山田祥平のRe:config.sys

コピーを持って街に出よう




 自宅ではパワフルなデスクトップ機と大きなディスプレイ、外出先では多少パフォーマンスは犠牲になっても、バッテリで丸1日使えるコンパクトなモバイルノート。1人で2台のPCを使い分けるなら、現実的には、こうした棲み分けになるだろう。けれども、これほど明確なニーズに今のPCを取り巻く環境は、きちんと対応できているのだろうか。

●いつでもどこでも同じデータを参照したい

 1人で複数台のPCを併用する場合、真っ先に悩むのは、それぞれが搭載するHDDの中身だ。アプリケーションに関しては、AdobeやMicrosoftの場合を見ればわかるように、同じユーザーが使う限りは、1つのライセンスで2台までのPCへのインストールが許可されている。これは、とてもうれしい配慮だ。

 そのほかのアプリケーションを使う場合も、メーカー製のPCなら、多くのソフトがバンドルされている。ただでさえ、幕の内弁当状態のメーカー製PCゆえ、ソフトを購入する必要性を感じなくなっている今、コストにかかわるソフトウェア面で悩むことはそんなに多くはないはずだ。

 問題はデータだ。理想的には、自宅でも外出先でも、常に同じデータを参照したいと思う。もちろん、たまりにたまった録画済みTV番組全部とか、数万枚のデジカメ写真といったTBクラスのストレージを要求するようなものは、2.5インチHDDの物理的容量という制限があるのであきらめるとしても、過去に作成した文書ややりとりしたメール、スケジュールなどのデータはなんとかしたい。

 いつでもどこでも十分に広い帯域のネットワークに接続できることが保証されているのなら無理にデータを持ち歩く必要はなく、自宅のストレージを、外部からインターネット経由で参照できるだけでいいだろう。でも、まだ、世の中はそこまで進んではいない。無線LANが使えるホットスポットはまだまだ面展開できていないし、インターネット接続のためにそれなりの帯域をかなえてくれる第3世代携帯電話が使えない場所もある。いや、携帯電話が使えたとしても、すべてをそれに頼るのでは、今のパケット通信料金では、先に財布が根をあげてしまうだろう。

●オフラインファイル機能を有効に使う

 通常のデータファイルに関しては、Windows XP Professionalの場合、オフラインファイルという機能が利用できる。これは、ネットワークフォルダの内容をキャッシュしておき、ネットワークが切断されている場合にも参照できるようにする機能だ。

 たとえば、デスクトップPC側で共有設定したフォルダをノートPCからアクセスし、そのフォルダアイコンを右クリックして、ショートカットメニューから「オフラインで使用する」にチェックをつけると、ノートPC側にそのフォルダ内のファイルがコピーされ、ネットワークから切断されている状態でも参照できるようになる。また、そのフォルダ内で、新たにファイルを作成したり、ファイルに変更を加えた場合には、両者の内容は自動的に同期するようになっている。

 ただし、この機能、ちょっと間が抜けたところがあって、デフォルトではサブフォルダの同期が行なわれない。サブフォルダの作成なども同期の対象にするには、オフラインになる可能性のあるノートPC側で、スタートメニューの「ファイル名を指定して実行」でgpedit.mscと入力し、ローカルコンピュータポリシーの管理用テンプレートでネットワークのオフラインファイルにおいて、「常にオフラインでサブフォルダを利用できるようにする」を有効にしておく。また、既定設定では、オフラインキャッシュは確実にすべてのファイルがオフライン利用できることを保証しないので、とにかくすべてのファイルが同期の対象となるように完全修飾UNCパスを「管理的に割り当てられたオフラインファイル」として指定しておく。

 個人がPCで作成するデータのサイズは、イメージファイルや動画、音声をのぞけばたかがしれている。今のノートPCなら、1スピンドルのモバイル機でも、40GB程度のHDD内蔵は普通の装備になっているのだから、それがHDDを圧迫するようなことはないだろう。

 オフラインファイル機能を使うことで、自宅のPCと携帯用のPCの両方に、常に同一のデータが入っていることになり、個人ユーザーにとっては、バックアップの意味合いも兼ねることができる。ネットワーク接続が復帰した時点で自動的に同期が行なわれるのだから、これはすなわち、自動バックアップの機能といってもいいだろう。

●メールとスケジュールも同期したい

 通常のドキュメントファイルに関しては、オフラインファイル機能はとても役に立つ。少なくとも、ぼく自身の使い方でも、たかだか4GB程度のファイル同期で、出先であのファイルがなくて困るということはなくなった。ちなみに、この機能はWindows XPのHome Editionには提供されていない。ぼくがどうしてもProfessionalを使いたいと思う重要な理由になっている。

 さて、問題は、メールとスケジュールである。パーソナルユースのモバイルPCが、一向に普及しないのは、この2つの重要な要素のポータビリティがまったくないというのも理由のひとつではないだろうか。

 複数のクライアントでメールを管理するのは大変だ。すぐに思いつくのは、出先でメールを受信する場合に、サーバーにメッセージを残しておき、自宅に戻ってから別のクライアントでダウンロードし直すという方法だ。ただし、未読の管理がややこしくなるし、返信した場合のフラグが失われてしまう。送信したメッセージはどうするかという問題も残る。これは、自分宛にccしておいて、あとで送信済みメールとして保存するくらいだろうか。また、自宅で受信したメールを出先で参照することもできない。

