以前の記事で、IntelはEast Forkのブランド名発表を今四半期中に、導入を第3四半期中に発表するだろうとお伝えした。もし、Intelが今四半期に何らかの発表をするのであれば、今回のCOMPUTEXはいいタイミングだった。だが、今回もIntelはEast Forkに関して何も語らなかった。 なぜなら、East Forkプログラムの開始時期そのものが、第3四半期中では無くなっていたからだ。情報筋によれば、Intelは5月下旬に、OEMベンダなどに対してEast Forkの導入時期を第3四半期から来年の第1四半期頃へと延期したことを明らかにしたという。 ●“IntelプラットフォームのデジタルホームPC向けコンテンツ”って何? いきなり冒頭でEast Forkの話をしておいたのに、全然違う話になって恐縮だが、昨日、Intelは吉本興業と組んでコンテンツ配信を行なうことを明らかにした。 筆者はCOMPUTEX TAIPEIに来ているため、東京で行なわれた発表会には参加できず、非常に残念だった。なぜなら、一見色物に見えるこの発表だが、Intelのデジタルホーム戦略にとっては重要な第一歩であるからだ。 今回Intelが発表したプレスリリースを読んでみると、Intelはこの中で重要な2点を発表している。1つは、Intelの投資部門であるIntelキャピタルが、吉本興業の米国子会社でオンラインコンテンツの制作などを行なうBellrock Media, Inc.に対して出資することを明らかにしたことだ。そしてもう1つが、吉本興業が「Intelプラットフォームを採用したデジタルホームPCに対して、コンテンツの制作と普及を行なう」という内容だ。 ん? ちょっと待て。“IntelプラットフォームのデジタルホームPC向けコンテンツ”って、いったい何だ? やたら長くて、何を言っているのはいまいち意味不明。そんな風に感じた方も少なくないのではないだろうか。 とりあえず、IntelのCPU以外ではコンテンツが見られないのか、と思ってしまうが、もちろんそうではない。Intelと吉本が共同で行なっている“デジタルホーム ヨシモトドットコム”にいけば、無料でお笑い芸人“インパルス”の動画再生(余談になるが、これはこれでおもしろいので一見の価値がある……)が行なえるが、別に“Intelプラットフォーム”ではない、Athlon 64のノートPCからだって、もちろん見ることができる。 では“IntelプラットフォームのデジタルホームPC向けのコンテンツ”とは一体何なのか? ●来年の第1四半期に延期されたEast Forkプログラムの開始 実はその答えと、この記事のテーマでもある「East Forkが来年へ延期」した話は密接につながっている。その“謎”の種明かしをする前に、East Forkの現状についてまとめておこう。 業界筋によれば、5月下旬になって、East Forkプログラムの開始時期が、当初予定の秋頃から、来年の第1四半期へと延期するという通知があったという。元々、IntelがEast Forkの計画をOEMベンダに説明したのは、昨年の夏頃だ。その頃の予定では、今年のCESで何らかのアナウンスを行ない、今年の夏から秋頃にかけてプログラムを開始する予定になっていた。 しかし、CESでの発表は見送られ、さらに春のIDFでもアナウンスはなかった。つまり、徐々に先送りされてしまっているのだ。それでも、今年の春頃には、Intelに近い情報筋が第2四半期中にはブランドの発表などが行なわれると説明しており、基本的にはスケジュール通りに進んでいるはずだった。 ところが、ここに来て延期の決断がされたわけだが、業界筋では「やっぱり」という、受け止め方が多いようだ。 ●2006年第1四半期のYonahのリリースにタイミングを合わせる では、なぜEast Forkは、来年へ延期されてしまったのだろうか? 業界筋は2つの理由を挙げている。1つめの理由はEast Fork向けハードウェアの定義が若干変更されたからだ。 あるOEMベンダ関係者は、IntelがEast Forkのターゲットとなるプラットフォームに手を入れたからだと指摘する。すでに本連載でも何度か指摘しているように、East Forkプログラムは、Centrinoモバイル・テクノロジのマーケティングキャンペーンと同じように、CPU、チップセット、LANコントローラの3つの要素に、Intelが提供するプラットフォームドライバと呼ばれるソフトウェアをPCにバンドルすることで、初めて適用される。 Intelは、当初OEMベンダに対して、デスクトップPCでは以下の条件を満たす必要があるとしていた。
同じように、ノートPCの定義もあり
