大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

薄型TVで浮き彫りになったソニーの課題




 ソニーの新経営体制の発表とともに、ソニーの収益性の低さが改めて浮き彫りになっている。

ソニーの新経営体制の発表会で

 同社が掲げている今年3月末の連結決算見通しは、売上高が7兆1,500億円、営業利益1,100億円、経常利益は400億円。第3四半期決算の席上修正発表したこの数字は、当初見通しに比べて売上高で2,000億円減、営業利益で500億円減、経常利益では300億円減と、いずれも下方修正したものだ。

 この下方修正値の大きさよりも、大きなインパクトとして、アナリストの間で受け取られたのが、修正後の売上高営業利益率が、わずか1.5%となったことだ。

 同社が2006年度を最終年度として取り組んでいる中期経営計画「トランスフォーメーション(TR)60」では、2年後の2006年度末に、売上高営業利益率10%を目標に掲げている。2004年度末時点で営業利益率が1.5%に留まるとの発表は、事実上、これが達成不可能として、旗を下ろしたのと同じこととも受け取れる。

 2006年に営業利益率5%を目指している松下電器が、2004年度通期見通しで3.4%、業績好調なシャープが同じく通期見通しでは、5.9%としているのに対して、わずか2年後に10%の利益率を目指すソニーが1.5%というのは、ソニーが置かれた立場があまりにも厳しいのがわかるだろう。

 では、ソニーはなぜここまで厳しい状況に置かれたのだろうか。

●垂直統合モデルの確立が遅れる

 ソニーの収益性が悪化しているのは、デジタル家電時代における垂直統合モデルの確立に遅れた点が見逃せない。

 かつてソニーが高い収益率を誇った際には、ソニーはエレクトロニクス事業の柱といえるTV事業において、独自のブラウン管技術である「トリニトロン」によって圧倒的ともいえる優位性を誇った。また、画づくりのための様々な技術やノウハウでも優位性を発揮していた。

 これは、結果として、4割以上という高い内製率(部品全体に占める自社製部品の比率)へとつながり、それがそのまま高い収益率へと直結したのだ。

 ところが、薄型TVの時代が到来し、ソニーは自社技術で優位性を発揮できなくなった。

 基幹部品の1つである液晶パネルやプラズマパネルは他社から調達し、この春からは、ようやく液晶パネルを韓国サムスンの合弁会社であるS-LCDから調達できるようになったという段階だ。

 「薄型TVにおけるソニーの内製率は1桁以下」(ソニー・井原勝美グループCFO)という状況では、他社との技術的差異化や、コスト競争力が発揮できないばかりか、収益確保でも不利な状況に置かれるのは明らかだ。

 こうした垂直統合への遅れは薄型TVだけではない。

 DVDレコーダーの「スゴ録」にしても、基幹部品の1つであるコーデックLSIを自社開発したのは昨年暮れのモデルからというように、他社に比べて遅れが目立つ。

 財務を担当する井原勝美グループCFOは、「このままでは、将来、デジタル家電の売り上げが伸びても、利益が伸びないという悪循環に陥ることになる」と危機感を募らせる。

 ソニーでは、すでに垂直統合モデルの確立に向けて、内製率を高めるための仕掛けを開始している。LEDバックライトの「トリルミナス」や、デジタルアンプの「S-MASTER」といった独自技術の採用、そして、Cellの開発も、内製率の上昇、差異化の実現という点では大きな威力を発揮することになるだろう。

 松下電器が、プラズマTVで約4割、シャープが液晶TVで同じく4割以上という内製率を誇り、それが好業績のエンジン役となっていることを見ると、ソニーの課題は、デジタル家電における内製率向上だといえる。

