●デスクトップではCoreブランドはConroeから Intelは、モバイルCPUでは65nmプロセスの「Yonah(ヨナ)」から、デュアルコアとシングルコアの両方で新CPUブランド「Intel Core Processor」を使い始める。ところが、デスクトップCPUで、Yonahと同時期に発表する65nm世代のデュアルコア「Presler(プレスラ)」とシングルコア「Cedar Mill(シーダーミル)」には、Coreブランドを使わないと言われる。現在の予定では、デスクトップは既存ブランドのまま。Coreブランドが冠されるのは、次世代マイクロアーキテクチャの「Conroe(コンロー)」からとなるようだ。Coreブランドは、モバイルでスタートされ、デスクトップとモバイルでブランドが揃うのは、2006年後半に入ってからとなる。 このブランド戦略のずれには、いくつかの理由が推測される。 1つは、Conroeのインパクトをできる限り強めたい、あるいはConroeでないと新ブランドを冠するだけのインパクトがないと、Intelが考えている可能性。Yonahは、モバイルCPUでデュアルコアという点で、それなりのインパクトがある。それに対して、Preslerは現行のPentium D(Smithfield:スミスフィールド)との差別化要因が少ない。しかし、Conroeになると、メインストリームデスクトップPC向けのデュアルコアCPUのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)は、一気に65Wへと半減する。ずっとインパクトは大きく、Intelとしても強調したいところだろう。 もっとも、Intelが“Pentium”のようなユニークな名称ではなく、無味な“Core”を次のCPUブランドに選んだのは、今後は同社がCPUブランドを押し出さないという意図の現れとも考えられる。Intelは、現在の方針を“プラットフォーム化(Platformalization)”と位置づけており、CPUブランドよりプラットフォームブランドを前面に出そうとしている。それを考えると、プラットフォームブランドが確立しているモバイルから、Coreブランド化を進めるのは自然な流れに見える。 Coreブランドを冠するのは、デュアルコアに最適化された設計のCPUからとIntelが考えている可能性もある。Yonahは、2コアをタイトに統合したデュアルコアで、Intelにとってはスタート時点からデュアルコアを前提に設計した最初のCPUとなる。一方のPreslerは、シングルコアのCedar Millのダイ(半導体本体)を2個、ワンパッケージに搭載したパッケージベースのデュアルコアCPU。Preslerソリューションは、Coreブランドにふさわしい技術ジャンプではないとIntelは判断したのかもしれない。Intelは、デジタルホームでは“Viiv”ブランドを押し立てる計画だが、エンタープライズのブランディング戦略は、まだ見えていない。
●Coreブランドとプラットフォーム化はセット 理由が何であるにせよ、結果として明瞭なのは、CoreブランドCPUは、プラットフォームブランドとセットになり、CPUアーキテクチャの大きな変わり目に切り替えられ、それはデュアル/マルチコアへの最適化と重なるという点だ。「Coreブランド=プラットフォーム化=アーキテクチャチェンジ=デュアル/マルチコア」がセットだと考えれば、わかりやすい。 そして、その結果として、デスクトップCPUロードマップは下のようになる。2006年前半は、Smithfield→Presler、Prescott-2M→Cedar Millと、比較的大人しい世代交代となる。プロセス技術は90nmから65nmへと変わるものの、CPUマイクロアーキテクチャは同一で、周波数もそれほど変わらず(トップが3.2GHzから3.4GHzに上がる)、TDPも大きくは下がらない。Pentium Dは、L2キャッシュが2MB×2の合計4MBになり、VT(Virtualization Technology:コードネームVanderpool)がイネーブル(有効)となり、Processor Numberが900番台に上がる。 Pentium Extreme Edition(XE)ラインもSmithfieldからPreslerへと変わる。最大の違いはFSBが800MHzから1,066MHzへと引き上げられることだ。そのため、動作周波数も3.46GHzになる。Preslerについては、サンプルで問題があったというソースもある。 Pentium 4では、Cedar MillになってもL2キャッシュサイズが2MBのまま変わらない。Processor Numberも600番台に留まる。また、VTもイネーブルにしないことになったので、より付加価値は減少した。どうやら、Intelは、VTをデュアルコアと結びつけた仕様としたいようだ。 2006年後半になると、いよいよConroeがCoreブランドで登場する。 Intelは、Yonahについては、デュアルコアのYonah DCが「Intel Core Duo」、シングルコアのYonah SCが「Intel Core Solo」とブランディングする。Duo/Soloのサブブランドが、Conroeにも使われるかどうかはまだわからない。ただ、Intelは、歩留まり向上のために、Conroeのシングルコア版も出すだろう。片コアに欠陥があった場合は、シングルコアで動作するように作れば、かなり不良チップの比率を減らすことができる。Conroe系では、派生品(Derivative)として、複数のコードネームが伝えられている。 ちなみに、Coreブランドからは、“M(Mobile)”や“D(Desktop)”といったフォームファクタを種別するイニシャルはつかなくなる。おそらく、ロゴもConroeとMeromで共通化されるだろう。ちなみに、新CPUブランドに合わせて、インテルインサイドロゴも変わる。「Intel Pentium xx inside」ではなく、「Intel Core Duo inside」と「Intel Core Solo inside」となる。またIntelロゴも、“e”の字が落ちない新ロゴとなる。Intel自身が新バージョンになる、そういう意気込みのようだ。
