大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

大阪で勃発する「南北戦争」
〜ヤマダ出店で、日本橋電気街はどうなる




●キタにヨドバシ、ミナミにヤマダ

キタのヨドバシカメラマルチメディア梅田

 いま、大阪の量販店、PCショップ市場は、「南北戦争」勃発前の静けさのなかにある。

 南北戦争とは何か。2001年に梅田(キタ)にヨドバシカメラが、2万平方mの売り場面積を誇るマルチメディア梅田をオープンしてから、大阪の量販店の勢力図は大きく変化したのは周知の通りだ。

 PCユーザーが多く訪れていた日本橋電気街も、ヨドバシの出店以降、大きな影響を受け、一部のパーツ専門店を残しては、集客が減少。日本橋に地盤を置く量販店が軒並み厳しい事業環境に陥るという結果になった。

 さらに、ヨドバシカメラ出店前後に、いくつかのショップが進出するなど、キタの動きが加速。また、郊外に大型量販店が進出するといった動きも日本橋の集客力を衰えさせる要因となっていた。

 このように、日本橋電気街への集客減と、キタに傾きつつあった大阪の量販店市場に、また大きな動きが浮上してきた。

 それは、日本橋電気街と隣接する難波(ミナミ)に、ヤマダ電機が出店するという動きだ。

 ヤマダ電機の出店予定地は、かつて大阪球場があったエリアで、南海のなんば駅および、なんばパークスの南側になる。

ヤマダ電機の出店が予想されるエリア(8月末時点)
現在、駐車場の取り壊し工事が進む(11月時点) なんばパークスのさらに南側、この地図では左側になる

 このエリアは先日まで駐車場として使用されていたが、すでに工事が開始されている。ここにヤマダ電機としては、初となるターミナル駅隣接型大規模店舗がオープンすることになるのだ。

 オープン時期は、2005年とされており、その規模は、2万平方mにも達するというものだ。

 規模といい、立地条件といい、いまや大阪の横綱に上り詰めたヨドパシカメラに対抗するには、十分なものを備えている。まさに大阪を舞台にした、ヨドバシカメラとヤマダ電機の、大規模な南北戦争が勃発することになる、というわけだ。

 「ヤマダ出店によって梅田に流れていた顧客が、難波に移動することも考えられる。大阪北部や神戸、京都方面はヨドバシカメラに、大阪南部や堺、奈良といった方面の顧客はヤマダ電機にといった陣取りが想定される」というのが関係者に共通した見方だ。

●日本橋電気街にはどんな影響及ぼすのか

 では、ヤマダ電機が難波に出店すれば、隣接する日本橋電気街にはどんな影響を及ぼすのだろうか。

 複数の日本橋電気街関係者にコメントを求めたが、残念ながら日本橋電気街の先行きについては、厳しい見方をする声しか聞くことができなかった。

 その背景には、ヨドバシカメラの出店によって、日本橋電気街へ電気製品を購入しに訪れる来街者が約3割に減少したといわれるなど、大きな打撃を受けた過去の経験が作用しているといえるだろう。

 ある電気街関係者は次のように話す。

 「難波にヤマダ電機が出店することで隣接する日本橋電気街との相乗効果を指摘する声もあるが、実際には、南海の線路を挟んで東西に分断されるため、そんなことはあり得ない。ヤマダ電機に来た顧客がわざわざ電気街に立ち寄る可能性は低い」。

千日前のビックカメラなんば店

 一方、別の関係者は、「ヤマダ電機の出店規模を考えれば、1店舗だけで完結できるだけの商品数が揃うはず。特殊な製品を除けば、日本橋の電気街全体の量販店の品揃えにも対抗できるのではないか」として、電気街の特徴となっていた品揃えの点でも諦めムードを漂わせる。

 それどころではない。こんな見方もある。

 「ヤマダ電機にしてみれば、初のターミナル駅隣接の店舗。失敗は許されないという覚悟で乗り込んでくるはず。ヨドバシカメラに対抗した徹底的な価格攻勢が考えられるのは当然のこと。日本橋電気街の店舗は、南北戦争によって引き起こされる低価格化の流れ弾に当たらないようにするために、知恵を絞るのが精一杯」というのである。

