笠原一輝のユビキタス情報局

デジオンがHDDレコーダ自作キットを公開



 COMPUTEXは、じめじめしている上に日が照りつけて非常に暑いという“台湾晴れ(?)”状態の台北で31日よりスタートしている。会場ではIntelの新しいデュアルコアCPUに対応したチップセット(Intel 955X/945)を搭載したマザーボードや、ATIから発表されたマルチGPUプラットフォーム“CrossFire”のデモなどが行なわれている。

 例年のことながら、進むも引くも大変という人でいっぱいなCOMPUTEXだが、会場となるTWTC(台北ワールドトレードセンター)に隣接するGrand Hyattホテルでは、各ベンダが限られた取引先などだけに向けた展示を行なっている。

 その中の1つに、DLNAガイドラインに対応したホームネットワークソフトウェアの“DiXiM”を提供するデジオンがある。ここでは、DLNAガイドラインに対応予定のデジタルメディアサーバー(DMS)とデジタルメディアプレイヤー(DMP)の機能を持った、DVD/HDDレコーダが展示されている。しかも、このHDDレコーダ、なんとユーザーが自分でHDDをインストールして作れる“自作”HDDレコーダなのだ。

●PCユーザーにとって便利そうで、便利じゃないHDDレコーダ

 本連載でもたびたびWindows XP Media Center Editionを取り上げていることからもわかるように、筆者はTVの録画をPCで行なっている。とはいえ、すべてをPCで行なっているわけではないのも事実で、実はソニーの「CoCoon」(CSV-EX9)と東芝の「RD-H1」という2台のHDDレコーダを所有している。

 なぜ、この2台なのかと言えば、録画したコンテンツをPCにコピーすることが可能だからだ。いずれの製品も標準サポートではないが、オンラインソフトウェアを利用して、コンテンツをPCに取り込んで他の形式にトランスコードしたり記録型DVDに書き込んだりという使い方が可能になる。このため、それが可能なHDDレコーダを選んだということだ。

 実は、これ以前にもHDDレコーダを購入したことがあったのだが、DVDにダビングしようとすると、リモコンで煩雑な操作が必要だったり、CMカットの時に「ああ、マウスやキーボードがあれば……」と何度も思ったので、結局いわゆる普通のDVD/HDDレコーダには満足できなかった。その結果どうなったかと言えば、Windows XP MCEとRD-H1で地上波を録画し、CoCoonでスカパー! を録画するという体制になっている。

 とりあえず、これはこれで満足しているのだが、1つだけ不満に感じていることがある。それは、CoCoonにせよ、RD-H1にせよ、DLNAガイドラインには対応していないため、ほかのPCやDMA(Digital Media Adaptor、いわゆるネットワークメディアプレーヤー)からはコンテンツを再生できない、ということだ。RD-H1もCoCoonも、せっかくネットワークポートがついているのに、ソフトウェアの互換性がないために、相互にはつながらない(だから、DLNAガイドラインは重要なのだが……)。筆者宅では、すでに全部屋にDLNAガイドラインに対応したPCないしはDMAがあるので、HDDレコーダもDLNAに対応してくれれば……と思う最近なのだ。

●メディアサーバー、クライアント、レコーダがすべて1つの筐体に

デジオンが展示したDMR-1000は、DLNAガイドラインに対応予定のDMS、DMP機能を持ったHDDレコーダ

 今回デジオンが公開したHDDレコーダは“DMR-1000”という開発コード名がつけられており、いわゆるHDDレコーダとしての機能を有している。EPGを利用してのアナログ放送の予約録画や録画した番組の再生などができるだけでなく、内蔵されている記録型DVDドライブ(DVD+R DLにも対応している)を利用してのDVDへのダビングなども可能になっている。

 ここまでは、一般的なDVD/HDDレコーダと機能的な違いはないが、大きな違いは、ネットワーク周りの機能が充実していることだ。まず、DMR-1000には、デジオンの“DiXiM”が搭載されている。つまり、DLNAガイドラインに対応予定のDMSとDMPの機能が搭載されており、ほかのDLNAガイドライン対応クライアントに対して自分のコンテンツを公開したり、逆に他のDLNAガイドライン対応サーバーで公開されているコンテンツをネットワーク越しに再生できるようになる。

