後藤貴子の 米国ハイテク事情

アナログホールをふさいでブロードキャストフラグが敗者復活?





●米国でまたもDTVのコンテンツ管理強化法案・提案

 これまで事実上コピーフリーだった米国の地上波DTVが、コンテンツ管理に向けて動き始めた。

 DTVを含めたコンテンツのDRM(デジタル権利管理)すり抜けを防ぐ法案(「Digital Transition Content Security Act of 2005(デジタル変換コンテンツセキュリティ法:DTCSA)」法案)が2005年12月に米連邦議会に提出された。

 この法案は、単に「提案」と呼ばれていた草案時に、地上波DTVのDRMシステムであるブロードキャストフラグを復活させる提案や、デジタルラジオにもフラグをかける提案と一緒に回覧されていた。これだけが一足先に正式法案に昇格した形だ。残り2つの提案も1月24日(米時間)の別の公聴会で再び検討されており、そのまま、あるいは少し手直しをされて法案化する可能性がある。

 つまり米国では、規制なし状態をやめ、地上波DTVのコピー規制強化に向かう可能性が出てきた。対する日本は、同じく2005年12月に、JEITA(電子情報技術産業協会)が地上波DTVのコピーワンスをゆるめる提案を出した。そしてJEITA提案をきっかけに、ガチガチだった日本のDTVのコピー規制がゆるめられる可能性が出てきている。両極端にあった日米が、それぞれの市場と著作権利者との折り合いを付ける着地点を探して、中央に向かって歩き出したように見える。

 米国の規制強化への動きは、日本のDTVの規制緩和への動きに影響する可能性がある。

 なぜなら、日本でDTVのコピー防止をゆるめようという提案が出た背景には、米国とのギャップがあったからだ。ユーザーの実際的な不便のほかに、「(ハリウッドのある)米国がコピーフリーなのに日本は……」という不公平感が日本の家電/PC業界関係者やユーザーの間で募り、総務省や放送業者に対する提案の動機と根拠の1つにつながった。

 ところがその米国で管理強化の方向が出てきた。しかも、DTCSA法案で使う予定の技術の1つは日本のコピーワンスで使われているのと同じ、CGMS-A(詳しくは後述)だ。そのうえ、法律と政府機関による規制という、どちらかというと“日本的”な規制パターンなのだから、これは日本の管理強化派を勇気づけることにつながりかねない。

●アナログホール法案やフラグ復活提案は“A&D RM”の今後を示唆

 さらに、米国議会での動静は、地上波DTVだけでなく、デジタルとアナログを含めた映像コンテンツ管理全体の趨勢に影響する可能性もある。

 米国の下院司法委員会に正式提出されたDTCSA法案の目的は、アナログホール問題をなくすことにある。アナログホール問題は、デジタルコンテンツをいったんアナログ変換し、再度デジタル変換すれば、たとえその間にデジタル権利管理(digital rights management: DRM)があってもすり抜けることができてしまい、結果的にデジタル録画や再配信ができて、不正コピー防止の抜け穴(ホール)になるという問題。DTCSA法案(以下“アナログホール法案”)は、アナログ入力のある全デバイスへのアナログ権利管理信号対応の義務づけにより、アナログデータも権利管理に従わせる。

 アナログデータの権利管理とは言っても、法案のターゲットはアナログコンテンツではなく、デジタルコンテンツだ。しかも法がデジタルコンテンツのコピー防止に本当に役立つのは、デジタルデータそのものへのDRMはかっちりかかっていて簡単に回避できず(回避行為は違法だが)、アナログホールに抜け道を求めたいという状態になってから。ということは、話はアナログホール法単体では終わらない。地上波DTVに関してブロードキャストフラグ復活提案の法案化が試みられているのはそのためだ。

 ブロードキャストフラグ復活提案(The Broadcast Flag Authorization Act:ブロードキャストフラグ授権法)は、2度目の挑戦だ。

 ブロードキャストフラグは、かつてFCC(連邦通信委員会)が、地上波DTVのDRMとして地上波DTVを受信できるデバイスへの対応義務づけを命じた。ところが、2005年5月の米連邦裁控訴審によって、いったん白紙に戻っていた。審判の理由は、規制の内容以前に、そもそもFCC(放送と通信を管轄)には家電の設計や著作権の運用に関して命令の権限はない、だからフラグ義務づけはできないというもの。つまり、FCCの権限でいったん決まったフラグ命令が、命令の権限ごと法廷に否定され、実施の前に立ち消えていた。

