International CESは、今や家電だけでなくIT業界にとっても最大の展示会になっているため、会場を取材していると、向こうから知った顔がやってきて「やぁやぁ」と声をかけられることが多い。そうなると立ち話という名の即席ミーティングが始まるわけだが、筆者が会った多くの業界関係者の中で話題騒然だったのは、Intelの新しいモバイルプラットフォームに関してだった。 それは、Intelが発表したばかりのNapaプラットフォームこと「Centrino Duo」ではない。その後継となる開発コード名“Santa Rosa”で呼ばれる新しいプラットフォームだ。Intelは、このSanta Rosaを2007年の第1四半期にリリースする予定で製品開発を進めているという。本レポートでは、CES取材などから浮かび上がってきたIntelの次世代モバイルプラットフォームについて紹介していきたい。 ●Merom+Crestine+Kedronから構成されるSanta Rosaプラットフォーム Intelの次世代プラットフォームの開発コード名がSanta Rosaだというのは、すでに筆者も以前の記事で触れている。そちらでも触れているとおり、Santa Rosaは、Intelが現行Intel Core Duoの後継として検討している開発コード名“Merom”(メロム)と、“Crestine”(クレスティーン)と呼ばれるチップセット、“Gaston”(ガストン)と呼ばれていた無線LANから構成されていると、当時の記事でお伝えしている。 そうしたアウトラインは変わらないものの、より詳細な内容がわかってきた。OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは2005年の末あたりからSanta Rosaに関する詳細を説明し始めてきたという。Santa Rosaを構成する要素は、CPUのMerom、チップセットのCrestineという2つのキーコンポーネントはそのままだが、無線LANに関しては“Kedron”(ケドロン)と呼ばれる新しい無線LANモジュールが追加されている。
●熱設計消費電力を42Wに拡張するターボモードを搭載するSanta Rosa用Merom Santa Rosaで採用されるCPUは、開発コード名Meromで呼ばれてきたCPUだ。MeromはYonahの延長線上にある製品だが、内部アーキテクチャが大幅に改良され、パイプライン数の増加、新命令セット(MNI、Merom New Instruction)によるメディア性能の強化、x64(EM64T)への対応などの特徴を備えている。Yonahでは2MBだったL2キャッシュも4MBまで増やされるが、2MBのモデルも用意されている。なお、MeromはYonahとピン互換で、OEMベンダはNapaプラットフォームのCPUをYonahからMeromに切り替えるだけでよい(無論、BIOSなどのサポートは必要になるが)。 ただし、Napaプラットフォーム用として投入されるMeromのシステムバス(FSB)の動作周波数は667MHzとYonahと同じになっているが、Santa Rosaプラットフォーム用に投入されるMeromは800MHzに引き上げられている。また、システムバスのクロックを動的にスイッチングさせることで、より省電力を実現させる仕組みなどもSanta Rosa用のMeromで追加されることになる。 なお、Santa Rosa用のMeromでは、もう1つの新しい機能が追加される。Meromの熱設計消費電力は、システムバスが667MHzのNapa用Merom(以下Merom-667)は34W、システムバスが800MHzのSanta Rosa用Merom(以下Merom-800)では35Wなのだが、Santa Rosa用Meromにはそれとは別に42Wまで熱設計消費電力を拡張することができる。具体的にはその時点でのトップSKUのMeromー800には、ターボモードと呼ばれる一種のオーバークロックモードが用意されていて、OEMベンダはこれを利用した設計が可能になるという。 例えば、フルサイズノートのような熱設計的に余裕があるようなノートPCの場合は、常時42Wを前提に動作させ、高いクロックで動かし、あまり余裕がないThin&LightのノートPCでは、システム全体が余裕がある環境で動いている時(例えば冷房がガンガンに効いている部屋で使っている場合とか)にだけ42W時クロックに設定するなどの使い方が考えられるだろう。 以前、筆者はOEMベンダはCPUが45WであってもよいようなThin&LightのノートPCの開発を続けていると説明したが、それはこのターボモードを前提にしたものであったと考えることができるだろう。
【表1】CMTおよびCMT-Dの各CPUの機能比較(一部筆者予想)
●内部構造もDirectX 10に合わせて大幅に改良されるCrestineの内蔵GPU Santa RosaプラットフォームのチップセットとなるCrestineは、サウスブリッジとなるICH8Mと合わせて導入される。 Crestineの特徴は、Intelのモバイル向け統合型チップセットとしては初めて、DirectX 10に対応した最新型のGPUを搭載している点だ。現行型となるIntel 945GMには、Intel GMA(Graphics Media Acceralator)950と呼ばれるGPUが内蔵されている。Intel GMA 9xxシリーズは、IntelのGPUとしては第3世代にあたるGPUで、3Dのプログラミングモデルとしてシェーダモデル2.0(SM2.0)に対応したDirectX 9世代のGPUとなっている。これに対して、Crestineの内蔵GPUは、全くの新世代である第4世代となり、シェーダモデル3.0/4.0、およびDirectX 10に対応する。 Intel GMA 9xxシリーズではハードウェアのピクセルシェーダパイプラインは4つとなっていたが、CrestineのGPUではシェーダエンジンは8つに増やされることになる。 また、Intel GMA 9xxではソフトウェアで行なっていたバーテックスシェーダの処理もハードウェアで行なわれるようになる。ただし、DirectX 10では、シェーダのアーキテクチャが変わり、バーテックスもピクセルも同じシェーダエンジンで処理されることになるので、実際にはバーテックスシェーダのエンジンが追加されるわけではない。