大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Apple上級副社長、フィル・シラー氏直撃インタビュー
〜iPodは、今年中にさらに進化する




 米Apple Computerのワールドワイド・プロダクトマーケティング担当シニアバイスプレジデント・フィリップ・W・シラー氏が来日し、Apple Computerの現在の取り組みなどについて言及した。「いま、Appleには、過去最強といえるだけの強い製品が揃っている」と語るシラー上級副社長は、「もちろん、今後も継続的に強い製品を市場に投入し続ける」とも話す。今後、Appleは、我々の目の前にどんな製品を提供してくれるのだろうか。

●Appleが強い製品を投入できる3つの理由とは

Apple Computer フィリップ・W・シラー上級副社長

 フィリップ・W・シラー上級副社長は、全世界のプロダクトマーケティングを担当する上級副社長。スティーブ・ジョブズCEOに次ぐ、No.2ともいえる人物だ。

 Macworld Expoのスティーブ・ジョブズCEOの基調講演における製品デモストレーションの場面では、必ず登場する人物、といったほうがピンとくる読者もいるだろう。

 現在は、Executive Team(役員)のメンバーであるとともに、同社のプロダクトマーケティング、ディベロッパリレーションズ、教育分野およびビジネスマーケティングプログラムの責任者でもある。

 そのシラー上級副社長は、ここ数年のAppleの事業を振り返り、「Appleにとって、いまが最強の製品が揃っている時期だ」と位置づける。

 「ここ数年、Appleはさまざまなイノベーションに対して投資をしてきたが、それが幸いにもすべてうまくいっている。iMacやMac OS Xも高い評価を得ており、iLifeにしても、これによって、デジタルライフスタイルを確立できたといっていい。また、音楽の領域についても、iPodという強力なプロダクトを市場に投入することができた」と胸を張る。

 では、なぜ、Appleがこれだけ強い製品を連発できるのだろうか。

 シラー上級副社長は、「Appleならではのユニークな体制によるもの」と前置きし、具体的に3つの要因をあげる。

 「1つは、Appleは、徹底した製品主導型のメーカーであり、世界最高のものを世の中に出そうという気持ちを強く持っている点。世界最高のものを出そうと思っている企業はほかにもあるかもしれないが、この徹底ぶりは、他社とは明確に異なる点だといえる。2つめは、優秀な才能を持ったタレントが社内にいるという点。デザインにおいても、エレクトロニクス技術においても、そして、ソフト、サービスでも優秀なタレントがいる。これらのタレントたちが、垂直統合の形で結集され、ハードとソフト、サービスの組み合わせによって、新たな価値を提供している。そして、3つめが、マネジメントチームがそれぞれのカテゴリーに対して十分な熱意を持って取り組んできた点。例えば、音楽。音楽を楽しむためには、どうしたらいいのか。それを徹底的に考えた結果、誕生したのがiPodだ。iPodには、音楽に対するパッションや熱意、愛情があったからこそできたものであり、さらに、それを下支えするスキルセットがAppleの社内にあったからこそ実現できたもの」と話す。

 この3つの要素こそが、まさにAppleの「魂」だといえるだろう。

ファッションアイテムとしての地位を確立した「iPod mini」

 続けて、シラー上級副社長は、「とくに、この1年は、iPodの成功が、チームをさらに強固なものにした」と語る。

 「これまでのように、Macユーザーを対象にしたビジネスではなく、Windowsユーザーや、PCを持っていないような、女性や子供も対象にするなど、より多くの顧客にリーチするように意識が変わってきた。また、iPodのテレビコマーシャルを見てもらえばわかるように、5年前のAppleのコマーシャルとは大きく変化した非常にエキサイティングなコマーシャルを放映している。新たな顧客層にも積極的に打って出るという意識は、この1年でさらに強いものになっている」。

 それは日本での展開を見ても明らかだ。女性ファッション誌などにも積極的に広告を打ち、iPod miniやiPod shuffleをファションアイテムの1つとして位置づける手法は、これらの製品が女性に高い人気を博し、発売直後から品薄を続けたことを見てもわかるように、まんまと成功している。

 「日本のユーザーは、イノベーションの価値を十分理解してくれている。ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによってAppleが提供する価値、そして製品デザインの価値も、日本のユーザーは大変理解してくれている」と、シラー上級副社長は、日本での成功と、ユーザー層が広がっている理由をこう分析する。

●AppleはSwitch戦略から脱却するのか?