 フラグ復活提案は、それを蒸し返す。簡単に言えば、法律によってFCCにフラグ命令ができる権限を与え、大手を振ってフラグ義務づけができるようにしようというものだ。コンテンツ管理強化派が、いかにフラグ義務づけを重視しているかがわかる。

 もしアナログホール法とフラグ復活法が成立し実施されると、アナログ入力のあるデバイスや地上波DTV放送を受信できるデバイス全部にアナログおよびデジタルの権利管理技術が組み込まれる。となれば、やはり話は地上波DTVのコンテンツ管理にとどまらなくなるだろう。

 つまり、アナログホール法案とフラグ復活提案の行方は、デジタルとアナログの両状態のデータを含めた権利管理、いわば、“A&D RM(analog and digital rights management)”に関して、また、DTVだけでなく様々なコンテンツの管理に関して、今後の米国での(1)内容の雛形と(2)管理の方向を決める勢力変化を示すことになると思われる。

 まず内容。例えば、アナログホール法案は具体的にさまざまなコンテンツ管理方法を示している。コンテンツのタイプごとにコピー制限の強度や時間などを変えるコンセプト、タイムシフトを90分間に限定するコンセプトなどだ。

 法案が成立し、実施されれば、こうした管理スタイルが具体化することになる。デジタルデータへのDRMに関しても、こうした管理が当たり前と受け止められるようになるかもしれない。

 また、アナログホール法案とフラグ提案は「今よりもっと政治によるコンテンツ管理を」、「今よりもっとコンテンツ管理の強化を」という2種類のベクトルの象徴でもある。これらの法案や提案が今のような内容のまま成立するなら、法律で技術を強制することに反対する議員を賛成する議員が上回ったことになる。また、消費者に私的な録画や転送の自由をという声に同意するより、コンテンツ業界の言い分に同意した議員が多かったことになる。

 両法案・提案の行方は、そういう、議員と議員の後ろにいる勢力のバランス変化をも見せるわけだ。いったんコンテンツ管理が政治で強化されたら、その法律を変えるには政治で対抗しなければならない。でも、両案が通るほどコンテンツ管理強化勢力が強くなっていたなら、それは難しいかもしれない。

●アナログホール法案に見える、今後の権利管理の内容

 では、まだ草案であるフラグ復活提案はさておいて、アナログホール法案が示し、DRMにも影響を与えるかもしれない具体的な管理方法とはどんなものか見てみよう。

 法案の主なポイントは、コピー世代管理や制限時間付きタイムシフトなどのコンテンツ管理を許すものであること、すべてのアナログ入力機器に対応を強制する規制であること、詳細や将来の技術改良に関して、これまでコンテンツ管理に関係の薄かった政府機関である特許庁が中心になることだ。

 採用する技術は、コピーおよび再配信制御情報フラグのCGMS-A(Content Generation Management System-Analog)と電子透かし(ウォーターマーク)のVEIL(Video Encoded Invisible Light)の2つ。

 CGMS-Aは日本の地上波DTVにもコピーワンスのために採用されている。アナログデータのブランク部分(VBI)に埋め込んだCGMS-A信号が「コピー禁止」「一世代のみ可」「コピー可」などのコピー制御、および「再配信可」「再配信不可」などの再配信制御の情報を伝えると、対応機器が検知して、指示に従う仕組みだ。

 法案は、それにVEIL Rights Assertion Mark(権利管理証明記号:V-RAM。ここでは以下VEIL)を併用して強化する。VEILはVEIL Interactive Technologies社が開発したデータストリームで、映像信号中に入るので、VBIに入れるCGMS-Aよりも除去しにくい。そのため、もしV-RAMがあるのにCGMS-Aがないデータがあれば、対応機器は、そのコンテンツには元はCGMS-Aが含まれていたのに除去されたと判断し、一番厳しい「コピー不可コンテンツ」として扱う。CGMS-Aが残っていれば「コピー1世代可」だったはずのコンテンツも厳しい扱いを受けることになる。それがCGMS-Aをわざと除去する行為の抑止力になるというわけだ。

□タイムシフトにも制限が?

