大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「VAIO第2章」は成功したのか




 ソニーが、2004年5月に「VAIO第2章」を発表してから約7カ月を経過した。

 PC市場をリードしてきたVAIOが、次なる進化を図るとして注目を集めた“第2章”への取り組み。果たして、その成果はどれだけ出ているのだろうか。年末を機に、いま一度、VAIO第2章の行方を検証した。

●VAIO第2章で目指したもの

 ソニーが、'96年に米国でVAIOの第1号機を発売して以来、同社が、VAIOシリーズで常に追求してきたのは、「ITとAVの融合」だった。それまでは、オフィスの効率化のためのツールと位置づけられてきたPCにおいて、生産性を排除したエンターテイメントPCというジャンルを創造し、この新たな息吹が、その後のPCの主流となったのは周知の通りだ。国内のPCメーカー各社から、VAIOを意識した製品が相次いで登場したことからも、それは明らかだった。

 だが、「すべてのPCがVAIOになってしまった」とさえいわれる状況からもわかるように、VAIOが目指したITとAVの融合に、PCメーカー各社が追いつき、VAIO自身が差異化ができなくなっていたのだ。

 VAIOを、ITとAVの融合というフェーズから、自らを新たなステージに置き換えなくてはならない、というのがVAIO第2章の基本的な考え方だ。

 では、VAIO第2章では、なにを目指したのか。

 端的なのが「Do VAIO」のコンセプトだ。これはユーザーインタフェースの名称ともなっているが、同時にコンセプトとしても捉えることができる。ここで示しているのは、家庭内で手軽に映像を見る、外出先で好きな音楽を聞く、といった操作性とともに、これまでのITとAVの融合を超える、高音質、高画質を楽しむことができる機器を提供しようというものだ。これまでテレビとの接続をかたくなに拒んできたVAIOが、今年末に投入したtype Xでは、テレビと接続して利用するという提案を実現してみせた。これも、Do VAIOのコンセプトを実現した好例のひとつだ。AV機器と接続しても負けることがない、AV機能をVAIOに搭載することが可能になったことで実現できたものともいえる。

 「VAIOする」という動詞が示すように、VAIO自身の活用によって、新たにもたらされる「ITとAVの融合」の進化が、VAIO第2章というわけなのだ。

●市場を活性化できなかったVAIO第2章

木村敬治執行役専務
 では、VAIO第2章によって取り組んだ、この半年以上に渡る成果はどうなのか。

 残念ながら、ソニーが想定した成果を上げているとはいえないのが正直なところだろう。

 PC事業を担当する、IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニーNCプレジデントの木村敬治執行役専務は、「VAIO第2章を発表して以降、VAIOが国内PC市場を活性化できたかというと、決してそうではなかった。シェアで勝った、負けたというよりも、次のPCの魅力が提案しきれていないという点が反省すべきポイント。次のITとAVの融合が、まだ提案しきれていない」と語る。

 それには、社内要因、社外要因を含めて、いくつかの理由があった。

 ひとつは、コンシューマPC市場自体が低迷し、予想外に需要が鈍化した点がある。

 とくに、VAIO第2章を発表した5月以降、オリンピック需要を喚起したデジタル家電が先行。この影響を受けて、コンシューマPC市場はマイナス成長を余儀なくされた。

 これは業界全体としても反省すべき点だろうが、「オリンピック=デジタル家電」という構図を構成した家電業界に対して、「オリンピック=PC」という認識づくりができなかったため、PC売り場に顧客を誘導できなかった点は大きい。ソニーに限らず、国産主要PCメーカーが、PCで録画するという打ち出し方をしたが、キャンペーンを開始した時期、広告の物量を背景とした露出度ともに、デジタル家電陣営の後手に回らざるを得なかった。

 さらに、猛暑の影響で、可処分所得の消費がエアコンに流れたという動きを指摘する声もある。

 「当初は、15~20%の成長を予想していたが、まさかマイナス成長になろうとは。こんなに市場が落ち込むとは想定していなかった」(木村NCプレジデント)というのは、PC業界関係者に共通した意見だろう。

 新生VAIOも当然、この影響を受けたといえる。

 2つめは、VAIO第2章のメッセージがユーザーに届ききっていなかった点だろう。

 VAIO第2章は、「Do VAIO」という言葉に集約されるとしたが、それを構成する要素は、あまりにも多い。従来のデスクトップ、ノートPCによるITとAVの融合領域に留まらず、ホームサーバーともいえる製品から、VAIO Pocketのようなモバイル型の製品。さらに、これを実現するための新たな技術とコンセプトが相次いだ。5月の記者会見でも、プレゼンテーションの際に、数多くのキーワードが並べられ、かえってコンセプトをわかりにくくしてしまったという面があった。第2章を示す象徴的製品というのものを作りきれなかった点も、第2章の加速を止めてしまったともいえるだろう。

