大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

松下電器の神戸工場を報道関係者に公開
〜国内一貫生産の強みを探る




 松下電器が、同社のPC生産拠点である神戸工場の様子を報道関係者向けに公開した。

 国内で数少ないPCの一貫生産拠点として位置づけられる同工場は、松下電器が掲げるモバイルPCへの絞り込み戦略を実現する上で、欠かすことができない拠点となっている。

 松下電器の神戸工場の内部をレポートする。

●パナソニックが取り組むOnly Oneプロダクト

パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部 伊藤好生事業部長 テクノロジーセンター 高木俊幸所長 プロダクトセンター 藤田尚住所長

松下電器のPC事業に対する基本方針

 松下電器のパナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部の伊藤好生事業部長は、松下電器のPC事業の基本方針を「Only One商品で自らの市場の創造を図る」とし、次のように話す。

 「商品戦略では、OnlyOne Product、販売戦略ではOwn the Market、CS戦略ではWith the user、生産戦略ではTime to the Marketといった目標を掲げている。こうした基本的な取り組みをベースに、狙った市場においてトップシェアを獲るのが松下電器のPC事業。狙った市場とは、レッツノートで追求するモバイルPC分野、タフブックで展開する堅牢PC分野ということになる」

 得意とする市場に絞り込むことが、汎用部品によって構成されるPCにおいて、同社の強みが発揮できるとし、それに向けた努力が繰り返されているのだ。

 これを受けて、テクノロジーセンターの高木俊幸所長は、松下電器のPC事業の強みが発揮できる7つのコア技術があると話す。

 「1つには、落下衝撃、防水、防塵、塩害、防爆対策といった点での堅牢性。2つ目には、アンテナ技術専門の実験室まで設置して取り組んでいるアンテナ設計技術および各種ワイヤレス技術への対応。3つ目に顧客の要求にあわせて設定するセキュリティ対策。4つ目に日本でしか実現できない数々の軽量化のため技術。そして、5つ目には自社回路設計によって実現する省電力化、長時間駆動。6つ目に、ファンレスによって実現する省電力放熱技術。最後に屋外での視認性を高める高輝度技術。これらはどれかが欠けても、当社が目指すモバイルPCは実現できない」

 タフなPCを作るという耐久性では、同社において、世界で8台しかないといわれる落下試験機を設置し、26方向からの落下テストを実施しているほか、HDD保護の吸収材をすべてのモデルに搭載、形状を変えて強度を高めるボンネット天板の採用、長時間使用にも耐えられるレーザー印字キーボードの採用などがある。また、長時間利用という点では、アルミグラファイトの放熱板の採用、高効率液晶バックライト設計、メイン基板の省電力設計がある。さらに、軽量化への取り組みとしては、従来のドライブ機構が200gであったものを、99gに軽量化した同社独自のシェルドライブ機構の採用をはじめ、薄型軽量液晶ディスプレイの搭載、マグネシウムの超薄型プレス技術がある。

 「もし、他社が同じような製品を投入すれば、開発途中の製品であっても止めることがある」というように、これらの技術を背景としたOnly One製品づくりには徹底したこだわりをもっている。

 だが、その一方で、「これらの技術を実現するのは相反する技術要素を盛り込む必要に迫られる。いかに高い次元でバランスをとるかが鍵」と話す。

 バランスをとるには、設計、開発、生産の各部門がいかに連動するするかがポイントだ。設計、開発のこだわりとともに、量産化する際に低コストで生産できる設計、開発も求められるからだ。

 つまり、松下電器が、Only One製品にこだわり続ける上では、設計、開発、生産が密な連携をとる必要があり、これらの部門が一体化した国内一貫生産の体制が見逃せないといえる。

●開発、生産、サービスの拠点

建物面積は27,000平方mを誇る神戸工場。Made in Kobeを標榜する
 では、その拠点となる神戸工場はどうなっているのだろうか。

 神戸工場は、もともと'90年にワープロ工場として竣工した拠点だ。約100社が進出している西神工業団地に位置し、同社の電磁調理器などの生産拠点と同じ場所にある。PC生産を行なう神戸工場の敷地面積は32,600平方m、建物面積は27,000平方mを誇る。

 PCの生産を開始したのは、'91年8月から。現在では、全世界に向けたPC生産をここで行なっている。

 「開発、生産の拠点としてだけでなく、クリニックサービス、コンフィグレーションサービスを実施するほか、毎年夏休みに小中学生を対象に開催している手づくり工房や、大学生を対象にPCの組み立て実習を行なうPCカレッジを実施するなど、ユーザーに最接近するサービス拠点としての位置づけもある」(プロダクトセンター 藤田尚住所長)と話す。

