●Yonah以降のCPUアーキテクチャはIntel Core Processorに IntelがCPUブランドを切り替える。新ブランドは「Intel Core Processor」。Intelは、“Core(コア)”ブランドを、2006年1月に発表する予定のデュアルコアモバイルCPU「Yonah(ヨナ)」に冠する。さらに、Yonahだけでなく、2006年後半に投入するデスクトップ向け次世代CPU「Conroe(コンロー)」とモバイル向け次世代CPU「Merom(メロン)」にもCoreファミリのブランド名をつけるという。つまり、デュアルコアに最適化されて設計されたCPU世代から、CoreブランドCPUとなる。 ただし、今のところIntel Coreブランドになるのは、パフォーマンスCPU、つまり、従来なら「Pentium」ブランドがつけられていたクラスのCPUだけのようだ。バリューCPUである「Celeron」ブランドは、そのまま同じブランドを継続すると見られる。例えば、同じYonahベースのCPUでも、バリューPC向けはCeleron Mがつけられる。 CPUブランドの変更とともに、IntelはProcessor Numberのスキムも変える。すでに報道されている通り、ナンバーは4桁となり、数字の前に、消費電力の階層であるパワークラス(Power Class)を示すアルファベットのプレフィックスがつく。Processor Numberだけで、CPUのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)のガイドラインがわかるようになる。 CPUブランドやProcessor Numberの変更に合わせて、プラットフォームブランドにも変更を加える。モバイルプラットフォームのブランド名は、デュアルコア版Yonahベースでは「Intel Centrino Duo mobile technology」となるようだ。デュアルコアを示す“Duo(デュオ)”が新たについて、第2世代のCentrinoであることが示される。ただし、Centrino DuoとデジタルホームのViiv以外のプラットフォームブランドについては、まだ見えていない。 Intelは、こうしたマーケティングの新戦略を、フルラインの新製品とともに、華々しく発表する見込みだ。同社は、1月頭に開催される家電関連トレードショウ「International CES」で、Yonahを正式発表すると同時に、新ブランド戦略をアナウンスすると言われている。また、軌を一にして、65nmプロセス版のデスクトップCPU群――デュアルコアの「Presler(プレスラ)」とシングルコアの「Cedar Mill(シーダーミル)」もお披露目する計画だと言う。1月5日は、Intelの2006年デュアルコア攻勢のXデイとなる模様だ。 IntelがCPUブランドを変更することは、しばらく前から広く知られていた。ブランド変更に伴うロゴ変更のために、顧客に広く知らせる必要があったためだ。Intelの各種ロゴマークは、ブランド変更とタイミングを合わせ、Intel自身のロゴも含めて一新されると言われている。また、新ブランドのアナウンスが、2006年1月のYonah正式発表と同時になることも予期されていた。しかし、正確なブランド名自体やブランド戦略の概要は、これまで知られていなかった。ここへ来て、ようやく輪郭がつかめるようになり始めた。 ●ストライプ状にブランドが入り交じるモバイルCPU IntelのモバイルCPUの、現在判明しているロードマップは下の通り。ロードマップ自体には過去2~3カ月でそれほど大きな変動はないが、ブランド戦略が見えてきたことで、各CPUの位置づけが明確になってきた。
モバイルでは、CPU世代交代は比較的単純な図式となっている。パフォーマンスCPUでは、90nm版Pentium M(Dothan:ドタン)からYonahへと、フルラインナップが入れ替わる。例えば、通常電圧版では、Yonahをトップエンドの2.16GHzからボトムの1.66GHzまで全SKU(Stock Keeping Unit=商品)をカバーするように投入。Yonahと入れ替わりにDothanの供給は絞って行き、2006年の前半にDothanからYonahへと全SKUを切り替える。ULV(超低電圧)版は移行が1四半期遅れるが、基本的には2006年中盤までにはパフォーマンスモバイルCPUは、Yonahアーキテクチャへと全面移行が進むことになる。 そのため、モバイルでは、CPUブランドはPentium MからIntel Coreへと劇的に変わると見られる。2006年中には、大半のCPUがCoreブランドCPUになっているだろう。 