 インターネットに接続できる環境にいるなら、プロバイダのWebメール機能を利用する手もある。だが、これもまた、返信済みや未読既読のフラグ、そして、送信メッセージの管理が難しい。また、メールソフトには、IMAPクライアントとしての機能も用意されてものがあるが、IMAPでアクセスできるメールサーバーを提供しているプロバイダばかりとは限らない。これはこれで自宅のPCをIMAPサーバーにすればいいのだが、ちょっと敷居が高いかもしれない。

 今、メーカー製PCの多くは、Microsoft Officeをバンドルしている。そのファミリーのアプリケーションとして、Outlookがある。このアプリケーションは、メール、予定、連絡先、メモ、仕事といった個人に必要なデータをまとめて管理するもので、いわゆるPIMソフトと考えていいものだ。Windows用のメールクライアントとしては、Outlook Expressがポピュラーだが、名前は似ていてもまったく別物だ。

 ところが、Outlookは、その出自がExchangeクライアントにある。Exchangeというのは、Microsoftのメッセージング/コラボレーション用のサーバーソフトで、当然、エンタープライズ用途に用意されているものだ。動作させるためには、Windows Serverが必要だ。下手をすればPCよりも高価なこれらのソフトを個人が購入するとは思えない。でも、Exchange Serverが実現する環境には、個人に便利な機能が満載なのだ。

 ExchangeクライアントとしてのOutlookでは、その管理下にあるデータ、つまり、メールやスケジュールなどは、基本的にサーバー側に置くことになる。そして、各PCで動かすOutlookは、Exchangeキャッシュモードに設定する。こうしておくことで、サーバーと通信ができないときにはオフラインモード、サーバーと通信できるときには自動的にキャッシュの同期が行なわれる。何台PCがあったとしても、そのすべてのOutlookのデータがまったく同じ状態であることが保証されるのだ。

 すなわち、メールや予定などの個人情報をOutlookで管理する限り、デスクトップとノートPCでデータの相違を気にする必要がなくなる。外出先から戻り、ノートPCに電源を入れ、ネットワークに再接続すれば自動的に同期が行なわれるのだ。そして充電でもしながらそのまま放置しておき、でかけるときに、電源をOFFにして持ち出す。同期は継続的に行なわれるので、外出先でノートPCを開いたときには、別のPCでのメールのやりとりや予定の追加などが、ノートPCにそっくりそのまま反映されているはずだ。

●めんどうだから1台で十分

 これだけ便利な環境なのに、それを個人ユーザーが利用できる環境が提供されていないのは実に残念だ。Microsoftが、この程度の機能のために、個人にExchange Serverを導入させようとしているとは考えにくい。ということは、個人のニーズをつかみきれていないのか、それともただ意地悪なだけなのか。出先で参照できないなら、PCでスケジュールを管理する意味がない。だからみんな紙の手帳やPDAを使い続けているのだ。メールの管理がややこしくなるから、みんな、メールは携帯電話に一本化といったことになってしまうのだ。

 同じMicrosoftの製品でも、Pocket PCならPCのOutlookとデータの同期ができる。同様のことをノートPCでできるようにするのはそんなに難しい話ではないはずだ。Exchangeは、その前身のMicrosoft Mail時代から考えれば、Windows 3.xの時代から存在する製品だ。なのに、この程度の機能が未だに提供されないのでは、Microsoftは個人ユーザーに冷たいベンダーであると思われても仕方がないだろう。

 ちなみに、ジャストシステムのインターネットディスクサービスには、メールストレージと呼ばれる機能が用意され、同社製のメールソフト「Shuriken」以外に、Outlook Expressのデータをオートシンクロさせることができる。容量は100MBで315円~約2GBで2,100円と各種用意されている。ただし、Outlookには未対応なので、各種個人情報の同期は無理だ。

 また、複数台のPCのOutlookデータを同期させるノウハウとしては、OutlookのデータファイルであるPSTファイルを相互にインポートするという手がある。ただし、操作は手動になるし、ファイルの排他制御のために、必ず、Outlookを終了させる必要がある。とても実用的とはいえない。

 ドキュメント、メール、予定。これらのデータが、複数台のPCで自動同期され、どのPCでも同じ情報にアクセスできる。理想的には、自宅に戻って、充電のためにPCに電源アダプタを装着したとたんに、自動的に同期が行なわれ、ユーザーはそのことを意識する必要がないのがいい。既存の製品で、こうした機能をサポートしているとしたら、メガソフトのデータ同期ソフト「ACCUSYNC」くらいしか思いつかない。

 誰でも思いつくような、たったこれだけの環境が、どうして、もっと簡単に手に入らないのだろうか。これじゃあ、なかなか個人がPCを携帯しようという気にならないのも無理はないし、1人が複数台のPCなんて話も非現実的だ。それとも、みんな、そんな機能を必要としていないんだろうか。

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(2005年8月19日)

[Reported by 山田祥平]


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