第287回
東芝「libretto U100」「dynabook SS SX」
開発者インタビュー



 東芝は同社初のノートPC「T1100」発売20周年を記念したモデル2機種を発表した。東芝PC&ネットワーク社の西田社長が直接、商品の企画にも加わった肝煎りモデルである。

 しかもその一方は、コンセプトを新たにした「libretto」。かつて“リブラー”という言葉まで生み出した小型PCを、熱設計の厳しい昨今のノートPC事情で復活させた。

デジタルメディアデベロップメントセンター C設計第一部 第三担当グループ長 島本肇氏

 加えて東芝得意の超薄型ノートPC路線も復活。「dynabook SS SX」という名前こそ同じながら、事実上は「dynabook SS S」シリーズの後継機種を最新のIntel 915GMSチップセット搭載で成し遂げた上、バッテリ持続時間を従来機種より大きく伸ばしている。

 消費電力や発熱に対してどのように戦い、小型のlibretto、薄型のdynabook SSをいかにして生み出す事に成功したのか。東芝デジタルメディアネットワーク社の青梅開発拠点で東芝製ノートPCの開発指揮を執るデジタルメディアデベロップメントセンター C設計第一部 第三担当グループ長の島本肇氏に話を伺った。

【お詫びと訂正】初出時、島本氏の役職を誤って記載しておりました。ご迷惑をおかけした関係者の方にお詫び申し上げるとともに訂正させていただきます。

●旧libretto世代を知らない世代が創った新libretto

 今回の2製品、12.1型液晶パネルを採用するdynabook SS SXのプロジェクトは2004年4〜5月から始まったが、librettoに関しては7〜8月ぐらいに話が持ち上がり、実際に開発がスタートしたのは9月の事だったという。

 全く新規の筐体で設計した製品としては開発期間が短く、スケジュール的にはかなり厳しかったはずだ。いや、そもそもlibrettoシリーズは一部のコアユーザーは獲得していたものの、事業ベースでは開発コストの回収が難しく、新製品の開発を断念していたハズだ。

libretto U100

−まずはよくlibrettoを再び事業化できたと、その点に驚きを感じています。どのような背景からlibrettoが復活したのでしょう。

 「もともと記念モデルに関しても当初はSS SXのみで計画されていました。しかし開発の現場からは“どうしてもlibrettoをやりたい”という要望が強く、数多く上がってきたんです。我々は昨年から社内の風通しを良くするため、社長から部課長クラス、担当者までを含めた対話会を企画/実施してきました。その中で現場の気持ちを聞いてみると、非常に強い熱意で小型ノートPCに取り組みたいと話す者が多かったのです」

 とはいえ、用途が限定される小型ノートPCで収支を合わせるのは大変だ。コスト面での要求が厳しくなっている今のPC業界では、失敗が許される、言い換えれば新市場やブランド力を高めるための遊びの入った製品は作りにくい。

−開発のゴーサインが出た理由は何だったのでしょうか。

 「対話会はPC&ネットワーク社 社長の西田がやりはじめ、これまでトータル45回も催されました。社内には色々な立場で仕事をしている人間がいますが、なかなか自分の意見を直接、上に言える機会はありません。そうした会を通じて、西田の方で“そこまでやりたいなら挑戦してみろ”という事になったんです」

 直近のlibrettoシリーズと言えば、横長液晶にdynabook SSと同じキーボードを搭載したlibretto Lシリーズ。超小型ノートPCのlibrettoシリーズはMMX Pentiumの時代で途絶えている。

−若手開発者の多くは、libretto全盛期にはPC開発を行なっていなかったのではありませんか?