Yonahにはデュアルコア版のYonah DCと、シングルコア版のYonah SCがある。新ブランドでは、シングルコアとデュアルコアはサブブランド名で区別される。デュアルコアYonah DCは「Intel Core Duo」、シングルコアYonah SCは「Intel Core Solo」になると言われている。 Intelは、通常電圧版のパフォーマンスCPUのほとんどをYonah DCでカバーし、ローエンドにのみYonah SCを提供する。また、LV(低電圧)版にはYonah DCを、ULV(超低電圧)版にはYonah SCをまず投入し、2006年後半にYonah DCも加える。ULV版のYonah DCは、現在のLV版に近いTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)なので、実質的にはLV版とULV版の間に、新しいTDP帯のデュアルコアCPUが投入されることになる。 このように、モバイルではデュアルコアとシングルコアがTDP帯と価格帯でストライプ状に入り交じる。そのため、CPUブランドもストライプ状に入り交じることになる。 まず、通常電圧帯は大半がIntel Core Duoとなり、低価格帯にだけIntel Core Soloが挟まる形となる。LV版はIntel Core Duoへ移行し、ULV版はIntel Core Soloになる。そして、ULV版とLV版の間に、違うフォームファクタのIntel Core Duoが登場する。 モバイルでは、Intel Core DuoベースのプラットフォームはIntel Centrino Duoになり、Intel Core SoloベースのプラットフォームはIntel Centrinoのまま。デュアルコアを差別化しようという意図が明瞭だ。Yonahベースのプラットフォームのコードネームは「Napa(ナパ)」だったので、Napa DCがCentrino Duoになり、Napa SCがCentrinoということになる。プラットフォームブランドもストライプで入り交じることになる。
●Processor Numberにパワークラスが加わる Processor Numberは、Intel Coreブランドではパワークラスで分けられる。新Processor Numberの最初につくアルファベットのプリフィックスが、CPUの属するTDP帯を表す。現在では、以下の4レンジのパワークラスが示されている。
TDPレンジがProcessor Numberで示されるようになったため、従来の“LV”や“ULV”といった表記は姿を消すようだ。このコーナーでも、それに対応して通常電圧版は「パワークラスT」、LV版は「パワークラスL」、ULV版は「パワークラスU」とそれぞれ呼ぶことにする。パワークラスEは、まだ製品計画が見えないため、YonahはT/L/Uの3クラス構成となる。 パワークラスのアルファベットの後に続く4桁の数字は、最上位の4桁目が製品ファミリを示す。デュアルコアのIntel Core Duo(Yonah DC)は2000台、シングルコアのIntel Core Solo(Yonah SC)は1000台だ。現状では、4桁目が2ならデュアルコア、1ならシングルコアだ。例えば、Intel Core Duo(Yonah DC)の2.16GHzは「T2600」で、Intel Core Solo(Yonah SC)の1.66GHzは「T1300」となる。 次の3桁が、パフォーマンスレンジを示す。ただし、生パフォーマンスをそのまま反映したものではない点は、従来のProcessor Numberと同じだ。数字は機械的に、周波数グレード毎に100づつ上がるようにつけられている。また、今回の場合、パワークラスTについては、同じ周波数なら同じ3桁数字がつけられている。例えば、Intel Core Duo(Yonah DC)の1.66GHzは「T2300」で、Intel Core Solo(Yonah SC)の1.66GHzのT1300と、下3桁が揃う。わかりやすいと言えば、わかりやすい。 しかし、他のパワークラスが加わると、話はちょっとややこしくなる。パワークラスL(旧LV版)のCPUでは、同じ1.66GHzが「L2400」となる。パワークラスが異なると数字の相対値が異なる。つまり、3桁目から下のナンバーは、同じパワークラスの中での比較用となるようだ。 だが、パワークラスUになると、さらに複雑になる。デュアルコアのIntel Core Duoの1.06GHzが「U2500」なのに対して、シングルコアのIntel Core Soloの1.06GHzが「U1300」。