 つまり、こういうことが可能になるのだ。居間においてあるDMR-1000で好みの番組を録画したとする。一般的なHDDレコーダであれば、居間に行かないとその録画した番組を見ることができないが、DMR-1000の場合、寝室や書斎などにあるPCやDMAなどからネットワーク経由で再生できる。家の中に居さえすれば、いつでも、どこでもコンテンツを再生できるのだ。

 また、DMR-1000の内部に記録されているコンテンツは、PCから専用ソフトウェアを利用してダウンロードをすることも可能になっているので、必要に応じてPC側で編集したり、エンコードして記録型DVDへ記録といった使い方も可能だ。

バックパネル。映像出力はコンポジット/S端子のほか、D1/D2出力も備える DMR-1000のユーザーインターフェイス。録画やEPGメニューのほか、ホームネットワークのメニューも用意されている。なお展示されていたのは英語版だったが、実際には日本語表示になる EPGのメニュー表示
録画済みの番組の表示 別のDMAからDMR-1000のDMSにネットワーク経由からアクセスしたところ。もちろん、DMR-1000で録画したりなど利用中であっても、ネットワークの部分は独立して動作するので、ネットワークでアクセスしている時にHDDレコーダ部を止めるめるなどの作業は必要ない

●ユーザーが自分でHDDをインストールする“自作HDDレコーダ”

 しかもこのDMR-1000がユニークなのは、デジオンから完成製品として提供されるのではなく、ベアボーンキットとしてHDD抜きでユーザーに提供される点。つまり、HDDレコーダの自作キットなのだ。ユーザーは自分でIDE HDDを購入しインストールし、付属のDVDないしはCDを利用してOS(Linuxベース)をインストールして利用するという仕組みになっている。

 だから、例えばHDD容量なんて100GBでいいやというユーザーであれば、1万円を切っている100GBのドライブを組み込んで、OSをインストールすれば、あっという間にホームネットワークに対応したHDDレコーダが完成となる。コストはDMR-1000の価格+HDDの価格になる。

 気になるDMR-1000自体の価格だが、「現在価格は検討している」(デジオン コンシューマビジネス部門担当 取締役 長谷川聡氏)と、現時点では未定であるという。

 それでは、筆者的には記事にならないので、勝手に予想してみよう。DMR-1000のハードウェア構成は、東芝の「TX4938」というMIPSベースのアプリケーションプロセッサに、動画の描画エンジンにSigma Desginsのメディアプロセッサである「EM8620L」を、MPEG-2エンコーダにはVwebの「VW2005」、ドライブには一般的な5インチの記録型DVDドライブと3.5インチのIDE HDDを採用するという構成になっている。

 ちなみに、EM8620Lを搭載したDMAが2万円台半ばという価格になっていることを考えると、ここにアプリケーションプロセッサとMPEG-2エンコーダ、さらには記録型DVDドライブを追加していることになるので、やはりそれの倍(5万円を超える価格)は超える価格になるのではないだろうか(あくまで筆者の勝手な予想なので、はずれてたらごめんなさい)。

 だとすれば、HDDの価格を入れても、おそらく10万円は行かない価格には収まると予想できる。現在、こうしたメディアサーバーの機能を持つ製品は、HDDレコーダの中でもハイエンドの一部機種に限られていることを考えると、PCユーザーなどにとって魅力はかなりあると言えるのではないだろうか。

 なお、発売時期だが、デジオンの長谷川氏によれば、製品の投入は第3四半期が予定されており、販売は自社サイトなどを通じて行なうほか、チャネルブランドによるホワイトボックスのHDDレコーダとして提供するという形を検討していくという。

DMR-1000の内部構造。一般的な5インチの光学ドライブを搭載し、ユーザーは自分で3.5インチのHDDをインストールして利用できる DMR-1000の基板。アプリケーションプロセッサには東芝のTX4938が利用されている

●“DiXiM HAK”の提供により、DVD/HDDレコーダへのホームネットワーク実装を促進

デジオン 社長兼CEO 田浦寿敏氏

 しかしながら、本来ソフトウェアベンダであるはずのデジオンが、ハードウェアを組み合わせた製品に取り組むのはどうしてなのだろうか?

