AMDは、International CESに先立つ1月4日(現地時間)、同社のプロフェッショナル向けのメディア作成関連のブランドである「AMD LIVE!」を、コンシューマ向けエンターテインメント分野にも拡大することを明らかにした。 AMDは、International CESの会場において記者向けの説明会を開催し、AMD LIVE!の基本コンセプトや仕様などを解説した。 その説明によれば、現時点ではAMD LIVE!の仕様は未定で、現在AMDの顧客と議論を重ねており、仕様の策定は今年の半ばをめどに進めているという。 ●PCによるTV放送の利用環境改善が主目的
これに関しては若干解説が必要だろう。日本のユーザーからすれば、放送によるコンテンツのPCにおける活用というのは、すでに起こっていることだ。すでに2000年以前から、日本のPCにはTVチューナーが入った製品が多数出荷されているし、現時点ではコンシューマ向けのデスクトップPCに関してはほぼ100%近くがTVチューナーを内蔵している。言ってみれば、PCにおけるTV放送の受信という環境はほぼ完成に近い。 しかし、米国ではそうではない。Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CSAは、今年初めの時点で出荷されたWindows XP Media Center Editionのライセンス数は650万ライセンスだと明らかにしたが、全体のWindowsのライセンス数からすれば割合は非常に小さいと言わざるをえない。米国では、OEMベンダ(PCメーカー)が独自のソフトウェアでTV受信機能を実装する例はほとんどなく、TV放送の受信はWindows XP MCEで行なうことが一般的であることを考えると、米国におけるPCでのTV放送受信はまさに始まったばかりなのだ。 「AMDとしては、既存のリビングにあるような受信機器と競合したいわけではないし、放送事業者のビジネスモデルを破壊したいわけでもない。あくまでそれらと協調しつつ、ユーザーのエンターテインメント体験をより良いものにしていきたいと考えている」(ウォルフォード氏)と、既存の放送事業やセットトップボックスなどの家電機器と協調しながら、AMD LIVE!構想を進めていきたいと強調した。
気になるのは、Intelの「Intel Viiv Technology」(Viiv)との違いだろう。これに対しては「競合他社はプレミアムコンテンツに重きを置いている。もちろん、将来的にそういう可能性もあるとは思うが、まずはTV放送の受信環境の改善に重きを置いている。この点が大きく異なっている」(ウォルフォード氏)という。ViivのハリウッドなどのコンテンツホルダーがViivプラットフォームに対してコンテンツを配信するという構想に対し、TV放送受信環境の改善が第一だという違いを強調した。 ●仕様が決定するのは今年の半ば以降 それでは、AMD LIVE!でAMDはどのようなイニチアシブ(主導権)をとっていくことになるのだろうか。具体的にはPCに対してTV放送を受信する環境などを改善していくことを考えているという。ST Microとネットワーク接続されたセットトップボックスのリファレンスデザインをOEMに対して提供していくほか、MicrosoftのWindows XP Media Center EditionやWindows VistaをAMD LIVE!用のOSとして、より手軽にTV放送をPCで楽しめるようにプロモーションなどを行なっていくという。 では、具体的にどのように実装していくのかと言えば、「AMD LIVE!ではDLNAやWi-Fiといった既存のオープンスタンダードを利用していく。AMDの独自規格を作り上げるのではなく、現在あるものを上手く活用していくというのがAMD LIVE!の考え方だ」(ウォルフォード氏)という方針を明らかにしている。 ただ、そうした大まかな方針こそ明らかにされたものの、具体的な仕様に関しては全く明らかにされなかった。「AMD LIVE!の要件は現在OEMベンダなどのパートナーと話をしながら策定を進めているところだ」(ウォルフォード氏)と述べるにとどまり、具体的にどうすればAMD LIVE!プログラムに乗れるのか、などに関しては一切言及が無かった。 なお、AMD LIVE!の要件や仕様などが決まるのは、今年の半ばを予定しているとAMDでは説明している。
●OEMベンダがAMD LIVE!に参加するメリット Viivでは、Intel、OEMベンダ、サービスプロバイダ、エンドユーザーのすべてがメリットがある仕組みを構築することで、お金が回り始める、そういう“エコシステム”を構築できるかどうかが、成功するかどうかの分かれ目になる。 では、OEMベンダがAMD LIVE!に参加するメリットは何なのだろう。Viivでは、OEMベンダがプログラムに参加する上で明確なメリットがある。Intel Inside Program(IIP)と呼ばれるプログラムがそれで、広告にIntelのロゴなどを露出することを条件にOEMベンダの広告費の一部が負担される。 Viivの場合、“Viiv”のロゴを呈示することで、Pentium DやPentium 4のロゴだけの場合に比べてIntel側の負担率が高くなるという。だから、OEMベンダ側としても、Viiv対応のPCを作る明確なメリットがあり、モチベーションとなる。 この点に関して、ウォルフォード氏「現時点ではノーコメントだ」と述べるに留まった。ただし、AMDの側もマーケティングプログラムの重要性を認識しており、以前よりIIPとは仕組みは異なるが、「AMD Advantage」と呼ばれるOEMベンダ向けのマーケティングプログラムを実行しているという。ただし、AMD LIVE!にAMD Advantageが適用されるのかを含めて現時点では全く未定とのことだった。 ●放送の活用が進んだ日本への対応 今回AMDにAMD LIVE!のことを聞いてわかったことは、放送コンテンツをPCでもっと活用することを促進していきたいというコンセプト以外、今のところは実際の実装方法や要件などを含めて具体的には何も決まっていないということだ。 IntelがViivを強力に推進していく以上、AMDも何かしなければならないと考えるのはある意味自然な展開で、AMDがAMD LIVE!をコンシューマ向けに拡張して推進していきたいというのは理解できる。 ただ、筆者としてはプレミアムコンテンツはターゲットにせず、既存の放送を活用していくというコンセプトには違和感を覚えたのは事実だ。それはおそらく筆者が日本人だからだろう。冒頭でも述べたように、日本ではすでにPCにおける放送コンテンツの活用は、(デジタル放送を除けば)すでに完了している状況だ。 そこで、“放送コンテンツの活用を促進”と言われても、今更という感じがしてしまう。このあたりは、日米で状況が異なっているだけに致し方ないところだろう。 ただ、正直に言えば、AMDとしてもまだまだ状況を探っている状況なのではないだろうか。今後OEMベンダなどとの話し合いを通じて仕様の策定を進めていきたいとのことなので、その中でプレミアムコンテンツの配信に力を入れて欲しいという要求が多ければ、方針転換は当然あり得るのではないかと筆者は思う。 いずれにせよ、今年の半ばと説明されているAMD LIVE!の具体的な仕様や要件が見えてこなければ、評価のしようもない状況だ。引き続き、今後の動向を見守っていきたいと思う。
□関連記事 (2006年1月9日) [Reported by 笠原一輝]
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