Intelは、3月に行なわれたIDF US、4月上旬に行なわれたIDF Japanにおいて、次世代Centrinoモバイル・テクノロジ(以下CMT)として計画しているNapaプラットフォームのデモを行ない、現行製品である“Sonomaプラットフォーム”が霞んで思えるほど、盛大なアピールを行なった。 Intelは、なぜそこまでNapaプラットフォームに入れ込んでいるのだろうか。実はIntelにとってNapaプラットフォームは、“第2の新アーキテクチャ”と言えるほど、大きなステップとなりうる製品だからだ。 ●5.5Wに引き上げられた90nm超低電圧版Pentium Mの熱設計消費電力 4月に行なわれたIDF Japanにおいてモバイルプラットフォームグループ ジェネラルマネージャのムーリー・イーデン副社長に、ちょっと意地悪な質問をしてみた。「TDPや平均消費電力の枠というのは、最近も、それから今後も基本的には変わらないんですよね」という質問だ。 それまで記者団の質問にジョークを飛ばして答えていたイーデン氏は、真顔になってから「我々は消費電力というのをプラットフォームレベルで検討している。プラットフォームレベルで大きな違いはないか、という意味であれば答えはイエスでむしろ下がるだろう。基本的に我々は現在のCMTで実現しているプラットフォームを実現すべく、製品の定義を行なっている。その時点での放熱技術を勘案しつつ、現在のプラットフォームを実現するような消費電力の設定を行なっている」と述べてくれた。
なぜ、この質問が意地悪なのかと言えば、この質問をする直前に、Intelは90nmプロセスルールで製造されている超低電圧版Pentium Mの熱設計消費電力(TDP)の枠を5Wから5.5Wに引き上げるとOEMメーカーに対して通知していたからだ。 実は、90nmプロセスの超低電圧版Pentium Mは、いわば“品薄”状態に陥っていた。実際、90nmプロセスルールの超低電圧版Pentium Mを採用した製品をリリースしようとしたあるベンダは、十分な数が確保できず、従来の130nmプロセス版で出さざるを得ないということになったという。90nm版でリリースしたベンダでも、ソニーのように供給が間に合わず製品の出荷が遅れるというところもでてしまった。 超低電圧版Pentium Mの品不足と熱設計消費電力が5.5Wへの引き上げという2つの事実は、要するに熱設計消費電力が5Wでは十分な数が確保できなかったということを物語っている。OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは現在出荷しているCステップの超低電圧版Pentium Mから5.5Wに熱設計消費電力を引き上げ、その結果品薄の問題も解消されているという。現在は複数のベンダから超低電圧版Pentium Mを搭載した製品が登場したという事実は、それを裏付けていると言ってよい。 ●トップグレードは、現在のDothanと同じ2.17GHzとなるYonah-NV その一方で、IntelはOEMメーカーに対して、さらなるNapaプラットフォームの詳細を語り始めている。情報筋によれば、IntelはOEMメーカーに対して「Yonah」のプロセッサナンバ、クロック周波数などを通知してきたという。それによれば、2006年の第1四半期に出荷が予定されているYonahは以下のようなグレードが用意されているという。
Yonah-NVとYonah ULVに関してはFSBが667MHzに引き上げられ、Yonah-ULVに関してはFSBは533MHzに引き上げられる。現在のDothanでも、NV版とLV版が533MHz、ULV版が400MHzになっているのと同じく、FSBの引き上げが消費電力の増大につながるため、ULV版に関しては533MHzと1ランク低いFSBにとどめ置かれることになる。 Yonah-NVのトップグレードは、2.17GHzと、現在のDothanコアのPentium MのトップグレードであるPentium M 770(2.13GHz)とほぼ同じクロック周波数になる。ただし、実際には第3四半期には780という2.26GHzのグレードが投入される予定となっているので、リリース時には若干差が出る。 なお、プロセッサナンバの詳細に関してはまだ明らかにされていない。“x50”の“x”に関しては、何らかの数字がくることになるが、それが“8”になりデスクトップのPentium Dなどと同じ8xxというプロセッサナンバになるのかどうかなど、依然として明らかになっていない。 ●同クロックのDothanに比べて1.7~1.8倍近い性能を発揮するYonah また、IntelはOEMベンダに対して、Napaプラットフォームの性能について徐々に明らかにしているという。 確かに、IDF USでもIDF Japanでも、Yonahのエンジニアリングサンプル(A0)によるデモが行なわれ、具体的なベンチマークとはいかないが、3Dゲームを動かして、Sonomaプラットフォームと比較するなどをしていた。つまり、すでにかなりのレベルで動作しているものが存在するのだ。 OEMベンダに公開されたものは、このA0レベルのYonah(デュアルコア、2.17GHz動作)を利用して、チップセットの「Calistoga」、無線LANの「Golan」などから構成されたNapaプラットフォームと、2.13GHzのDothanから構成されているSonomaプラットフォームとの比較データであるという。 その情報によれば、SPECの整数演算処理で1.8倍近く、浮動小数点で1.7倍近くという結果になっているという。さらに、3DMark05でも1.7倍、SYSmark04のようなシングルスレッドのベンチマークでも1.3倍近くという性能がでているという。 ほぼ同じ周波数でありながら、これだけの性能向上が見られるとすれば、Intelの幹部がこの製品に入れ込んでいる、という理由も無理はない。 ●プラットフォーム全体では平均消費電力が下がるNapaプラットフォーム 得る物もあれば、失う物もある。それだけの高性能を実現した代償として、熱設計消費電力と平均消費電力が上がってしまうことは容易に想像ができる。 実際、早くからYonahの熱設計消費電力(TDP)は31Wと伝えられてきた。現行のFSB 533MHzのPentium Mの熱設計消費電力が27Wだから、それより上昇してしまうことになる。もっともコアが2つになるのに、この程度で済んでいるという言い方も可能だが……。 上昇してしまうのは熱設計消費電力だけではない。バッテリ駆動時間に影響を与える平均消費電力に関しても、Yonah-NVでは上昇してしまうという。 現在のFSB 533MHzのPentium Mの平均消費電力は1.1Wと、すでにBaniasの1Wに比べて上昇してしまっている。しかも悪いことに、Sonomaでは、CPUだけでなく、チップセットの平均消費電力も増えており、プラットフォーム全体で、消費電力があがってしまっている。このため、Sonomaプラットフォームに基づいたノートPCは、従来のCarmelプラットフォームベースの製品に比べてバッテリ駆動時間が短くなっている製品が少なくない。 Yonah-NVでは、1.1Wからさらに上昇し、最も高いグレードの製品で1.3W程度になってしまうという。しかし、チップセット、特にサウスブリッジが従来の2/3程度の平均消費電力になる(おそらくプロセスルールの変更などが行なわれるのだろう)ので、NapaプラットフォームのトータルではSonomaプラットフォームの4W超から4W以下へ下がる見通しであるという。 イーデン氏の「プラットフォームレベルでは変わらないか、下がるだろう」という発言は、こうした状況を反映してのものだと考えることができるだろう。 確かに、プラットフォームレベルで平均消費電力が下がるのであれば、バッテリ駆動時間にはよい影響があると言え、性能が向上し、かつバッテリ駆動時間が延びるというIntelのCMTの“公約”は、Napaに関しては守られる可能性が高いと言えるだろう。 □関連記事 (2005年5月4日) [Reported by 笠原一輝]
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