 そして、3つめが、新たな幕開けとしたことで、ラインアップを一新したが、これが逆にユーザーの混乱を招いた点だ。型番の表示や製品の位置づけを、従来の製品ラインとは、まったく異なる形にしたために、既存のVAIOユーザーの間からは、わかりにくいという声が上がっていた。

 ユーザーの混乱は、販売店サイドの混乱にもつながっていた。VAIOの指名購入ユーザーであればともかく、目的を持たないユーザーに対して、VAIOを勧めることが少ないという状況を生み出した。店員への事前教育が徹底できていなかったという点も見逃せない。

 また、カタログを2分冊にしたものの、販売店には見栄えのする一方だけを展示し、詳細を記したカタログが店頭展示されないという状況を生み出したために、製品の仕様や狙いがユーザーに認知されにくいというマイナスにもつながった。

 ITカンパニー企画部の露木順司シニアプロダクトプロデュサーは、「ユーザーにアンケート調査をしたところ、VAIOが変わったということを認知しているユーザーは多い。どう変わったのか、ということもだいたい認知されている。だが、どれを購入したらいいのか、というところまで誘導できていなかった。買う人、売る人の立場になっていなかった」と語る。

 こうしたいくつかの理由を背景に、VAIO第2章は厳しい出足を余儀なくされたというわけだ。

●海外では高い評価を得る

 しかし、その一方で、VAIO第2章は、確実に地歩を固めつつあるといえる。

 例えば、欧米市場に関しては、新たなVAIOが確実に受け入れられている。

 欧州のノートPC市場においては、順調にシェアを引き上げ、9月にはトップシェアを獲得するという人気ぶりだ。対前年成長率は40%以上に達しているという。

 また、米国においても着実にシェアを高めつつあり、「AVに強いノートPCならばソニーのVAIO、という認識が定着しつつある」(木村NCプレジデント)と語る。

 海外では確実にヒットモデルを生み出し、シェアを引き上げ、そして市場を創出しているのである。

 一方、日本においても、9月以降の新製品で、巻き返しを図りはじめている。

 type A、type K、type SといったノートPCがシェアを伸ばしはじめているのに加えて、デスクトップPCも人気が戻りつつある。

 また、type RでハイビジョンAV機器との連動によって、ハイビジョン映像の編集機器としての位置づけで活用するといった提案を行なったり、type Xでは、VAIOの事業部門として、ホームサーバーのひとつの方向性を示すといった動きが見られている。

 問題となっていたカタログを修正し、店頭での露出度を高めるための販売店との連動も強化している。少しずつではあるが、「元気なVAIOが戻りつつある」というのが現状だ。

5月に一斉に発表されたVAIO 第2章のラインナップ
type U type S type A
type R type V type HX

●進化するVAIOの今後の方向性

7ch同時録画対応レコーダtype Xとデジタルチューナユニット
 実は、type Xやtype R、そして、ノートPCの各製品などが、今後のVAIOの方向性を示しているともいえ、この動きは、今後加速するのは間違いないといえる。

 ソニーが掲げる「ハイビジョンワールド」の一角を担う製品としてVAIOが位置づけられ、今後、AV機器との連動を視野に入れたVAIOが続々と登場することになるのは明らかだ。もちろん、テレビやビデオ、次世代メディア、カムコーダーなどとの連動も活発化するだろう。

 さらに、DLNAによって、家庭内のAV機器とのネットワーク化も進展することになる。

 こうした技術的進化ともに、Do VAIOで目指す使い勝手の良さをいかに追求することも今後の課題だろう。

 これがVAIO第2章で目指したPCの新たな形なのである。

 木村NCプレジデントは、「ハイビジョン、ネットワーク、使い勝手の3つがVAIOの成長方向だ」と話す。

 PCという独立した領域のなかで、ITとAVの融合を目指す。あるいはAV機器の一部の機能を活用するだけの連動というこれまでのやり方ではなく、デジタル家電と対等な立場で連動を図っていくことになるともいえそうだ。

 そして、木村NCプレジデントは、それを実現する上では、プラットフォームにこだわる必要がないことも示す。それは、言い換えれば、IntelアーキテクチャーとWindowsの組み合わせでなくとも構わない、との見方とも受け取れる。同社のデジタル家電に、Linuxが採用されていることを見ても、それとの連動を目指すVAIOがWindowsである必然はないだろう。

 VAIO第2章は、半年で成果を問うのは早いといえる。それは、これからこそがVAIO第2章の本番に入るからだ。その本番フェーズにおいては、Windows以外のOSを搭載するVAIOの登場も視野に入ることになりそうだ。

 VAIOは、2005年にどんな進化を遂げるのか。そして、どんなPCを我々の目の前に登場させるのか。いよいよVAIO第2章の本番が始まる。


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VAIO 第2章リンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/link/vaio2s.htm

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(2004年12月27日)

[Text by 大河原克行]


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