笠原一輝のユビキタス情報局

今年末商戦の目玉「PC用次世代DVDドライブ」に立ちふさがる課題





HPが行なったBlu-ray搭載PCのデモ

 既報のとおり、International CESを舞台にHD DVDとBlu-rayの両陣営は、次世代DVDの座を巡り熱い戦いを繰り広げていた。PCユーザーにとって気になるのは、HD DVDやBlu-rayがどのような形でPCに実装されるようになるかということではないだろうか。

 ここでは、CESでの取材を元にPCへのHD DVD、Blu-rayの実装やその時期などについて考えていきたい。


●今年のクリスマス商戦にパッケージソフトとROMドライブがそろうHD DVD陣営

NECが行なったHD DVD ROMドライブのデモ。NECのVALUESTARに接続してPCでHD DVD ROMを再生するデモが行なわれた

 「今年のクリスマス商戦にはHD DVDのROMドライブを実際のPCなどに搭載することが可能になるだろう」(HD DVDブースにおけるNECの説明員)と、今年の年末商戦では次世代DVDを搭載したPCがホットトピックとなる可能性はかなり高まっている。

 次世代DVDの座を巡り激しい“つばぜり合い”を続ける両陣営だが、最初のターゲットという点では、大きく異なっている。HD DVD陣営は、ROMによるHDコンテンツの配布メディアという方向性に焦点を当てており、リライタブルに関しては後回しという感が強い。

 実際、AV Watchの記事でもわかるように、HD DVD陣営はハリウッドのコンテンツホルダーによるパッケージソフトの充実に力を注ぎ、今年の末までに多数のHDコンテンツを格納したHD DVDメディアを提供する予定であることを明らかにしている。

 HD DVDのROM仕様に関してはすでにバージョン0.9として確定し、NECなどによれば第4四半期にはPC OEMなどに対してHD DVD-ROMドライブを出荷することが可能になるという。気になるコストは、当初は現在のDVD-ROMドライブより高くなると予想されるが、量産が進めば最終的には現在のDVD-ROMドライブに近いレンジに落ち着くという。

 これにより、HD DVDに関しては、ハードも、ソフトも両方が揃うことになる。少なくとも、ROMに関しては。

●PCに適した大容量リライタブルが先行するBlu-ray

 これに対して、Blu-ray陣営も、International CESの会場でBlu-rayのPC用ドライブを展示した。ただし、展示されていたのは主にリライタブルの製品。BD-ROMのデモも行なわれてはいたが、まだまだ試作段階のものだった。

 最大の理由は、BD-ROMの仕様策定がまだ済んでいないという点だ。すでにバージョン0.9にまでなっているHD DVDと比べて、BD-ROMは3月にようやく仕様としての形がでてくるというスケジュール。実際にBD-ROM対応の製品がリリースされるのは来年になってからという可能性を指摘する関係者は少なくない。

 だが、リライタブルでは、Blu-ray陣営が明らかに先行している。すでにBlu-rayに対応した家電のレコーダが存在していることからもわかるように、PC用のBlu-rayも「ROMにこだわらずリライタブルだけの機能なら、OEMメーカーからの要求があれば、そう遠からず出荷できる状態」(あるドライブベンダの関係者)との声は多く、書き込みソフトウェアなどの準備が整えば、PC OEMにドライブを出荷ということは不可能ではないという。

 実際、Blu-ray陣営の一員であるDellとHPは自社ブースなどでBD-R/REドライブを搭載したPCを展示するなど、Blu-ray陣営も米国での最大の“家電”であるPCへの搭載にはかなり熱心に取り組んでいる。確かに、大容量リライタブルメディアは、PC向けのアプリケーションということはできるだけに、それも当然といえるだろう。

松下電器のPC用Blu-rayドライブ SamsungのBlu-rayドライブ BenQのブースに展示されていたBlu-rayドライブ。PhilipsのODMという形になるという

●すでにHDレディといえるPCのHDコンテンツ向けコーデックサポート

 ハードウェア的には、ドライブの登場を待たなければいけないとしても、ソフトウェア的にはPCはほぼHDレディと言って良い。PCではすでにHDコンテンツを再生するためのコーデックは、ほぼ導入が終わっているからだ。

 HD DVD、Blu-ray、いずれも採用されているコーデックは「MPEG-2」、「VC1」(Windows Media Video 9)、「MPEG-4 AVC」の3つだが、すでにPCではWMV9のコーデックは導入済みであり、MPEG-2についてもなんらかのDVD再生ソフトとともに導入されているケースが多い。  「H.264」と呼ばれてきたMPEG-4 AVCについても、サイバーリンクの「PowerDVD 6 Deluxe」のようなDVD再生ソフトウェアなどによって導入できる。インタービデオの「WinDVD」でも、近い将来にリリースされるバージョンの製品では、HD DVDやBlu-rayで利用されるすべてのコーデックをサポート予定という。

 固定ハードウェアを開発する必要がある家電に比べて、汎用プロセッサから構成されるPCの場合、ソフトウェアの導入だけで済むこともあり、HDへの対応は非常に容易なことであると言える。

●AACSの仕様確定の遅れがHD DVDやBlu-rayの実装の遅れにつながりつつある

 ただし、課題もないわけではない。問題は、HD DVDやBlu-rayで利用されるコンテンツ保護技術への対応だ。

 HD DVD、Blu-ray、ともにコンテンツの保護には「AACS」(Advanced Access Content System)という技術を採用する予定となっている。AACSは、「AACS LA」という業界団体が策定を進めているコンテンツ保護技術だ。AACS LAはIBM、Intel、Microsoft、松下電器、ソニー、東芝、ウォルトディズニー、ワーナーブラザーズという、ITベンダ、家電ベンダ、ハリウッドの3つの業界の代表企業により結成された業界団体で、現在AACSの仕様策定にあたっている。

