ソニーから新しいVAIOの周辺機器「Xビデオステーション」が発表になった。CEATECの会場にも展示されたXビデオステーションは、4つのHDDを内蔵可能で最大容量は2TB、最大8つのTVチューナを搭載でき、HDD容量によっては8チャンネル分の放送を24時間、1週間以上録画することが可能になる。 このXビデオステーション、昨年の秋に発表されたVAIO type Xの録画機能部分を独立させた形になっているが、PCにインストールしたアプリケーションから本体の設定をしたり、録画番組の視聴などが可能になっている。まさに、PCユーザーのために考えられたHDDレコーダだ。 ●最大で8チューナ、2TB HDDという強力な構成が可能に 今回発表されたXビデオステーション(本製品)は、基本的には以前のtype Xに搭載されていた“多チャンネル録画機能”がベースになっており、その機能だけをPCから抜き出してHDDレコーダにしたもの、と理解すればいいだろう。ただし、いくつかの点で、従来のtype Xに搭載されていた多チャネル録画機能とは、若干構成が異なっている。 本製品は、以下のようなアーキテクチャになっている。
CPUにはルネサステクノロジのSH4を1つ採用している。type Xの多チャンネル録画機能では、CPUを2つ採用していたので、この点がまず大きな違いと言える。録画システムが2つのボードに分離していたため、それぞれにCPUが搭載される形状になっていた。それに対して、今回の製品のCPUは1つで済んでいるので、従来のtype Xに搭載されていたシステムよりもローコストで製造できるようになっている。 また、従来のtype Xでは「多チャンネル録画機能」側に6つのチューナが内蔵されており、PC側に用意されている追加の1チューナと合わせて7チャネルの録画が可能になっていたのに対して、本製品では最初から8つのチューナを内蔵。マザーボードにはViXSのXcode IIというエンコーダチップが2つ搭載され、それぞれ4チューナずつ接続されているという構成だ。
Xcode IIは低ビットレートでも画質が劣化しないという特徴を備えたエンコーダチップとして、最近ハイエンドPCを中心に採用例が増えているが、入力ポートを複数備えているというのも特徴といえる。Xcode IIでは最大4つのチューナからの同時入力を処理可能で、本製品ではその特徴を利用してわずか2つのエンコーダチップで、8つチューナを接続することが可能になっている。 Xcode IIに信号が入力される前には、NECの画像処理チップである「μPD64012」によって、3D Y/C分離、ゴーストレデューサ(ゴースト除去)、デジタルノイズリダクション(デジタルノイズ削減)など、高画質化処理が行なわれる。このあたりは、アナログ放送を高画質で録画するには必須の機能として、PCでは当たり前の機能だが、本製品でもきちんとサポートされている。 ちなみに、高画質化処理は、各チューナ毎に行なう必要があるので、μPD64012は合計で8つも搭載されている。本製品は4チューナモデルも用意されており、4チューナモデルには、Xcode IIは1つ、μPD64012は4つとなっている。 Xcode IIでMPEG-2にエンコードされたデータは、CPUやSilicon ImageのSerial ATAコントローラを通じてHDDに格納される。HDDは、JBOD(Just Bunch Of Disks)構成になっており、OS側からは1つのドライブとして認識されることになる。HDDは最大で4台まで格納することが可能だ。現時点では、もっとも容量の大きなHDDは500GBとなるので、最大で2TB(500GB、0.5TB×4=2TB)までHDD容量を増やすことができるようになっている。 HDDに格納されたデータは、本体のSビデオ端子やコンポジット端子からTVへ出力したり、ネットワークで接続されたPCで視聴することもできる。
●ローカルのユーザーインターフェイスは簡易、DLNAに対応も 本製品がユニークなのは、ローカルのユーザーインターフェイスは、必要最低限しか備えていないことだ。 本製品はOSとしてμiTRONが採用されている。基本的には、μiTRONの標準機能を利用しているため、グラフィカルなユーザーインターフェイスなどはなく、番組を再生しているときに、iEPGにより取得した番組情報や再生時間などを表示するだけで、EPGを表示したり、後述するようなタイムマシン表示などもできない。そもそも本体の設定そのものも、本製品単体ではできないのだ。このため、ソニーも本体のユーザーインターフェイスは“簡易UI”と呼んでおり、あくまで本体のUIは補助的な位置づけにしている。 ただし、μiTRONにはない拡張として、DLNAガイドラインに対応したデジタルメディアサーバー(DMS)の機能が追加されている。これにより、後述する専用ソフトウェアがなくても、DLNAガイドラインに対応したDMA(Digital Media Adaptor)やクライアントソフトウェア(デジオンのDiXiMなど)からも録画したビデオを視聴することが可能になっている。