Windowsユーザーにも人気の「Mac mini」

 Appleのホームページには「Switch」という言葉が掲載されている。

 同社では、数年前からの言葉を使っているのが、その言葉は、いまでも米国本社のホームページ、そして日本法人のホームページに掲載されている。Switchが持つ意味は、当然のことながら、「WindowsからMacへのSwitch」である。

 だが、iPodの登場、そして、Mac miniのように、Windowsの周辺機器資産をそのまま利用することを想定したコンセプトの製品が登場したことで、Apple製品とWindowsは混在する環境で使われるようになっている。

 実態としては、「Switch」ではなく、「coexistence(共存)」という使い方が広がっているのである。

 シラー上級副社長は、「Windowsユーザーが使いやすい環境にあるのかという点に疑問を感じる。この1年を振り返ってみただけでも、Windowsユーザーは、さまざまな問題を抱えているのがわかる。例えば、ウイルスの蔓延や、新たなOSのリリースにかなりの時間を要してしまっていることも大きな問題だろう。Windowsユーザーは、過去に例がないほど困難な環境のなかにある。フラストレーションが高まっているはすだ。そうしたユーザーたちが、MacにSwitchしたいと思ったら、ぜひトライしてほしいというメッセージは我々は投げ続けことになる。その時には、私たちは、そばにいて、ちゃんとサポートするということもあわせて発信したい」と、Switch戦略を肯定する。

 しかし、その一方で「Switchという言葉は、多くの顧客にとってわかりやすい言葉だと思うが、これが、すべてのユーザーに対する共通の言葉として、Appleの考え方を説明できるかというとそうではない。その点は理解している。Windowsユーザーが、音楽を聞くためにiPodを利用するという例は、Switchとは異なる利用例の最たるものであり、そのユーザーに対して、Macへの乗り換えを強制するものではないのも明らかだ。我々も、iPodを使い始めたからといって、ユーザーが、すぐにWindowsからMacにSwitchするとは思っていない」

 Switchという言葉だけでは、Appleの事業戦略のすべてを表すことができなくなっているという点では、シラー上級副社長も認めている。今後、Appleが、Windowsユーザーや、iPodの潜在ユーザーたちに対して、どんなキーワードを発信するのかにはぜひ注目しておきたい。

●日本での音楽配信サービス開始には言及せず

「iPod」シリーズのラインナップ。国内の音楽有料配信も期待される

 今回、シラー上級副社長が来日すると聞いたとき、報道関係者の多くは、有料音楽配信サービス「iTunes Music Store」の日本での展開が決定したと読んだはずだ。一部報道で「3月」という時期が特定されていたことからも、それは真実味を増していた。

 だが、シラー上級副社長は、「いまの段階では、今年末までの間には日本でのサービスが開始できるということしか言えない」と、今回の来日とは関係ないことを示唆する。

 もう少し時期を特定しようと質問してみたが、残念ながらこれ以上の答えは聞くことができなかった。だが、その素振りから、年末を待たずにサービス開始となりそうなことは感じられたことだけは付け加えておきたい。

 一方、シラー上級副社長は、iPodに関して次のようなコメントをしてくれた。

 「いま、市場に投入しているiPodは、まだ氷山の一角に過ぎない。デジタルミュージック革命は始まったばかりであり、まだまだ進化を続ける。iPodも次のステップに向けて進化を遂げているが、いま進行している動きは、今年中に、なんらかの成果としてお見せすることができると思う。世界中の音楽を愛している人たち、これを持ち運びたいと思っている人たちのために、手頃な価格で入手できる製品ラインアップをさらに拡大し、これからのデジタルミュージック市場の成長をさらに加速させたい」。

 また、「こうした成長を加速させるためには、iPodに関するサードパーティとの連携も重要になる。ウェアラブルへの取り組みや、自動車メーカーのBMWジャパンが、ミニという車において、iPod miniを標準搭載するなどの動きも出ている。ひとりひとりのデジタルライフのなかで、音楽をどう楽しむかという点で、広がりを見せることになるだろう」と、パートナーシップによる新たな利用提案にも期待を寄せた。

●過去最高の製品群を取り揃えるApple

 シラー上級副社長は、インタビューの最後に、冒頭に触れた言葉を改めて繰り返した。

 「いまは、Macintoshが生まれて以来、過去最高ともいえるプロダクトが提供されている。これ以上いいものはないというところまできている。そして、まもなく次期OSのTigerも出てくる。いまがもっともエキサイティングな時期である。また、iPodも、それを持つことで、新たなデジタルライフを体験でき、デジタルミュージック革命の一員になることができる。ぜひ、Macの世界を多くの人に体験してほしい」

 インタビュー時間はわずかだったが、トップエグゼクティブの口から、いまのAppleの状況を直に聞くことができたいいチャンスだった。結論をいえば、いまのAppleの自信と勢いを、ますます感じた、ということに尽きた。

□Appleのホームページ
http://www.apple.com/
□関連記事
Macworld 2005レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/link/mw.htm

バックナンバー

(2005年3月15日)

[Text by 大河原克行]


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