 問題は、このAACSの仕様がまだ決まっていないことだ。AACS LAは昨年行なった発表の中で、128bitキーによる暗号化、DVDよりも拡張されたドライブによる認証などを明らかにしているが、その詳細な仕様に関しては、未だ明らかになっていないのだ。このため、PCのみならず、家電製品でも再生プレーヤーの仕様が決定できず、仮に次世代DVD対応機器の遅れが現実になるとすれば、AACS関連が原因になりかねないという懸念が広がりつつあるという。

 PCの場合、どこまでセキュアにすべきなのかという問題があるので、AACSの動向は大きな問題だ。例えば、日本でARIB(社団法人 電波産業界)が地上デジタル放送対応PCへの実装で求めているような、内部バスなども含めてすべてをセキュアにする、などというのは、正直いってかなり難しい。

 この場合は、PCの内部アーキテクチャも含めて大幅な改良をしなければならない。例えば、現時点でPCの出力であるアナログRGBやDVI出力はセキュアではない。ここも含めて完全にセキュアにしなければならないとすれば、DVI-D端子にHDCP(High-bandwidth Digital Contents Protection)の保護機能を追加する必要がある。

 しかし、GPUベンダの動きはそう早くはない。NVIDIAのマルチメディア&ソフトウェア シニアプロダクトマネージャのアンドリュー・フィアー氏は「弊社ではすでにHDCPの開発を終えており、製品に実装することは技術的には可能だ。しかし、ライセンス料の問題もあるので、実装するかどうかはOEMベンダ側がそれを望むか次第だ」と、技術開発は終わっているものの、ニーズが無いので搭載していないというのが彼らのスタンスだ。

 このことは2つの可能性を示唆している。1つは、AACSの仕様が、そこまで厳しい仕様をPCには強いていないという可能性だ。米国では消費者の権利が非常に強い。

 仮に、PCに次世代DVDを実装する場合、HDCPを必ず実装する必要があるとすれば、消費者は今持っているディスプレイを買い換える必要がでてくる。それをハリウッド側が強いたということがわかれば、消費者の側から不満の声が出ることは確実で、下手すれば訴訟ものだ。

 DVDのCSSがそうだったように、PCに関してはある程度の例外を認めるという落としどころを探っている可能性は十分考えられる。

 もう1つの可能性は、本当にもめていてまだ何も決まっていないので、PCベンダ側は何もできないという可能性だ。実際、そうした指摘をする日本のPC業界関係者は少なくない。

 どちらにせよ、AACSの仕様決定の遅れが、次世代DVDの実装の遅れにつながっていることは間違いない。年末商戦に次世代DVDの実装を間に合わせたいと考えているPC業界関係者は、その結末を固唾をのんで見守っている状況だ。

●歴史は繰りかえされるのか、次世代DVDスーパーマルチの可能性

 AACSという課題はあるにせよ、PC業界が次世代DVDという魅力的なアプリケーションに向けて走り始めたことは間違いない。

 では、どのような製品ラインナップにするかと言えば、これがまた難しい問題だ。HD DVD、Blu-rayという2つの陣営に分かれてしまったことが、製品ラインナップに影響してくることは容易に想像できる。

 例えば、日本のコンシューマPC御三家であるNEC、富士通、ソニーを例に考えてみよう。

 NECは言うまでもなくHD DVD陣営の幹事企業であるので、間違いなくHD DVDを搭載してくると予想されるだろう。しかし、HD DVDはROMが先行しており、リライタブルは来年に先送りになる公算が強い。となると、NECの年末モデルではDVDマルチドライブとHD DVD ROMドライブという2つのドライブが搭載される可能性が高いのではないだろうか。HDコンテンツは楽しめるが、大容量のリライタブルは欠くことになる。

 Blu-ray陣営の幹事企業であるソニーは、Blu-rayのリライタブルを先行させてくる可能性が高い。こちらの問題は年末の時点ではROMが出揃わないという点であり、HDコンテンツを楽しむというメリットを強く押せない点だ。

 となると、どちらの陣営にも属していない富士通だけが、HD DVDとBlu-rayという2つのドライブ構成が可能になる。これは、前述の2社と比較すると大きなメリットになると言えるだろう。

 この状況で消費者が何を選ぶか、それはDVDスーパーマルチで起こったことを考えれば、筆者が言うまでもないだろう。リライタブルDVDの市場では、明らかにあるタイミングから日立LGのシェアが高まっていった。それはDVDマルチやDVDスーパーマルチを市場に投入したタイミングである。

 現在、各ドライブメーカーはいずれもHD DVDないしはBlu-rayの陣営に加盟しており、いきなり“マルチ”ドライブを手がける可能性は低い。しかし、仮に今年末や来年初頭にリリースされるモデルで、富士通がHD DVDとBlu-rayの両ドライブを搭載して成功したりすれば、再び同じことをしようと考えるドライブメーカーがでてきてもおかしくないだろう。

 “歴史は繰りかえす”が、この業界の教訓の1つであることを忘れてはならないと筆者は思うのだが、次世代DVDでもそうなるのだろうか。

□関連記事
【1月9日】【CES】Blu-rayとHD DVDによる次世代光学メディア覇権争奪戦
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0109/ces11.htm
【1月日】【CES】2005 International CESレポート【HD DVD編】(AV)
関連各社が第4四半期にハード/ソフトを同時立ち上げ
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050107/ces05.htm

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(2005年1月17日)

[Reported by 笠原一輝]


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