 「新librettoの開発メンバーは全員、そのころのlibrettoの開発を知りません。学生時代や新入社員時代にlibrettoのユーザーだった人間が多い。中には自分でlibrettoの開発をしたいから東芝への入社を希望した者もいます。しかし現実にはlibrettoはもうラインナップに存在しない。作りたいものが作れないのでは、開発者としてのモチベーションも高まりません。事業として成立させる事はもちろん必要ですが、加えて開発者のやる気を高めるためにもlibrettoの復刻を許可したのだと思います」

 「もちろんPC事業を成功させるには、事業としての収益性も考えなければなりません。しかしコストや企画面で締め付けが厳しく、制約が多すぎると開発者にとっても大きなストレスになります。作り手が楽しめない製品は、ユーザーも楽しめません。その結果は製品にも反映されてしまうものです」

●“盛り込めるかもしれない”技術はすべて盛り込んだ

−librettoのような超小型PCは、スッパリと諦めて捨てる部分と、絶対に諦めない部分、その切り分けをどうするかが重要だと思いますが、新librettoにおいてもっとも議論したところはどこでしょうか。

 「実はlibrettoは当初、Alviso(Intel 915GMS)の採用を予定していました。しかしlibrettoに搭載可能なバッテリパックではすぐに電池がなくなってしまう。そこで途中から855GMEに変更になっています。拡張性などの部分もかなり議論を重ねたところです。たとえばPCカードスロットはやめて、CFスロットだけでいいのでは? という議論もありましたが、今回のlibrettoは海外での販売も行ないます。日本以外では携帯電話網を用いる通信カードがPCカードでしか存在しない場合がほとんどで、PCカードは搭載する事になりました」

 「必要な機能を揃えていくと物理的にはどうしても容積が必要になります。何度も何度もレイアウトをやりなおし“これでイケル”というモックアップを3回ぐらい作っています。しかしその度に社長の西田にダメ出しをされ、最終的に西田の承認を得たのは2004年12月の事でした」

−今回のlibrettoはポータブルDVDプレーヤーとしての提案を強く打ち出していますが、これは当初から考えていたコンセプトだったのでしょうか。

 「単に小さなPCというだけでは、メール専用パソコンになるだけです。それではつまらないということで、Qosmioシリーズで培った高画質化ノウハウとソフトウェア資産を活かし、WXGAでドットピッチが細かい液晶パネルを使いました。ポータブルDVDの需要は伸びていますから、ドック形式でDVDも見られるように作っています」

−液晶パネルの光源にLEDを用いている点も話題です。省電力化のためと発表されていますが、発光効率の面でLEDは蛍光管以上の効率なのでしょうか。

 「我々もLEDバックライトを検討する前までは、LEDの方が発光効率は悪いと思いこんでいました。しかし実際に調べてみると、現在はLEDの方が有利だったんです。蛍光管自身の効率は良いのですが、インバータの効率なども考慮するとトータルで80%ぐらいの効率になります。具体的な数値は出せませんが、LED化によって消費電力は確実に下がります」

−LEDバックライトは一部の高級テレビを除くと、携帯電話やデジタルカメラで使われているぐらいでしょう。価格も相当高いのではないでしょうか。

 「液晶パネルの調達先からも、このサイズでLEDは無理だと言われました。こんな大きなサイズではやったことがないと。しかし“もしかすると盛り込めるかもしれない”と思われる技術は、すべて盛り込んでしまう。それぐらい尖った製品でなければユーザーも納得しないでしょう。せっかくlibrettoを復活させることができるのだから。しかも液晶パネルはユーザーインターフェイスの重要な部分の1つだから、ここで諦めてはいけないと。頑張ればなんとかなるならば、もう頑張ってやるしかない。その結果、このサイズでこの性能と液晶の見やすさ、そしてバッテリ持続時間を実現できました」

新型librettoのメイン基板。ノースブリッジは裏面にあり、CPUやサウスブリッジにややオーバーラップする形で実装しているほどの高密度実装。dynabook SS SXより明らかに小さい。実装位置の高さを変えるため、PCI基板(右)はわざわざ別基板にしてフレキシブル基板で接続している

●目指したのは薄さとバッテリ持続時間の両立

dynabook SS SX

 一方、新型dynabook SS SXもスペック面で秀でたものに仕上がっている。重さは最軽量というわけではないが、その薄いフォルムは特徴的だ。従来のdynabook SS Sシリーズのイメージを、そのままAlvisoベースのプラットフォームへ正常進化させているように見える。

