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おしゃべりなヴィーブ




 Intelがデジタルホームの新ブランド戦略「Viiv(ヴィーブ)」の概略を発表した。最初はPCベースのエンタテイメントPCでスタートして、最終的にはネットワークプレーヤーやDVDレコーダーのようなデバイスまで、その領域を広げるという。モバイルパソコンに特化していた「Centrino」のブランド戦略とは、この点で大きく異なっている。

●安心のロゴ

 Intelは「Centrino」を、パソコンのウールマークのような存在にしたかったのだという話を聞いたことがある。単に、タグに毛100%と書いてあるよりも、ウールマークがついていた方が消費者は安心できるという状況を作り出したかったわけだ。Intel Insideロゴが、パソコンの部品としてのプロセッサがIntel製であることをシンプルに示しているのにすぎないのに対して、Centrinoは、その付加価値までカバーするブランド戦略だ。

 それに対してViivはどうか。特に日本では、10フィートユーザーインターフェイスを実装し、DLNAに対応したエンタテイメントPCで、Pentium D程度のデュアルプロセッサを搭載するパソコンなら、この秋のメーカー各社新製品を見ても、軽くクリアできる要件ではある。

 限りなくローエンドに近いノートパソコンにまで、当たり前のようにして、テレビ録画機能が搭載される国なのだから、今さらデジタルホームを説かれるのは、余計なおせっかいと思うメーカーがいても不思議はない。

 実際、MicrosoftがWindows Media Center Editionを出しても、おつきあい程度にラインナップの中に埋もれる程度にサポートするだけで、メインの製品群は各社独自の実装というのが現状だ。ただ、実際には、DLNA準拠のミドルウェアがメーカー相互のインターオペラビリティをかなえ、Anytime, Anywhere, Any Devices的な環境ができあがっている。

●いつのまにか饒舌になるパソコン

 いずれにしても、こうしてぼくらのPCは、どんどんおしゃべりになっていく。Windowsを見たって、ファイルやプリンタの共有を設定した時点でサーバーになっているし、場合によってはhttpサーバーであるかもしれない。UPnPデバイスに対しても情報を提供している。

 また、iTunesを入れれば、iTunesサービスが開始され、ほかのパソコンのiTunesに音楽コンテンツを配信できる。おかげで、セキュリティソフトは頻繁にアウトバウンド方向のアクセスに関するアラートを表示し、そのたびに、初心者ユーザーはどうしてよいのかわからずに「はい」をクリックして、使えるはずのサービスが使えなくなり混乱に陥ってしまったりもする。マイコンピュータの管理コンソールを開けばわかるが、知らないうちに開始されている外向きサービスのいかに多いことか。

 以前、このシリーズで情報民主主義という考え方を紹介したことがあった。情報社会では、情報を送る側、受ける側といった階級は存在せず、簡単にいえば、情報は金銭のように価値を持ち、情報を与えるものには多くの情報が入ってくるという考え方だ。

 けれども、今の状況をみていると、コミュニティベースのサービスでこそ、この民主主義は健在だが、実際には、情報は金銭で売買される対象にすぎない。さらに、ネットワーク社会では、情報を多く持つものよりも、情報のありかを知っているものの方が強い。それは検索サイトのトップページがニュースサイトのトップページよりも、はるかに多くのページビュー、ユニークユーザー数を誇ることを見ても自明だ。

 実社会でもそうだ。個人が知りたいと思う分野は多岐にわたり、生半可な物知りでは太刀打ちできなくなってしまっている。個人がカバーできる範囲には限界があるからだ。そして、あの人に聞けばなんでもわかるということはありえなくなってしまった。

 その一方で、特定の分野に異様に深い知識を持つギーク、いわゆるオタクが注目を集めている。今は、あのことならあの人に聞けばいいという情報へのポインタ、すなわち、いかに多くのギークと交流を持っているかが重要だ。そのことについてはぼくはよく知らないけれど、彼ならきっと詳しいはずだよ、というイメージだ。Yahoo!やGoogle、MSNなどが提供する検索サービスは、まさに、デジタルギークである。

●“パーソナル”なコンピュータだからこそ

 重要なのは、これらの検索サービスは、自分からいっさい情報を出さなくても、自分がギークであることを求められることなく、たちどころに、情報へのポインタを提示してくれる点だ。

 Viivのようなテクノロジーがもくろむ環境は、少なくとも、家庭内のネットワークに接続された各パソコンが、それぞれのストレージに格納されたコンテンツを公開しているという、いわば饒舌な状態であることが前提だ。でも、心情的に、アウトバウンドのコンテンツ提供を、家族が対象とはいえ、そこまでオープンにするだけの気持ちになれるかどうかである。

 買ってきたDVDやCDのパッケージならまだわかる。けれども、CDはパソコンのストレージに格納し、電子的に公開することができるが、基本的にDVDはそれができない。だから、DVDの視聴に関しては、ネットワーク環境は意味がない。だからこそ、インターネット経由で得られるプレミアコンテンツの存在と、そのサービス整備の方向性確保は重要だ。

 フジテレビあたりが、連続テレビドラマはオンエアよりも一週間先行で、インターネット経由のオンデマンド配信、というような事業を始めたくなるような魅力的な環境作りに、Viivが貢献できるかどうか。コンテンツは家庭内LANの外ではなく、内側になければならないのだ。それは国を動かすことでもある。テレビ局が電波を捨て、DVDなどのパッケージメディアが無くなることをもっとも望んでいるのは、もしかしたら、Intelなのかもしれない。

 もし、Viivが個人のパソコン環境に新たな展開をもたらすとすれば、旧来のメディアの衰退促進である。その成功は、個人が持つコンテンツをいかにオープンな状態にさせるか、あるいは、ユーザーが意識することなくオープンな状態になっていることをいかに自然に演出できるかにかかっている。

 情報を出さないでも得られることが当たり前になっている今、その感覚を納得させることができるかどうか。そこがViivの正念場だ。だって、パソコンは、きわめてパーソナルなものなのだから。

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【8月26日】【IDF】デジタルホーム向けの新ブランド「Viiv」を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0826/idf05.htm
【8月26日】【笠原】ついに発表されたEast Forkこと“Viivテクノロジ”
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0826/ubiq122.htm

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(2005年8月26日)

[Reported by 山田祥平]


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