森山和道の「ヒトと機械の境界面」

インタラクション2005開催レポート



 2月28日と3月1日、東京・竹橋の学術総合センターにて「インタラクション2005」が開催された。インタラクションはユーザーインターフェイスやソフトウェア工学などの議論の場であり、その研究成果が発表される場所。今年はおよそ620名の研究者・学生たちが集まった。

●1日目:社会的インタラクション、視線

 まず最初はスタンフォード大学のスコット・クレマー(Scott Klemmer)氏による招待講演から始まった。クレマー博士はヒューマン・コンピュータ・インタラクションの研究者で、タンジブル・インターフェイス等を焦点としている。演題は「プロトタイピング・フューチャー・インタラクション」。

 タンジブル・インターフェイスとは、電脳世界にある情報や情報操作を、物理世界のオブジェクトや操作で行なおうとする、あるいは実世界とコンピュータのなかの世界をシームレスに繋ぐことをねらいとしたインターフェイスである。ポスト・デスクトップ・メタファーとしてだけではなく、グループウェアとしても可能性があると考えられている。

 クレマー氏は、「Designer's Outpsot」というポストイットを使ったブレインストーミングの電子化による強化や、生物学者のフィールドノートの強化など自身の研究成果を紹介した。教育にも力を入れているという。

スタンフォード大学スコット・クレマー氏 Designer's Outpsot使用風景。ポストイットをはがしても、そのまま記録が電子化されていて、操作が可能

 続いて社会インタラクションに関する講演が2つ行なわれた。1つ目は大阪大学の大野華子氏らによる発表で、社会的関係を用いたネットオークションの評価コメントの自動要約。「ソーシャルサマライゼーション法」と呼ぶ手法で、評価にありがちな「綺麗な梱包でした」といった儀礼的コメントを自動的に省き、要約してくれるというもの。

 もう1つはメーリングリストと「Wiki」を統合したコミュニケーション・システムとして「qwikWeb」が産総研の江渡浩一郎氏から発表された。メーリングリストはフロー的なツールであって、情報をストック・組織化することができない。Wikiにも欠点がある。そこで投稿されたメールが自動的にWikiページになるものとして提案したいと語った。

ページに付箋が貼れたり、テキストによって動画が編集できる点が特徴だ。

大阪大学・大野華子氏 「ソーシャルサマライゼーション法」による要約手法の一部 産総研・江渡浩一郎氏。江渡氏は、日本科学未来館の「インターネット物理モデル」の作者としても知られる

 午後は「インタラクション」の目玉であるインタラクティブ・セッションから始まった。ここでは実際にデモンストレーションが行なわれるほか、実際に研究開発を行なった研究者自身による説明を聞き、実際に試したり議論したりできる。

 全部はとても紹介しきれないが、写真でいくつかご紹介する。

産総研による「Voice Drummer」。口でズンズンタッターと適当に口ドラムを奏でると、それを楽譜になおし、実際のドラム音を響かせることができる 大阪大学と三洋電機株式会社によるPC演奏用電子楽器「Cymis」。楽譜をそのまま押せば音楽が奏でられる。強く押せば音は大きく、長く押せば長く音が出る 東京工科大学のケーブルを使った認証システムの提案。ケーブルにつけられたRFIDを使ってユーザー認証を行なえば直感的ではないかというもの
電通大の吸飲感覚提示装置「SUI (Straw-like User Interface)」。実際に色々なものを吸った感覚を圧力センサの時間変化で捉え、再現する。学生対抗VRコンテストの記事でも紹介したもの 東大による、モバイルデバイスのインターフェイスの提案。裏面のトラックパッドを操作に取り入れてタップと組み合わせることで、これまでよりも多様な入力が可能。実際に地図などを閲覧してみると確かに便利だ。ただし現状のPDAのスペックでは処理がぎこちない
慶応大学による、ファイルの重さの表現。重たいファイルは大きく、下に沈む。操作するときも重くなる。アイコンへの働きかけでファイルが編集できれば面白いかもしれない 公立はこだて未来大学による視覚障害者向けの力覚提示インターフェイス 水中紙相撲。水を張った水槽の下にディスプレイがあり、水の上に半ば浮いた発泡スチロールで「紙相撲」する。ぼよんぼよんした感触が面白い
東大の「HOTARU」。将来、小型化したプロジェクターが携帯デバイスにも搭載されると見越したインターフェイスの提案。プロジェクションに対する操作をカメラで認識するため複数人での作業が行なえるという。現状ではプロジェクションは別のプロジェクターで行なっている 日立によるマスタースレーブによる遠隔肩もみ。こちらはスレーブ側。ディスプレイでツボの位置を見ながら自分で操作することもできる
実時間視線検出を使った人間とロボットとの協調作業の様子。注視物体の履歴からユーザーの意図を推定する逆問題だと考えることができる

 初日は「視線」に関するセッションで終わった。東大・池内研究室による視線から人間の意図を推定して協調作業をロボットと行なう研究と、電通大による瞳孔反応を使った視線検出の研究が発表された。