−ノートPC 20周年モデルを企画するにあたり、どのような目標を立てていたのでしょう。

 「コンシューマ中心のlibrettoとは異なり、dynabook SSは企業向けがビジネスの中心になりますから、古いプラットフォーム(855GME)では開発できません。最新プラットフォームのAlvisoにする事は最初に決めていました。その中で東芝製ノートPCの集大成となるような製品を目指しました」

−東芝はこれまでシングルスピンドル機として、dynabook SS SとSS SXの2つのラインを同時に提供していました。新製品はこれらを統合する製品になるのでしょうか。

 「従来のSS SXは厚みがある代わりに軽くバッテリも保つという製品でした。一方、SS Sの方は薄くスタイリッシュですがバッテリ持続時間は期待できません。ほとんどのユーザーが拡張バッテリを付けていましたから、結局厚くなっていました」

 「そこで目指したのはSS Sの薄型筐体をそのままに、最新のAlvisoを搭載しつつ、SS SXシリーズ並のバッテリ持続時間を実現することです」

−厚みをある程度許容すれば、バッテリも効率の良い丸形を使えますし、側面の立ち上げが高くなるため強度的に有利で軽量化しやすいでしょう。熱処理面でも厳しい。なぜそこまで薄型にこだわるのでしょうか。

 「“軽いこと”はモバイルPCとしての利便性を向上させます。しかし、いくら軽くて持ち運び安くても、ポッテリとしてシャープさに欠けるデザインでは、所有することの満足感を与えられません。dynabook SSシリーズは企業向け出荷が多い製品ではありますが、実際に現場で利用するのは同じ人間です。せっかくPCを携帯するならばカッコいいものの方がいいですよね。またSS Sは薄く鞄に入れやすいと評判で、いまだに強いニーズがあります」

●体積を増やさず5時間駆動を

−バッテリ持続時間はJEITA測定法で5.4時間ですが、これは当初の目標を達成できたのでしょうか。

 「社長の西田に記念モデルのコンセプトを話した時、SS Sと同じ体積で5時間保たせろと言われました。こんなに薄くてバッテリがどこにあるかわからないのに5時間以上使える。“オッ!”と、まずは驚きの声で迎えてもらいたいということで目標値を設定しました」

−Alvisoを採用したノートPCは軒並みバッテリ持続時間が減っていますが、新型SS SXは容量あたりの駆動時間で従来機種比同程度の持続時間を実現しているようですね。チップセットの消費電力増加に加え、超低電圧版Pentium Mの消費電力も最近になって0.5W上がりました。この中でこうした数値を出せたのはなぜでしょう。

 「Dothanに関しては5WだったTDPがCステップから5.5Wになりました。増加分はリーク電流ですから、平均消費電力をそのまま0.5W押し上げます。5時間以上が見えてきた段階での変更だったため、確かに厳しかった」

 「薄型筐体にバッテリを収めるにはリチウムポリマーか角形リチウムイオンか、いずれかを採用する必要があります。今回は容量を重視して角形リチウムイオンバッテリを6本、パームレスト下に入れています。パームレスト下は1.8インチHDDとバッテリですべて埋めています。タッチパッドを避ける必要があるため、変則的なバッテリ形状になっていますが、空いている場所に効率よくバッテリを詰め込むためにあえてこうした構成にしました」

−バッテリを収めるパックの表面積が増える上、重量対容量比を考えると角形バッテリはあまり効率が良くありません。それでも角形にこだわった理由は、やはり薄型化ということになるのでしょうか。

 「はい、薄型のままでどこまでできるかがテーマですから、やや重くなっても薄さを維持する方向で判断しています。薄くする上で重要だったのは、メイン基板の面積を小さくできた事です。メイン基板を小さくすることでバッテリで使える面積が増え5時間以上の目標を達成できたのです。従来と同じ底面に取り付ける拡張バッテリを用いれば11時間の駆動も可能です」

