●サポートの充実したIntelマザーボード 仕事柄、さまざまなハードウェア、あるいはソフトウェアをとっかえひっかえテストする機会が少なくないが、この時どんなシステムを使うか、というのがなかなか難しかったりする。大昔のピン互換の時代はともかく、今はAMDとIntelでソケットやチップセットが異なるため、少なくとも2種類のシステムが必要になるからだ。 特にAMDの場合、AMD純正のマザーボードが市販されていないから、「リファレンス」とみなせるものがない。仕方ないので、ソフトウェアのテストをする時はAthlon 64ベースのノートPC(HP/CompaqのPresario R3140US、昨年の夏に米国で購入したもの)を使っている。拡張スロットが必要だったり、プロセッサそのもののテストといった場合は、その都度適当なものを編集部に借りることが多くなっている。 それに比べればIntelの場合は簡単だ。自らチップセット、マザーボードを販売しているから、それが一応のリファレンスとみなせる。仮に純正のマザーボードで思った性能が出なくても、その原因はいずれのパーツであれ、最終的にはIntelに帰結する。少しは気が楽というものだ。 そうした点を除いた、Intel製マザーボードの最大の長所は、ドキュメントの類が充実していることだろう。それは単に付属するマニュアルの出来うんぬんということだけでなく、Webページにあるオンラインドキュメント、あるいはBIOSアップデートの際にReadmeに至るまで、かなりちゃんとした文書が添付される。BIOSをアップデートしてくれるのは良いが、どこをどういじったのか、どんな問題を修正したのかが分からなくては、BIOSアップデートが運試しになってしまう。
サポートという点でも、少なくともEmail Supportのレスポンスはちゃんとしていた(一番最近利用したのがもう1年以上前なので。今でもちゃんとしていると期待しているが)。残念ながら英語のみだと思うが、1~2日でたいてい返事が返ってくる。2000年5月のMTH(RambusインターフェイスをSDRAMに変換するチップ)に起因するマザーボードリコールの際も、交換は迅速だった(写真1)。 こうしたサポートに加え、Intelが行なっているバリデーション等も含め、やはり安心感がある。ハードウェアそのものについては、細かな部分だが、LEDやスイッチ類のピンコネクタの位置と配列が一貫しているとか、必ずマザーボード上にスピーカーがある(あるならある、ないならないで統一しておいて欲しい)というのもIntel製マザーボードを買う理由の1つかもしれない。こうした部分が一貫していると作業ミスが減るし、結局作業効率が上がる。 ●常にハイエンドを選択 実際にどのマザーボードを買うかということだが、とりあえずハイエンド系チップセットベースのATXサイズを買うことにしている。ハイエンド系というのは、Intel 850/875/925/955という高いほうのチップセットのこと。一応、ベンチマークをとったりすることもあるので、いい方を使うのに越したことはない、という判断だ。ただ、具体的に数字の上で性能が高いということを期待してというより、いい方を使ったというアリバイみたいなものである。 したがって、ハイエンドチップセットが更新されると新しいマザーボードを購入することになる。そして、それまでのテスト用マザーボードは比較用に一旦リタイアする。そして、一世代前の比較用として眠っていた、もはや二世代前となってしまったマザーボードが、必要であれば仕事マシンに回ることになる(必ず仕事マシンを更新しているわけではない)。このサイクルが筆者のエコシステム? である。
たとえば今回、筆者はIntel「D955XBK」(955Xチップセットベース)を購入したが、これにより「D925XECV2」(FSB 1,066MHzをサポートした925XEチップセットベース)が控えに回った。これでその気になれば「D925XCV」(FSBサポートが800MHzまでの最初の925Xチップセットベース)が仕事マシンに回れるのだが、とりあえず「D875PBZ」(AGPの最後の世代である875Pチップセットベース)をベースにした今の仕事マシンがそれほど不調ではないので、今のところはそのまま、という感じになっている。 ●Intel 955X搭載「D955XBK」 さて、今回購入したD955XBKだが、箱入りの「BOXD955XBKLKR」というリテールパッケージ。以前はIntel製マザーボードのバルクというのを結構見かけたが、最近はすっかり見なくなった。型番末尾のLKRはGigabit Ethernet搭載等を示す枝番で、PCI Express接続のIntel製Gigabit Ethernetコントローラチップが搭載されている。使われるのは、iAMT(Intel Active Management Technology)に対応した「82573E」か、iAMT非サポートの「82573V」のいずれか。925世代では自社製チップが間に合わず、サードパーティ製を調達したが、この955/945世代でようやく準備ができたらしい。 今のところD955XBKは、82573EとTPMチップを搭載する代わりにサウンド機能が限定された(S/PDIF出力なし)ビジネスモデルと、82573Vを搭載し、S/PDIF出力をサポートする代わりにTPMチップを搭載しないコンシューマモデルの2タイプが基本となっている。今のところリテールパッケージとして見かけるのは、後者、コンシューマ仕様のものだけのようだ。