●2日目 コミュニケーション、ゼスチャー、音

 2日目はコミュニケーションに関するセッションから始まった。異言語間コミュニケーション、ロボットとのコミュニケーション、そして本棚という、毛色がまったく違った講演が行なわれた。

 大阪大学産業科学研究所の笹島宗彦氏がプレゼンしたのは東芝研究開発センターほかと研究開発した異言語間会話支援ツール「グローバルコミュニケーター」。音声認識エンジンに東芝の「LaLaVoice」を使った、翻訳ツールだ。VAIO type Uで実装されている。

 既存ツールがねらってきた意志表示支援ではなく、むしろ回答提示と回答理解の支援ツールとしてデザインしたという。類似文検索によって、誤認識や誤訳を補う工夫が施されている。今後は医療などに用途を絞ってアプリケーション開発を目指す。

グローバルコミュニケーター・モジュール図 音声認識結果に近い類似文を複数提示する

 大阪大学/ATRの塩見昌裕氏は、ユビキタスセンサネットワークとコミュニケーションロボットとの協調実験について講演した。大阪市立科学館で実証実験を行ったもので、観客にRFIDを持たせ、コミュニケーションロボットがその情報をもとに応対するというもの。観客の子供達のリアクションは良かったようだが、講演に対する質問では「単にロボットが物珍しかっただけではないか」といった厳しい質問が相次いだ。

 もともとロボットにとって自分の身体と外界のセンサネットワークを区別する必要はない。ユビキタスセンサネットワークとロボットの協調は必然だ。だがそれだけに、なぜロボットという存在を使う必要があるのか、基本的な部分をしっかり考えないとロボットの未来はないだろう。

環境に埋め込まれたセンサからの情報をロボットが活用する ユビキタスセンサとの連携 コミュニケーションロボット「Robovie」を使った実験風景。2カ月間の来館者91,107人中、登録者は11,927人、アンケート記入者は2,891人だったという

 産総研の増井俊之氏は「本棚.org」について講演した。バーコード入力するとアマゾン書誌データから書影を引っ張ってきて並べてくれるというものだ。自分と近い本を持っている人を探すなど、ゆるいコミュニケーションが実現できるという。今後の課題は実世界との連携だとした。

本棚.org 複数の人間で1つの本棚を共有することもできる。これは「萌え専科」の本棚

 東大の矢谷浩司氏は、PDA等でのファイルのやりとりにトス動作を用いる「Toss-It」を紹介した。なかなか面白いが、実用的なファイルをやりとりするよりはエンターテイメント用途での可能性を探り、そちらでアプリケーションを立てたほうが良さそうだ。

Toss-It。人に向かってトスするとその人のPDAに、プリンタにトスするとファイルがプリントされる 【動画】デモ動画

 午後は再びインタラクティブセッション。こちらも写真でいくつかを紹介しよう。

本連載第2回に登場してもらった玉川大学椎尾教授による「インタラクティブテーブル」。光学式マウスを逆さまに複数配置したテーブルで、DVDプレーヤーなどへの提案 産総研の後藤氏らによる「Muicream」。将来、聞き放題の音楽配信サービスが登場すると考えたときのためのインターフェイス。プレイリストを何となく気分で作ることができ、また、過去の操作を記録する ソニーCSLによる「からくりブロック」。ブロックを組み合わせると映像が繋がる。インタラクティブな絵本やストーリー構築に使っていきたいという
NHK技研ほかによる「バーチャルスコープ」。3次元マウスの一種。手元の物体をぐるぐる回すとCGが動く。奥行き方向に動かすと、表面に貼り付けられたテクスチャが変化する 早稲田大学による「仮想物理ウィジェット」。ビジュアルマーカをカメラで認識し、操作する 京大/ATRによる「ぱらぱらマトリクス」。カメラで撮影した動画像から漫画のような形式で要約を生成する
慶応大「ぬくぬくキー」。RFIDを持った家族が家に帰宅すると、キーがそれをぬくもりとして伝えるというもの。所有者は家族の漠然とした存在感を感じることができ、家に帰りたくなる 北陸先端大「指しChaTel」。たとえば10人以上で居酒屋で飲んでいるとき、端っこ同士だと喋ることができない。そんなとき、ちょっと時間的に非同期の音声チャット/掲示板コミュニケーションを実現するための提案

 最終セッションのテーマは音。音楽と音声に関する研究成果が発表された。ソニーCSLの暦本氏は、身勝手に変化していく人間の好みにあわせて変化していく「UniversalPlaylist」を紹介した。単独のプレイリストではなく複数のプレイリストを集合的に扱うことで、音楽を聴きながら10曲程度の曲に対して聴くか聴かないかの判断をするだけで、だいたい好みの曲が流れるようにチューニングされるという。

 そのほか、アマチュアが音楽素材をミックスダウンするのをサポートするソフトウェアの提案、決定木を使ったユーザーの好みに対する音楽の推薦、既存の音声を任意のイントネーションに変換する研究などが報告された。


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【2003年3月6日】【森山】人類初の“サイボーグ”-ケビン・ウォーリック教授来日
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0306/kyokai04.htm

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(2005年3月7日)

[Reported by 森山和道]

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