が条件になっていた。ただし、元々のプランでは、今年の秋にEast Forkプログラムを開始する予定だったので、ノートPCに関しては来年、Yonahがリリースされた後にスタート、という手はずになっていた。 業界関係者によれば、IntelはEast Forkの開始時期をYonahのリリースに合わせる、という決断をしたと伝えている。しかも、YonahベースのデスクトップPCに関しても、East Forkの対象にすることを検討していると、OEMベンダ側に伝えてきているという。 この背景には、現在のPentium 4ベースの延長線上にあるPentium XEやPentium Dではあまりに消費電力が大きく、リビングに適した製品には向いていないという事情も影響しているという。そこで、YonahのデスクトップPCを検討し始めた、ということのようだ。IDFでも、今回のCOMPUTEX TAIPEIでも、Yonahベースの超小型PCが展示されている。 ●East Fork向けコンテンツサービスの準備の遅れも大きく影響 そしてもう1つの理由として、情報筋が伝えているのが、デジタルホームを巡る環境の準備不足だ。 本連載でも何度か指摘しているが、デジタルホームというのは、Intelのプラットフォームの準備ができれば完成というものではない。上流にはコンテンツを提供するコンテンツホルダーやそれを配信するサービスプロバイダが必要になる。そして中流には、プラットフォームを準備するIntelとソフトウェアを提供するMicrosoftやソフトウェアベンダ、下流にはそれらを元に製品を組み立てるOEMベンダと、すべての要素がそろわなければならない。これらがすべてうまく回り始める、つまりエコシステムが構築できてこそ、初めてデジタルホームが1つのプラットフォームとして機能するようになるのだ。 だが、実際にはコンテンツホルダーやサービスプロバイダ、デジタルホーム向けのソフトウェアを提供するソフトウェアベンダなど、いずれも準備が整っていないと指摘する業界関係者は少なくない。 例えば、コンテンツホルダーやサービスプロバイダの問題は依然として解決されていない。では、East Fork向けのコンテンツって何なの、と言えば、今のところ明確ではない。実際、ある日本のOEMベンダの関係者によれば、IntelがEast Forkの日本向けコンテンツサービスとして紹介しているのは、冒頭で紹介した吉本興業から提供される予定のコンテンツだけだという。 実は、これが「“IntelプラットフォームのデジタルホームPC向けのコンテンツ”って何?」という疑問の答えだ。つまり、本当なら「East Forkに向けたコンテンツ!」とわかりやすく言いたかったのだが、それが言えなかった。なぜならEast Fork自体が来年に延期されてしまったからだ。 ただ、コンテンツサービスの問題に関しては、Intel自身も決して手をこまねいているわけではない。現在コンテンツホルダーやサービスプロバイダと話し合いを続けており、今後は徐々にEast Fork向けのコンテンツは増えていく可能性は高い。ただし、もしEast Forkプログラムの開始が、今年の秋なら、それは間に合わない。 この状況は日本だけでなく、米国でも同様の状況にあると、Intelに近い関係者は指摘する。だから、IntelはEast Forkプログラムの開始を延期し、準備期間を設けた、ということではないだろうか。 ●発表のターゲットはやはり来年1月のInternational CESか? East Forkプログラムそのものにとっては、コンテンツが少ない状態でスタートするよりも、コンテンツが十分ある状態でスタートした方が望ましいのは言うまでもなく、今回の延期は前向きにとらえていいだろう。ただ、延期した以上、今度は言い訳が利かない状況へ自らを追い込んだわけで、OEMベンダが納得できるようなサービスをEast Forkの開始までに揃えることができるかどうか、Intelも正念場となる。 さて、来年の第1四半期にプログラムが開始ということになると、おそらくEast Forkの正式発表は、来年の1月5日~8日の日程で開催されるInternational CESで行なわれる公算が高いのではないだろうか。現時点では、CESの基調講演などは発表されていないが、もしかするとここ最近Microsoftのビル・ゲイツ会長の指定席になっているオープニングの基調講演をIntelが押さえる、ということも十分考えられるだろう。 実際、2000年には、クレイグ・バレット社長兼CEO(当時)がゲイツ氏に変わってオープニングの基調講演に登場した前例もあり、今秋にも発表されるCESの基調講演、どういうラインナップになるのか、注目だ。 □関連記事 (2005年6月2日) [Reported by 笠原一輝]
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