 大阪の量販店関係者に共通した意見は、ヤマダが徹底した価格攻勢を仕掛けてくるだろうという点。当然のことながら、それに対して、ヨドバシカメラは、それへの対抗措置をとってくるだろうと見ている。

 もちろん、千日前にあるビックカメラ、周辺都市に出店しているコジマもこれに追随してくる可能性が強い。

 日本橋電気街にとっては、まさに正念場ともいえる状況になってきたのだ。

●電気街に多い不利な材料

 日本橋電気街の店舗が、ヨドバシ、ヤマダに価格で対抗するのは難しいといえるだろう。

 共同仕入れを目指して動き出したエディオングループが、先頃分割してしまったのも、関西に地盤を持つ上新電機とミドリ電化の意見の相違を発端にしたとの見方が強く、同グループにおける大量仕入れを背景とした価格低減措置にも黄信号が点ったことは、日本橋電気街にはマイナス要素だ。

 グループ売上高1兆円を誇るヤマダ電機と、毎年、大規模出店で事業を急拡大し、カメラ量販で2位以下を引き離しはじめたヨドバシカメラが、大量仕入れを背景にした価格戦略を打ち出してくれば、日本橋電気街の各店舗は、おいそれとはそれに追随できないはずだ。

 しかも、仮に低価格に追随し、同じ価格を出せたとしても、依然としてヨドバシ、ヤマダか有利であることには変わりがないといえる。

 例えば、交通の便の差を考えると、鉄道を利用したとしても、日本橋電気街には、どんな方向から訪れても乗り換えが多いこと、自動車を利用した際にも駐車場への車の入れやすさなどで使いにくい部分があるのは事実だ。

 デジタル家電で購入の主導権を握るといわれる女性層の来店でも、イメージの観点から、同様に日本橋は分が悪いという声も多くの人に共通した認識だ。

 つまり、同じ価格を打ち出したとしても、日本橋電気街の方が不利な条件が揃っているといわざるを得ない。

 だからこそ、価格や電機製品の品揃えという点以外での、別の付加価値が電気街には求められる。それを実現しない限り、日本橋電気街は、さらに衰退するといっていいだろう。

 ある日本橋の関係者は次のように話す。

 「2005年以降、電気店が日本橋にあるという意味がなくなるかもしれない。むしろ、郊外に店舗を移し、本社機能だけを日本橋に残した方が得策だといえる」

 本社は日本橋という象徴的イメージを残しながらも、店舗そのものは南北戦争の流れ弾が当たりにくい郊外に移した方が、メリットがあるというのである。

●電気街が取り組む数々の対抗策

 もちろん、日本橋電機街の関係者は、単に手をこまねいているわけではない。

 電気街に電光掲示板を設置して来街者に対して細やかな情報を提供したり、街の美化への取り組み、また、共同キャンペーンの実施という施策を行なっている。

 今年7月には「でんでんタウン」のホームページもリニューアルし、「ワクワクする情報を提供するとともに、誰もが見やすく、すぐに欲しい情報が得られるように大幅な変更を施した」(ホームページを担当するフューチャーシステムズの藤原佳通代表)という。

 だが、共同キャンペーンを行なうにしても、日本橋筋商店街振興組合、でんでんタウン共栄会、日本橋まちづくり振興株式会社といった複数の組織が林立。さらに、なんさん通りは道を境に、南北で中央区と浪速区と区も異なるために、それぞれに商店街の組織があり、それを背景に行政の対応に違いが生じるなど、街全体としての統一が取りにくいという問題もある。

なんさん通り。道路を挟んで北側(右)が中央区、南側が浪速区

 こうしたなか、日本橋まちづくり振興株式会社の社長を務めるアシベ電機の芦邊康徳社長は、「もし、日本橋に付加価値を求めるというのであれば、電気店だけの街づくりには限界があることを認識しなくてはならない」と断言する。