●XVブラウザーのタイムマシンビューで、HDDレコーダをタイムマシンに すでに述べたように、本製品ではローカルのユーザーインターフェイスは必要最低限のみとなっており、本体のみでは基本設定もできない。 では、どうするのかと言えば、付属アプリケーションの「XVアプリケーション」をPCにインストールして、ネットワーク経由で設定するようになっている。XVアプリケーションは「XVブラウザー」、「XVプレイヤー」という2つのコンポーネントから構成されている。なお、いずれのソフトウェアもソニーの保証外とはなるが、VAIO以外のPCにもインストールして利用できる。つまり、本製品はVAIOを持っていないユーザーでも使うことが可能なのだ。 XVブラウザーは、本製品の設定から本製品に録画されたコンテンツの閲覧などが行なえるようになっている。コンテンツの閲覧機能を利用すると、録画された番組を、 ・リストビュー の3つのビューで確認可能になっている。リストビューでは、録画した番組、あるいは録画中の番組を一覧形式で、キーワードビューでは、録画した番組や録画中の番組を、キーワード(例えば“ニュース”や“アニメ”など)で探せるようになっている。キーワードはEPGから自動で設定されたもの以外に、ユーザーが10個まで任意に設定可能だ。 ただ、ほとんどはタイムマシンビューと呼ばれる表示方法で閲覧することになるだろう。これは、縦軸が時間、横軸がチャネルという表組み形式で録画した番組が表示されるもので、見た目はEPGのようだ。そこから、見たい番組を選択できる。時間をさかのぼって番組を見るような感覚で、もっともわかりやすいビューと言っていいだろう。 このXVブラウザから目的の番組を探してダブルクリックすると、XVプレイヤーが起動して簡単に番組を再生することができる。また、目的の番組をマウスで右クリックし、“転送”を選ぶと、番組をPCへと転送することも可能。標準状態では、XVプレイヤーはウインドウ状態で起動するようになっているが、設定によりフルスクリーン状態で起動させることが可能になっている。 XVプレイヤーには、標準でソニーの高画質化機能“Motion Reality LE”の機能が組み込まれており、IP変換、シャープネス、色補正の3つの要素がより高画質化される。標準でパフォーマンス優先、標準、高画質、カスタムが用意されており、カスタムではそれぞれのパラメータを調整することが可能になっている。実際、高画質に設定すると、CPU負荷が高くなる(Pentium M 1.8GHzで50%前後)ものの、よりくっきりとした画質になるのが見てとれた。CPUの処理能力に余裕があるPCなら高画質に設定しておきたいところだ。
●ビットレートは4つのレベルで選択でき、キーワードで柔軟に変更可能 XVビデオブラウザーでは、録画に関する細かな設定ができる。XVビデオブラウザーの“録画パターン”では、どの時間帯の番組を録画するべきかを設定する。 録画パターンはチャネル毎に、最大で12時間ごとに設定できる。24時間録画したい場合には、12時間のパターンを2つ作ることになる。指定できるパラメータは、時間、曜日、録画モードの3つで、それぞれ好みに応じて設定する。 本製品では録画モード(MPEG-2のビットレート)は以下の4つの設定が用意されている。
筆者が試した限りでは、2.5Mbpsだとかなりノイズが目立ってしまうがなんとか我慢できるレベル、1.25Mbpsではほとんど使い物にならないなぁ、というのが正直な感想だ。クオリティ重視のユーザーであれば4Mbpsに設定したいところだ。 ただし、ビットレートを上げると、HDD容量を圧迫しタイムマシンとして利用できる期間も短くなってしまう。1週間の録画にどの程度のHDD容量が必要かは、録画パターンビューの左上に表示されるので、実際のHDD容量よりもパターンの容量が下回るようにパターンを調節すればよい。ソニーによれば、チューナ数、HDD容量、ビットレートによる録画可能日数は下記の通りだ。
ちなみに、XVアプリケーションは、2つの本製品を1つのビデオサーバーとして扱うことも可能になっている。このため、例えば4チューナ版の本製品を2TB構成にして使うと、8チューナで4TBという夢のような構成も不可能ではない。もっとも、その場合には価格も夢のような価格になってしまうので、あまり現実的な話ではないのだが……。 なお、XVアプリケーションから、本体設定の画面を呼び出し、“予約情報変更”というオプションメニューを利用することで、HDD容量を効率よく利用することが可能になる。この設定を利用すると、あらかじめユーザーが設定した条件(例えばジャンルやキーワード)にヒットした番組では、パターン設定とは異なる設定が可能になるのだ。 例えば、ニュースのジャンルを一日で自動削除するようにしておけば、ニュース番組だけ次の日には削除するという使い方が可能で、HDD容量を節約できる。逆に、通常は2.5Mbpsで録画しているが、アニメは6Mbpsにしたい、というニーズにも応えることができる。