−容量あたりのバッテリ持続時間を維持できたのは、どの部分で省電力化できたからなのでしょうか。

 「まずHDD。1.8インチHDDは60GB版から省電力が下がり、平均で0.1〜0.2Wほど低くなっています。クロックジェネレータも新型を使うことで同程度の電力削減を実現しています。さらにAlvisoが内蔵する「Intel Display Power Saving Technology 2.0」という機能も利用し、液晶パネルも低消費電力の新しいものになっています。そのほか基板上のパーツは、すべて損失がもっとも低いグレードの高いものを使っており、それらのトータルでなんとかAlvisoで増えた消費電力をカバーできました」

●熱処理は万全、従来製品と変わっていない

−使い勝手の面ではラッチレスのヒンジが特徴的です。ラッチレスでは初期トルクを大きくせざるを得ず、片手でスムースに液晶パネルを開ける事ができない場合が多いのですが、新製品はバッテリがパームレスト下にある事もあって、スッと滑らかに片手で開きます。ただ、ラッチレスのメカニズムは重量面では不利でしょう?

 「ラッチを開けるスライドボタンは、爪の長いユーザーなど使いにくいという声もあり、なんとかラッチレスにしたいと考えていました。重量面だけでなくコスト面でもラッチレス化は不利ですが、それよりも便利さやカッコ良さを求めました」

−これだけ薄いと熱を上手に処理しなければ冷却ファンのノイズや手元の熱さといった問題が出やすいと思います。システムを継続的にフルパワーで動かしても問題のないレベルになっているのでしょうか。

 「熱処理のためにパフォーマンスを犠牲にしているところはありません。冷却ファンの効率を良くすることでエアフローを増やしました。従来機の底面温度がもともと低かったこともあり、底面温度だけはやや上がっていますが、パームレストの温度に関しては(バッテリとHDDで埋まっているため)逆に大きく下がっています。ファンノイズに関してもSS S9と同レベルに収まりました」

−お話からは“何も問題はなかった”ように伺えますが、なぜうまく処理できたのでしょうか。

 「エアフローが淀みなく起きるようにCAD上でのシミュレーションを繰り返しました。これだけ薄いと部品高の関係で部分的に空気が流れないところが出てくるものです。部品の配置を変更しながら、空気の流れが分断されないように入念にレイアウトを検討した結果です。青梅には流体解析を行なう部署がありますから、PCの設計部隊が流体解析部門と膝を突き合わせて、空気の流れを追いながら部品を動かすことで実現できたと思います」

 「またAlvisoの場合サウスブリッジの消費電力と発熱が非常に大きい。まるでノースブリッジが2個あるようなものです。そこで銅板を用いて熱をより広い範囲に拡散させるようにしています。熱拡散の銅板は、かれこれ3回ぐらいは設計変更を行ないながら最適解を求めていきました」

Baniasを採用した最初の超薄型モデルdynabook SS S7(左)と新型のdynabook SS SX(右)のメイン基板。いずれも主要な発熱体を裏面に実装しシャシーに逃がす構造だが、レイヤ間配線を工夫して実装密度を上げ大幅に基板面積を縮小している

●薄さへの挑戦、再び

 東芝はかつて、超低電圧版Pentium IIIと1.8インチHDDを搭載した「dynabook SS S4」で、超薄型/デザイン優先のオリジナリティ溢れる製品で自社の技術力を市場に問うた。このコンセプトはその後、Pentium Mの世代になっても受け継がれたが、一方でバッテリ持続時間と重量のバランスを重視した旧dynabook SS SXも誕生。SS Sシリーズも継続販売されたものの、超薄型ノートPCへの挑戦は潰えたかに思えた。

 しかし新SS SXはその両方の特徴を引き継ぎつつ、Alvisoまで盛り込んだ。また個人的にはBluetooth 2.0に対応している点も評価したい。librettoの復活とも併せ、厳しいビジネス環境の中で新しい挑戦を続ける“東芝の本気”にこれからも期待したい。

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【4月20日】東芝、3年ぶりに「libretto」シリーズ復活
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【2月10日】【本田】(やや後ろ向きな)バッテリ持続時間重視のノートPC選び
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【2003年12月15日】【本田】軽さとバッテリを重視した「dynabook SS SX」
〜東芝開発者インタビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1205/mobile222.htm

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(2005年4月26日)

[Text by 本田雅一]


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