3月9日~15日(現地時間)にかけて、ドイツのハノーバーで開催されたCeBITの会場において、IntelとAMDは対照的な戦いを見せた。 Intelがホール2に巨大なブースを構え、OEMベンダの製品を中心にコンシューマ向けにViiv(日本ではヴィーブ、日本以外の地域ではヴァイブ)やCentrino Duoを大々的にアピールしたのに対して、AMDはと言えば、同じくホール2にブースは構えたものの、展示類は一切無く、報道陣やパートナー企業に対するミーティングに終始した。 言ってみれば“動”のIntelと、“静”のAMDという印象だったが、これはすでにコンシューマ向けブランドを大々的に展開しているIntelと、これから展開していくAMDという違いでもある。 だが、2006年の後半にかけてAMDもコンシューマ向けAMD LIVE!対応製品を正式に発表する見通しで、状況は大きく変わっていくだろう。そこから見えてくる構図は、Intelによる新しいプラットフォームとソフトウェアによるViiv普及を目指す攻勢と、新しいコンシューマ向けブランド“AMD LIVE!”によるAMDの反撃というものだ。 つまり、Viiv(ヴァイブ)とLIVE(ライブ)という、韻を踏んだような2つのブランドによるリビングへの大侵攻作戦だ。
●4月21日に投入予定の「Viivソフトウェア v1.5」 Intelは、Viiv普及戦略を加速している。その何よりの証拠は、Intelが現在のViiv対応PCにインストールされているソフトウェア(Viivソフトウェア)のバージョンアップ計画を当初より大幅に前倒ししたことにある。 現在、Viiv対応PCには、Viivソフトウェア バージョン1.0(Viivソフトウェア v1.0)が導入されている。既報の通り、Intelはこれをバージョン1.5(以下Viivソフトウェア v1.5)へとバージョンアップする計画を表明していた。Intel広報室による公式見解ではリリース予定は2006年後半、ということになっていたのだが、実際にOEMベンダなどに説明されていたスケジュールでは、6月という予定になっていた。だが、2月に入り、この予定は大きく変更され、新しいリリース日として4月21日(米国時間)が設定されたことが、OEMベンダなどの情報筋により明らかになってきた。 このViivソフトウェア v1.5には、3つの大きな目玉がある。1つは新しいプラットフォームのサポートで、Intelが2006年の後半にリリースを予定しているプロセッサ「Conroe」とIntel G965/P965チップセットの組み合わせがこのv1.5でサポートされる。 もう1つは、新しい機能の追加だ。主に以下の3つが新しい機能となっている。 ・Viiv Media Server それぞれ解説していくと、Viiv Media Serverは、DLNAガイドラインに準拠したメディアサーバーで、DLNAガイドラインに対応したDMA(Digital Media Adaptor)やPCクライアントソフトウェア(デジオンのDiXiMなど)からネットワーク経由で接続し、そのViiv PCに保存されているメディアファイル(動画、静止画、音楽など)を再生することが可能になる。 Smart Streaming Technologyは、コンテンツの動的なトランスコード(コーデック変換、符号変換)機能だ。例えば、クライアント側がMPEG-2には対応しているが、WMVには対応していない場合、サーバー側でWMVファイルをMPEG-2に動的にコーデックを変換して出力するという機能だ。同様の機能は、ソニーが自社のVAIOシリーズ向けに提供している「VAIO Media」のv4以降でも提供されている。 Hub Connect TechnologyはViivに対応したルーターなどを利用することで、ネットワークの設定を容易にするツールだ。 なお、Viivソフトウェア v1.5は、Windows Vistaのリリースに合わせてバージョン1.6(以下Viivソフトウェア v1.6)へとバージョンアップされる。Viivソフトウェア v1.6の基本的な機能はv1.5とほぼ同等だが、v1.6ではVista向けの機能が追加されることになる。具体的には、Windows Vistaでは64bit版OSでもメディアセンター機能のサポートが行なわれるので、64bit OSのサポートが追加される。