●保証外だがユーザーレベルのHDD交換も可能 すでに述べたように、本製品は最大で4台までのHDDを搭載することが可能になっている。本製品はソニースタイルでのみ販売されており、HDD構成はユーザーが購入時に選択できる。例えば、250GB×2という構成で注文した場合、本体内の4つのHDDベイのうち2つだけが利用されており、残り2つは空いている状態となっている。 となると、ユーザーとしてはここにHDDを増設したい、と当然考えたくなるところだろう。既存のDVD/HDDレコーダでは、OSがHDDに格納されていることがあり、その場合特殊な手段を利用してOSを新しいHDDにコピーしないと利用できないことが多い。しかし、本製品では、OSは基板上のフラッシュメモリに内蔵されているため、HDDは純粋にストレージとして扱われている。このため、ケーブル類を接続すれば、容易に動作することが想像できる。論より証拠、ということで、実際にHDDを増設してみた。
本体の裏蓋は、3本のネジで固定しているだけで、割と簡単にはずすことができる。続いて中蓋があるが、これは単にはめ込みしてあるだけなので、スライドさせれば簡単にはずすことが可能だ。 本製品の内部は、2階建て構成になっている。2階の部分には基板とチューナが、1階にはHDDが格納されている。1階部分は2階部分に隠れており、HDDにアクセスするには2階部分をはずす必要がある。2階部分を固定しているネジを6本はずし、基板についているケーブルをはずせば取り外し可能だ。ケーブルはすべてコネクタの形状が異なっており、間違ったところには接続できないよう工夫されており、難易度はそれほど高くない。 2階部分をはずすと、HDDケースにアクセスできる。ただし、標準状態では、Serial ATA用の電源ケーブルは2本のみで、追加HDD用の電源ケーブルは用意されていない。ただ、PCでおなじみの4ピンの電源コネクタは用意されており、4ピンからSerial ATA用に変換するケーブルを接続すれば問題なく利用できる。 また、Serial ATAのデータ用ケーブルも用意されていないので、こちらも合わせて用意する必要がある。Serial ATAに関してはコネクタに十分なスペースがないので、L字型に折れ曲がっているタイプのコネクタを用意するとよい。 HDDのインストールが終わると、前面の“INFO”ランプが点滅する。これは、本製品になんらかの異常がある時に表示されるランプで、この場合はHDDの容量が変更されたことを通知している。HDDを追加したり、交換した場合には、利用する前にXVビデオブラウザから“詳細設定”を選択して、“システム管理”から“フォーマット”を選択してフォーマットする必要がある。このため、これまで保存しておいたデータは消えてしまうので、注意が必要だ。 フォーマット後は再度システムの設定が開始される、再度録画の設定などを行なえば再び録画が開始される。
●XビデオステーションはPCユーザーにとって“最強のHDDレコーダ” 本製品の特徴は、もちろん8チューナ、4つのSerial ATA HDDというハードウェアの仕様により、一週間8チャネルをとり続けられることだろう。また、一般的なHDDレコーダと異なる点としては、光学ドライブがないこと、PCがないと利用できない点などが挙げられるだろう。 しかし、現在これだけPCが普及している今、こうした製品を必要しているユーザー宅で、PCが無い家庭というのはほとんどないと考えられるだけに、アプローチとしては非常に正しいだろう(すでに述べたように保証対象外だが、VAIO以外のPCでも利用できる)。 実際、最近のDVD/HDDレコーダは設定が非常に複雑で、リモコンで設定していると、“マウスとキーボードがあればなぁ……”と思うことが少なくない。それだけに、PCで設定できるというのは簡単でよい。 価格も、従来のtype Xに比べれば非常にリーズナブルなものになっている。チューナ数(4チューナか8チューナか)やHDD容量に依存しているが、代表的な構成でいえば、4チューナ/250GBで89,800円、4チューナ/1TBで149,800円、8チューナ/500GBで149,800円、8チューナ/2TBで299,800円となっている。チューナ数、HDD容量などを考えれば、この価格は決して高くないと思う。 そうした意味で、PCユーザーにとっては本製品は間違いなく“最強のHDDレコーダ”といってもほめすぎではないと思う。もちろん、デジタル放送が録画できない、という意味では最新のHDDレコーダに比べて弱点もあるが、“録画した後自由に扱えない、デジタル放送が本当に必要か?”という我々の問いかけに対して、放送業界がわずかしか応えてくれていない現状を考えれば、PCユーザーにとって本製品は“最強のHDDレコーダ”と称号を与えてもいいのではないだろうか。 □関連記事 (2005年10月6日) [Reported by 笠原一輝]
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