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「Cell」に対抗すべく名付けられた「Core」ブランド




●ブランド名としては異例な「Core」プロセッサ

 Intelは、マルチコア時代のCPUに、「Intel Core」Processorというブランド名をつける。Intel CPUで、マルチコアを前提に設計された最初のCPUは「Yonah(ヨナ)」で、このYonahからCoreブランドが冠される。つまり、マルチコアCPUイコールCoreブランドという関係になる。

 面白いのは、IntelがマルチコアCPUのブランドとして選んだのが、普通名詞の『Core』であること。通常、製品名には『iPod』とか『VAIO』といった、ユニークな造語をつける。普通名詞を製品ブランド(固有名詞)に転じさせることは、どちらかというと例外的だ。もっとも、今回は、トレードマークとしては『Intel Core』になるから、2ワード合わせて固有名とすることで商標出願をしやすくしている。しかし、一般的には「Core」と呼ばれるようになることは間違いないし、それがIntelの意図だろうと思われる。

 つまり、Intelは“Core”と呼ばせたくてわざわざIntel Coreというブランド名を選んでいると見られる。ユニークな固有名詞ではなく、普遍的な普通名詞を選んだのはなぜか。それも、よりによって“Core”を選んだのはなんのためか。

 Coreブランドは、普通名詞を商標に転じさせることで、英語的には非常にややこしい事態を発生させる。現状では、「Pentium 4“Core”を2個載せたPentium D」と表現できるのが、CoreブランドのYonahになると「Coreを2個載せたCore」になってしまう。英語的には、普通名詞のCoreと固有名詞としてCoreがごっちゃになり、混乱してしまう。それにはなんらかのIntelの思惑があるはずだ。

●普通名詞をブランド名に選んだインパクト

 1つの推測は、今後、プラットフォームブランドが主流になると考えて、CPUブランドの位置付けを後退させるため、ユニークなブランドをつけなかったこと。Coreなんて、どうでもいいから、ユニークな名前はつけなかった、という推測だ。

 ただし、これにはかなりの疑問がある。というのは、一般に、商品名としては、造語より、普通名詞を持ってくる方が、インパクトが大きいからだ。Microsoftの『Windows』がその好例だ。

 Coreブランドに切り替えるよりも、Pentiumブランドを続ける、あるいは別な「-tium」ブランドをつける方が、Coreよりもブランドインパクトは弱まる。例えば、Intelはラテン語の接尾語「-ium」を「Pent-(5番)」につけてPentiumを作ったように、Core+iumで「Coretium」を造語してもよかった。しかし、IntelがCoreとつけたことで、逆にCPUブランドのインパクトはずっと強められている。

 これは、英語ではなく日本語で考えてみた方がよくわかる。『○○ティウム』プロセッサといった新造語より、『核』プロセッサなんてブランド名の方が、ずっと印象的だ。また、造語よりも、命名の意味が直裁的に伝わる。“核”と言われれば、それが核になるということがダイレクトにわかる。普通名詞をブランドに使うことは、マーケティングとしては、非常に強烈な手法だ。

 ならば、なぜみんな普通名詞を使わず造語を作るのかというと、その方がリスクが少ないからだ。世界各国で商標を登録するためには、全く新しい固有名詞の方がいい。先に取られたり、似た商標を作られる心配がないからだ。そもそも、Intelが3並び数字のブランドから離れ、Pentiumとつけたのは、そのためだった。

 しかし、今回のパターンだと、AMDが「AMD Core」というカウンタブランドを「K8L」あたりにつけることも可能になると思われる。つまり、普通名詞を使うのは、それだけリスクがあるが、インパクトのある選択ということになる。

●Cellに対抗したネーミングのCore

 ところが、CPU業界を見渡すと、最近、まさに普通名詞を使った命名でインパクトをもたらしている例が1つある。言うまでもなく『Cell』だ。

 ソニー・コンピューターエンタテインメント(SCE)、IBM、東芝は、彼らの作り出した新コンセプトのCPUを、普通名詞の“Cell”で呼んでいる。実際には、SCEの商標は『Cell Broadband Engine』または『Cell B.E.』(『Cell Processor』商標は、米国ではドイツの企業が登録している)だ。しかし、人々は、Cellと言えば、SCE/IBM/東芝のCPUだと認識している。