 HDDデータの完全消去サービスの実施のほか、Web販売である「My Let's倶楽部」による特別仕様の製品を3日間で提供したり、365日のダイレクト修理サービス、企業ユーザーを対象にしたコンフィグレーションサービスも神戸工場の役割である。

●改革を続ける神戸工場

 神戸工場は、'96年までは、大量生産によるモノづくりを指向してきた。工場内には5つのラインのベルトコンベアが張り巡らされ、その1つのラインがそれぞれ全長100mという長さを持っていた。これを'97年から多品種少量生産、フレキシブルな生産体制を実現するために工場改革に乗り出し、セルへの展開を開始した。'99年までに4本のベルトコンベアを撤去。同時に9つのセルラインを導入。基本的な体制を整えた。2000年以降は、セル生産方式のソフト面での改革に乗り出し、多能工の育成や、材料をセルラインに供給するための仕組みづくり、そして、同社の基幹システムであるKISSシステムの導入などに取り組んできた。こうしたセルラインに対する改革は、現在でも続けれられており、生産変動への対応やデジタルセルへの取り組みなどの新たな挑戦もはじまっている。

完成品の工程はラインセル方式で行なわれる。ひとつのラインは5〜6人の体制 ラインの数は時期によって変動するが、約15のセルラインが設置されている エージングの工程。製品ごとに分けられて検査が行なわれる

●神戸工場を支えるKISSシステム

 神戸工場の特徴に、「KISSシステム」がある。

 Kobe Intranet Solution of Super-productionの頭文字からKISSと命名された同システムは、神戸工場の物づくりを下支えする基幹システムだ。

 実装、組立、完成、梱包、出荷、修理サービスまでの一連の作業を網羅し、製品の品質に関わる情報を同事業部で共有することができる。

 「製品の不良の兆候を事前に発見し、これを自動的に知らせるシステムとなっている。また、製品の品質を保証する製品の履歴書を作成することで、ユーザーサービスにも大きな威力を発揮する。同時に、生産設備の不具合に関する兆候も発見することもできる」という。

 検査工程以外は完全自動化されているマザーボード製造の実装機をリアルタイムで管理し、設備の不具合を事前に発見できるようにしたり、エージング作業においては製品をバーコードで管理し、製品品質の変化の兆しを発見する。

 また、これらの生産工程ごとの情報を集約することで、製品の履歴書としての管理も可能になる。実装工程、ボード工程、検査工程、包装工程のそれぞの情報を単一商品ごとの情報として管理し、どの商品が、いつ、どの工程で作られたか、といった情報を完成品ごとに一覧表示することが可能になる。これによって、ユーザーサポートの面でも威力を発揮することができるという。

神戸工場を支えるKISSシステム

KISSシステムでは、製品ごとの生産履歴書が作成される

実装工程は、高密度高速実装機を導入。0.075秒で1個の部品を取り付ける 異形部品はパーツカセットで供給される。この供給のタイミングもKISSシステムによって管理されている 実装工程からボード組立工程へ、最終的な検査は目視でも行なわれる

落下試験器。あらゆる角度から実機を落として、そのたびに正常動作を確認する 恒温恒湿試験機。そのほかに、ヒンジ耐久試験、加圧振動試験などが行なわれている

動画(QuickTime形式)
動画1 約3MB 動画2 約4MB 動画3 約2MB 動画4 約1MB
動作中のタフブックを実際に落下させる実演も行なわれた 防水もタフブックの特徴。ペットボトル一杯に入った水をタフブックにかけても動作する 防滴試験。専用の機械を使い、台風並の雨量の検査を可能にしている キーボードの耐久性を検査するキーボード打鍵試験機。200gの重量で500万回打鍵する

●さらに進むモノづくり革新

 現在、神戸工場では、2006年度を最終年度とした「モノづくり革新」に取り組んでいる。ここでは、21世紀に勝ち残る工場を目指した革新策提言と実践をテーマに、具体的な目標として、2003年度に比べて、生産リードタイムを3分の1に、生産性を3倍にすることを目指している。

 そのために、完成ラインにおいては、部材のキット化やレッツノートの工程を50分以下にするために標準作業の自動化などの改善をすすめる。さらに、2006年度には、市場直結セルへの展開を予定しており、受注、生産、出荷機能をセル単位で行なったり、1台単位での生産計画へと移行させることで、より顧客に密着着した生産体制とする考えだ。

 このように、モバイルに特化し、そこで優位性を見出そうとしている松下電器のPC事業において、神戸工場の存在は見逃せない。

 Only Oneプロダクトの追求、モバイル分野における顧客満足度の追求は、神戸工場の国内一貫生産なしには実現しえないのである。

□関連記事
【9月22日】モバイルに特化する松下電器PC事業の新たな挑戦
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0922/gyokai105.htm

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(2004年10月12日)

[Text by 大河原克行]


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