また、浮動小数点演算によるテクスチャ処理の精度が24bitから32bitに拡張される、異方形フィルタリングが16サンプルまで可能になるなど、3D描画機能に関しても拡張されている。 なお、ビデオメモリは従来通り、メインメモリの一部を動的に割り当てる(DVMT=Dynamic Video Memory Technology)仕組みが採用されている。Intel GMA 9xxシリーズでは、最大で128MBまで割り当てることができたが、Crstineでは256MBまで割り当てることが可能になっている。 ビデオ周りの機能も大きく改善されている。Intel GMA 9xxには搭載されていなかった、MPEG-4 AVC(H.264)とVC1(WMV9+)のHD解像度でのハードウェアアクセラレーションの機能が搭載されている。Crestineでは、VLD、iDCTの処理はGPUで、MCとiLDBの再生支援はGPU側で行なう。これにより、HDコンテンツの再生時のCPU負荷を下げることが可能になる。また、インタレース解除の処理も拡張され、よりノイズの少ない動画再生が可能になる。また、次世代DVDなどで必要になるHDMIに関しても、IntelからOEMベンダに対して設計ガイドラインを提供して、Crestineでサポートする。 OEMベンダにとって嬉しいニュースとして、Crestineの標準パッケージサイズ(GMSは除く)は標準で10%も小さくなる。これまで、ノートPCのマザーボードの中で最も大きなチップはチップセットのノースブリッジで、マザーボードを小さくする上での妨げになってしまっていたが、それもCrestineでは若干緩和されることになる。
【表2】 CMTおよびCMT-Dの各チップセットの機能比較(一部筆者予想)
●Intel Matrix RAID周りの拡張が行なわれるICH8M サウスブリッジのICH8Mも、Intel 945GM/PMで採用されているICH7Mに比べて拡張されることになる。ハードウェアの拡張では、シリアルATAのポートが2から3に、USB 2.0ポートが8ポートから10ポートに増やされるほか、Gigabit EthernetのMACが内蔵されることになる。このため、外部PHYのNineveh(ニネベ、開発コードネーム)と組み合わせることで、ローコストでGigabit Ethernetを構成することが可能になる。 ソフトウェア周りでは、Intel Matrix RAIDの機能が拡張される。具体的には、従来からサポートされているRAID 0/1に加えて、外付けHDDなど常にノートPCに接続されていないデバイスに対して、HDDの中身をRAID 1のようにクローンできる「Clone-N-Go」、HDDや光学ドライブへのバックアップ機能、ドッキングステーションやeSATAなど外部のシリアルATA HDDも利用することが可能になる。 ●11nに対応する新しい無線モジュール「Kedron」 IntelはCentrino Duo(Napaプラットフォーム)の無線LANモジュールとして、開発コードネーム“Golan”で知られるIntel Pro/Wireless 3945ABGをリリースしている。Santa Rosaではこれに替わり、開発コードネームKedronと呼ばれる無線モジュールを投入する。Kedronの最大の特徴は、現在IEEE 802.11委員会で11a/b/gの後継として規格策定が進められている11n(IEEE 802.11n)に対応していることだろう。 11nは現在IEEE 802.11委員会で規格策定が進められている次世代の無線LANで、MIMOなどの技術を利用することで、スループット(実際の転送速度)が、既存の11a/b/gなどに比べて大幅に上昇している。現在検討されているのは、2.4GHz帯(2.4GHz-2.483GHz)と、5GHz帯(5.15-5.35GHz、5.725-5.825GHz)の2つの無線帯域を利用し、MIMO技術を利用して最大で4つのストリームを利用することで、243Mbps~600Mbps以上の転送速度を実現する予定となっている。 11nは2006年の後半から2007年にかけて規格策定が終了すると言われており、Santa Rosaがデビューする2007年の第1四半期のタイミングで規格策定が終了しているかどうかは不透明な情勢だが、少なくともその段階ではドラフトは完成している可能性が高いので、11nの実装に踏み切る。 Kedronではソフトウェア(Intel PROSet/Wireless)のバージョンも引き上げられる。現在Intel Pro/Wireless 3945ABGでは、Intel PROSet/Wireless v10が添付されているが、Kedronでは、開発コードネーム“Lisbon”(リスボン)と呼ばれるIntel PROSet/Wirelessの最新バージョンにアップデートされる。このLisbonではiAMTに対応するほか、CCX(Cisco Compatible eXtentions)のバージョンが現在のv4からさらに引き上げられるなどの特徴を備えている。
【表3】CMT、CMT-Dの各世代における無線LANモジュールの比較
●Windows Vistaを見据えたSanta Rosaプラットフォーム 以上のように、Santa Rosaに投入されるコンポーネントや新しい技術について現時点で判明している情報を元に紹介してきたが、大きなポイントはやはりGPUのバージョンアップと無線LANの新規格への対応となるだろう。CPUが前プラットフォームと同じものを利用するという意味では、CarmelからSonomaへ移行した時と同じようなバージョンアップになるのではないだろうか。 特に、DirectX 10世代のGPUを搭載することは重要で、Meromでのx64対応と合わせて、Windows Vistaを見据えての動きと考えることが可能だろう。 【お詫びと訂正】初出時、DirectX 10対応について「モバイルPC向けチップセットから」という旨の誤った記載がありました。お詫びして訂正させていただきます。
□関連記事 (2006年1月16日) [Reported by 笠原一輝]
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