●数が少ないPCI Express対応拡張カード 2004年6月にリリースされたIntelの900番台のチップセットから、新しいPCのバスアーキテクチャとしてPCI Expressが利用可能になった。チップセットのリリースとほぼ同時に、16レーン(x16)のPCI Expressをサポートしたビデオカードが登場したものの、そのほかの拡張カードでPCI Expressをサポートしたものは極めて限られている。 現状で、何らかの機能性を持ったPCI Express対応の拡張カード(ビデオカードを除く)は、Gigabit Ethernetカードでは2005年1月に店頭に出たSysKonnectの「SK-9E21D」と、6月発売のASUS「PEB-G21」、そしてIOIのシリアルATA IIホストアダプタカード「SATA2-PCIE01」くらいだ。
この3種のカードのうち、本稿執筆時点で比較的店頭在庫が豊富で入手しやすいのはASUSのPEB-G21(写真1)。ほかの2種は以前店頭で見かけたこともあるのだが、今回は在庫を見つけることができなかった。 写真1のようにPEB-G21は、非常に小型のカードだ。Ethernetカードは小型のものが少なくないが、それにしても小さい。問題なくLow Profileに適応できるサイズだが、Low Profile用のブラケットは付属していない。使用しているコントローラチップはBroadcomの「BCM5721」だが、使用中はかなり熱くなる。 PEB-G21でおそらく最も問題になるのは、イマドキのGigabit Ethernetカードとしては割高である、ということだろう。PEB-G21の場合、実売価格は9,000円前後だが、市場では2,000円を切る価格でPCIバス用Gigabit Ethernetカードが売られている。PCI Express自体がまだ歴史が浅いことに加え、PCI Express世代のマザーボードの多くがオンボードにGigabit Ethernetコントローラを搭載し、カード市場を狭くしていることも、割高な一因だろう。とはいえ、PCI ExpressベースのGigabit Ethernetカードに、価格差に見合うだけの性能差があるのかは気になるところだ。
というわけで、簡単なテスト(831MBのMPEG-2ファイルのコピー)を行なってみた。ベースとなるシステムは前回取り上げたマザーボード「D955XBK」を用いたもので、CPUにPentium 4 670、メモリは1GBのDDR2-667、HDDはHGSTの「Deskstar 7K250」(80GB/シリアルATA)だ。このシステムにPEB-G21を組み合わせたほか、比較用にオンボードLAN(Intel「PRO/1000 PM」)、そして安価なPCIバス用Gigabit Ethernetカードの例として、バッファローの「LGY-PCI-GT」を加えた。LGY-PCI-GTはRealtekのコントローラを用いたもので、安価なカードはほとんどこればっかりである。 さらにPCIバス用Ethernetカードとして、Intel「PRO/100 S」アダプタ(82550EY)を追加した。また、もう1つの比較対象兼ファイル転送先として、筆者の仕事マシンを加えている。D875PBZをベースにしたシステム(Pentium 4 3.20GHz、DDR-400 1GB)で、マザーボード上にCSAベースのGigabit Ethernetコントローラ(Intel「PRO/1000 CT」)を搭載したものだ。 まず最初に行なったテストは、D875PBZを含めた5種類のカードと筆者が常用しているバッファローの1TB NAS「TeraStation」間のファイル転送だ。TeraStationの設定はRAID 5のジャンボフレーム有効(7,418Bytes)となっている。ここで意外だったのは、PCI Express接続の2つ、Intel PRO/1000 PMとASUSのPEB-G21は、ジャンボフレームをサポートしていなかったことだ。ただしPRO/1000 PMについては、ドライバ添付のreadmeに、「Known Issues」として挙げられていることからして、今後ドライバのアップデートによりサポートされる可能性は高いと思われる。 一方、PEB-G21が採用するBCM5721だが、念のため製品添付のCD-ROMに含まれているドライバだけでなく、BroadcomのWebサイトから最新版のドライバをダウンロードしてみたいが、やはりジャンボフレームの設定は見当たらない。ただ、Webサイト上のFAQには“Jumbo MTUの設定方法”という項目があるくらいなので、将来的にサポートされる可能性が全くないわけではなさそうだ。 いずれにしても、この2つのNICについては、今回はジャンボフレームの設定はなしでテストすることになった。PCIバスに対応したバッファローのLGY-PCI-GTについては、ジャンボフレーム有効(7,172Bytes)と無効の両方についてテストしている。