 「もちろん、電気店がそれぞれに特徴を持った店づくりを行ない、電機街としての強みを追求することは当然、必要だ。だが、それだけでは電気街への来街者数は減るだけ。別の付加価値を持った街づくりを視野に入れる必要もあるだろう」

 日本橋まちづくり振興株式会社は、2003年5月、でんでんタウン共栄会と日本橋筋商店街振興組合の両団体が中心なって、19人の出資により、資本金1,900万円で設立した。

 参加会社が電気店が多いため、活動の中心は電気街としての街づくりをどうするのか、電気街としての発展をどうかるのかといった点が中心になる。また、資本金1,900万円という原資では、活動内容にも限界があるのは事実だ。

 だが、街全体というどう生き残るのか、ということを根本から考える上では、電気街だけのスタンスではもはや限界があることも多くの人が認識しはじめているようだ。

 そのあたりを芦邊社長は、次のように語る。

 「もちろん、脱・電気街という考え方も必要だろう。ただ、電気街として考えた場合、1つ足りない物がある。まずはそこから手をつけるべきだ。それはなにか。これだけ多くのハード製品を販売していながら、ソフトでは大きく遅れていること。それは単なるソフトウェアやコンテンツの開発、制作、販売ということではなく、サービスに近いソフトウェアのこと」だと話す。

 例えば、家電を購入した際に、住宅の設計事務所やインテリアデザイナーなどとのコラボレーションが求められる。アシベ電機でも、AV機器を購入した際に、リビング空間を同時に変えたいというユーザーも多いという。日本橋電気街に、こうした設計事務所やデザイナーが集まる拠点があれば、日本橋電気街の付加価値になるというのだ。

 「電気街が単に電気製品を売るだけの時代は終わった。そこにプラスαの要素を持たせ、電気製品以外のものにまで広げていく必要がある」というわけだ。

 芦邊社長が指摘するように、電気街としてのベースを発端にしながらも、電気製品の販売からは離れた動きも日本橋のなかには生まれつつある。

アシベ電機 芦邊康徳社長 日本電気街で取り組む多目的ホール

 例えば、日本橋電気街では、最近、シアターへの集客が増加しているという。

 日本橋電気街で、インディペンデントシアターの名称で、2つの劇場を運営するウエストパワーでは、劇団による舞台公演のほか、トークショーやサイン会、発売記念にあわせた各種イベントなどが相次いで開催されていると話す。

 ウエストパワーの都築徳生イベントプロデューサーは、「電気製品を買うという人だけではなく、まったく異なる目的を持った、これまでとは異なる人たちが日本橋に集まり始めているのは明らか」と語る。

 だが、これらのユーザー層を辿ると、PC用ソフトやアニメソフトのユーザーが拡大発展し、日本橋のシアターで開催されるイベントなどに集まりはじめている例も見受けられる。また、劇団公演などのこれまでにはなかった目的を持った人が訪れ、それかまた新たな人を集めるという集客効果も出ているようだ。

 もちろん、これらの「人種」は、電気製品を購入しにくる人種とは別の層だ。だが、電気街というベースをもとにして派生してきた人種だともいえる。こうしたユーザーをいかに取り込むことができるかが、日本橋電気街の課題だといえる。

 また、クリエイターなどの人材育成、ベンチャー企業の育成などを目的とした、受け入れのための施設も、電気街のなかに作ろうという動きが、日本橋まちづくり振興株式会社を中心に進みつつある。

 電気街が、電気街だけで生き残ろうとすることは、東京秋葉原、名古屋大須の例を見ても、難しいのは明らかだ。当然、日本橋電気街も、電気街のままでは生き残ることは難しいといえる。

 ヤマダ電機のオープンまで残された時間はわずかだ。果たして、生き残りに対して、日本橋電気街は、どんな回答を出すのだろうか。

□でんでんタウンのホームページ
http://www.denden-town.or.jp/
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(2004年11月8日)

[Text by 大河原克行]


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