 少し法案の文に沿ってポイントをまとめてみると、次のようになる。

1.対象機器、例外:

対象となるのは法の発効(法成立の1年後)後に米国で製造・輸入・販売・提供されるアナログ映像信号入力デバイス(ファームウェア、ソフトウェア含む。プロ用は除く)。非対応デバイスは禁止。非対応に改造する技術・サービス・部品なども禁止。例外は(1)法の発効前に合法的に製造販売された製品で、改造されないまま、発効後に結果として販売等に供されるようになったもの。(2)番組を表示することができるだけの製品で、転送・再配信・記録をするようアップグレードしたり簡単に改造したりできないもの。

2.設計要件:

デバイス内のアナログデータへのアクセス・録画・転送に関わる部分は、デジタル変換するデバイスの場合、CGMS-AとVEILの2つの権利管理信号を含んだ形でフォーマットされたアナログ映像信号を受信したら、その権利管理信号システムに従い、かつ、CGMS-Aをパスあるいは正しく更新・再挿入し、VEILもパスさせるよう設計されること。デジタル変換しないデバイスの場合、権利管理信号を含んだフォーマットのまま信号を出力し、かつ、CGMS-Aを保存・パスあるいは正しく再挿入し、VEILもパスさせるよう設計されること。

 これによれば、アナログ入力があって録画や転送ができる製品(アナログ入力のあるPCチューナーカードやほとんどのAV家電)はデジタル変換機能があってもなくても、皆、CGMS-AとVEILに対応しなければならない。対応を迫られるデバイスはかなり広範囲だ。

 ただし例外条項(1)からすると、法の発効前に製造され、とりあえず小売店の在庫にまでなった製品は、発効後も非対応のまま、合法的に売ることができると解釈できる。発効時に自宅にすでにある非対応のアナログ入力デバイスを使うことも当然、許される。また、例外条項(2)から、転送や録画用の出力のないTVなら非対応のまま製造販売を続けられると解釈できる。

 また、CGMS-AもVEILも、信号を検知しない非対応機器での映像の再生や録画を阻止するものではない(ただ、非対応機器がCGMS-AやVEILを除去するわけではないので、非対応機器から対応機器にデータを転送したりコピーしたりすると、権利管理がかかる)。そのため、対応機の普及には時間がかかるだろう。

 これはおそらく、DTVへの移行を急ぐ政策と関係する。米国では2009年2月のアナログ地上波放送停止という移行案がほぼ決まり(また繰り延べされるかもしれないが)、各家庭に2枚ずつデジタルSTBを買うための補助金クーポンを配る予定だ。「デジタルSTBのアナログ出力と既存のアナログTVの入力をつないで地上波DTV放送(HDレベルの画像は得られないが)を見られます」ということで、消費者を説得しようとしているのだ。そのため、権利管理信号入りのアナログデータも、再生できる手法にしたのだと思われる。

 だが、それならこの法案が成立しても既存の機器は使えるのだから大したことはないか、というとそうではない。以下のような項目が、今後のDRMの雛形につながる可能性がある。

3.権利管理信号のエンコード:

権利管理信号のエンコードは次のようにする。

(1)記録済みメディア、VOD、PPVや同等のビジネスモデルを持つもの:コピーや再配信を防止あるいは制限してもよい。(コピー禁止コンテンツ)
(2)有料TV、ノンプレミアム加入者TV、無料の条件アクセス配信や同等のビジネスモデルを持つもの:第一世代のコピーは防止してはいけない。その後の世代のコピーや再配信は防止あるいは制限してもよい(コピー1世代可コンテンツ)。
(3)無条件アクセス放送や同等のビジネスモデルを持つもの:コピーは制限してはいけない。再配信は防止してよい(コピー可再配信不可コンテンツ)。
(4)法施行開始12カ月間はVEILによる権利管理は(1)のプログラムフォーマットのみに適用。

4.権利管理信号の転送:

著作権で保護されたライブイベントやAV作品を転送する者は、作品の所有者の要求に応じ、権利管理信号を入れること。勝手に非アクティベートしたり改ざんしてはいけない。

 ここでは、法の中で、コンテンツのビジネスモデルごとにコピー防止の程度を変えるというコンセプトが出てきている。また、これまで何の制限もなかった無条件アクセス放送(アナログ地上波のような)にも、再配信防止の制御だけは法が認めるというコンセプトも見える。法が成立すれば、これは米国の映像コンテンツ保護政策に関する大きな変化と言えるだろう。

 もっとも、一応の消費者を守る配慮もある。一番強いコピー防止が認められるコンテンツであっても、それは「コピーは必ず禁止すべし」ではなく、著作権保有者が「禁止してもよい」であって、しかも、程度の上限を示しているからだ。映画会社などのコンテンツホルダーが厳しすぎるコピー防止をしないように制限している面もあるわけだ。