写真2はリテールパッケージの付属品(ドキュメント類を除く)だが、昔のリテールパッケージに比べて、その種類が増えた。昔はIntelのパッケージというと、FDDおよびIDEのケーブルと、I/Oシールドパネル程度しか付属しなかったのが、今ではフロントベイモジュールや各種の変換ケーブルまで付属する。台湾製のマザーボードの中には、USB接続のBluetoothモジュールや、無線LANモジュールが付属するものまであるから、これでも大人しい部類なのだろうが、筆者は昔のようなシンプルなマザーボードの方が好きだ。 ここで気になったのが付属のIDEケーブル。D925XCVまでは普通のフラットケーブルだったのが、いわゆるスマートケーブルに変更されている。パッと見たところ、明示的に67ピンが切断されている風でもないのだが、試してみるとちゃんとケーブルセレクトに対応していた。それではということで、前回使ったバッファローのSATAホストアダプタカード(IFC-ATS2P2)に付属のフラットケーブルを用いたところ、やはりケーブルセレクトで使える。コネクタ側で処理しているのだろう。 前々回のコラムでは、67番線を切らないケーブルではケーブルセレクトは使えないと記述したが、上記のように誤りだった。ご指摘をいただいた方々に感謝するとともに、訂正させていただく。申しわけない。
パラレルATAが1ポートに減る一方で、シリアルATAポートを8つ持つのがこのD955XBKリテール品の特徴の1つ。4ポート(黒いコネクタ)がSouth BridgeチップであるICH7Rが提供するもの、残る4ポート(青いコネクタ)がオンボードに追加されたSilicon Imageの「SiI3114」が提供するポートだ。いずれもRAID構成をサポートし、Windowsインストール用のドライバディスクも付属する。RAIDは冗長性を高めるのが一義と考えると、PCIバス接続のSiI3114でも良いのかもしれないが、性能的にはそろそろPCIバスでは心もとなくなってくる。 実は955Xチップセットは、North Bridgeである「82955MCH」がPCI Express 16レーン(x16)を1ポート、South Bridgeである82801GR ICHが1レーン(x1)を6ポート供給可能だ。これだけx1がありながら、追加のSATAコントローラがPCIバス接続になるのは、どこかで「無駄使い」しているからに違いない。 ●PCI Express x16スロット×2の謎 D955XBKは、82801GRの6ポートの内、1つを上述したGigabit Ethernetコントローラ、1つをx1の拡張スロットが利用、残る4つをまとめてx4の拡張スロットとして利用している。しかも、このx4のスロットは論理的にはx4でありながら、物理コネクタはx16になっている。要するに、x16のグラフィックスカードを挿せるコネクタになっているわけだ。 このx4/x16のスロットを何に使うのか、D955XBK最大の特徴にして、最大の謎である。マニュアルではx4もしくはx1として利用可能、x16のグラフィックスカードを挿した場合、一般論として自動ネゴシエーションによりx4もしくはx1にフォールバックして利用可能になるとしながらも、このような構成はバリデーションしていない、ということになっている。 何とも中途半端で「無駄使い」なわけだが、これが何を意図していたのかは、言わなくても分かる。間違いなくSLIのサポートを目指していたハズだ。春のIDFでも明言しなかったものの、そういうニュアンスは感じられた。すでに発売されている同様な構成のサードパーティ製マザーボードの中には、SLI用のアダプタが添付されていたものもあった。しかしフタを開けてみると、マニュアルにもどこにもSLIの文字はなく、そんなことは知らないモードである。当初はSLIをサポートする予定だったものの、何かがうまくいかず、SLIのサポートが宙に浮いてしまったものと推測される。 なぜこんなことになったのか。おそらくは技術的なことが理由ではないだろう。そのあたりの考えもなしに、チップセットを設計したり、ましてやマザーボードまで作りはしない。何らかの理由でNVIDIAがライセンスを認めないのだろう(ただし、ライセンスを認めないことが不当だと言いたい訳ではない)。Intel製プロセッサをサポートしたチップセットを販売するには、プロセッサバスのライセンスをIntelから取得する必要がある。