同じパワークラスで同じ周波数でも、シングルコアとデュアルコアで3桁の数字が異なる。混乱しそうだが、TDPレンジを図式化すると、もう少し見えてくる。 ●TDPで見ると明瞭なIntelのYonah DC製品戦略 Intelは、Yonah=Intel Coreの投入で、モバイルCPUのTDPも変更する。現行は、通常電圧版Dothanが27W、LV版Dothanが10W、ULV版Dothanが5.5W。Yonah世代でも3階層は継続されるが、TDP自体は変わる。パワークラスT(旧通常電圧版)のデュアルコアYonah DCが31W、シングルコアYonah SCが27W、パワークラスL(旧LV版)のYonah DCが15W、パワークラス(旧ULV版)のYonah DCが9W、Yonah SCが5.5W。ごちゃごちゃしているようだが、シングルコアとデュアルコアに分けると把握しやすい。 まず、トップのパワークラスTのデュアルコアCPUでは、TDPはシングルコアDothanの27Wから31Wへと増える。デュアルコア化の分が4W程度は、小さいと言えるかもしれないが、実際には、さらにこの後、MeromでTDPは34Wに増えると言われている。最終的に、2006年のモバイルCPUのTDPは、3年前の、旧Pentium 4-Mの35Wに再び近づくことになる。 パワークラスLは、シングルコアからデュアルコアへの移行で、もっともTDPが大きく変わる。9Wから15Wへと60%もTDPが跳ね上がるため、同じ熱設計の筺体には収まらない。ノートPCベンダーにとっては、やっかいだが、これは、IntelのモバイルCPUのラインナップ構成のセオリーからすると自然な流れだ。 Intelの通常電圧版とLV版、ULV版の構成は、ごく簡単な法則に基づいている。LV版は通常電圧版の約50%のTDPで約70%のパフォーマンス、ULV版は約25~30%のTDPで約50%のパフォーマンスが原則的な構成だ。TDPと周波数の関係は、半導体の電圧のスケーリングと周波数の関係から決まる、いわば物理的な制約だ。Intel Core Duo L2xxxは、31Wの約48%のTDP 15Wで、約77%の周波数1.66GHzなので、セオリーをやや上回っているが、それでも、大体はこのスケーリング率に従っている。だから、Intelにとって自然な位置づけの製品ということになる。
Intelは、1カ月ほど前に、パワークラスUにもデュアルコアYonah DCを追加した。じつは、これもTDPが9W、周波数が1.06GHzと、約25~30%のTDPで約50%のパフォーマンスという枠にはまる。つまり、Yonah DCのパワークラスT/L/Uの関係は、Baniasや初代Dothanの時の通常電圧版/LV版/ULV版の関係と、およそ同じ比率にある。つまり、Intelにしてみれば、デュアルコアCPUを従来通りのTDP/周波数比で配置したら、この製品構成になったというわけだ。 3階層が一定のTDP/周波数に並ぶため、最上位(T)のTDPが上がると、それにつられて、下の2階層(LとU)のTDPも上がる。Intelは、おそらく、この比率が、製品ライン構成上、もっとも適切だと考えているのだろう。パワークラスUのYonah DCは、TDPレンジ的には旧LV版CPUに近く、セオリーに基づいた、新しいTDPレンジのCPUが加わったと考えるのが妥当だ。 異例なのはパワークラスUのシングルコアYonah SCで、これだけがセオリーのラインからはみ出す。Intelは、5WレンジまでをモバイルCPUでカバーする必要を切実に感じているらしい。そのため、5W台を堅持する姿勢を見せている。しかし、Merom以降、Intel CPUが、デスクトップからモバイルまでカバーする「ユニファイドアーキテクチャ」になると、アーキテクチャ的にパフォーマンスレンジが上にずれるため、極端な低TDPのレンジをカバーすることは難しくなりそうだ。
もっとも、Intelは、IA-32アーキテクチャをより小さなデバイスに搭載することを考えており、そのために、超低消費電力のIA-32 CPUも開発している。このローパワープロセッサが完成すると、数W台のCPU製品のレンジはそちらのアーキテクチャがカバーするようになるかもしれない。ローパワープロセッサは、すでにR&D部門から事業部へと移管され、本格的な開発フェイズに入っていると言われる。 □関連記事 (2005年11月22日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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