの再生機能は、基本的には将来に向けて無制限に拡張できる。言うまでもなくXビデオステーションの再生ソフトウェアがPC上で動いているからだ。だから、そのソフトウェアをバージョンアップすることで、今回紹介したTVTLのように機能を拡張していくことが可能だ。 ただし、PC上でソフトウェアを動かすということは、信頼性の点で疑問が残るのも事実だ。実際、さまざまな要因で録画に失敗したりということを経験した読者も少なくないだろう。だが、それも再生部分をPC上で動かすだけなら、うまく動かなくなったらアプリケーションを再起動すればよいし、それでもだめならOS自体をリブートするのもいいだろう。 重要なことはXビデオステーションという録画機そのものには影響を与えないということだ。このため、録画は常に確実に行なわれることになるので、安心して利用できる。 ●Xビデオステーションの“柔軟性と信頼性の両立”が指し示すPCとデジタル家電の未来 筆者は、これからのコンシューマ向けPCにせよ、デジタル家電にせよ、おそらくこうした方向に向かうのではないかと考えている。 例えば、コンシューマ向けPCであれば、VTやPacificaのような仮想化技術を利用して、1台のPCにLinuxで動くHDDレコーダ部分と、Windowsが動くPCが同居するコンシューマPCなどはどうだろうか。要するにXビデオステーションとPCを1台にまとめてしまうということだ。いやいやそれは先代の「type X」に先祖返りでしょ、という意見がありそうだが、HDDレコーダ専用のCPUやHDDを必要としていた先代のtype Xよりは仮想化技術を利用することで安価に作れるはずだ。 逆に家電のアプローチを採るのであれば、サーバー部分として現在TRONやLinuxなどで作られているHDDレコーダ部がバックエンドとなり、Windows CEのような拡張性のあるOSでフロントエンドを構成するなどが考えられるだろう。 そんなことをつらつら考えていると、あらためてXビデオステーションを製品化した人は“えらい”と思えてくるのだ。
□関連記事 (2006年3月14日) [Reported by 笠原一輝]
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