最近Intel製プロセッサ向けのチップセット市場に参入したNVIDIAもIntelにライセンス料を支払っているものと思われる。 そのNVIDIAが、SLIのライセンスを根拠に、Intelへのライセンス料相殺(あるいは大幅な軽減)を求めても不思議ではない。むしろその額がIntelと折り合わない、というのは大いに考えられるところだ。Xbox用のチップセットを供給しながら、ライセンス料で妥協をせず(ある意味スジを通して)、Intel製プロセッサ向けチップセットのPC向け販売をしなかったNVIDIAだから、ここでも強硬な姿勢を崩さなかったとしても不思議ではない。おそらくIntelは、NVIDIAの強硬姿勢を読み間違えたのだろう。 このD955XBKは、Pentium Extreme Edition 840と同時に4月発表だったにもかかわらず、6月末まで市場に姿を現さなかったのは、ひょっとするとNVIDIAが折れるのを待ってズルズルと発売が延びてしまったのかもしれない。 いずれにせよ、現在IntelとNVIDIAの間がそれほどうまくいっていないのは、どうやら間違いないことのようだ。表1はここ4回(次の8月を含む)のIDFのスポンサーリストだが、過去3回、連続してGold SponsorだったNVIDIAの名前が見当たらない。一方のATIの名前はSilver Sponsorの項にあるが、実はATIも7月15日に追加されるまで、このリストにはなかった。このあたりもちょっと怪しい。 【表1】最近のIDF(US)のスポンサー(アルファベット順、企業系のみ)
ご存知のようにグラフィックスカードを2枚利用する技術としてNVIDIAがSLIを、ATIがCrossFireをそれぞれ提唱しており、今のところそれぞれ自社のチップセットでのみサポートされている。ここにIntelというチップセットベンダを加えるのはなかなか微妙だ。NVIDIAにとって、Intelがライセンス料を払って(あるいはIntelへ支払うライセンス料と相殺で)SLIを採用してくれるのは悪い話ではない。 SLIをNVIDIA独自技術として、NVIDIA製チップセットのみのフィーチャーとしてアピールするのも悪くはないが、あまりにも強硬に突っぱねて、IntelとATIが提携、IntelチップセットがCrossFireを標準サポート、というシナリオになってしまうのは望ましくない。これではCrossFireが業界標準技術のようになってしまう。 逆にSLIをIntelに差し出して、IntelのチップセットだけがSLIとCrossFireの両方をサポート、というシナリオは最悪に近い(NVIDIAが提供すれば、ATIも提供するだろう)。これではIntelのチップセットが一方的に優位に立ってしまう。かといって、ATI、Intel、NVIDIAのチップセットすべてがSLIとCrossFireの両方をサポートすることになるくらいなら、2枚挿しの標準規格を1つ作った方が、テストや検証の手間を減らせるだけマシだ。 果たしてIntelにSLI技術をライセンスすべきなのか、非常に悩ましいところで、単純なライセンス料だけの問題ではないかもしれない。いずれにしても、現時点ではあまり使い道のないx4スロットの行く末がどうなるのか、興味深いところではある。 その他のD955XBKの新しいフィーチャーとしては、デュアルコアプロセッサのサポートと、DDR2-667メモリへの対応が挙げられる。同じソケットを使っていながら、925チップセットベースのシステムでサポートできなかったあたりが、Intel製デュアルコアプロセッサに急造の感が否めないところだ。 それに比べればDDR2-667メモリのサポートは、ロードマップ通り、予定通りということなのだろうが、こちらもちょっとおかしい。というか、メモリをDDR2-667にしても、性能がほとんど変わらない。表2はD955XBKに3種類のプロセッサをインストールして、DDR2-533(PC2-4200)とDDR2-667(PC2-5300)の比較をしてみた結果だが、デュアルコアにしても(Pentium D 820)、フロントサイドバスを引き上げても(Pentium 4 Extreme Edition 3.73GHz)、プロセッサの動作クロックを引き上げても(Pentium 4 670)、テスト結果に測定誤差以上の違いは見当たらなかった。 実は、今回のテストだけでなく、945Gチップセットベースのシステムで同様なテストをしたこともあるのだが、その時も同じような結果に終わっている(外付けグラフィックス、内蔵グラフィックスを問わず)。少なくともIntelのチップセットを前提にする限り、DDR2-533とDDR2-667の間にある現在の2倍近い市場価格差を正当化できるような差はない。急いでDDR2-667を買う必要はなさそうだ。
(2005年7月21日) [Reported by 元麻布春男]
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