 その理由をデジオン 代表取締役兼CEO 田浦寿敏氏は、「現在の閉塞感漂うDVD/HDDレコーダ市場に一石を投じたいから」と語る。

 デジオンがDiXiMで目指しているものは、速やかなホームネットワークの立ち上げだ。しかし、DLNAガイドラインに対応したホームネットワークが急速に立ち上がっているかといえば、実際にはそうではない。

 確かに、日本のコンシューマ向けPCに関しては、すでにほとんどのPCベンダがDLNAガイドラインに準拠したホームネットワークソフトウェアを搭載している。そうした意味では、それがなかなか進まない米国に比べれば急速な立ち上がりを見せている。

 しかし、家電製品ではなかなか進んでいないのが現状だ。現状存在しているものと言えば、ソニーとシャープのDMA(ただしいずれもPCの周辺機器の扱い)と、東芝の液晶TVの一部モデルが将来のアップデートでDLNAガイドラインに対応することを明らかにした程度だ。

 例えば、今回取り上げているDMR-1000のようにDLNAガイドラインに対応予定のホームネットワーク機能を持つHDDレコーダというのは、有りそうで無い。

デジオンが展示した“DiXiM HAK”。VIAのEden、Sigma DesignsのEM8620Lなど各ハードウェア向けにミドルウェアをセットにして提供される。これにより、HDDレコーダのベンダはホームネットワークの実装にかかる時間を短縮できる

 「1つには、現在のDVD/HDDレコーダは価格競争による消耗戦になっており、各社とも新しい機能を取り入れる余裕がない」(田浦氏)との通り、参入障壁が低いHDDレコーダ市場には家電メーカー各社が参入して激しい争いを繰り広げており、“利益が出ない構造”になっているということは経済誌などでも取り上げられるほどだ。このため、新しい機能を実装しようにも、開発リソースが足りなかったりして実装が遅れているのだ。

 そこで、「自社でできなくとも、ある程度標準キットを利用することで、開発にかかる時間を短縮することができる。キットを利用することで、これまで1年やそれ以上かかっていたネット対応の開発期間を3カ月から9カ月程度に短縮できるようにしたい」(田浦氏)との通り、デジオンではDLNAガイドライン対応予定となるホームネットワーク機器の開発キットである“DiXiM HAK”の提供を開始するという。詳しくはAV Watchの別記事を参照して欲しいが、要するに半導体とセットでソフトウェアを提供し、HDDレコーダのベンダがホームネットワーク機能を実装するのにかかる開発期間を短縮するためのソリューションだ。

 今回デジオンがデモしたDMR-1000も、そうしたソリューションの実例の1つ。エンドユーザーに対して積極的に製品を出していくことで、DLNAガイドライン対応のホームネットワークに対する期待感を盛り上げていきたいという意図があるのだ。


●秋にはDTCP-IPへの対応やPC用DiXiMのバージョンアップも計画

 田浦氏によれば、デジオンは今後もホームネットワークへの対応を加速させるべく、ソフトウェアのバージョンアップも続けていくという。

 デジオンは、今年の秋頃をメドに「DTCP-IP」に対応する予定である。田浦氏によれば、DTCP-IPへの対応は第4四半期を予定しており、“DiXiM Secure SDK”として提供されることになるという。もっとも、DTCP-IPの普及がどうなるのか、今のところ見えていないという現状もあり、そのあたりの動向を見極めつつの投入となると同氏は言う。

 また、PCユーザーに近いところでは、パッケージとしても販売されているPC用のDiXiMも、この秋に大幅なバージョンアップが計画されているという。「この秋にはOEMに出荷している分も含めてバージョン2.0へとバージョンアップする。DiXiM バージョン2ではDRMへの対応などいくつかの新しい機能を搭載する」(田浦氏)とのことで、CDのリッピング、CDDBへの対応、DVDビデオの再生、Windows XP MCEのTV録画の再生、Windows Media DRMやDTCP-IPへの対応、iTunesのプレイリストによる再生などの機能が追加される予定であるという。

 田浦氏が指摘するように、DLNAの課題は、いかに素早く市場を立ち上げていくか、ということに尽きると思う。業界の関係者と話していると、「DLNAガイドラインへの対応は必要と考えているが、現時点では他の機器が対応していないからセールスポイントにならないだけに、実装するのは難しい……」ということを聞くことが多い。要するに“鶏と卵”の悪循環に陥ってしまっているというわけだ。

 だからこそ、デジオンはDMR-1000に“鶏”となってほしいという意図を込めているのではないだろうか。

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【2月22日】 日本におけるDTCP-IP実装の難しさ
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【2004年2月13日】【笠原】PCとデジタル家電の架け橋となるデジオン「DiXiM」
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(2005年6月1日)

[Reported by 笠原一輝]


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