このコラムでは、PCの工場レポートを何度かお送りしてきたが、今回は白物家電の工場のレポートをお届けする。PC Watchの守備範囲ギリギリというところだが、モノ作りの現場からのレポートとして、あえて掲載させていただいた。(編集部) 松下電器産業株式会社は、3月10日、静岡県袋井市の静岡工場を報道関係者に公開した。 同工場は、「誰でも使いやすい」をキャッチフレーズに大量のテレビCM展開などを行なっている「ななめドラム洗濯乾燥機」をはじめとする同社製洗濯機の専用工場。新幹線掛川駅から車で約20分の位置にあり、7万平方mの敷地面積に、274人の従業員が従事。部品生産までを担う、源泉からセットまでの一貫生産工場となっている。 同工場における生産台数は、ドラム式洗濯機で日産1,050台、全自動洗濯機は日産1,500台、乾燥機は日産400台。年間合計で71万台にのぼるランドリー製品を生産していることになる。
●ななめドラムで洗乾機市場をリード PC Watchの読者にはあまり馴染みがないかもしれないが、現在、国内の全自動洗濯機の総需要は、2005年度見込みで、年間420万台規模。前年が415万台であったことと比較すると、プラス成長とはいえ、ほぼ横這いという実績だ。
「普及率が100%に近く、買い換えが需要の中心となる。そのため、大きく出荷台数が増減することがない」(松下電器産業 松下ホームアプライアンス社 ホームユーティリティ事業部 太田文夫事業部長)というのが洗濯機市場の特徴だ。 だが、そのなかで、乾燥機機能をつけた「洗乾タイプ」の比率は2年間で2倍という勢いで拡大しており、2005年予測では105万台と初の年間100万台を突破。4台に1台が洗乾タイプとなる。 この洗乾タイプの普及を加速しているのが、松下電器が投入したななめドラム方式である。 2004年の洗乾タイプの国内出荷台数は91万3,000台。このうちドラム式が54万台を占め、うち20万台を松下電器のななめドラムが占めているという。
「もし当社が、2003年11月にななめドラム方式の洗乾機を発売していなかったら、洗濯機事業はマイナスとなっていた。価値を付加した製品を投入したことで、プラス成長を維持できた」と太田事業部長は話す。
太田事業部長は、この成功の要因を、「先行開発と量産設計の2つの技術部門の存在」と、「チャレンジする風土の存在」という2つの要素に集約する。 「ホームユーティリティ事業部には、とがった技術者が何人かいる。彼らが、先行技術を開発し、新たな需要を引き出す仕組みができている。約3年のサイクルで、高付加価値の製品が投入できるのも、こうした先行技術開発があるからだ」 かつて、二槽式から全自動化へとシフトした際に、全自動洗濯機の普及率は15年以上に渡って20%の普及率を打ち破れなかった時期があった。だが、「ファジィ」といった付加価値機能の追加を皮切りに、「W滝洗い」、「遠心力」といった付加価値によって、全自動洗濯機は一気に普及。その後の10年間で50%以上も普及率が高まった。現在の全自動洗濯機の普及率は80%を突破している。 この経験から、「低価格では需要を喚起できず、付加価値が需要を創造する」と判断。同社は、継続的に先行開発に力を注いでいるのだ。 また、これにあわせて量産設計、量産技術を確立し、これにより、短期間に低コストの製品を市場に送り出すことに成功している。そのノウハウを具現化しているのが静岡工場ということになる。 一方の「チャレンジする風土」という点では、'97年に投入した国産初のドラム式「洗乾ランドリーム」の失敗経験を示す。 「従来のドラム式を踏襲して製品化したこの製品は、オリジナリティが少なく、結果として、業界の流れが創れないという失敗となった。ななめドラム式では、他社に先駆けた技術の採用、他社にないユニバーサルデザインの採用、省エネや節水、時間短縮といった環境重視の製品づくりに挑んだ。これが世界初のななめドラム洗濯機の創出につながり、ドラム需要を創造した」というわけだ。
現在、ななめドラム方式は、第2弾製品へと移行しているが、1号機の発売以来15カ月間の累計出荷は30万台に達した。しかも、第1弾の「V80」に比べて、「NA-V81」は発売1カ月で前年同期比32%増という伸びを示している。 8kg洗濯/6kg乾燥のフラッグシップのNA-V81ほかに、6kg洗濯/4kg乾燥の「NA-V61」、8kg洗濯機能のみの「NA-S81」の3機種を用意している。 すでに中国での販売も開始しているが、今年9月からは中国現地での生産も開始する予定で、中国市場に向けた5~6kgの小容量で洗濯機能のみのななめドラム式を新たに投入する予定だ。 「中国での展開強化を皮切りに東南アジアにも事業を拡大していく」(太田事業部長)としている。
●洗濯機専門の静岡工場の強みはブロックセル生産 静岡工場は、'73年に全自動洗濯機の専門工場として操業して以来、ランドリー専門工場として、松下電器の洗濯機事業を支えている。 同工場の強みは、部品部分の源泉から、最終セットまでの一貫生産体制をとっている点だ。
ホームユーティリティ事業部静岡工場 古谷敏之工場長は、「樹脂成形、プレス加工、溶接、切削といった工程も静岡工場内に置き、さらにブロックセル生産という独自の手法を採用している。これによって、品質確保、物流の効率化、人中心の軽い設備による柔軟性の高いモノづくりを可能としている」と話す。 1号棟ではプレス加工、2号棟1階では切削加工やPCM(プレコートメタル)プレスによるボティ加工、2階では塗装および自動部品倉庫、そして3号棟では最終組立および検査が行なわれている。また、ドラムの成形などについては、隣接する別の棟で行なわれ、これが組立ラインに随時供給される。 ユニークなのは、やはりブロックセル生産の考え方だ。 ブロックセルとは、洗濯機を構成するものをドラム、脱水ウケカバー、ダイワク、2種類の脱水ウケ、ボディの6種類のブロックに分け、生産もそれぞれのブロックごとに行なわれ、それが直結した本体組み立てラインに供給され、生産される。 ブロックごとに品質などの責任体制を明確化したラインが、本体組み立てラインに垂直に6本伸びており、生産リードタイムの短縮化や、在庫の半減などのメリットを実現している。 「6つのブロックラインから、コンベアレスで、本体ラインに同期した形でブロックを供給する。カンバンでの調達体制や部品在庫の確保といったことをせずにラインを動かすことができる」と話す。 これによって、数時間で1台の洗濯機を生産することができるという。 今後は、ここでの生産ノウハウをベースに、グローバル展開へと乗り出す考えで、グローバルのマザー工場としての役割も担うことになる。 今年9月から稼動する中国・杭州のパナソニックHA洗濯機杭州では、近い将来に250万台規模の洗濯機が生産されることになるが、その生産体制も基本的には、この静岡工場からの技術移転ということになる。 ななめドラム洗濯機のヒットが、松下電器の家電製品の世界戦略を大きくドライブすることになりそうだ。
□ななめドラム洗濯機のホームページ (2005年3月15日) [Text by 大河原克行]
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