 また、米国の地上波DTVはアナログ地上波TVの置き換えととらえられているので、法が成立してもコピー制限はされない(再配信防止のみ)と思われる。

 ただそれでも、法の範囲でコンテンツホルダーが自由にガードをかけられる状態になることに変わりはない。

5.録画のルール:

録画の制限は、コンテンツの種類により次のように分けられる。

(1)コピー禁止コンテンツ:アナログ入力デバイスはコピー禁止コンテンツをデジタル録画してはいけない。フレームごと、メガバイトごとなどの保存と削除も禁止。ただし一時的ストレージはOK。また、受信から90分間の保存(タイムシフト)は許されるが、90分後は破壊あるいは使用不能にされる。
(2)コピー一世代可コンテンツおよびコピー可再配信不可コンテンツ:デジタル録画は特許庁が決めるメソッドあるいはその機器固有のメソッドに従うこと。

 ここでは、DOVやPPVなどの番組に関してタイムシフトへの制限が提案されている。実施されれば録画の自由を削る大きな変化となる。Betamax判決で確立された「ビデオ録画はフェアユースであり、消費者の当然の権利だ」という常識も変わることを迫られる。

 90分という時間制限が持ち出された根拠はわからないが、考えられる理由の1つとして、こうすれば2時間以上が多い映画のコピー防止を強化できる。論議を呼ぶのは必至だろう。あるいはひょっとすると、この制限は、もう少し適当な妥協点作りのためのふっかけかもしれない。

6.出力のルール:

(1)アナログ出力:アナログデータをデジタル変換せず出力する場合は権利管理信号を(ブロックしたりせず)そのままパスすること。デバイスがPCに組み入れられている場合のアナログ出力は、VGAモニタへの720×480ピクセル以下かつ非圧縮状態で30fps以下の解像度のみ。
(2)デジタル出力:特許庁が決めるメソッドで出力すること。

 つまりPCからHDレベルでアナログ出力できない。

7.特許庁は、時に応じ、認可する権利管理に改良を加える。

 これもややトリッキーだ。より強力な、非対応機器でのコピーやコピーの再生を許さないような技術への改変も、特許庁の意志で比較的容易にできてしまう危険性がある。

8.違反者は処罰されるが、非利益図書館、教育機関、公共放送機関は例外。

 つまりインターネットによる遠隔教育などに再配信禁止コンテンツを使ってもかまわない。弊害防止のための配慮とも言えるが、ブロードキャストフラグ訴訟のとき原告団を構成していた図書館などからの批判を切り崩すためといううがった見方をすることもできる。

□必ずしも絶対反対でない家電業界

 こういった法案の内容に対し、関係団体はどのような反応を示しているのだろうか。反応から、今後の争点を見ることができる。

 今回のアナログホール法案は、11月に下院司法委員会の公聴会で論議された草案とだいたい同内容なので、草案への関係団体の意見が参考にできる。公聴会では、コンテンツ業界団体のMPAAとRIAA、それに対するサイドである、デジタル言論団体のPublic Knowledgeと家電業界団体のCEA(Consumer Electronics Association)の代表が意見を述べた。Public KnowledgeやCEAは次のような懸念を表した。

1.提案されている2技術は不適切。この組み合わせは、過去に議論され、考慮の価値がないと判断された。特にVEILはコストや機能などで不明点が多い。

 Public Knowledgeのリリースによれば、VEILは『バットマン』の番組やビデオに連動した玩具に使われたことがある程度で、大きなテストが行なわれたことがないという。報道でも、この技術が採用されたのは大手コンテンツホルダーであるワーナーのライセンス製品に使われたものだからか、などとさっそく揶揄されていた。

2.法がカバーするデバイスの範囲が広すぎる。

 この法案自体のコピー防止力はそれほど高くない。なのに、アナログ入力のあるデバイスは非常に多く、それらが皆、再設計を迫られるのは無駄という主張。

3.政府が産業に関するポリシーを決めるのは反対。

 政府は手を出すなというのは、ハイテク業界やデジタル権利市民団体の基本的スタンスだ。音楽市場の例を見てもわかるとおり、政府の強制よりむしろ、消費者教育、著作権法を利用した取り締まりや判決、市場で採用される技術やビジネスモデルなどにより、違法コピー問題は解決されるというのが彼らの主張だ。

4.アナログホールがふさがれると、著作権とフェアユース権利がアンバランスになる。

 現在、DVDなどに施されているコピー防止技術を回避する行為は違法とされている。そのため、アナログホールはデジタルメディアをフェアユースするための“安全弁”になっている。だから法案をこのまま通すのは反対、という主張だ。