【表】Viivソフトウェアの各バージョン
●DTCP-IPのサポートは、バージョン1.5に近いタイミングで Viivのホームネットワークでのもう1つの目玉であるDTCP-IPへの対応だが、Viivソフトウェア v1.5とは別のソフトウェアとなるSecure Premium Content Module(SPCM)と呼ばれる形で提供されることになるという。このSCPMを利用することで、Windows Media DRMで保護された形でPCに保存されているコンテンツをDTCP-IPによる保護に変換して、ホームネットワークへ出力することが可能になる。 Intelに近い筋によれば、現在IntelとOEMベンダはSCPMをテスト中で、OEMベンダに対してはβ3という形で提供済みであるという。リリース時期に関してIntelはOEMベンダに対して、Viivソフトウェア v1.5と同じようなタイミングでと説明しており、若干のタイムラグはあるものの、DTCP-IPの機能に関しても早晩追加されることになる。 ●ノートPCへのViivの拡大は2007年の課題 ただ、バージョン1.5になっても解決されない問題もある。1つは、モバイルPCへの対応だ。現在のViivソフトウェア v1、そして4月にリリースされるViivソフトウェア v1.5のどちらも、デスクトップPCのみの対応となっている。 なぜ、ViivソフトウェアがモバイルPCには対応していないのかと言えば、1つにはViivソフトウェアの動作検証がデスクトップPCの環境でのみ行なわれているからだ。また、Viivの要件にはNCQに対応したシリアルATA HDDやHDオーディオといった、ノートPCにはやや厳しい要件があることも理由の1つと想像できる。 また、ViivではWindows XP MCEの退席中モード(Away Mode)に対応するQuick Resume Technologyに対応する必要があるが、これと通常のレジューム機能の調整が必要になる。通常のViiv PCでは、PCの電源スイッチを押した場合この退席中モードに切り替わるのだが、退席中モードはオーディオとビデオがOFFになっているだけで、PCそのものの電源は入ったままになっている。問題はノートPCでバッテリ駆動時にこの機能が有効になっていると、バッテリが無駄に消費されてしまうおそれがある。この問題をなんらかの形で解決する必要があるのだ。 今のところ、この話は日本以外の地域ではあまり問題になっていない。なぜかといえば、ノートPC専業のOEMベンダを抱えているのが日本だけだからだ。特に日本では、東芝などを中心にデスクトップPCの代替となるマルチメディアノートPCの導入が進んでおり、これをどうするのかが問題になっている。ただ、今のところ解決の道筋は見えておらず、IntelはOEMベンダに対してノートPCへのViivの拡大は2007年になる予定だと説明しているという。 なお、IntelはCentrinoベースのノートPCには、Intel Media Shareと呼ばれるソフトウェアを提供する予定であるという。Intel Media Shareは開発コードネーム“Dorrington”で知られる製品で、Viiv PCに保存されているコンテンツを、ノートPCにダウンロードして、外出先に持って行って楽しむという使い方が可能になる。 ●Viiv対応デバイスもデビューへ
Viivソフトウェア v1.5のリリースに合わせて、サードパーティからViiv対応デバイスもリリースされる。現在想定されているのは、Viiv Media ServerのクライアントとなるDMA(Digital Media Adaptor)とHub Connect Technologyに対応したルーターで、サードパーティから4月21日以降に発表される。 Viiv Media Serverに対応したDMAは、すでに1月に米国で行なわれた2006 International CESで展示されており、日本からもバッファロー、アイ・オー・データ機器、デジオンなどの製品が展示された。こうしたViiv対応DMAには、“Enjoy with Viiv Technology”のロゴシールが貼られ、Viivに対応した製品であることが明示されることになる。 