 Cellという、シンプルな4文字単語のネーミングは絶妙で、このCPUの特性を見事に表している。つまり、Cellは、CPUの中に多数のプロセッサコアが「細胞/房(Cell)」のように並んでいる。コアやコアの集合体ユニット(PE)はセルラ(Cellular)型のモジュールで、比較的容易に規模を拡張または縮小できる。また、Cellコンピューティングが実現すれば、各Cellがネットワーク上で細胞のように連携し、ネットワークにまたがる分散コンピューティングが可能になる。「セルオートマトン(Cell Automaton)」を連想させる点も強烈だ。ピア・ツー・ピアでコンピューティングを分散化するCellのビジョンは、セルオートマトン的な色彩も持っているからだ。

 こうした技術特性が連想できるという意味で、Cellという命名はじつに的を射ている。そして、3社の作るCellこそが、真のCell型アーキテクチャだという自負も示している。

 そうしてCellを振り返ると、Coreの意図がよく見えてくる。マルチコア時代のCPUに、わざわざ「Core」とつけるのは、“これこそがコア”と言いたいがためだろう。おそらく、Intelは、Cellに対抗できるだけの、インパクトと意味性のあるブランドをつけようとしている。ブランディングの目指すところは、ほぼCellと重なると推測される。

●コアの概念そのものを示すCoreブランド

 ややこしいので、ここからは普通名詞は「コア」、Intelのブランドは「Core」と切り分けて記述しよう。

 これまでは、『Pentium』という商品名(固有名詞)の中に、単数または複数の(CPU)コアが入っていた。つまり、従来の概念では「PentiumというCPUの中にコアがあるんだよ」となっていたわけだ。ところが、マルチコア化を前提とした今回のブランディングでは「いやそうじゃないよ、コアの集まったCPUそれ自体が、Coreというものなんだよ」という意味付けになった。

 つまり、Coreというのはブランドであり、かつ、コアの概念そのものでもあるわけだ。複数コアを含むCPUなのに、複数形(Cores)にしないところもミソだ。固有名詞だから単数形は当然と言えばそれまでだが、Coreを集合名詞的なイメージととらえることもできる。そうすると、Coreはコアが複数集まったものというより、コアという概念そのものである点が強まる。シンプルに言えば「コアが集まったのがPentiumというのとは違って、Intelの提供するコアズ(cores)こそが、(真の)Core(とその概念)なんだよ」というニュアンスだ。

 言ってみれば、Coreという名称をつけることで、コアについての価値観を変化させるわけだ。だから、Yonahが「コアを2個載せたCore」であっても矛盾が生じなくなる。Coreの中に含まれている複数のコアは、概念として内包されてしまうからだ。コアの集合体を代表する概念がCoreになる。ちなみに、Windowsの場合は画面にウインドウがいっぱい開くことを強調するために、複数形のWindowsとしたわけで、逆の手法だが、また意図的で概念的なネーミングだ。

 Coreという名前は、さらにこれがプラットフォームのコアやシステムのコアであるという意味にも転じさせることができる。Intelは“プラットフォーム化(Platformalization)”を進めており、CPUだけでなくチップセットなど周辺チップやソフトウェアも含めたプラットフォームを重視しつつある。マルチコア時代には、プラットフォームレベルで実現しなければならないフィーチャも増える。CoreブランドCPUは、その中の中核コアでもある。

 こうしてCoreブランドを、命名の背景から解いてゆくと、Intelがマルチコア化を節目の重要な変化だと認識していることがよくわかる。Intelは、マルチコア化では明らかに乗り遅れ気味だったわけだが、CPUブランドでマルチコア宣言することで、本気度を示そうとしているように見える。逆を言えば、そうでもしないと、Intelの本気度が伝わらないくらい、Intelのマルチコア戦略への疑問が多かったということだろう。

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【11月25日】【海外】Coreブランド化とクアッドコア投入が見えるIntelデスクトップCPU
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1125/kaigai226.htm

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(2005年11月28日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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