ベガに搭載された「S-MASTER」 ソニー「液晶ベガ」

●コスト競争力体質への転換も課題

 だが、内製率の向上だけで乗り切れるかどうかという問題もある。

 薄型TV1つを例にとっても、今後、さらに激しい価格競争が見込まれ、ただでさえ収益性が圧迫される可能性があるからだ。

 昨年も、年率20%以上の価格下落があった薄型TV市場。さらに、アセンブリ技術だけでも参入が可能なDVDレコーダーでは、実に年間で40%もの価格下落が見られたともいわれる。こうしたデジタル家電市場における価格下落の傾向は、今年もその勢いが持続されるのは明らかで、内製率向上に加えて、それに対応できる体質をソニー内部に作ることにも迫られている。

 例えば、松下電器は、2005年秋にプラズマパネルの生産拠点として、尼崎の新工場を稼働させる。

 ここでは、現在、主力となっている茨木工場で行なっている3面取りから、6面取りの生産体制へと移行することによる効率化をはじめ、各種の改善施策の効果で、茨木第1工場と比較して、製造固定費を72%も削減できるという。つまり約4分の1の固定費で製造できるというわけだ。さらに、新工場では、投資生産性で3.7倍、人員生産性で4.2倍、面積生産性で2.6倍という効率化も見込めるという。

松下が2005年秋に稼動させる尼崎工場の外観 松下「VIERA」

 松下電器の川上徹也専務取締役は、「早期に尼崎工場を立ち上げ、平均25%以上のコストダウンを実現したい」として、市場の価格下落傾向にも追随していく姿勢を見せる。関係者によれば、現在1インチあたり1万円を切り始めているプラズマTVが、尼崎工場の稼働によって、1インチ8,000円程度にまで引き下げることが可能になるという。それだけで20%程度の価格ダウンが実現することになるのだ。さらに、その他部材のコストダウンやSCMの強化などによって、プラスアルファのコストダウンも可能と見られる。

 社内では、「当初予定の11月よりも前に稼働せよ」との号令がかかっているようで、年末商戦を前にフル稼働体制に持ち込み、年末でのコスト優位の体制を構築したい考えだ。

シャープ「AQUOS」

 一方、シャープも2006年10月には亀山第2工場を稼働させるが、ここでは最先端の第8世代の生産ラインとすることで、1つのパネルから、40型で8枚、50型で6枚のパネルを取ることが可能となり、これも効率化につながる。さらに、32型でも効率的にパネルを切り取ることが可能で、液晶TVのメインストリームとなる領域での競争力が高まることになる。

 「ざっくりいって、生産性が高いと言われる亀山第1工場の約2倍の生産性向上が見込める」(同社)というから、コストダウンにも大きく影響しそうだ。

 さらに、シャープは、部材を供給する協力会社にも、それぞれの部品ごとにコストダウンに向けた取り組みをしてもらうよう強力に要請しており、これも液晶TVの最終価格の引き下げへと直結することになる。

 パネルそのもののコストダウンには限界がある。パネルだけでは、薄型TV全体コストの約25%(プラズマTV)〜50%(液晶TV)に留まり、パネルだけでなく、その他部品のコストダウンこそが価格競争力の創出につながるといえるからだ。松下やシャープの戦略もそこにフォーカスしたものだといえる。

●遅れるソニーの取り組み

 こうしてみると、ようやく内製率の引き上げに着手したソニーの動きは、松下電器、シャープの動きから明らかに遅れをとっている。

 店頭では、松下、シャープの製品よりもソニー製品が安い価格で売られているという現状もあるが、これはコストダウンによる成果ではなく、マーケティング戦略あるいは営業戦略の上で、無理をした形で低価格を打ち出しているに過ぎない。

 ソニーは、6月からの新経営体制への移行を待たずに、すでに4月から事実上、新体制での事業展開へと乗り出している。新経営体制では、エレトクロニクス事業の復活を重要な課題に掲げているが、そのためには、他社から遅れをとっている内製率の引き上げとともに、コストダウン体質の早期確立が必要だといえる。

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(2005年4月4日)

[Text by 大河原克行]


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