●クアッドコアCPUもハイエンドデスクトップに投入か? Intelは、Conroe/Meromアーキテクチャではデュアルコアだけでなく、クアッドコア(Quad-core)CPUも投入する。 Intelは、もともと2系統のクアッドコアCPUのプランを持っていたと言われる。1つは、MP(Multi-Processor)サーバー向けに、コモンプラットフォーム(IA-32/IA-64の共通プラットフォーム)に対応する「Whitefield(ホワイトフィールド)」。こちらは、FSB(Front Side Bus)もシリアル伝送の「CSI」となり、FB-DIMMメモリインターフェイスも統合する計画だった。もちろん、現行のチップセット/プラットフォームレベルとの互換性はなくなる。しかし、以前レポートした通り、Whitefieldはキャンセルになり、この計画は、延期状態になっている。 もう1つは、DP(Dual-Processor)サーバーなどをターゲットに開発がスタートしたクアッドコア。こちらは、既存のFSB(Front Side Bus)と互換性を持つとも言われる。このクアッドコアCPUの噂は以前からあり、ハイエンドデスクトップにも投入されると言われていた。その場合、デスクトップのプレミアCPU、つまり、現在Pentium Extreme Edition(XE)が占めるラインは、2007年頃にはクアッドコアに移ると見られる。 ちなみに、IntelはMPサーバー向けクアッドコアでも、キャンセルしたWhitefieldの代替に「Tigerton(タイガートン)」と呼ばれる製品を2007年までに投入する予定と言われている。TigertonのFSBは明らかになっていないが、Whitefieldから転じた理由が、CSIベースよりも迅速に投入できる利点を持つことだったため、既存FSBとの互換性を持つと見られる。逆を言えば、もともと、既存FSB互換のクアッドコアCPU開発も平行していたから、MPサーバーも比較的簡単に製品戦略を切り替えることができたと推測される。 ●クアッドコアは再び高TDPへ Intelが、サーバー向けCPUをプレミアデスクトップに投入するのは、初代「Pentium 4 Extreme Edition(XE)」以来のお家芸だ。Pentium 4 XEでは、MPサーバー向けの大容量キャッシュ版Xeon「Gallatin(ギャラティン)」を流用した。ダイサイズ(半導体本体の面積)が大きい分だけ、高コストになるが、高価格をつけられるプレミアデスクトップなら利幅的には問題はないと見ているようだ。ただし、Intelが、クアッドコアをデスクトップに投入する場合、Pentium XEのように最高価格帯だけに留まるのか、もう少しラインナップを下へ広げるのか、それはわからない。 SmithfieldベースのPentium XEは、デュアルコアでHyper-Threadingをイネーブルにすることで、4スレッドのマルチスレッディング環境になっている。クアッドコアになれば、同様に4スレッドの並列性が得られる。スレッド数による差別化は、クアッドコアで継承されることになる。 ただし、Hyper-Threadingによるデュアルスレッド化と異なり、物理的にCPUコアを増やす場合にはTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)が上昇する。複数の業界関係者によると、IntelはプレミアデスクトップCPUでは、現行と同レベルのTDPをConroe登場以降も継続するつもりだという。130WクラスのCPUを静音化するために、Intelは排熱について水冷ソリューションも真剣に検討しているという。メインストリームPCのTDPはConroeで65Wへと下げるものの、ハイエンドのラインは高TDP路線を維持する。クアッドコアのTDPも視野に入れているためだと言う。 ●バス帯域がネックとなるクアッドコアCPU 現在のところ、デスクトップ向けクアッドコアの詳細はわかっていない。しかし、Merom/Conroe系は、デュアルコアに最適化された設計になっており、これをクアッド構成に最適化するには大幅な設計変更が必要となる。真剣にやり始めたら、年単位の開発期間が必要となるため、リードタイムを短縮するために、もっと簡易なクアッドコア設計を取る可能性が高いと推測される。原理的には、既存の共有FSBベースなら、2チップを1個のパッケージに収めたPresler方式のクアッドコアも可能だ。 Intelが、MPサーバー向けクアッドコアで、CSIとFB-DIMMのインターフェイスを統合しようとしていたのは、クアッドコアに見合ったバス帯域を確保するためだ。4個のコアのパフォーマンスをフルに活かすには、それに見合うだけのデータをCPUに供給する必要がある。Intelだけでなく、マルチコアCPUは、メモリインターフェイスの統合へと向かっている。メモリのダイレクトコネクトと高速FSBは、マルチコア時代のCPUにとって必須のトレンドだと言ってもいい。 それに対して、IntelがPentium 4系のバスアーキテクチャのクアッドコアを採った場合、バスを1,333MHz程度まで高速化したとしても、メモリインテンシブなアプリケーションには十分ではない可能性が高い。少なくとも、サーバーでは性能のボトルネックとなりそうだ。「コア数に見合うバスを備えないマルチコアは、マーケティングだけの製品」(あるCPU開発者)となってしまう。Intelがどういう手段を取る計画なのか、興味深い。 とはいえ、デスクトップPCのソフトウェア環境では、大量のメモリアクセスを伴う用途はあまり存在しないと割り切ることもできる。リアル性能の追求よりも、一定のTDP枠の中でクアッドコアをできるだけ速く製品化した方が、マーケティング的には有利と判断したのかもしれない。AMDも65nmプロセスでは、K8系のクアッドコアをサーバー向けに投入するとも言われているため、Intelが急ぐ必要があると考えた可能性も高い。 ちなみに、シングルコアが「Solo(独奏)」、デュアルコアが「Duo(二重奏)」というIntel Coreブランドのネーミングルールに従うと、クアッドコアは「Core Quartet(カルテット:四重奏)」になるが、まだわからない。このネーム法則で行くと、オクタコアと考えられる「Poulson(ポルサン)」は「Core Octette(オクテット:八重奏)」、メニイコア(Many-core)は「Core Orchestra(オーケストラ)」になりそうだ。 □関連記事 (2005年11月25日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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