前述のように、Viiv Media ServerはDLNAガイドライン準拠のメディアサーバーとなるので、Viivロゴがない製品でも接続して利用することができる。しかし、ViivロゴがついたDMAの場合には、リモートユーザーインターフェイスの機能が追加されている。いわゆるリモートUIと呼ばれるこの機能は、サーバー側に用意されているユーザーインターフェイスをDMAの画面に表示させる。リモートUIのメリットは、サーバー側の処理能力が利用できるので、サーバー側でアプリケーションを実行させて、その画面だけをDMA側で表示させることが可能になる。例えば、将来的には3DゲームをPC側で処理させ、それをDMAで表示させて楽しむなどの使い方も可能だ。 ●配信プラットフォームになりうるAMD LIVE! このように、着々とViivプラットフォームの強化に努めるIntelに対して、AMDも水面下で反攻作戦の準備を整えている。 今回のCeBITにおいて、AMDは同社がコンシューマ向けにもブランドを拡張したAMD LIVE!の要件を明らかにした。その内容はすでに後藤氏の記事に掲載されているのでここでは繰り返さないが、ポイントになるのは対応OSをWindows XP MCE 2005ないしはWindows Vista Premiumとしていることだ。 Viiv向けのコンテンツはメディアセンターのAPIを利用して作られている。コンテンツホルダーは、そのViiv向けコンテンツを、一般のメディアセンター向けとするのはとても容易なことなのだ。従って、Intelと何らかの独占契約を結んでいるコンテンツホルダーは別として、そうではないコンテンツホルダーはViiv向けのコンテンツを作れば、それに少し手を入れてAMD LIVE!向けに配信するのは容易なことだ。 このことは歓迎してよいだろう。コンテンツホルダーにしてみれば、IntelだけでなくAMDのプラットフォームにも配信できることは、潜在ユーザー数が増えるという点で大きな意味がある。コンテンツホルダーにしてみれば、潜在ユーザー数が多ければ多いほどそのプラットフォームに対してコンテンツを提供するモチベーションになる。そして提供するコンテンツが増えれば、さらにユーザーが増えるという好循環のモデルが確立する。そうした意味で、AMD側も同じメディアセンターというプラットフォームを採用したことは、ユーザーとして素直に歓迎していいだろう。 ●デジタルホーム向け“静音”プラットフォームで勝負するAMD もっとも、それだけでは、あまりIntelとの差別化が図れないのも事実だ。AMDはAMD LIVE!におけるIntelとの差別化ポイントとして、“TVコンテンツの有効利用”を挙げ、セットトップボックスのベンダと協力することで、TVコンテンツのPCでの受信を容易にすると説明しているが、これだけPCにおけるTVコンテンツの利用が進んだ日本では全く差別化ポイントにならないことは、以前の記事でもすでに指摘したとおりだ。 だが、AMDはまだいくつかの隠し球を用意しているようだ。情報筋によれば、AMDはOEMベンダなどに対して、AMD LIVE!とSocket AM2ベースのプラットフォームを6月に台北で行なわれるCOMPUTEX TAIPEIにおいて発表すると説明しているという。それによれば、一部のSempronこそ若干遅れるものの、COMPUTEXのタイミングで上から下まで一挙にAM2に対応したプロセッサを発表し、同時にAMD LIVE!に関しても発表が行なわれることになるという。 そのCOMPUTEX TAIPEIでは、より低消費電力のAM2プロセッサがデモされ、2006年後半に投入されることになると、その情報筋は伝える。現時点では、どのようなものになるかは明らかではないが、情報筋によればTurion 64に匹敵するような低消費電力になるとのことなので、Turion 64 X2のAM2版のようなものになるのかもしれない。 実際、AMD LIVE!の仕様には静音性を求める項目が用意されており、そこをIntelとの差別化ポイントにする可能性は高く、日本のユーザーとしては要注目と言えるだろう。
□関連記事 (2006年3月20日) [Reported by 笠原一輝]
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