●PCI Express対応よりも、Gigabit Ethernet環境の整備が重要 その結果は表1の通り。TeraStationへの書き込みテストでは各NIC間であまり差がないが、これはTeraStationそのものの書き込み性能があまり高くないためだと思われる。逆にTeraStationからの読み出しについては、結果は大きく3つのグループに分かれた。つまり最も速いジャンボフレームサポート組(PRO/1000 CTおよびジャンボフレーム有効のLGY-PCI-GT)、それよりちょっと遅いジャンボフレーム未サポート組(PRO/1000 PM、ジャンボフレーム無効のLGY-PCI-GT、PEB-G21)、そして当然のごとく最も遅いEthernetである。
【表1】RAID5構成のTeraStation(ジャンボフレーム = 7,418Bytes)との間で
851,343KBのMPEG-2ファイルをコピー
また、NICが接続されるバスの帯域差は、このテストからは見て取れない。これらのテストから考える限り、PCIバスベースでいいからGigabit Ethernetを使うことが最も重要で、その次がジャンボフレームをサポートした環境を築くこと、接続バスの帯域を考えるのは1番後回しでよい、ということになる。要するにPCI Express対応のNICにお金を使うよりは、ジャンボフレームをサポートしたHubを買ったほうがいい、ということだ。 しかし、この表1ではTeraStationがボトルネックとなって、バスの帯域差が顕在化していない可能性もある。そこでD875PBZをホストにして、D955ZBK上の4種類のNICで表1と同じテストを実施してみることにした。その結果が表2だ。ここでもEthernetとGigabit Ethernetの差は大きい。ネットワーク上でビデオファイルのコピー等を行なうユーザーは、安価なPCIバスベースの製品でもいいからGigabit Ethernetへ移行した方が良いだろう。
【表2】D955ZBK搭載PCとD875PBZ搭載PCとの間で
851,343KBのMPEG-2ファイルをコピー
その一方で、表1で差を生み出したジャンボフレームの効果は、ここではそれほど顕著ではない。その最大の理由は、受信側、送信側ともにクロックが3GHzを超えるPentium 4を用いるなどCPUが強力(TeraStationに比べて)で、フレーム処理のオーバーヘッドがそれほど問題にならないからではないかと思われる。TeraStationのようなNASに限らず、ネットワーク上にCPUの非力なPCが混在しているのであれば、ジャンボフレームはかなり効果的だが、すべて強力なPC(サーバーも含め)ばかりのネットワークなら、その効果は限定的なものにとどまるかもしれない。 また、このテストにおいてもバスの帯域差による性能の違いは、残念ながら見られなかった。その理由の1つは、行なったテストが一方向のファイルコピーであるからだろう。Gigabit Ethernetは全二重通信をサポートしており、同時に受信と送信を行なうことができる。全二重通信が可能なPCI Expressの方が真価を発揮できるハズだが、今回実施したテストは全二重通信の真価を引き出せるものではない。1つには、そのようなテストを再現性を確保して行なうことが難しい、という理由もあるが、通常のクライアントPCにおいて、そのように重い負荷をかける利用法が現時点において一般的だとは思えないからだ(PEB-G21に採用されているBCM5721は、Broadcomのラインナップ中サーバー向けということになっている)。 というわけで、将来的にはPCI Expressの特性が活かせるような環境(アプリケーション)が整う可能性もあるものの、現時点でGigabit Ethernetカードを選ぶ際にPCI Expressにこだわる理由はあまりない。逆に、ネットワーク上で動画ファイルのコピー等を行なうユーザーは、PCIベースでいいからGigabit Ethernetへ移行したいところだ。その際、ジャンボフレーム対応のHub(新しい製品はたいていそうなっているようだが)とセットで導入することをすすめたい。逆にIntelには、ジャンボフレームをサポートしたドライバの早期提供が望まれるところだ。 □関連記事 (2005年7月27日) [Reported by 元麻布春男]
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