 ただし何が何でも穴をそのまま残せと言うのではない。Public Knowledgeは、この法案も、デジタル時代のフェアユースを確立させるDMCRA(Digital Media Consumers' Rights Act:デジタルメディア消費者権利法)法案とペアで話し合われれば考慮に値するという考えを示している。また、CEAはもう一歩進んで、フェアユースがきちんと明示されれば権利管理義務づけもかまわないという考えだ。

 こうして見ると、争点としては、明らかに4が一番根源的な問題だ。コンテンツホルダーの著作権vs消費者のフェアユース権利に関するこの議論の着地点が、将来のコンテンツ管理の方向・内容と直結するだろう。

●アナログホール法案・フラグ提案の行方で見える、政治の勢力バランス

 アナログホール法案・フラグ復活提案の行方は、米国内でのコンテンツ管理の方向に関する勢力バランスをも示す。もし両法案・提案が法として成立・実施されるなら、「政治でコンテンツ管理強化を」という意見が反対派を抑えて通ったことになる。その後のコンテンツ管理のトレンドに大きく影響を与えると思われる。

 アナログホール法案・フラグ復活提案をはじめとして多くのコンテンツ管理強化の法案・提案が出てきた背景には、コンテンツ業界(一枚岩ではないが)中心に、政府機関、一部議員のトライアングルが働いていた感がある。

 ネットの脅威を前に焦るMPAAなどにとって、コピー防止技術対応を義務づける法案を議員に提出させるのは一番手っ取り早いし確実な手段だろう。法案提出は最低限、議員が一人、乗り気になってくれればいい。有力議員ならもっといい。政治だから、根回しするうちにさまざまな思惑から、法案を支持する議員が増える可能性もある。何度も脅威だ脅威だと審議してもらっているうちに、その通りだと思うようになる議員もいるだろう。それに、何度も審議されること自体が、政治家がコンテンツ管理に口を出して当然という風潮を作るのに役立つ。MPAAと対立するPublic Knowledgeのような団体も、DMCRA法案を押したりしている。コンテンツ業界は、それに対抗する必要もある。

 アナログホール法案・フラグ復活提案には、政府機関である特許庁、FCC(連邦通信委員会)もからむ。

 フラグ復活のための権限拡大はFCC自身も望んでいるふしがある。1月初めのCESの、Industry Insiderと題した“業界関係者”向けセッションで、FCC委員長がCEA(家電協会)会長と公開ディスカッションを行なった。内容は、DTVへの移行問題、コンテンツ配信など。デジタル言論団体Public Knowledgeによれば、ディスカッション後のQ&Aで、FCCのMartin委員長は、FCCはDTVとデジタルラジオにフラグを課せる権限を求めているが、そのわけはDTVとデジタルラジオが(FCCの管轄である)IPベースのサービスの一種だから、と答えたという。

 一方、アナログホール法案は特許庁に、将来の技術改良に関する自由裁量権を与えている。ここで特許庁が顔を出す理由には、おそらく、この法案がカバーするのが放送や通信だけでないため、FCCの管轄を超えること、また、フラグ復活提案の行く末がまだわからない以上、FCC以外の機関に権限を与えておいたほうがよいと判断されたことなどがあるだろう。

 日本では放送・通信に関して総務省がさまざまな強制力を持つが、米国でも政府機関が何かの規制に関与したがるのは、その性格上、自然なことかもしれない。

 もっとも、たとえコンテンツ業界、政府機関、一部議員が結びついても、これまでの米国では、日本と比べて、コンテンツ管理強化の政治が通りにくいケースが多かった。コンテンツ管理強化は有権者が望む方向ではなく、法制化に必要なだけの議員の賛同を得にくい面があるからだ。強化反対派の政治活動団体(言論団体・消費者団体など)も手強い。また、過去の司法判断も結果的に強化反対のほうに傾くことがあった。

 だがこのバランスは常に変わる。ことにデジタルコンテンツはまだ技術もビジネスモデルも発展途上で、どうにでも変わり得る。そのためアナログホール法案やブロードキャストフラグ復活提案など1つ1つの政治的動きの行方が、コンテンツ管理のトレンドに大きな影響を与えると思われる。

□関連記事
【2005年7月11日】【後藤】Betamaxスタンダードを残したGrokster判決
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0711/high40.htm
【2005年5月17日】【後藤】ブロードキャストフラグ敗退。コピーフリーになった米DTV
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0517/high39.htm

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(2006年1月27日)

[Text by 後藤貴子]


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